・越境醸造。北半球と南半球を行き来すれば1年に2回「収穫と仕込み」ができます
・タイ:考え抜かれた熱帯気候でのワインづくり
・フランス:伝統と革新が交差するワイナリーめぐり
こんにちは(あるいはこんばんは)。
あっという間に2026年も3月になりました。すでに一年の6分の1が過ぎてしまったわけです。時の流れが速くて、唖然とする瞬間がありませんか?
今年はカレンダーだけでなく、季節の進行も早いです。東川では、2月中から日中の気温がプラスになる日があり、雪解けが例年より早く進んでいる雰囲気があります。

ワイナリー前の様子です。例年だとこれくらいの雪解け模様は3月下旬に見られるのですが、今年は3月初旬でこんな感じです。まったく早いです
温かくなるのが早まると、植物の生育開始が早まります。生育期間が長くなるので良いじゃないかと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、こうなると霜害(そうがい)のリスクが高まるんですよね。
農業における霜害とは、気温が0℃以下になり、植物の細胞が凍ってしまって、葉や花が黒く変色し、枯死したり深刻な生育不良に陥ったりする害のこと。春先に新芽が開いた後に冷え込むと、耐寒性が下がっているため一晩で甚大な被害が出ます。

2024年5月10日早朝の霜に当たった、ツヴァイゲルトの新芽です。芽吹いてから気温が氷点下まで下がると、こうなってしまって、生育不良に陥ります
今年ここまでの気候を鑑みるに、遅霜のリスクが高いんじゃないかと感じています。対策を準備しておかないといけません(心の声:やばいよ、やばいよ)。
あと、雪解けが早いと、なんだか急かされている感じがするんですよね。「ほら、春になるぞ。準備しろよ」と、後ろからせっつかれている気分になってきます。ゆっくりできるのはこの時期だけなので、もうちょっと休ませてほしいところです。
「1年を、2年分に」ボーダーレス・ワインづくりへの挑戦
さて、今回は海外でのワインづくりをテーマとし、大きく2つのトピックスを取り上げたいと思います。
1つ目は、現在進行形で取り組んでいるチャレンジについて(若干宣伝気味ではありますが)。
雪川醸造では現在「世界へ越境するワイン。雪川醸造、ボーダーレス・ワインづくりへの深化」と題して、クラウドファンディングを実施しています。
通常、ワインメーカー(醸造家)は北半球にせよ南半球にせよ、1年に1回しか「収穫と仕込み」を経験できません。30年やり続けた大ベテランでも、経験値としては「30回」です。しかし、季節が真逆の南半球でも醸造を行えば、その回数は単純計算で2倍になります。
ワタクシたちは、過去にもご紹介しましたが、北海道でのワインづくりに加えて、ニュージーランドや南アフリカへ「越境」してワインをつくっています。回数をこなして経験を増やすのが目的です。

2025年は南アフリカ・スワートランドにも行きました。今年はお休みしましたが、2027年には、再度訪れて経験を積むべく、いまから準備しています
今回、その品質と精度をさらに高めるため、現地に「自分たちの専用設備」を導入するプロジェクトを2月上旬に立ち上げました。おかげさまで、開始わずか2週間ほどで第一目標を達成できました。多くの支援、応援、共感をいただいたことに心より御礼申し上げます。
しかし、ここで足を止めず、次なる目標(ネクストゴール)を目指して走り続けています。さらなるご支援をいただくことで、「越境」するワインづくりの精度を高め、その経験値を北海道・東川でのワインづくりにしっかりと還元していくのが目的です。
プロジェクトの詳細について、ぜひ以下のリンクからご覧いただければ幸いです。
NexTalk 読者の方々からも、ご支援と応援をいただけますよう、ぜひよろしくお願いします。
タイ:考え抜かれた熱帯気候でのワインづくり
さて、2つ目のトピックスは海外視察のレポートです。
1月中旬、最初に向かったのはタイのワイナリーでした。バンコクからクルマで2.5時間ほど、カオヤイ国立公園の麓にある「グランモンテワイナリー」。ここは国際的なコンクールでも高い評価を得ている、タイトップクラスのワイナリーです。
タイのような低緯度・高温の環境では、ぶどうは「年に2回」生育します。一方、日本やヨーロッパなどの高緯度では冬が休眠期となり、年1回の生育です。タイには雨季と乾季があり、彼らはそこを逆手に取り、雨季には摘花して果実をつけさせず、乾季の2〜3月のみに結実させて収穫するという栽培スケジュールを組んでいました。

