・「赤ワインと白ワインを混ぜるとロゼになる?」は、あながち間違いでもなく、さりとて…
・フランス・シャンパーニュ地方のロゼ・シャンパンでは「禁じ手」を使っている
・日本のロゼワインの消費量は3%程度
こんにちは(あるいはこんばんは)。
先日「ロゼ」と「オレンジ」の2種類のワインに限定したワイン会を旭川で行いました。

「ロゼ」と「オレンジ」だと透明のボトルが多いんですよね。この2種は色を楽しむという側面もあるワインです
参加者が各自1本ワインを持ち寄って、みんながシェアしながら飲む「持ち寄り」ワイン会の形式での実施です。
参加者は合計15名で、ワタクシが2本持っていったので16種類の「ロゼ」「オレンジ」を飲み比べました。
皆さん、ワインは「赤」「白」をイメージされることが多いので、「ロゼ」「オレンジ」をまとめて飲む機会は少ないとのこと。「これだけまとめて比較しながら飲むこともなかなかない」という感想をいただきました。
というわけで、今回のコラムは「ロゼ」と「オレンジ」について少し掘り下げてみます。
赤ワインと白ワインを混ぜるとロゼになる?
ロゼワインの「ロゼ」は、フランス語で「バラ(色)」の意味で、ワインの色からついている呼び名です。
Wikipedia(英語版)によると、この色のワインをロゼ(rosé)と呼ぶのは英語圏、フランス語圏、ポルトガル語圏で、スペイン語圏ではロッサド(rosado)、イタリア語圏ではロザート(rosato)と呼ばれます。なんでもかんでもフランス語由来もなんだかなーと感じているので、雪川醸造のロゼワインはイタリア語のロザートと呼ぶことにしています。
「赤ワインと白ワインを混ぜるとロゼになるんだよね」、と尋ねられることがあるのですが、これはあながち間違いでもなく、さりとて正解と言い切れるものでもありません。というのは、ロゼワインの製法にはいくつかの手法があるからです。
1つ目は「ダイレクトプレス」(直接圧搾)と呼ばれるもので、黒ぶどうを収穫後、白ワインをつくるのと同じように、果皮や種子と一緒に長時間は漬け込まずに、すぐにプレス機で優しく果汁を搾る方法です。

プレス機に黒ぶどうが収まった様子です。プレス(圧搾)すると果皮から色素が溶け出してきます
プレス機でぶどうを圧搾する過程で、つぶされて破れる果皮から色素(アントシアニン)が果汁に溶け出します。そうして得られたピンク色の果汁を発酵してワインにします。
一般的にはこのダイレクトプレスでつくられるロゼワインの色は淡いとされていますが、実際には品種によってぶどうの果皮の厚さ・強さが異なり、色素が出やすい品種では色が濃くなることもあります(雪川醸造のロザートはダイレクトプレスですが、色が濃いものがあります)。
2つ目は「スキンコンタクト」、あるいは「マセラシオン」(短期醸し)と呼ばれるもので、果皮と種子を果汁に短期間漬け込む方法です。

果皮がついたままの果粒を軽くつぶして漬けていると、果汁に果皮から色素が溶け出してきます
まず、黒ぶどうを収穫し、破砕して果皮や種子と一緒にタンクに入れます。赤ワインをつくる際と同様に、果汁に果皮や種子を漬け込みます(「スキンコンタクト」あるいは「醸し」と呼ばれる工程です)。このままアルコール発酵まで進めると赤ワインの工程となりますが、ロゼワインの場合には数時間〜48時間程度で狙いの色合いになったところでプレスし、果汁と果皮・種子を分離します。
スキンコンタクトの長さによって、色調は淡いピンクから濃いチェリーピンクまで変化します。一般的には、ダイレクトプレスよりは濃い色合いになる傾向があります。
果汁に果皮や種子を漬け込むので、果皮や種子由来の風味が果汁に加わり、果実の風味やストラクチャー(骨格)がより豊かなワインになる傾向が強いです。
3つ目は「セニエ」と呼ばれるもので、赤ワインをつくる工程から派生した方法です。

アルコール発酵初期のタンクから抜き出すと、ピンク〜赤の果汁が出てきます
まず、赤ワインをつくり始めます。黒ぶどうを除梗(茎から果粒(ぶどうの粒)を取り外す)し、ぶどうの粒と果汁を共に発酵します(醸しはじめる)。発酵の初期段階で、果汁に対する果皮の比率を高め、凝縮した赤ワインをつくるために、果汁の一部を抜き取ります(この工程を「セニエ」と呼びます。セニエはフランス語で「血抜き」の意味です)。セニエで抜き取られた果汁は抜き取られるまでの間果皮と接触して色素(アントシアニン)が溶け出しているためピンク色で、これを別のタンクで発酵させることでロゼワインが出来上がります。
このアプローチでは果皮との接触時間が比較的長くなることが多いため、色が濃く、鮮やかなピンク色になる傾向があるとされています。
4つ目が「赤ワインと白ワインを混ぜるとロゼになるんだよね」のアプローチで、ブレンドとかアッサンブラージュ(フランス語で混ぜるの意)と呼ばれるものです。
ヨーロッパの多くの地域では、スティルワイン(非発泡性ワイン)のブレンドでロゼワインをつくることは禁じられています。しかし、フランス・シャンパーニュ地方のロゼ・シャンパンでは、品質を安定させるためにこの方法が認められており、一般的な手法として実施されているようです(シャンパーニュのワインメーカーからそう説明されたと複数の方から伺ったことがあります)。
高価で憧れている方も少なくないロゼのシャンパーニュは、他の地域では“禁じ手”とされる白ワインと赤ワインのブレンドであのきれいなピンクを出しているというのは不思議な感じがします。

