・今年の東川町は変な天候でした
・アライグマもヒグマも来ました。うまく共存できればベストなのですが・・・
・地域の方々に広く知っていただくのってやはり良いものです
こんにちは(あるいはこんばんは)。
前回のコラムからあっという間に3カ月が経ってしまいました。いや、ほんとあっという間ですよ。なんだか最近時間のやりくりがいまひとつうまくいかない感じがあるのですが、一番大きな要因は2025年の収穫・仕込みに時間を取られていたことにあります。
ということで、今回のコラムは2025ヴィンテージのサマリーというか報告です。ここで振り返ることで、いろいろ気づくことがあるに違いないと思って整理してみます。
暑い夏の影響
今年の仕込みは昨年より1週間早く、9/17に始まりました(昨年は9/25でした)。こうなった一番の要因は今年の夏が暑かったからです。
以前のコラムで取り上げましたが、植物の生育予測指標の1つに「有効積算温度」があります。生育期間の日平均気温で作物の成長に有効とされる温度を積算したもので、ぶどうの場合は基準温度を10℃として、それを超えた分を積算したものが有効積算温度です。
2003年、2023-25年を比較したのが次のグラフです。

今年の8月にも、このグラフを使って「今年の夏も暑いですね。全国的に高温の天候が続いていますが、ここ北海道の東川でも同様に暑い日々が続いています」なんて話してました。そう、8月までは暑かったんです。
でも、グラフの赤い線(2025年の積算温度)を見てみると、8月上旬からオレンジ線(2023年)や緑線(2024年)に比べて傾きが緩まり、最終的には3年の中で一番低い状態で終了しています。8月以降は過去2年に比較して気温があまり高くなかったんですよね。人間にとって過ごしやすい気候ではあったのですが、それまでの6-7月の高温に比べて、なんだかバランスが悪い。
このため、収穫期が早い品種は生育が早く進み収穫期が早まったのですが、収穫期の遅い品種は暑い夏の影響をあまり受けずに例年通りのスケジュールで生育が進んでいました。
あと6-7月の高温に加えてお盆以降に雨が降る頻度が高かったことも今年の収穫内容に影響を与えました。

これが過去3年間の8/16-9/30の1日あたりの降水量を比較したグラフです。積算温度と同様に、2023年:オレンジ、2024年:緑、2025年:赤としています。また各年のこの期間の降水量合計と降水日数も含めてあります。
これを見るとわかるのですが、過去2年に比べてこの時期の降水量が1.5倍、降水日数も1.4倍弱となっていて、夏の終わりから初秋にかけて雨がちな天候だったことが見て取れます。
この時期にニュースを見ているとほぼ毎日のように日本のどこかで豪雨災害が起きていましたが(被害に遭われた方には謹んでお見舞い申し上げます)、こちら東川ではそこまでの激しい雨が降ることは少なく、むしろしとしと降っては数日置いてまた少し降る日が続きました。こうなると畑の地面が常に濡れている状態になるので、畑全体の湿度も上がるんですよね。
これは収穫前のぶどうにとってあまり良い状況ではなく(ワイン用ぶどうは乾燥した地域の原産なので、湿度が高まると病気のリスクが高い)、特に収穫期の遅い品種(ピノ・ノワール、シャルドネなど)にこれまで以上に病気(熟した果実に影響します)が見られました。
暑く日照の長い夏から雨が多く気温のあまり高くない初秋へという流れは、変な天候のシーズンだった印象を残しました(最近道内、道外の他の産地の方々と2025ヴィンテージについて何度か話したのですが、同じような印象を持っていた方が多かったです)
変な感じのヴィンテージだったのですが、細やかに選果を行うことできれいなぶどうでワインをつくれました。収穫も選果も色々な方々に手伝っていただき、おかげで出来の良いワインが揃ってきています。サポートいただいた皆さまにこの場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。
動物の影響
9月後半〜10月前半にかけての収穫期前半はまだあまり害がなかったのですが、10月後半、特に自社畑最後の収穫として10/19に予定していたピノ・ノワール、シャルドネが酷く、予定していた量の4/5が食べつくされており、収穫できたのは想定の1/5の量でした……。

赤丸で囲ってあるのが、アライグマの足跡です。ぶどうの樹の周りをちょこちょこと歩き回ってどうやったらぶどうを取れるか試行錯誤してたのでしょう(この時期はまだそんなに食べられていなかった)
9月の段階でアライグマの食害がちょこちょこと見られてきたので、役場に相談して箱罠をしかけたのですが、結局シーズン最後になっても1匹もかからず。そうこうしているうちに食害がひどくなり、アライグマの食料庫と化してしまいました……。食害にあったぶどうを購入すると数十万円になる量なので、かなりの痛手です。
クマといえば、雪川醸造の畑にもヒグマの痕跡が今年はじめて見られました。
ちょうどシーズン中盤に差し掛かった頃の収穫の日で、かなりの人数にお手伝いに来ていただいたのですが、そのうちのお2人(カップルで来られていました)が「あっちに大きめの動物のフンがありますよ」と発見されまして。

