ITの世界から飛び出しワインづくりを目指した雪川醸造代表の山平さん。新しい生活や働き方を追い求める人たちが多くなっている今、NexTalkでは彼の冒険のあらましをシリーズでご紹介していきます。人生における変化と選択、そしてワインの世界の奥行きについて触れていきましょう。

こんにちは(あるいはこんばんは)。

先日、北海道ワインアカデミーの道外研修で、2泊3日の九州ワイナリー研修に行ってきました。

行程はこんな感じでした。

【初日】福岡空港集合 → 巨峰ワイナリー(福岡・久留米) → 大分・別府泊
【2日目】別府発 → 安心院葡萄酒工房(大分・宇佐) → 久住ワイナリー(大分・竹田)
      → 宮崎・延岡泊
【3日目】延岡発 → 都農ワイナリー(宮崎・都農) → 菊鹿ワイナリー(熊本・山鹿)
      → 博多駅解散

九州に土地勘があると分かると思いますが、なかなかの移動距離です。最終日なんて、ワイナリーでお話を聞いている時間よりもバスに乗っているほうが長かったかも。おまけに九州にも雪が降ったタイミングだったので、バスの移動スピードも遅くなっていて、連日、予定よりも遅い時間に宿泊地に到着という状況でした。

画像: 久住ワイナリーのぶどう畑です。標高が高いところにあるので、九州にしてはなかなかの雪景色でした

久住ワイナリーのぶどう畑です。標高が高いところにあるので、九州にしてはなかなかの雪景色でした

ワイナリーで伺った話ですが、北海道と九州だと気候が大きく異なるので、ぶどうの栽培方法がずいぶん異なっていました。気温もさることながら、台風の影響が大きいなと感じました。栽培する品種は、秋の長雨や台風の影響で、熟したぶどうに病害が出ないように、早く収穫できる品種を選んで栽培していました。収穫は 7 月後半には始まるとのことです(北海道だとまだぶどうが色づき始めていないかも)。

画像: 宮崎・都農ワイナリーの棚仕立てです。台風の通り道なので、風速50km/hを超えることもあるようで、そうすると垣根仕立てだと倒れてしまうのだそうです

宮崎・都農ワイナリーの棚仕立てです。台風の通り道なので、風速50km/hを超えることもあるようで、そうすると垣根仕立てだと倒れてしまうのだそうです

また、強い風と雨の影響を考慮して、棚仕立ての栽培が基本なようです。北海道でメインに使用されている垣根仕立てだと、台風の強い風で垣根は倒れてしまいます。棚仕立てはまた、地面から葉や果実が離れて風通しがよくなるため、病害虫の影響を抑えることができます。さらに「レインカット」と呼ばれる、雨がぶどうの新梢(当年に新しく生えてくる枝。これに果実がなる)に当たらないようにする設備がほぼ必ず設置されています。レインカットがないと、雨の影響で病害がかなり強く出るということでした。

画像: 熊本・菊鹿ワイナリーのぶどう畑です。ぶどうの樹全体にビニールで屋根をかけて、雨がかかるのを防いでいます(写真では冬季のため、ビニールを開けています)

熊本・菊鹿ワイナリーのぶどう畑です。ぶどうの樹全体にビニールで屋根をかけて、雨がかかるのを防いでいます(写真では冬季のため、ビニールを開けています)

こうして、夏の高い日照量と気温によって育てられた九州のぶどうですが、多くのワイナリーでクリーンなスタイルでワインをつくっています。ワタクシの好みのスタイルのワインが多く、するすると飲めるし、九州のおいしい食材・料理にもよく合います。訪れたすべてのワイナリーでワインを買って(一部は宅配便で北海道に送って)、これからその時に伺った話を思い出しながら、北海道の食材と合わせて飲むのを楽しみにしています。

ワインを楽しむためにできれば知っておきたいこと

さて、今回ですが、ここのところワイナリーのお金周りの固い話が続いたので、ワイン関連の軽めの話題にしようと思います。

ワインってよく分からなくて…とおっしゃる方は少なくないと感じています。で、それなりに詳しい人は、そういう人につい産地と品種について説明し始めるのですが、個人的にはそれより前に説明しなくちゃ(=知っておかなくちゃ)いけないことがあると思っています。