モエ・シャンドンのロゼがブレンドなのかどうかは存じ上げませんが、きれいなピンク色ですよね
雪川醸造のロゼワインづくりでは、ダイレクトプレスかスキンコンタクトでワインづくりを行うことが多く、赤ワインをリリースしていないので、セニエでロゼワインをつくったことはないですし、ブレンドしたこともありません。
万能感が高いワイン、ロゼワイン
ロゼワインは、このように色々なアプローチでワインをつくれるので、品種や産地だけでなく、製法(ワインづくりのアプローチ)に由来して味わいや風味がバラエティーに富んでいるワインといえます。
製法によっては白ワインと赤ワインの中間ということもあり、幅広い料理に合わせられるのがロゼワインの良いところです。お料理の種類・組み合わせなどをあまり考えなくても、とりあえずロゼを
1本選んでおけば、料理の最初から最後まで楽しむこともできる万能感が高いワインなのです。
ただ、日本ではなかなか飲まれていないのが、ロゼワインの生産者としての悩みです。
ネットで日本のロゼワインの消費量を検索すると、3%程度だという数字があちこちに出てきます。一方のフランスでは白ワインよりロゼワインの方が、消費が多いという統計データもあります。
日本での消費量が少ない原因については、色々な分析を目にしますが、ワタクシ個人としては、ワインを飲む人の先入観が強いところにあるんじゃないか、と感じています。
「ワインにはチーズ」「魚料理には白ワイン、肉料理には赤ワイン」といったようなステレオタイプな飲み方、組み合わせというか「お作法」的なものが邪魔しているんじゃないかなということです。
これまでにも何度か触れたことがありますが「ワタクシ、ワインをつくってます」とお話すると、ワインってなにか学ばないと飲めないもの、といったような考えに触れることが少なくありません。「ワイン?よく知らないので飲んでません(意訳:これ以上この話題を続けないでください)」という感じの雰囲気です。
でも、ロゼワインってそういう“難しい(めんどくさい)”雰囲気が薄いジャンルじゃないかと思います。
ワインの飲み手で見掛けることの少なくないウンチクをひけらかしたい方々に出くわして「どんなワインを飲んでるの?」って訊かれても「あ、ロゼ飲んでます」と返せば、その後にめんどくさい話の展開になることは少ないはず……。なぜなら3%しか飲まれてないから、語るべきウンチク(講釈)がほとんどないからです。無敵ワインとしてのロゼ、良いですよ。
で、ワタクシとしては、ベトナムやタイなどのいわゆるエスニックな料理とロゼワインの組み合わせを楽しんでいただくとかが良いなーと思っています。

今年1月バンコクでいただいたタイ料理です。写真にはないですけれどこのときもロゼワインをいただきました
エスニックな料理をいただく際、特有の食材や調味料がもたらす普段とは異なる味わいや風味があります。これらとロゼワインの香りや口当たりがどう反応し、調和するかを感じ取ることで新たな発見があるんじゃないかと考えています。知っていることとの答え合わせではなく、自分の感覚を通じて新しいことを発見するというプロセス。
あ、そうだ。ロゼワインは中華料理に合うというのもよく言われますので、中華料理との組み合わせでも楽しんでいただければと。焼き餃子とロゼワイン(微発泡)は最高の組み合わせですよ。
結び
「ロゼ」と「オレンジ」の話をしようと思ったのですが、ロゼワインの話で思ったより長くなってしまったので「オレンジ」は次回取り上げます。
雪川醸造で最初にリリースしたワインが「ロゼ」の「スパークリング(微発泡)」のワインだったのでロゼワインには思い入れがあります。
その中でも、日本で飲まれている割合が低いのが気になるんですよね。
ワインってもっと自由に飲んでいいのに、なんかめんどくさい雰囲気に取り込まれることが少なくない。伝統的な飲み方しかできない人たちが少なくないかな(そしてめんどくさいことが多いかな)と。
ロゼワインを飲んで、自由をもっと感じてください。
次回の「オレンジ」ですが、オレンジでつくるワインじゃないですからね。
それでは、また。
ワインとワイナリーをめぐる冒険
ITの世界から飛び出しワインづくりを目指した雪川醸造代表の山平さん。新しい生活や働き方を追い求める人たちが多くなっている今、NexTalkでは彼の冒険のあらましをシリーズでご紹介していきます。人生における変化と選択、そしてワインの世界の奥行きについて触れていきましょう。
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第6回:ワインの味わいを決めるもの: 味覚・嗅覚、ワインの成分
第7回:ワイン醸造その1:醗酵するまでにいろいろあります
第8回:ワイン醸造その2:ワインづくりの主役「サッカロマイセス・セレビシエ」
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山平哲也プロフィール:
雪川醸造合同会社代表 / 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授。ワイナリーを立ち上げるため2020年に東京から北海道の大雪山系の麓にある東川町に移住。大阪出身。移住前はITサービス企業でIoT事業開発責任者、ネットワーク技術部門責任者等を歴任。パラレルワークでIT企業の新事業検討・開発を支援。早稲田大学ビジネススクール修了。61カ国を訪問した旅好きでニュージーランド、南アフリカでもワインをつくっている。毎日ワインを飲むほどのワイン好き。