ITの世界から飛び出しワインづくりを目指した雪川醸造代表の山平さん。新しい生活や働き方を追い求める人たちが多くなっている今、NexTalkでは彼の冒険のあらましをシリーズでご紹介していきます。人生における変化と選択、そしてワインの世界の奥行きについて触れていきましょう。

お久しぶりです。

10月は雪川醸造初めての仕込み(とその準備)で忙しく、このコラムをお休みさせていただきました。

雪川醸造が使用する醸造設備(プレス機、タンク、選果台など)はフランスのメーカー AMOS Industrie 社の製品を採用しているのですが、コロナ禍のコンテナ船物流の混乱と台風16号による影響(コンテナ船が東京港に入港するタイミングで台風がやってきました)を受けて醸造所への設備搬入が遅れたこと、そして今年の北海道は夏の時期に少雨で気温が高く、ぶどうにとって好条件の気候が続いたため、秋の収穫が早まったことなどが相まって、日々変化するぎりぎりのスケジュールの中でなんとか予定していた量のぶどうを絞り終わり、一段落ついて放心状態気味にこのコラムに取り掛かっているところです。

アルコール醗酵と、前後の工程

さて。前回の予告で、今回はワイン醸造の実際のプロセスを取り上げるとお伝えしました。せっかくの機会ですので、今シーズンの雪川醸造での仕込みの様子を織り交ぜながら、ワイン醸造プロセスのあらましをお伝えしたいと思います。書いてみてわかったのですが一度でカバーできる情報量ではないので、2、3回にまたがって取り上げていきます。

ワイン醸造は酒づくりなので、一番重要なのは「アルコール醗酵」です。酵母によってぶどうの糖分からアルコール(エタノール)をつくる工程で、「主醗酵」や「一次醗酵」とも呼ばれます。で、この主醗酵の前後にいくつかの作業があるのですが、それぞれを「前処理」、「後処理」として捉えていただければ、ひとまずは良いかと思います。要するにぶどうを収穫してから、ビンに入ったワインが出来上がるまでは、次の3つのフェーズがあるということです。

この3つのフェーズを、時系列に沿って、かいつまんで説明していきます。

画像: アルコール醗酵と、前後の工程

大切なのは、ぶどうをいかにきれいに優しく扱うか

前処理フェーズで実施する作業には次のようなものがあります。

選果
選果とは、収穫したぶどうから未熟あるいは病気などでワインづくりに適さない果粒(かりゅう、ぶどうの実の粒のことです)や房を取り除いて、健全なぶどうの果実だけをワインの原料とする作業です。こういう風に書くと、選果は収穫後の作業と感じるかもしれませんが、収穫時にも悪い果粒や房を取り除いて、選果することが多いです。収穫時に選果して、仕込みのタイミングにも選果を行うことで、よりきれいなぶどうでワインを仕込むことが可能になります。

ワイナリーでの選果は方法が色々あるのですが、雪川醸造では、振動によって小さなゴミなどを取り除く振動式の選果台を使っています。5秒ほどの短いものですが、ビデオでその様子を見ていただければと思います。

画像: 2021年 選果の様子。今回の仕込みでは、多くの方々にボランティアとして選果を手伝っていただきました www.youtube.com

2021年 選果の様子。今回の仕込みでは、多くの方々にボランティアとして選果を手伝っていただきました

www.youtube.com

選果台に投入されたぶどうは、台が振動することで前に移動していきます。そして選果台の周りに控えている人が、悪いぶどうの果粒や房を目視で選別して取り除きます。選果が終わったぶどうは、カゴで受けとって、プレス機に投入します。

除梗破砕
除梗破砕というのは、ぶどうの果梗(「かこう」と読み、ぶどうの房の茎のことです)を取り除く「除梗(じょこう)」、除梗されたぶどうの果粒を軽く潰す「破砕(はさい)」という2つの作業のことをいいます。これらがまとめて除梗破砕と呼ばれるのは、除梗のための機械(除梗機)には破砕する機能もついていて、これを使うと、同時に破砕も行われるためです。

画像: 除梗機を使うと、ぶどうの粒(左)と果梗(右)をキレイに選り分けてくれます

除梗機を使うと、ぶどうの粒(左)と果梗(右)をキレイに選り分けてくれます

除梗によって果粒と果梗を分けることで、ぶどうの果粒だけをプレス(圧搾)したり、醸したりできるようになります。これにより果梗の影響が、いい意味でも悪い意味でも軽減されます。果梗の悪い影響は、果梗に含まれる成分が果汁に含まれてしまうことです。果梗にはタンニンが多く含まれているため、果梗の影響が強くなると、苦味やエグみの強い果汁やワインに仕上がってしまいます(ほどよいタンニン分はワインに複雑味を与えるので良い影響です)。良い方向の影響は、果梗が付いた状態のぶどうをプレスすると、果梗がクッションとなって柔らかくやさしく果汁を絞り出すことができることです。果梗が付いたまま=房の状態のぶどうをプレス(圧搾)することを「全房圧搾」と呼び、こうしてプレスして仕込んだワインは柔らかいものに仕上がります。