それはつぎの3つのことです。

1. ワインオープナーの使い方
2. ワイングラスについて
3. ワインの提供温度について

産地とか品種って、好みもあるし、ある程度経験を積まないと自分に合っているもの(=興味を持てるもの)って見つからないのです。それが分からない時期に、話だけ聞いてもしっくりこないですよね。自分のテイスト(好み)を見つけるために、いろいろ飲み比べて、自分の言葉で伝えられるようにするのが、ワインを飲み始めるときのアプローチじゃないかなと思うのです。

一方、ここに挙げた3つのことって、それなりに知っているとサマになるのです。「ワインってよく分からなくて…」という多くの場合は、要はカッコ悪くなりたくないのです。でも、この3つのことがクリアされていれば、ワインの飲み始めでも「初めていただいているのですが、このワインおいしいですね。**の香りが良くて」と言っていれば、それなりにサマになるというのが持論です(「**」には、最初に感じたワインの香りを入れておけばOK)。

●ワインオープナーの使い方

まず、ワインオープナーの使い方です。これが最初に来るのは、ワインを飲まない人にその理由を訊くと、「ワインのコルクを抜くのが難しい・面倒」という答えが多いからです。ワインを飲もう、開けようとなると「コルク抜けないから誰かお願い」と誰かの対応を待つような空気になることが少なくないですよね。この雰囲気が無くならない限り、ワインって日常の光景にならないのではとワタクシは思っています。

それでどうするかというと、ソムリエナイフを使えるようになったほうが良い、ということです。ワインオープナーにはさまざまな種類があるのですが、簡単に開けられそうなもの(ウイング式とか、電動式とか)って、大きくて場所を取るので、自宅でしか使えないのですよね。それに使えるようになるのには意外とコツが必要です。ソムリエナイフもちょっとしたコツと、数本を開けた経験があれば、たいてい開けられるようになります。食わず嫌い的にやらない人が多いのではないかな。なおワタクシは学生時代のアルバイト先の居酒屋でソムリエナイフの使い方を教わりました。

画像: この2つはワタクシが使っているソムリエナイフです。上の赤いほうがメインで日本製のシングルアクション、下の木目のものは出張・旅行先に持っていく廉価なダブルアクションです

この2つはワタクシが使っているソムリエナイフです。上の赤いほうがメインで日本製のシングルアクション、下の木目のものは出張・旅行先に持っていく廉価なダブルアクションです

ソムリエナイフには、シングルアクションダブルアクションの2種類があります。違うのはボトルにひっかけるフックが1つ(シングルアクション)か2つ(ダブルアクション)かです。使いやすいのはダブルアクションなので、どちらか1つ選ぶなら、ダブルアクションのソムリエナイフを準備すれば良いでしょう。

あと、ほとんどのソムリエナイフは右利き用です。左利き用は、スクリューが逆回りに巻かれているので、左利きの方で右利き用が使いにくいと感じたら左利き用を使うとスムーズにコルクを抜けるようになるかもしれません。

で、ソムリエナイフの使い方ですが、言葉でいろいろ説明するよりも、YouTubeで自分にとって分かりやすい解説動画を検索してもらうのが良いと思います。ワタクシもぶどう栽培を始め、多様な機材・設備を使い始めた時に、YouTube で動画を検索しました。自分にとって新しい道具の使い方は、動画を繰り返し見ながら、実際に手を動かして身につけるのが良いです。

ワタクシが検索した中では、これが個人的には分かりやすかったです。コルクを抜く際の手の使い方が詳しく説明されています。

画像: サントリーワインスクエア 失敗しないワインの開け方『コルク篇(ソムリエナイフ:ダブルアクション)』 5分28秒 サントリー www.youtube.com

サントリーワインスクエア 失敗しないワインの開け方『コルク篇(ソムリエナイフ:ダブルアクション)』 5分28秒 サントリー

www.youtube.com

同じシリーズでスパークリングワイン(シャンパン)の開け方も動画で公開されています。こっちも見ておけば、たいていのワインを開けられるようになると思いますよ。

●ワイングラスについて

次にワイングラスについてです。飲むだけならどんな器でもまあ良いのですが、香りも十分に楽しむためにはワイングラスでいただくのが良いです。あのワイングラスのたまご型は、ワインと空気中の酸素が触れて融合する面積を広くしながら、ワインの香りをグラス内に閉じ込めて感じやすくするためのものなのです。

