ワインとワイナリーをめぐる冒険 第37回 by 雪川醸造代表 山平哲也さん
・世帯あたりのワイン購買金額は東京都区部がダントツで多い
・お酒全体に占めるワイン購買の比率は、福岡市、札幌市が上位に
・お酒全体の購買額は秋田市、青森市、熊本市、盛岡市が上位に

こんにちは(あるいはこんばんは)。

このコラムをしたためている時期には、北海道のみならずあちこちで大雪だというニュースが流れているのですが、ここ東川は雪が少なく、暖冬気味です。

画像: 自宅からワイナリーに向かう道です。冬の間、車道は凍っているのがいつもの冬の光景です

自宅からワイナリーに向かう道です。冬の間、車道は凍っているのがいつもの冬の光景です

例年だと、12月中旬から3月中旬までこういう感じに道路は雪で覆われています。最高気温がずっと氷点下だと雪が融けないのです。

画像: 1月末の旭川空港の様子です。気温が高かっただけでなく、雪が降らなかったのでアスファルトが見えています

1月末の旭川空港の様子です。気温が高かっただけでなく、雪が降らなかったのでアスファルトが見えています

それが今年は1月〜2月に数日、最高気温がプラスとなったので、雪が融けてしまっています。

旭川近郊はパウダースノーな雪質が有名です。このため、混んでいてかつ空港からも遠いニセコなどの著名なスノーリゾートを避け、スキーやスノボーを楽しみに来られる方々が増えています(海外からの観光客もかなり増加しているように感じます)。しかし、この雪の状況だといささか残念に感じる方も多いかも知れませんね。今年は本州のスキー場のほうが北海道より状態が良い、という話をちらほらうかがいます(ワタクシはウインタースポーツをやらないので、実際のところはよくわかりませんが)。

また、ぶどうの樹は寒さに強くないので、降り積もった雪を被せて、低温から守る必要があります。これが、高温の日が続いて雪が融けると、樹を守る雪の層が薄くなり、低温に下がったタイミングで凍害が発生するリスクが高まります。

穏やかな気候のまま春を迎えられると良いのですが……。

年間の世帯あたりのワイン購買金額

さて、今回は2月上旬に公開された2024年度版「家計調査」のデータを見ながら、日本国内のワインの購買動向を探ってみます。

家計調査とは「国民生活における家計収支の実態を把握して、景気動向の重要な要素である個人消費の動向など、国の経済政策・社会政策の立案のための基礎資料を提供するため、総務省統計局が毎月実施している統計調査」です。

Q&Aページによると、調査の方法は「層化三段抽出法により、全国で約9,000世帯を無作為に抽出した調査世帯で6カ月間(単身世帯は3カ月間)、毎日のすべての収入と支出を家計簿に記入」するということです。周りでは見かけたことがありませんが、どこかで誰かが調査に協力しているのでしょうね。

この家計調査の年間データが公開されるタイミングには「ぎょうざ」や「ラーメン」の消費(購買)がどの都市で多いかニュースになるので、ご存じの方も多いのではないかと思います。

さまざまな商品やサービスについて家庭でどれくらいの支出があるかを調査している統計データで、そこにはもちろん酒類、ワインが含まれています。対象となるのは県庁所在地と政令指定都市、合計で53都市の消費動向です。

では、最初に年間の世帯あたりのワイン購買金額を見てみます。

画像: 年間の世帯あたりのワイン購買金額

まず、やはりというか、東京都区部がダントツで多いですね。世帯あたりの収入や可処分所得が大きいこともありますが、そもそもワインを飲む人の比率が高い感触があります。ワイン関連のイベントでいろんな所に訪れていますが、この結果は肌感覚的にも納得です。

次いで2、3番手がさいたま市、千葉市です。首都圏が1~3位を独占ですね。とはいえ、それぞれの差が1000円ほどあるので、東京都区部とさいたま市がそれぞれ抜きん出ているということでしょうか。

首都圏で意外なのが、横浜市が低いことです。東京都区部のほぼ半分、全体でも16位です(ちなみに15位甲府市、17位秋田市です)。個人的な先入観ですが(今回の感想はすべて個人的な先入観ですよ、念のため)、もうちょっとワインを飲んでいそうな気がするのですけれど。横浜市の方々、ぜひワインを買ってご家庭で楽しんでください。