なお、雪川醸造の今シーズンの仕込みでは、すべて「全房圧搾」を行ったために、除梗破砕の作業は行いませんでした。

プレス(圧搾)
プレスは、ぶどうに圧力をかけて圧搾し、固形分と液体分を分離する作業です。古くは人間の手や足で行っており、ワインの仕込みでイメージしがちな、大きな木桶に入ったぶどうを踊りながら足で踏むというのは、ぶどうから果汁を抽出する(搾汁する)ために行っていた作業です。

現在はほとんどの場合、大量のぶどうを処理するために「プレス機」を用いて機械化されています。現在使われているプレス機は次の3つの種類に分けられます。

1つ目が上から下の縦方向に圧力を加えて果汁を抽出する「垂直式」です。「縦型」とも呼ばれており、一番古くからある仕組みで、シャンパーニュ地方で主に使われているバスケットプレスがこれに該当します。足踏みを機械化したようなものなので、仕組みが単純で機器コストが抑えられること、また少量を搾汁できるのが特徴です。

このバスケットプレスはステンレスの枠ですが、木の枠を使用したものもあります

2つ目は水平に置かれた円筒形のタンクの左右両側から圧力板(ディスク)で圧力をかけることで搾汁する「水平型スクリュー式」です。この仕組みで有名なメーカーの名前から「バスラン式」とも呼ばれます。垂直式に続いて登場した方式で、古くからフランスを中心に使われています。

画像: タンクの左右から圧力をかけると、タンクのスリット(切れ目)から果汁が流れ出してきます

タンクの左右から圧力をかけると、タンクのスリット(切れ目)から果汁が流れ出してきます

3つ目は水平に置かれた円筒形のタンクを使うところまではバスラン式と似ているのですが、圧力をかける仕組みが圧力板ではなく、ゴムなどでできた風船を膨らませることで圧力をかけて搾汁する「空気加圧式」です。圧力をかける風船をメンブレンと呼ぶことから「メンブレン式」、あるいはこの仕組みで有名なメーカーの名前から「ブーハー式」と呼ばれます。空気の圧力で絞ると果皮と種に余分な圧力がかからず、抽出が強くなりすぎないため、クリアできめの細かい果汁を得られるのが特徴です。

画像: 雪川醸造のプレス機です。タンクの内側の白い部分がメンブレンで、蓋を閉めてプレスを始めると、空気圧で膨らんでぶどうを潰します

雪川醸造のプレス機です。タンクの内側の白い部分がメンブレンで、蓋を閉めてプレスを始めると、空気圧で膨らんでぶどうを潰します

ここで、話が前後するのですが、ワインの仕込み手順には主に2種類あることに触れておきます。一つはぶどうをプレスした果汁で主醗酵を行うやり方で、もう一つは破砕したぶどうの果粒(実際は果粒に破砕して漏れ出た果汁が混ざり合ったもろみ状の「果醪(かもろみ)」と呼ばれる)の状態で主醗酵を行った後に、プレスしてワインを絞るものです。前者は主に白ワインをつくるときの手順で、後者は主に赤ワインを仕込むときの手順です。

画像: 大切なのは、ぶどうをいかにきれいに優しく扱うか

このように、仕込むワインが赤か白かで、ぶどうをプレスするタイミングが異なります。赤ワインは主醗酵後の果醪(かもろみ)をプレスしてワインを絞り出し、白ワインは主醗酵前のぶどうをプレスして果汁を抽出します。このため赤ワインの場合、プレスは前処理ではなく後処理に位置づけられます(あるいは主醗酵中の処理となる)。

今シーズンの雪川醸造の仕込みは、すべて白ワインの手順で行いましたので、選果後に除梗破砕せず、全房のままでプレス機に投入して、圧搾しました。

画像: プレス機へのぶどうの投入。皆さんに手伝ってもらっているだけでなく、ワタクシも仕事してます!という証拠ビデオです www.youtube.com

プレス機へのぶどうの投入。皆さんに手伝ってもらっているだけでなく、ワタクシも仕事してます!という証拠ビデオです

www.youtube.com

なお、雪川醸造で採用しているプレス機の種類はメンブレン式です。プレス機のタンクにぶどうを投入して、スイッチを ON にすると、風船が膨らんで、ぶどうの果汁が絞られます。風船はずっと膨らんでいるわけではなく、しぼんでタンクを回転させ、また膨らませることで、ぶどうをほぐして効率よく搾汁できるようになっています。

