・雪川醸造のワインつくりを体験できます
・ワインがアジアで広まらなかった理由をひもときます
・酒造技術は物流と気候で形づくられていました
こんにちは(あるいはこんばんは)。
今年はなんだか天候が変ですね。6月の北海道は、最高気温が30℃を超える真夏日があったかと思えば、翌々日には最低気温が1桁に下がることも。「三寒四温」ならぬ「三寒四暑」と言って良いような、寒暖差の激しい日々が続いています。天気予報をよく読み解きながら、日々の作業段取りや服装を決める悩ましい季節です。
ワタクシは環境の変化には強い方なのですが、今年は花粉系のアレルギーからくる不調もあって、体調をすこし崩してしまいました。咳がひどかったので、呼吸器内科に行って、念のためにウイルス検査をして(コロナ、インフルエンザいずれも陰性)、薬をもらって、一日休んだらかなり回復しましたが。
で、その回復期に今年の「ワイナリーツアー」の準備を進めていましたので、少々紹介させてください。
雪川醸造では6月から9月の間、少し落ち着いて皆さんをご案内できる日程(主に週末)限定で、ワイン・テイスティングを含めたワイナリーツアーをご提供しています。

ツアー冒頭にミニセミナーを行います。他のワイナリーにはあまりないので、ご満足いただくことが多いコンテンツです
雪川醸造のワインづくりを知っていただくためにご用意したコンテンツは次の通り。
・東川〜上川エリア、ぶどう畑、ワイナリーをご紹介するミニセミナー(40分ほど)
・ワイン・テイスティング(40mlずつ、4種類)
・ワイナリー内のご案内(ヴィンヤード〈ぶどう畑〉はワイナリーから離れており、ご案内は含まれません)
2026年の開催日程は次の通り。
・6/20(土)、6/21(日)、6/27(土)、6/28(日)
・7/11(土)、7/12(日)、7/25(土)
・8/8(土)、8/9(日)、8/16(日)、8/22(土)、8/23(日)
・9/5(土)
10:00~11:30、13:30~15:00の1日2回実施となっています。
費用はお一人さま当たり3,000円(テイスティングをしないドライバーは2,000円)。ご参加には、ツアー実施の7日前までにオンラインストアでのご予約が必要となります。
爽やかな夏の北海道にいらっしゃる際に、お近くに来られることがあれば、ぜひご参加ください。皆さんと直接お会いできるのを楽しみにしております。
「なぜ、ワインづくりはアジアで生き残れなかったのか?」
さて。以前から気になっていたワインの歴史をGoogle Gemini (生成AI)に訊いてみたら、なかなか面白いやり取りが得られました。ただ、そのまま紹介するのは憚られますので、かいつまんで、紹介します。
ワタクシが気になっていてぶつけたのは、こんな質問です。
「ワインぶどうとワインづくりは、コーカサスが(現時点では)発祥の地で、黒海や陸路を経て、地中海経由でイタリア〜フランス〜スペインに伝わったが、なぜ東側のアジア方面には広まらなかったのか?
また、なぜアジアには果実でつくるお酒が少なく、穀物でつくるお酒が多いのか?」
現在、ワインづくりの本場? とされているのは、スペイン〜フランス〜イタリアなどの西ヨーロッパですが、現存する最古のワインづくりの遺構は、コーカサス地方(ジョージアやアルメニア)で発見された約6,000〜8,000年前のものです。余談ですが、ジョージアにおける「クヴェヴリ」と呼ばれる素焼きの壺を用いたワインづくりについては、2013年にユネスコ無形文化遺産に登録されています(同じ年に「和食」も登録されました)。

コーカサス地方は、いま一番行ってみたい土地です。古代から続くワインづくりを実際に見てみたいですね
ワインづくりが伝播する経路は、コーカサスから黒海や陸路を経て、地中海経由で西ヨーロッパに向かうルートなのですが、「なぜ同じように東側に伝わらなかったのか?」が以前からの疑問でした。東側には、多くの人とモノが往来していた「シルクロード」と呼ばれる巨大なネットワークがあったにも関わらず、です。
おまけに、アジアには果実を原材料にしたワインのようなお酒はあまりなく、多くのお酒はコメやコーリャン、小麦、とうもろこし、イモなどの穀物を原材料にしたお酒がほとんどです(日本の焼酎は確かアジアから製造技術が伝わってきたはず)。なぜ、ヨーロッパは果実酒(ワイン、シードル)でアジアは穀物酒(清酒、黄酒、マッコリ)という分布になったのでしょうか?