大都市圏の中でとても低いのが大阪市。東京都区部の1/3以下の購買金額で、全体順位は37位。(個人的な先入観ですが)大阪ってワインをあまり飲んでいる雰囲気を感じないのですよ。ある意味納得できる結果なのかなと思います。

全体の4、5位は熊本市、福岡市。北九州市が13位で、九州は人口が多めの都市はワインの購買額が高い。関西のトップが14位京都市なので、九州は関西を上回る勢いと言えます。九州には良質なワインを提供するワイナリーが古くからあり、日本酒の生産量が確かあまり多くない(令和3年国税庁統計年報で603kl、全国39位)ので、ワインが代わりに飲まれているのではという仮説が立ちます。

で、我が北海道の札幌市(7位)と名古屋市(6位)がほぼ同じくらいです。札幌はなんとなく納得なのですが、名古屋は個人的には意外です。名古屋グルメは他の大都市圏と違ってちょっと独特ですし(これも個人的な先入観です)、地元のものを好む一種保守的な傾向を感じるので、大阪同様に購買額が高くなくてもおかしくはないのですが。

なお、雪川醸造は名古屋市に販売先(取引酒販店)が現在はありません。こういう状況なら2、3軒くらいは取引があっても良いのかもという気がします。

最後にワイナリー数が1、2番目に多い山梨県と長野県です。ワイン産地が近くにある割には甲府市(15位)と長野市(22位)は高いと言えるレベルではありません。身近すぎて飲まなくても良いと思っているのかしら、それとも他の要因があるのか……。

お酒全体に占めるワイン購買のシェア

ということで、ワイン購買の絶対額での分析だけでなく、お酒全体に占めるワイン購買の比率(シェア)を見てみます。

画像: お酒全体に占めるワイン購買のシェア

トップ3は東京都区部(15.3%)、千葉市(13.1%)、さいたま市(13.0%)で顔ぶれは同じですが、2と3位が入れ替わりました。購買の絶対量に対してシェア(比率)が変動するということは、分母(お酒全体の購買量)に差があるということ。千葉市に比べてさいたま市の方がお酒全体の購買量が多いのでしょうね。

シェアの4、5位は福岡市(12.2%)、札幌市(11.2%)。いずれも購買額でも上位にいる都市です。この2つの都市についてですが、九州は先に触れたように良質なワインを提供するワイナリーが古くからあります。北海道も60年以上前からワイナリーがあり、ワインを飲む習慣が比較的根付いている環境にあるのではないかと想像できます。

6~8位は相模原市(11.1%)、名古屋市(10.9%)、京都市(10.5%)です。相模原市はワインの購買額が 5,202円で全体の8位。名古屋市は上で見た通り全体6位で 5,418円。京都市は 4,272円で全体14位。これまで同様にいずれも絶対額で比較的上位にあり、ワインを好んで購入してくれる人が多い街だと言えます。いつもありがとうございます。

シェア上位の都市だけでなく、いくつか特徴がある街についても見てみましょう。

先にも見ましたが、ワイナリー数が1、2番目に多い山梨県と長野県はどうでしょうか。甲府市は9.7%でシェア12位、長野市は7.7%でシェア22位。甲府市は他に比べてワインを飲む(購入する)人が多いと言えそうです。明治初期にワインづくりがはじまり、近代的なワインづくり発祥の地と言える地域なので、ワインを飲むことが習慣となっているのでしょう。地元品種の甲州でつくったワインをワイングラスではなく、湯呑み茶碗でがぶ飲みするという話を聞いたことがあります(見たことはないですけど……)。

一方の長野市の7.7%は全国平均と同じ値なので、取り立ててワインを飲むというわけではなさそうです。長野は酒蔵が多く日本酒の生産量が比較的多い地域です(令和3年国税庁統計年報で5,327kl、全国13位)。クラフトビールも盛んなエリアなので(醸造所数で全国4位、きた産業調べ)、いろんなお酒をまんべんなく楽しんでいる方が多いのかも知れません。良い環境ですね。

