・NZで自社用オーク樽を導入してもらいました
・海外への支払いは「Wise」(国際送金サービス)でスムーズに送金できます
・南半球で得たワインづくりを別の南半球で初めて試みました
こんにちは(あるいはこんばんは)。
まずは、お礼から。
前回ご紹介したクラウドファンディングですが、無事にネクストゴールを越えて、3月末に終了(成立)しました。
▼世界へ越境するワイン。雪川醸造、ボーダーレス・ワインづくりへの深化
南半球へ「越境」したワインづくりにおいて、「自分たちの専用設備」を現地に導入することで精度をより高め、そこでの経験値を北海道・東川でのワインづくりに還元していくのが目的のプロジェクト。197人もの方々から、総額5,320,000円のご支援をいただきました。
NexTalk 読者の方々からもご支援をいただいており、皆さまのご声援によって、設備導入にむけた申し分ない環境が整いました。この場をお借りして、多くのご協力、ご共感をいただいたことにお礼申し上げます。気を引き締めて、南半球でそして北海道でのワインづくりを深めていきます。皆さま、心からありがとうございます。
ニュージーランドでの自社用オーク樽導入
さて、今年もニュージーランド(NZ)にワインをつくりにきています。今回で3回目のNZ越境醸造では、いくつかのトライアルを実施しました。
まずは、雪川醸造専用のオーク樽の導入です。赤ワイン用、白ワイン用、それぞれ1樽ずつ、合計2樽をフランスの樽メーカーから調達して、現地のワイナリー(Greystone)に導入してもらいました。

オーク樽はこんな感じで梱包されて運搬されてきます。日本だと段ボールの箱に入ってきそうですが、ヨーロッパのメーカーは梱包が簡素ですね

白ワイン用の樽はすぐに使うため、到着後すぐに洗浄されました。オーク樽の内側はトースト(焦が)してあるのですが、それを流しすぎないように、殺菌して洗い流すのが洗浄の目的です
赤ワイン用のオーク樽は東川でも使っているメーカー(Damy)、白ワイン用の樽は初めて使うメーカー(Billon)のものです。クラウドファンディングと並行して、NZのGreystone にどのメーカーなら調達できるかを相談し、フランスの樽メーカーのNZ拠点と何度かやり取りをして、ピノ・ノワールとソーヴィニヨン・ブランにあった種類の樽を選びました。
雪川醸造におけるオーク樽の使用はまだ2年ほどしか経っておらず、試行錯誤している部分が少なからずあります。取り回しやすいためにワインづくりでよく使用されるステンレスタンクと比べ、オーク樽の利用には次のようなポイントでの考慮が必要になってきます。
1.「酸化」的な熟成環境による質的変化
オーク樽はほぼ完全に密閉されたステンレスタンクとは異なり、木目の孔を通じて微量の酸素をワインに供給します。この微量な酸素との接触により、赤ワインの場合にはアントシアニン(色素)とタンニン(渋み)の結合が促進され、色調が安定し、口当たりが柔らかくまろやかになります。
2.「フェノール成分」による味わい(骨格)の補強
オーク樽からは、ぶどうのものとは異なる種類のタンニン(エラジタンニン)が抽出されます。オーク樽から溶け出すタンニンは、ワインにボディーや厚みを与え、長期熟成に耐えうるポテンシャルを豊かにします。
3.複雑な「アロマ」(香り)の形成
オーク樽に含まれるバニリン(バニラ香)、オークラクトン(ココナッツ香)、オイゲノール(スパイス香)、フラン系化合物(トースト・焦げた香り)などが、ワイン本来の香りと調和することで、豊かで複雑なアロマが形成されます。
4.「品種」に合わせた選択
品種や産地によって異なるワインのポテンシャルに合わせて、オーク樽の種類を選ぶ必要があります。オーク樽の個性(アロマやタンニン)が品種特有の香りを消してしまうような場合には、古い樽やトーストを抑えた樽を使用することも必要とされます。
現在のワイン選びの潮流として、オーク樽の個性が強いワインがあまり好まれないようになってきていること。そしてピノ・ノワールやソーヴィニヨン・ブランはその繊細さに特徴がある品種なので、オーク樽とのバランスにも繊細さが必要と考えられること。さらには日本の食卓に出される料理は、オーク樽の主張が控えめな方が合わせやすいこと、などを考慮して、ワイン全体における新樽のフレーバーの影響が控えめになるような比率にしています。

発酵の準備が終わった果汁を、発酵用のオーク樽に移しているところです。樽で発酵することでワインにクリーミーな厚みと複雑性がもたらされます
なお、今回のオーク樽の調達代金の支払いは、樽メーカーの本社があるフランスの銀行にユーロで振込むという手続きでした。
価格表をメーカーから送ってもらった時に、表示通貨をニュージーランド・ドル(NZD)と勘違いして「おー、すごい安い!NZで買って日本に送ろうかな」と考えていたのですが、支払いのタイミングで請求書を見ていたら「ユーロで支払うこと」と書かれているのを見つけて、とてもがっかりしました……。
※2026月4月1日付けで、1ユーロ=183.90円、1NZD=91.21円
ユーロの送金には「Wise」という国際送金サービスを使用しています。Wiseは2011年にイギリスで創業した国際送金サービスを提供するフィンテック企業で、銀行に出向くことなくオンラインで、非常に低い手数料でスムーズに送金できるサービスです。