中国の「黄酒」は、紹興酒が知られていますが、他にもいろんな種類があるようです。原料にさまざまな種類の穀物を使うので、ワインや清酒以上にバラエティ豊かなお酒なのかもしれません(まだいろいろ試せていません)
この問いを投げて、Gemini が提示してきた考察を要約すると次の2点です。
1.地理的な輸送のハードル
・ワインの醸造技術自体は、シルクロードを通じて古代の中国西部などにも伝わっていた。
・しかし、地中海のような大量輸送が可能な「海路」ではなく、過酷な「陸路」に依存していたため、生産地を越えて広域的な商品として普及するには限界があった。
2.気候風土と「麹」による穀物酒の最適化
・乾燥した地中海がワインづくり(ぶどうの単行発酵)に適した気候であるのに対し、湿潤なアジアのモンスーン気候では果実は腐敗しやすい環境といえる。
・このため果実を原料に用いたワインは定着せず、代わりにアジアの湿気を生かして「コウジカビ」を繁殖させ、主食である穀物を醸造する技術(例:清酒や黄酒の並行複発酵)が最適化され発展した。
1つ目については、確かに納得です。現在でもお酒の輸送についてはコストがかかりますし、輸出入ワインの多くは海上での輸送です。中央アジアからは東アジアよりもヨーロッパへのルートのほうが伝わりやすく、商売が成立しやすい環境にあったということでしょう。
2つ目については、ざっくり言うと、アジアの気候ではワインをつくりたくても、「発酵」ではなく「腐敗」してしまうということです。代わりに、温暖湿潤な環境に特徴的な「コウジカビ(麹、酵素の一種)」を生かして、穀物をお酒にする技術を人々は発展させてきたということかと。

「麹」は、温暖湿潤なアジアに特徴的な酵素の一種で、日本の清酒だけでなく、中国の黄酒づくりにも登場します
あ、「酒や黄酒の並行複発酵」とさらっと記載しているので、ここでお酒づくりのメカニズムについて簡単に説明しましょう。
お酒づくりにおける「発酵」は、「酵母」が「糖分」を「アルコール」と「二酸化炭素」に変化させるプロセスです。ぶどうには「糖分」が含まれているので、「酵母」を加えると発酵によって「アルコール」に変化しますが、コメや麦などの穀物には「糖分」が含まれておらず、「炭水化物(デンプン)」が含まれているだけなので、そのままでは「発酵」できません。
このため、加熱して柔らかくし「麹(酵素)」を添加することで、穀物の「炭水化物」を「糖分」に変化させます(「糖化」)。そこに「酵母」を加えると、「麹による糖化」と「酵母によるアルコール発酵」が同時に進みます。これが、日本酒などに代表される「並行複発酵」と呼ばれるプロセスです。
ワインとビールの共存
なるほど。物流環境と気候風土(と麹〈酵〉の存在)が、ヨーロッパとアジア、それぞれの地域における酒造技術の進化プロセスに影響したのは判りました。
しかし、ふと、新たな疑問が浮かびます。
「ワインぶどうとワインづくりが伝わった西側のヨーロッパには、アジアの穀物酒に近しいビールがあったはず。
アジアのようにワインが伝わらなかったのではなく、ヨーロッパにおいてビールとワインが共存したのはなぜなのか?」
この問いに Gemini が提示してきた考察をまとめると次の3点です。
1.気候条件による南北の違いと「麦芽」技術の発明
・ヨーロッパは、ブドウ栽培に適した温暖な南部(地中海側)と、穀物栽培に適した冷涼な北部という2つの気候帯に分かれている。
・北部は冷涼・乾燥した気候で、アジアの「コウジカビ」とは異なり、「麦芽(モルト)」による糖化技術を発明し、ビール醸造技術を形成した。
2.古代ローマ時代における「帝国」と「北方」の分断
・古代において両者は共存しておらず、当時のローマ帝国の視点からは、洗練された文明人(ローマ人)の飲み物であるワイン」に対し、北方の民族(ゲルマン人)が飲むビールは馴染みのない異質な飲み物、いう文化的分断が存在していた。
3.キリスト教修道院による実用的な「統合」
・中世に入り、修道院がこの分断を統合した。
・キリスト教の儀礼(ミサ)に必要不可欠な「ワイン」を北方の厳しい環境でも栽培する一方、日常の水分やカロリー補給として「ビール」も並行して醸造したことで、宗教用と日常用という異なるカテゴライズが両立し、共存することとなった。