それから大都市圏で絶対購買量が低かった大阪市です。シェアは4.7%で順位が43位。やはりワインを飲まない街です。もうこれはしかたないですね。

ちなみに大阪が低いと関西全体が買わないのかと言うとそうではありません。関西の都市をシェアが高い順で見てみると、先にも触れましたが京都市が10.5%で8位。次いで奈良市、大津市、神戸市、和歌山市の順に並んでいて、それぞれシェアが10.1%、9.4%、8.1%、5.2%で、順位が9位、13位、19位、38位となっています。全国平均以上の京都、奈良、大津、神戸はワインを買ってくれる街と言えるので、大阪(と和歌山)だけが低いということです。

お酒全体の購買状況について

最後に参考までにお酒全体の購買額を多い順に並べて見てみます。

画像: お酒全体の購買状況について

1、2、4位がワインではまったく出てこなかった北東北の秋田市(購買額6万3,918円)、青森市(6万399円)、盛岡市(5万6,598円)です。日本酒を飲みそうな地域なので、清酒の購買額が大きいのかと想定してデータを見てみたら、秋田市は 8,918円で2位ですが、青森市は 6,085円で18位、盛岡市に至っては 5,025円の34位で高くありません。

日本酒以外に何を飲んでいる(買っている)のかと、いくつかのデータを調べてみるとありました。ビールの購買額は秋田市が 1万7,793円(全国1位)、青森市が 1万7,634円(2位)、盛岡市が 1万7,238円(3位)。これらの都市は発泡酒でも上位にいます(秋田市 1万3,266円(4位)、青森市 1万1,377円(9位)、盛岡市 1万1,388円(8位))。北東北はビールとそれに類するアルコール飲料を中心にお酒の購買額が大きくなっているようです。

(ワイン以外の個別のお酒の購買額を知りたい方は、家計調査のサイトをご覧ください)

北東北の街に囲まれて3位に位置するのが熊本市(5万8,354円)。南九州はやはり焼酎が多いのかもと見てみると、やはりそうでした。焼酎の購買額は 8,796円で全国3位(ちなみに宮崎が1位(1万4,008円)、鹿児島が2位(1万138円)です)。ただ、他にもビールが 1万5,386円(9位)、発泡酒が 1万1,296円(12位)ということなので、4位にあるワインも含め、熊本市の人たちは焼酎を中心にまんべんなくさまざまな種類のお酒を飲んでいるようです。

5、6位に富山市(5万6,482円)、新潟市(5万5,709円)と北陸の都市が続きます。北陸と言えばおいしい日本酒が思い浮かびますが、清酒の購買額は富山市 7,635円(5位)、新潟市 6,838円(9位)と想像通りの内容。ビールと発泡酒は、富山市がそれぞれ 1万5,858円(6位)、1万1,358円(10位)で、新潟市が 1万5,855円(7位)、1万3,052円(5位)という状況なので、これも購買額に寄与しています。これらからビールと日本酒をメインに消費している姿が浮かびます(北陸のお鮨屋さんに久しぶりに行きたい……)。

7~9位にはさいたま市(5万4,776円)、東京都区部(5万3,133円)、大阪市(5万2,313円)とようやく大都市圏が顔を出します。ただ、詳しくデータを見ていくとそれぞれ異なる傾向にあるのがわかります。

さいたま市の内訳を見てみると、清酒が 8,673円(3位)。埼玉県は日本酒の生産量が全国4位と、意外に多い都道府県なので、この結果はある意味納得です(ちなみに清酒の1位は福島市(1万1,811円)です)。ワインの購買額が多いのは日本酒の購買額が高いことに相関があるような気がします。他に上位にあるのは、チューハイ・カクテルが 7,282円(5位)、ビールが 1万4,924円(10位)。金額ではビール、日本酒、チューハイという並びなので、居酒屋のようなお酒の楽しみ方を自宅でも、という雰囲気が感じられます。

東京都区部ですが、ワインの他に目立って上位なのはチューハイ・カクテル(6,988円/8位)くらいです。これまでの都市で寄与度の高かったビールと発泡酒はそれぞれ 1万4,124円(15位)、6,775円(37位)なので、これらが東京都区部の消費を特徴づけているとは言えません。ワインの購買額シェアが高いことから、東京都区部はワインの消費で特徴づけられる地域であると思われます。