食事中の方もいるでしょうからいちおうモザイクをかけておきます。一緒に置いてあるのはワタクシの手袋です。手は大きい方です
収穫が終わったタイミングだったので、さっさと収穫したぶどうと道具を全部片付けて、ワイナリーに戻ってから役場にメールを送ったところ、翌日電話があり、警察といっしょに現場を確認したいので立ち会ってほしいと。
立ち会った警察官によると、人間の親指より太いフンはヒグマである確率が高いとのこと。親指どころか手のひら大なので、これはほぼヒグマのフンでしょうねということで、調書じゃないですがレポート作成に協力しました。
警察官から、2日前にも畑から1km以内の民家で目撃情報と痕跡(複数のフン)があったと通報があり、ヒトの生活圏に近いので警戒しているし、我々にも警戒してもらいたいというアドバイスがありました。このあと何度か収穫があったのですが(ポータブルスピーカーで音楽をかけるようにしました)、幸いにもこれ以外の痕跡は見当たらず、大事には至りませんでした。
アライグマもヒグマも(もちろんそれ以外の動物についても)うまく自然と共存できればベストなのですが、ヒトのほうに経済的あるいは身体的な被害があるのはまあよろしくないですよ。今年のシーズンはほぼ終わっていますが、引き続きどう対処するのが良いのかを考えながら、来年のシーズンに向けて課題を整理していきたいと思っています。
放送と取材と撮影と
あと今年のヴィンテージのトピックスとして、取材がいくつか入ったというのがあります。
まずはテレビ北海道のワイン特集番組で雪川醸造が取り上げられました。取材自体は夏の間にあったのですが、番組が放送されたのはヴィンテージ中の9/28でした。YouTubeで公開されているのでご紹介しておきます。
【芽室と東川 地域のためにワインをつくる男たち】LOVE WINE HOKKAIDO #3
youtu.be北海道のワイナリーにフォーカスした全体で30分の番組で、雪川醸造は後半に取り上げられています。ワタクシがまったりと話しているので(前半の芽室ワイナリーの方々のハキハキとしたしゃべりと正反対で眠たくなる…)、ご興味あればご笑覧ください。
あと北海道新聞(道新)に、ぶどう畑と収穫の様子を取り上げていただきました。こちらの記事です。
有料記事なので記事全部を読めないかもしれませんが、写真は見ていただけると思います。ずいぶん横長の写真ですが、これは本紙の方では見開きの片面いっぱいの幅で掲載された、とても大きな(そして横長な)写真でした。
収穫や選果のお手伝いに来ていただくのは地元の方も多く、掲載後しばらくは「記事見ました!ずいぶん大きく写真が載っていましたね!」と声をかけていただくことがたびたびありました(道内で道新はどの全国紙よりも圧倒的に購読シェアが大きいので、読んでいる人が周りに多いのです)。こうして声をかけていただいて思うのは、地域の方々に広く知っていただくのってやはり良いものですね。
それから、このコラム執筆時には公開されていないので詳しく説明できないのですが、とある世界的に提供されているサービスの事例のビデオに雪川醸造が登場することになり、その撮影が10月上旬の仕込み時期と11月上旬にありました。
とあるサービスというのはワタクシもよく使っている生成AIで、中小企業での活用ということで、日本国内でいくつかの企業での生成AIの活用シーンに光を当てた動画を準備されているとうかがっています。
印象的だったのが、世界的な企業の、それも広く使用される広告動画ということもあり、撮影に来られたスタッフの数がこれまでのどんな撮影よりも多かったことです。

ここに写っているのはほぼ全員撮影クルーで、写っていない方があと数名おられました(クルーの方々の顔にはモザイクをかけています)
プロジェクトを取りまとめておられる方に、いつもこんなに撮影クルーの人数が多いのかと尋ねたところ、今回のチームはコマーシャル・フィルムを撮影するチームとして編成されているのでこれくらいの人数になるとのことでした。
そうそう、2日間にわたって撮影していたのですが、出来上がる動画は30秒とのこと。いわゆるコマーシャル・フィルムなんですよね。時間をかけて撮影した動画なので、公開されてどんな反応があるのか、楽しみにしています。
結び
この冬は雪も早く降り始めていて(根雪にはまだなっていませんが)やはり変な気候の年です。こういう状態でも、おいしく飲んでいただけるワインを安定的に届けられるようになるには、集中力を高めていかねばと日々感じています。
寒い日々が続きますが、皆さまにおかれましては楽しい年末年始を過ごされますように。
それでは、また。