大麦は小麦よりも低温・乾燥に強いため、ヨーロッパの北側で栽培が広がりました。大麦が発芽した「麦芽」による「糖化」の発明が、ビールとウイスキーの誕生につながります
ここでも気候的条件が大きく影響しています。ヨーロッパも北側は冷涼な気候なので、果物ではなく穀物を栽培し、果物の栽培に適しているのは南側。このため、ぶどうを栽培してワインをつくるのは南の地中海地域が中心となったわけです。
北側はアジアと違って乾燥しているため、「コウジカビ」ではなく「麦芽」による「糖化」技術を発明しました。「麦芽」というのは麦を発芽させたものですが、穀物は発芽すると「炭水化物(デンプン)」を分解する「酵素(アミラーゼ)」を生成します。この「麦芽(発芽した麦)」を細かく砕いて、水を加えて加熱することで酵素が活性化し、「デンプン」は「糖」に変化していきます(麦芽による糖化プロセス)。
アジアの穀物酒は「酵素(コウジカビ)」と「酵母」による発酵プロセスが同時に起きるために「並行複発酵」と呼ばれることは先に触れました。しかし、ビールの場合には「酵素(麦芽)」と「酵母」の発酵プロセスが順に起きるために「単行複発酵」と呼ばれます。ワインの醸造プロセスは「単行発酵」と呼ばれるのですが、醸造酒の発酵プロセスはこれらの3つのいずれかに分類されます。

世界中で飲まれるビールとワインは、ヨーロッパでその製法が確立しましたが、そのルーツはいずれもヨーロッパの外から伝わってきたものです
ビールとワインが共存できたのは、気候的な条件だけでなく、キリスト教修道院の戦略も大きく関わっていたようです。儀式のための神聖なワインと、日常の糧としてのビール。
ワインとビールが持つ「スノッブ(権威的・高級)」と「カジュアル(日常的・大衆的)」というイメージの対比は、いまに始まったことではなく、古代ローマから中世の教会にかけて形作られた、歴史の必然であり、いまだにワタクシたちはその戦略の手の平の上にあるのかもしれません。
結び
Gemini とのやり取りにはもう少し続きがあるのですが、長くなるので今回はひとまずここまでとします。
ワタクシがなぜ「ワインづくりはアジアに伝わらなかったのか?」という疑問を抱いたのか。それには、2つのきっかけがありました。
1つは「酒の起源」という本を読んでいたときのこと。人類のお酒づくりの歴史をひもとく内容で、世界各地における先史的な酒づくりの歩みが紹介されています。その中にワインづくりの伝播ルートが図示された地図があったのですが、ふと、なんでヨーロッパには伝わって、アジアに伝わらなかったのか、と気になってしまったのです。
もう1つは、日ごろからの自分への問いかけです。ワタクシの現在の仕事は「ワインをつくって、皆さんに飲んでいただく」です。その仕事の意義を考えるにあたり、日本でワインをつくるというのはどういうことなのか、割とよく考えています。「なぜ、君はここでワインをつくっているのか?」という問いです。
この問いをすこし分解すると、近年までワインをつくる文化がなく、他の酒づくり方法(日本酒やビール)が優勢なこの日本において、わざわざワインをつくって、皆さんに飲んでもらうことにどういう意味があるのか、ということになります。
これを考えていくと「なぜ日本には、ワインのような果実酒をつくって飲む文化や歴史的背景がなかったのか?」と疑問に思うわけです。そしてそれは「なぜ、アジアにはワインづくりに伝われなかった(あるいは生き残れなかった)のか?」という問いに導かれます。
仕事の意義を「ワインづくりは楽しいから取り組む」と捉えるのでもまあ良いのですが、もうすこし立体的に深化させることで、飲んでいただいている皆さんにも、この国でワインを飲むということの文脈的な足場を共有できるんじゃないかと感じています。
本件、おそらく次回以降に続きます。
それでは、また。
ワインとワイナリーをめぐる冒険
ITの世界から飛び出しワインづくりを目指した雪川醸造代表の山平さん。新しい生活や働き方を追い求める人たちが多くなっている今、NexTalkでは彼の冒険のあらましをシリーズでご紹介していきます。人生における変化と選択、そしてワインの世界の奥行きについて触れていきましょう。
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第47回 海外でのワインづくり:3度目のニュージーランド
第48回 ワインと税金(あるいは税務署)その3

山平哲也プロフィール:
雪川醸造合同会社代表 / 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授。ワイナリーを立ち上げるため2020年に東京から北海道の大雪山系の麓にある東川町に移住。大阪出身。移住前はITサービス企業でIoT事業開発責任者、ネットワーク技術部門責任者等を歴任。パラレルワークでIT企業の新事業検討・開発を支援。早稲田大学ビジネススクール修了。61カ国を訪問した旅好きでニュージーランド、南アフリカでもワインをつくっている。毎日ワインを飲むほど好き。