ワインの消費が著しく低い大阪市ですが、発泡酒が 1万3,481円(3位)、チューハイ・カクテルが 8,588円(3位)、ビールが 1万5,838円(8位)です。これらに対し、清酒が 4,292円(41位)、焼酎が 4,004円(44位)という状況なので、安価な缶入りのお酒をぐいぐい飲む地域という感を受けます。

結び

今回は総務省の「家計調査」のデータを見ながら、ワインやお酒全体の消費(購買)動向について整理してみました。

こうした統計データの分析から見えてくるのは、イメージ通り・肌感覚通りという街の姿と共に、想定してなかった傾向にある地域です。東京都区部が一番多く札幌市も比較的多いのは腑に落ちるのですが、さいたま市と熊本市、名古屋市のワイン購買額が高いのはいささか意外でした(そして大阪市が低いのはちょっと残念です……)。

これらの分析を元にして、ワインをどこにどう販売していくかの展開ストーリーづくりが重要だなと、一通りまとめながら感じています。

さて次回ですが、2月中旬から3月上旬まで南アフリカに行く予定なので、その模様をお伝えすることになると思います。

それでは、また。

ワインとワイナリーをめぐる冒険
ITの世界から飛び出しワインづくりを目指した雪川醸造代表の山平さん。新しい生活や働き方を追い求める人たちが多くなっている今、NexTalkでは彼の冒険のあらましをシリーズでご紹介していきます。人生における変化と選択、そしてワインの世界の奥行きについて触れていきましょう。

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第6回:ワインの味わいを決めるもの: 味覚・嗅覚、ワインの成分(2021年9月14日号)
第7回:ワイン醸造その1:醗酵するまでにいろいろあります (2021年11月9日号)
第8回: ワイン醸造その2:ワインづくりの主役「サッカロマイセス・セレビシエ」(2021年12月14日号)
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第12回:ワインづくりの学び方
第13回:盛り上がりを見せているテイスティング
第14回:ワイナリーのお金の話その1「ぶどう畑を準備するには…」
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第18回:ワイナリーのお金の話その5「クラウドファンディングがもたらす緊張感」
第19回:ワイナリーのお金の話その6「補助金利用は計画的に」
第20回:まずはソムリエナイフ、使えるようになりましょう
第21回:ワイン販売の話その1:独自ドメインを取って、信頼感を醸成しよう
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第23回:ワインの販売についてその2「D2C的なアプローチ」
第24回:ワインの販売についてその2「ワインの市場流通の複雑さ」
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第26回:ワインの市場その1_1年に飲むワインの量はどれくらい?
第27回:2023年ヴィンテージの報告
第28回:「果実味、酸味、余韻」
第29回:ワインの市場その2:コンビニにおけるワインと日本酒の販売
第30回:ワインの市場その3:レストランへのワインの持ち込み
第31回:ワインづくり編:ニュージーランド 2024 ヴィンテージ
第32回:ワインづくりと生成AI その1 ラベルの絵を「描く」
第33回:ワインづくりと生成AIその2 :アドバイザーになってもらえるか
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第35回:ワインづくりと生成AI その3:事業計画を立案してみる
第36回:ワインづくりと生成AI その4:ワイン関連分野におけるAI技術の活用事例

画像: 山平哲也プロフィール: 雪川醸造合同会社代表 / 北海道東川町地域おこし協力隊。2020年3月末に自分のワイナリーを立ち上げるために東京の下町深川から北海道の大雪山系の麓にある東川町に移住。移住前はITサービス企業でIoTビジネスの事業開発責任者、ネットワーク技術部門責任者を歴任。早稲田大学ビジネススクール修了。IT関連企業の新規事業検討・立案の開発支援も行っている。60カ国を訪問した旅好き。毎日ワインを欠かさず飲むほどのワイン好き。

山平哲也プロフィール:
雪川醸造合同会社代表 / 北海道東川町地域おこし協力隊。2020年3月末に自分のワイナリーを立ち上げるために東京の下町深川から北海道の大雪山系の麓にある東川町に移住。移住前はITサービス企業でIoTビジネスの事業開発責任者、ネットワーク技術部門責任者を歴任。早稲田大学ビジネススクール修了。IT関連企業の新規事業検討・立案の開発支援も行っている。60カ国を訪問した旅好き。毎日ワインを欠かさず飲むほどのワイン好き。

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