ワインの成分には、空気に触れて香りが取りやすくなるものがあります。そうした香りを十分に楽しむには液面が広くなるワイングラスでいただいたほうがより楽しめるのです。普通のコップやグラスだとちょっともったいない気がしますね。

画像: リーデルのグラスセミナーでの写真です。ワインの種類に応じてさまざまな大きさ・形のワイングラスが提供されています

リーデルのグラスセミナーでの写真です。ワインの種類に応じてさまざまな大きさ・形のワイングラスが提供されています

いただくワインの種類(赤or 白、品種・産地など)に応じてさまざまな大きさ・形のワイングラスがつくられていますが、最初に1つ選ぶのであれば、チューリップ型の中くらいの大きさのものが良いと思います。

ワタクシは、このサイズだとリーデルのオヴァチュア(赤ワイン用)を以前から使っています(割れても良いようにいくつかストックもあります)。赤ワイン用とあるのですが、白ワインにも(なんならビールにも日本酒にも)合うちょうど使い勝手の良い大きさで、リーデルの中でもマシンメイドで手頃な価格のワイングラスです。スパークリングワインをこのグラスで飲むととてもいい香りがすることが多いですよ。あと、あちこちのレストランやバーでこのグラスが使われています。それだけいろんなシーンに寄り添えるグラスだと感じています。

画像: 箱の写真ですみません。2脚セットで3000円くらいだと思います

箱の写真ですみません。2脚セットで3000円くらいだと思います

あと、意外に(といっては失礼か)良いのは、ニトリのワインタンブラー。ステム(足)の無い、ワインを入れるボウル部分だけのデザインです。ワイングラスだとすぐに割っちゃいそうだな、もう少しカジュアルなスタイルが良いな、でもちゃんとワインの香りを楽しみながら飲みたいな、という場合には、価格的にも気にせず使えるので(2脚で599円です)ワタクシ的におすすめのグラスです。

画像: これも箱の写真ですみません。370ml なので、缶ビールを飲むのにもちょうど良いサイズだったりします

これも箱の写真ですみません。370ml なので、缶ビールを飲むのにもちょうど良いサイズだったりします

この2ついずれかに加えて、重い赤ワイン用に少し大きめのグラスがあればとりあえずは良いと思います。最近使ったグラスでこれは良いなと思ったのが、リーデルのステムレスウイングスです。これもステム(足)無しのデザインです。赤ワイン用にピノ・ノワール/ネッビオーロとカベルネ・ソーヴィニョンの2種類があります。自分がよく飲むほう、好みの味わいに合わせてチョイスするのが良いように思います。

画像: これもリーデルのセミナーでの写真です。左のピノ・ノワール/ネッビオーロが、右のカベルネ・ソーヴィニョンに比べて飲み口の口径が小さいのは、グラスを傾けてワインを飲むときに口中に流れ込むワインを少なくするためです

これもリーデルのセミナーでの写真です。左のピノ・ノワール/ネッビオーロが、右のカベルネ・ソーヴィニョンに比べて飲み口の口径が小さいのは、グラスを傾けてワインを飲むときに口中に流れ込むワインを少なくするためです

●ワインの提供温度について

最後に、ワインを飲む際の温度についてです。ワイングラスのところでも触れましたが、ワインは香りを楽しむ飲み物です。ワインの温度は香りに多かれ少なかれ影響するので、飲む(提供する)際の温度に気をつければ、そのワインを十分に楽しめます。一方、そのワインの適正値より高い/低い温度でいただくと、風味が無く味気ないワインに感じることは少なくありません。

一般的にワインの温度による味わいの違いは次のようになります。

温度を下げる
・フレッシュ感が際立つ
・ぶどう品種の香りが際立つ
・味わいがドライ(辛口)な印象になる
・酸味がよりシャープな印象になる
・苦味、渋みが強く感じられる

温度を上げる
・香りの広がりが大きくなる
・熟成感、複雑性が高まる
・ふくよかなバランスとなる
・酸味が柔らかくなる
・苦味、渋みがより快適な印象となる

一般的に、冷蔵庫(室)の温度は 2-6℃とされています。この温度帯が適温なのはスパークリングワインです。白ワイン、ロゼワインの適温はそれよりも少し高い 8-12℃。このため、ワインを冷蔵庫で保管している場合には、飲み始める 20-30 分前に冷蔵庫から取り出しておくとちょうど良い温度となります。赤ワインは14-20℃が適温なので、冷蔵庫保管の場合、飲み始める1時間ほど前に取り出しておくとちょうど良い温度になります。