多めに果汁を得ようとすると、絞ってからほぐす、を何度も繰り返すことになるので(設定を細々と変えられる)時間がかかります。今年は初めてのシーズンなので、設定を色々試しながらプレスしたのですが、一番長いものでは3時間半ほどかかり、その後にプレス機を洗浄して後片づけが終わった頃には深夜になっていることが何度かありました…

澱引き(おりびき)=ラッキング
プレスした後の果汁には、果肉や果皮などの固形物が多少含まれているので、タンクに一日程度静置することで沈殿させて、上澄みの液体分だけを取り出します。これを「澱引き」あるいは「ラッキング(Racking)」と呼びます。

ワイナリーでよく見かけるワイン醸造用のステンレスタンクの多くは、バルブが2カ所についています。1つ目は一番底部についていて、液体を最後まで排出するために使用するバルブです。2つ目は澱引きの際に果汁を抜くための澱引き用バルブです。澱引き用バルブからポンプを使ってタンク内の液を抜いて、別のタンクに移すことで、そのバルブより上部にある果汁の上澄みを取り出すことができます。

画像: 温度計の右側にあるのが澱引き用バルブです

温度計の右側にあるのが澱引き用バルブです

先に赤ワイン、白ワインいずれを仕込むかでプレスのタイミングが異なると説明しましたが、澱引きもタイミングが異なります。白ワインは主醗酵前にプレスして得られた果汁に澱引きを行いますが、赤ワインの場合には主醗酵後にプレスしたワインに対して澱引きを行います。固形物を沈殿させて上澄みを取り出すという作業は、主醗酵後にも実施するため、澱引きは前処理だけでなく、後処理フェーズでも実施される工程です。

次回は主醗酵以降について

と、ここまでの主醗酵前の前処理フェーズの説明だけで、コラム一回分の文字数となってしまいました。

今回取り上げた主醗酵の前処理フェーズで重要なのは、健全な状態のぶどうを優しく扱って無駄なくワインとして仕込めるように準備できるかです。健全な状態のぶどうだけを選果する、不要な果梗が入らないように除梗する、ぶどうに余計な圧力がかからないようにプレスする、醗酵に不要な固形物が混ざらないように澱引きする。今回細かい説明を省いていますが、通常は果汁の移送にポンプを使用しますが、高低差を利用して果汁を移送する仕組みもあるくらい(グラヴィティフローと呼ばれる仕組みです)、果汁に余計な負荷がかからないよう配慮することがあります(雪川醸造は、ワイナリーの構造上グラヴィティフローは採用できないので、ポンプを使用して果汁・ワインを移送していますが)。

次回は、こうして前処理を施した果汁を醗酵して、ワインへと変化させるフェーズについて取り上げます。と言っても、醗酵フェーズで頑張るのは酵母であって、人間にできることはあまりありません。あと、日本酒の場合には米と水が大事だといいますが、ワインの場合にはどうなのでしょうか?そもそもワイン、日本酒、ビールでは酒づくりの手順はどういう風に違うのでしょうか?このあたりにも触れられればと考えていますので、お楽しみに。

それでは、また。

画像: 山平哲也プロフィール: 雪川醸造 合同会社代表 / 北海道東川町地域おこし協力隊。2020年3月末に自分のワイナリーを立ち上げるために東京の下町深川から北海道の大雪山系の麓にある東川町に移住。移住前はITサービス企業でIoTビジネスの事業開発責任者、ネットワーク技術部門責任者を歴任。早稲田大学ビジネススクール修了。IT関連企業の新規事業検討・立案の開発支援も行っている。60カ国を訪問した旅好き。毎日ワインを欠かさず飲むほどのワイン好き。

山平哲也プロフィール:
雪川醸造合同会社代表 / 北海道東川町地域おこし協力隊。2020年3月末に自分のワイナリーを立ち上げるために東京の下町深川から北海道の大雪山系の麓にある東川町に移住。移住前はITサービス企業でIoTビジネスの事業開発責任者、ネットワーク技術部門責任者を歴任。早稲田大学ビジネススクール修了。IT関連企業の新規事業検討・立案の開発支援も行っている。60カ国を訪問した旅好き。毎日ワインを欠かさず飲むほどのワイン好き。

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