1月中旬のタイは、ぶどうの色変わり(ヴェレゾン)の時期。北海道同様、鳥害防止ネットを設置している最中でした
高温の環境でどうぶどうを育てるのか、訪問まではとても疑問だったのですが、話を聞くと、とても考え抜かれた生育プロセスです。おまけに北半球にありながら、収穫時期は日本のちょうど「B面(真逆)」なのもすごい。
こちらのワイナリーの年間生産量は10万本規模、エントリークラスから高級ラインまで、非常にきれいで高品質なワインでした。洋風の料理だけでなく、タイ料理にもぴったり合うのがとても良かった。

ツアーに含まれたタイ料理のランチ。辛さをマイルドにしてもらうと、ワインがしっくり寄り添います
タイのワイナリーだからと軽く見ていたわけではありませんが、熱帯でのぶどう栽培やワインづくりの詳細が全くイメージできていなかったワタクシにとって、彼らの考え抜かれたプロセスはいちいち感心させられることばかりでした。
まったく逆の寒冷地でぶどうを育てるワタクシたちも、環境に甘えることなく、もっともっと考え抜かなければいけません。
フランス:伝統と革新が交差するワイナリーめぐり
タイを経ち、イギリスにいる友人を訪ねてからフランスへ渡りました。タイに続いてインプットの連続だったフランスでのワイナリーめぐりについて、かいつまんでご紹介します。
1:シャンパーニュの個性ある生産者「Leclerc Briant」
シャンパーニュ地方では小規模生産者「Leclerc Briant(ルクレール・ブリアン)」を訪問しました。雪川醸造ではシャンパーニュ製法のスパークリングワインはつくっておらず、大規模なメゾンではないユニークな立ち位置の小規模生産者の個性のあり方を捉えるのが目的です。

シャンパーニュはびん詰め後に数十カ月の熟成が必要です。その間はこういった地下のセラーで保管しています。小規模生産者といっても、それ相応の設備が必要とされます
ここはシャンパーニュ地方で初めてバイオダイナミクス農法を採用したドメーヌで、シャンパーニュでは珍しくヴィンテージ「あり」のワインがメインです(シャンパーニュの大規模生産者は複数年のリザーブワインをブレンドして味わいを平準化するNV=ノン・ヴィンテージを主流とします)。
シャンパーニュにありながらも、他の地域のワインのように年ごとの変化を楽しんでほしい、糖度や酸も調整しない、いわゆる「生」のシャンパーニュを味わってほしいと、伝統にとらわれない独自のあり方を極めようとする姿勢が特徴的でした。
2-3:サンセールで感じた「テロワール」
2軒目と3軒目は、ロワール上流サンセールにある「ユベール・ブロシャール」と「アンリ・ブルジョワ」。サンセールといえばソーヴィニヨン・ブランとピノ・ノワール。どちらも雪川醸造(そして北海道)にとって重要な品種で、いずれのワイナリーもこれらを非常にきれいなワインにつくりあげています。
フランスのワイナリーの多くに共通するかもしれませんが、彼らはワインのフレーバーの違いをほぼ「土壌の違い(石灰質、シレックス、キンメリジャンなど)」で説明します(今回実体験してきました)。これは同じ地域にあっても畑が変わると、出来上がるワインが異なるとされているからです。

丘陵にいくつも畑の区画が分かれています。区画ごとに出来上がったワインのフレーバーが異なるので、土壌の違いで説明するのでは、と感じました
一方で、収穫したぶどうの状態にあわせて、醸造のアプローチ(コンクリートタンク、ステンレスタンク、新樽の比率など)も畑ごとに変えているため、ワインから「どこまでが畑で、どこまでが醸造なのか」を見極めるのは非常に難しい。「テロワール」という言葉のあり方について、考えさせられた瞬間でした。