もし冷蔵庫で保管しているスパークリング、白、赤の3本を順に飲むのであれば、冷蔵庫から同じタイミングで取り出して、それぞれを 30 分かけて飲んでいけば、ちょうど良い温度で各ワインを楽しめるということです。それが面倒だということなら、スパークリング、白、赤用にそれぞれの温度設定のワインセラーを使おうということになります・・・・・・。

結び

今回は、ワインを楽しむためにできれば知っておきたいことについてまとめてみました。先にも触れましたが、ワタクシは学生時代のアルバイトでこうしたワインの扱いについて教わったのですが、そういう機会がなければ、こういうことを知る機会は少ないのかもと今回整理しながら思いました。

なお、ソムリエナイフを使ってワインを開ける作業は個人的に好きなのですが、広くいろいろな方々にワインを楽しんでいただくために、雪川醸造ではスクリューキャップを採用しています。開けるのも楽ですし、飲み残しを保管するのもスクリューキャップのほうが簡単です。でもワインはコルクじゃなきゃという人も多いですよね・・・・・・。

次回ですが、ワイナリーのお金周りの話に戻って、売上を上げていく手段としてのワインの販売について取り上げようと考えています。

それでは、また。

「ワインとワイナリーをめぐる冒険」他の記事
第1回:人生における変化と選択(2021年4月13日号)
第2回:東川町でワイナリーをはじめる、ということ (2021年5月18日号)
第3回:ぶどう栽培の一年 (2021年6月8日号)
第4回:ぶどうは種から育てるのか? (2021年7月13日号)
第5回:ぶどう畑をどこにするか?「地形と土壌」(2021年8月17日号)
第6回:ワインの味わいを決めるもの: 味覚・嗅覚、ワインの成分(2021年9月14日号)
第7回:ワイン醸造その1:醗酵するまでにいろいろあります (2021年11月9日号)
第8回: ワイン醸造その2:ワインづくりの主役「サッカロマイセス・セレビシエ」(2021年12月14日号)
第9回:酒造免許の申請先は税務署です(2022年1月12日号)
第10回:ワイン特区で素早いワイナリー設立を(2022年2月15日号)
第11回:ワイナリー法人を設立するか否か、それがイシューだ(2022年3月8日号)
第12回:ワインづくりの学び方
第13回:盛り上がりを見せているテイスティング
第14回:ワイナリーのお金の話その1「ぶどう畑を準備するには…」
第15回:ワイナリーのお金の話その2「今ある建物を活用したほうが・・・」
第16回:ワイナリーのお金の話その3「醸造設備は輸入モノが多いのです」
第17回:ワイナリーのお金の話その4「ワインをつくるにはぶどうだけでは足りない」
第18回:ワイナリーのお金の話その5「クラウドファンディングがもたらす緊張感」
第19回:ワイナリーのお金の話その6「補助金利用は計画的に」

画像: 山平哲也プロフィール: 雪川醸造合同会社代表 / 北海道東川町地域おこし協力隊。2020年3月末に自分のワイナリーを立ち上げるために東京の下町深川から北海道の大雪山系の麓にある東川町に移住。移住前はITサービス企業でIoTビジネスの事業開発責任者、ネットワーク技術部門責任者を歴任。早稲田大学ビジネススクール修了。IT関連企業の新規事業検討・立案の開発支援も行っている。60カ国を訪問した旅好き。毎日ワインを欠かさず飲むほどのワイン好き。

山平哲也プロフィール:
雪川醸造合同会社代表 / 北海道東川町地域おこし協力隊。2020年3月末に自分のワイナリーを立ち上げるために東京の下町深川から北海道の大雪山系の麓にある東川町に移住。移住前はITサービス企業でIoTビジネスの事業開発責任者、ネットワーク技術部門責任者を歴任。早稲田大学ビジネススクール修了。IT関連企業の新規事業検討・立案の開発支援も行っている。60カ国を訪問した旅好き。毎日ワインを欠かさず飲むほどのワイン好き。

コメントを読む・書く

This article is a sponsored article by
''.