テラコッタ(粘土)製のタンク。これはアンリ・ブルジョアのものですが、いくつものワイナリーで実験を兼ねて使用されていました
いずれのワイナリーでも、かつてのアルコール度数が14%もある重たいワインから、ソバーキュリアス(「あえてお酒を飲まない/少量にする」ライフスタイル)なトレンドにあわせたアルコール控えめな醸造スタイルへの変更や、テラコッタやクヴェヴリ(アンフォラ)といった伝統的かつ新しいスタイルのタンクを用いて新たな味わいを追求する姿勢も見られ、伝統を守りながらチャレンジするスタンスには刺激を受けました。
4-5:ヴォルネイ「ドメーヌ・ド・モンティーユ」の力量、日常に寄り添う「ドメーヌ・シャルル・ペール・エ・フィーユ」
4軒目は、函館に「ド・モンティーユ & 北海道」を設立したことでも知られるブルゴーニュの名門「ドメーヌ・ド・モンティーユ」。昨年10月に旭川で行われたワイン関係者向けのセミナーで当主のエティエンヌさんと息子のルイさんにお目にかかったご縁で訪問が実現しました。

ワイナリー内でのバレル・テイスティング(熟成中のワインをテイスティング)は、なかなか貴重な体験でした
ムルソーのワイナリーでルイさんに対応していただき、地域とヴィンテージ違いのワインを6種類テイスティング。地区や畑の違いでもたらされる「酸と果実感の絶妙なバランス」が見事で、それぞれの美しさがクリーンに表現されていました。またテイスティング後にはワイナリーを詳しく見せてもらい、そこで試飲させていただいた、熟成中のシャルドネやピノ・ノワールから感じ取れたニュアンスは、今回のワイナリービジットで最も勉強になったように思います。
そして、5軒目はブルゴーニュ・ナントーにある「ドメーヌ・シャルル・ペール・エ・フィーユ」。こぢんまりとしたドメーヌで、個人的にとても「好みのワイナリー」でした。奇をてらわず、普通のことを淡々と丁寧にこなすことで、派手さはないけれど繊細でエレガントなワインをつくっているというのがとてもとても良い。
おまけに、樽熟成のサイクル(9〜12カ月で空けてボトリングし、リリースする)やワインづくりの考え方が雪川醸造と同じなんですよね。ブランドとスタイルが確立しているワイナリーから学ぶことは多いのですけれど、シンパシーを感じられるワイナリーには親近感が湧きますし、そのオペレーションから学ぶことは、すぐに取り入れられます。

一つずつじっくりテイスティングして、ワインづくりについても詳しく伺って、それぞれの出来上がりを確認できました。ここは良いワイナリーです
ワイナリー訪問と一緒にテイスティングもお願いしてあったので、たくさんのワインを試せたのですが、どれもこれも日常で楽しむワインとしてこの上なく居心地の良い雰囲気をまとっており、セラードアでたくさん買い込んでしまいました。
6:シャブリの大規模生産者「ラ・シャブリジェンヌ」
最後はシャブリの「ラ・シャブリジェンヌ」。ここはワイナリーの中ではなく店頭でのテイスティングでしたが、シャブリ全体の1/4程度を生産する巨大な生産者協同組合です。
ワタクシの中では「シャブリ=ステンレスタンク一辺倒」という印象があったのですが(これまで安いシャブリばかり飲んでいたのがバレますね)、プルミエ・クリュやグラン・クリュといった上位クラスはオーク樽を使ったとてもきれいなワインづくりがメインでした。

10本全部がシャルドネです。こういうことができるのがワイナリー訪問の楽しみです
10種類以上のシャルドネを一気に飲み比べることで、畑の違いだけでなくワインづくりのアプローチの違いもはっきりと感じられ、シャルドネの醸造に向けて、非常に良いインプットとなりました。
結び
タイの熱帯ワイナリーからフランスの歴史ある銘醸地まで、全く異なる環境でワインづくりに向き合う造り手たちの姿を目の当たりにし、お腹いっぱいになるインプットを得て帰国しました。
彼らに共通していたのは、自分たちの置かれた環境(気候や土壌)を深く理解し、そこからどのようなワインを生み出すべきか、そしてどう伝えていくのかを「考えぬいて、行動している」ということではないかと。
今回得た知見や刺激は、北海道・東川でのワインづくりにはもちろんのこと、現在クラウドファンディングで挑戦しているニュージーランドや南アフリカでの「越境醸造」にも生かしていきます。
なお、「越境醸造」で生かしていくのはクラウドファンディングだけではありません。以前から取り上げているように生成AIも活用しています。昨秋、収穫・仕込み時に撮影された動画がGoogle Gemini の公式プロモーションとして公開されましたので、最後にご紹介を。
雪川醸造 - Gemini in Gmail
www.youtube.com「1年を、2年分に」。
経験値を短期間で積み上げて、よりおいしく、ワクワクするようなワインをお届けできるよう、ワタクシたちはこれからも動き続けます(ホンネはちょっと休ませてほしい…)。
次回は越境先のニュージーランドからのレポートとなる予定です。
それでは、また。
ワインとワイナリーをめぐる冒険
ITの世界から飛び出しワインづくりを目指した雪川醸造代表の山平さん。新しい生活や働き方を追い求める人たちが多くなっている今、NexTalkでは彼の冒険のあらましをシリーズでご紹介していきます。人生における変化と選択、そしてワインの世界の奥行きについて触れていきましょう。
「ワインとワイナリーをめぐる冒険」他の記事
第1回:人生における変化と選択(2021年4月13日号)
第2回:東川町でワイナリーをはじめる、ということ (2021年5月18日号)
第3回:ぶどう栽培の一年 (2021年6月8日号)
第4回:ぶどうは種から育てるのか? (2021年7月13日号)
第5回:ぶどう畑をどこにするか?「地形と土壌」(2021年8月17日号)
第6回:ワインの味わいを決めるもの: 味覚・嗅覚、ワインの成分(2021年9月14日号)
第7回:ワイン醸造その1:醗酵するまでにいろいろあります (2021年11月9日号)
第8回: ワイン醸造その2:ワインづくりの主役「サッカロマイセス・セレビシエ」(2021年12月14日号)
第9回:酒造免許の申請先は税務署です(2022年1月12日号)
第10回:ワイン特区で素早いワイナリー設立を(2022年2月15日号)
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第11回:ワイナリー法人を設立するか否か、それがイシューだ(2022年3月8日号)
第12回:ワインづくりの学び方
第13回:盛り上がりを見せているテイスティング
第14回:ワイナリーのお金の話その1「ぶどう畑を準備するには…」
第15回:ワイナリーのお金の話その2「今ある建物を活用したほうが・・・」
第16回:ワイナリーのお金の話その3「醸造設備は輸入モノが多いのです」
第17回:ワイナリーのお金の話その4「ワインをつくるにはぶどうだけでは足りない」
第18回:ワイナリーのお金の話その5「クラウドファンディングがもたらす緊張感」
第19回:ワイナリーのお金の話その6「補助金利用は計画的に」
第20回:まずはソムリエナイフ、使えるようになりましょう
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第21回:ワイン販売の話その1:独自ドメインを取って、信頼感を醸成しよう
第22回:オーストラリアで感じた変化と選択
第23回:ワインの販売についてその2「D2C的なアプローチ」
第24回:ワインの販売についてその2「ワインの市場流通の複雑さ」
第25回:食にまつわるイノベーション
第26回:ワインの市場その1_1年に飲むワインの量はどれくらい?
第27回:2023年ヴィンテージの報告
第28回:「果実味、酸味、余韻」
第29回:ワインの市場その2:コンビニにおけるワインと日本酒の販売
第30回:ワインの市場その3:レストランへのワインの持ち込み
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第31回:ワインづくり編:ニュージーランド 2024 ヴィンテージ
第32回:ワインづくりと生成AI その1 ラベルの絵を「描く」
第33回:ワインづくりと生成AIその2 :アドバイザーになってもらえるか
第34回:2024年ヴィンテージの報告
第35回:ワインづくりと生成AI その3:事業計画を立案してみる
第36回:ワインづくりと生成AI その4:ワイン関連分野におけるAI技術の活用事例
第37回:「家計調査」に見るワインの購買動向 2024
第38回:海外でのワインづくり:南アフリカ・スワートランド 2025
第39回:海外でのワインづくり:番外編
第40回:海外でのワインづくり:ニュージーランド編
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第41回:自由を感じるロゼワイン
第42回:懐の深いオレンジワイン
第43回 ワインと税金(あるいは税務署)
第44回 2025ヴィンテージの様子
第45回 ワインと税金(あるいは税務署)その2

山平哲也プロフィール:
雪川醸造合同会社代表 / 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授。ワイナリーを立ち上げるため2020年に東京から北海道の大雪山系の麓にある東川町に移住。大阪出身。移住前はITサービス企業でIoT事業開発責任者、ネットワーク技術部門責任者等を歴任。パラレルワークでIT企業の新事業検討・開発を支援。早稲田大学ビジネススクール修了。61カ国を訪問した旅好きでニュージーランド、南アフリカでもワインをつくっている。毎日ワインを飲むほど好き。