雪川醸造のwiseアカウントの画面です。国際送金がメインサービスなので、比較的シンプルな画面構成ですね
今回のフランスの銀行への送金だけでなく、これまでのNZのワイナリー委託費やぶどう購入代金の支払いでも、Wiseを使ってきました。ワタクシがアメリカに住んでいた頃は、国際送金と言えば非常に高い手数料で時間がかかるため、できるだけ避けたい手続きでしたが、今はホントに簡単・手軽に国際送金できるようになりました。
参考に、オーク樽代金を2,600ユーロほど4月初頭に支払ったのですが、送金手数料は3,600円(0.7%)ほど、手続き開始から入金完了までおよそ1日でした。これを日本の銀行が提供する国際送金サービスを使用すると、手数料は10,000円前後(2%)で入金完了までに数日を要します。いろんなサービスが日々進化しているなと感じています。
また、これを書くにあたってWiseのサービスを調べていたら、Wiseが発行するデビットカードを使用すると、NZでの生活費支払い(NZD建て)のコストを減らせることがわかりました。

Wise のデビットカードには物理カードとデジタルカード(Google Pay、Apple Payに追加して使用する)があります。これは物理カードの管理画面で、盗難された場合に自分でカードを「凍結」することが可能です
詳細は割愛しますが、日本国内発行のクレジットカードを海外で使用すると支払額に対して3.63%の海外事務手数料を支払わなければなりません。しかし、国際送金サービスとWise発行のデビットカードを組み合わせることで手数料を0.5%程度に抑えることができそうです。
なお、海外のクレジットカード利用にはスキミングなどのセキュリティー上のリスクもあり、海外支払い用のWiseデビットカードを準備するのは良さそうに見えるので、次回には準備することにします。
南半球で得たワインづくりアプローチの実践
うっかりして話が大幅に脇道にそれたので、元の話題に戻しましょう。
今回のNZ越境醸造でのもう1つのトピックスは、初めて試みるワインづくりのスタイルです。NZでつくる白ワインの品種はソーヴィニヨン・ブランです。これまでの2回はフレッシュでシャープ、果実とハーブ感が豊かなNZスタイルでのワインづくりでした。今回はフランス・ロワール地方で見られる、丸い果実感でミネラル感が豊かなスタイルのソーヴィニヨン・ブランを目指して、ワインづくりのプロセスをかなり変えました。

大きく写っている樽3つで発酵しています。新樽1つに古樽2つという割合でいくことにしました
NZスタイルのソーヴィニヨン・ブランでは、発酵から熟成の過程において、果汁〜ワインを不必要に酸化させないために酸素を透過しないステンレスタンクを用います。一方、ロワールスタイルでは、発酵や熟成の過程においてオーク樽を使用することで微量の酸素と触れさせ、ワインにクリーミーな厚みと複雑性をもたらします。
ということで、調達したオーク樽を熟成だけでなく発酵時から使用することで、つくりあげるワインのスタイルを変えていこうという目論見を、今回実施しました。このアプローチは、1月にフランス・ロワール地方を訪れた時に得たアイデア……というわけではありません。1年前の南アフリカでのワインづくりの際に時間を見つけて訪れた、南アフリカ最高峰の名声と歴史を誇るワイナリー「クライン・コンスタンシア」のワインメーカー Matt Day との対話からヒントを得たものです。
Matt の言っていたことが、NZのメディアのインタビューに掲載されているので、紹介します。
▼"How Matt Day makes benchmark Sauvignon Blanc at Klein Constantia"
「(訳注:クライン・コンスタンシアの)多くの区画では Metis(訳注:ワインの名前)同様につくっています。発酵時に溶け出す成分が多く含まれていますが、その約80%をプレス時に酸化するやり方です。「ハイパーオキシデーション」(強制的な酸化処理)は、ソーヴィニヨン・ブランでは最悪の禁じ手とされています。しかし、私たちのアプローチは、発酵前にソーヴィニヨン・ブランのチオール化合物をすべて酸化して除去し、発酵に入るタイミングでしっかりとしたテクスチャーの骨格をつくり出すことです。こうしてつくられるワインは、瓶詰めから6カ月もすれば、風味が変化してひどい状態になってしまうようなソーヴィニヨン・ブランとは対照的に、力強く、非常に長い期間熟成に耐えるものになります。」(筆者訳)
A lot of the blocks are made like Metis - high soluble content at fermentation, about 80% of it is hyper-oxidised at crush. When you’re hyper-oxidising, you’re doing everything you’re told not to with Sauvignon Blanc, but what we’re doing is oxidising away all those volatile thiols, getting rid of them before fermentation and creating a more solid textured structure when you go into the fermentation. You create a wine that is going to be robust and last for a very long time as opposed to Sauvignon Blanc that changes literally within six months of bottling and is terrible.
このトピックについて、南アフリカ・ケープタウンのワイナリーで対話しながら理解を深めたのですが、南半球に越境醸造してこういうテーマでの対話の場がなければ、巡り合わなかったアプローチだなとしみじみ感じています。

これはすべて、ソーヴィニヨン・ブランのワインです。畑違い、発酵違いで、ワインメーカーを目の前にしてテイスティングしながら、違いを一つずつ説明してもらいました
こういうのって、テキスト(文章)で提示されてもピンとこないんです。実際につくっているワインメーカーを目の前にして、出来上がったワインを飲みながら話をしていくことで得られる解像度でようやく、ディテールまでイメージして理解できることのような気がします。
南アフリカでのワインメーカーとの対話でヒントを得たワインづくりを、1年がかりで準備してNZで形にして、どんなワインが出来上がるのか。完成したワインを確認するのは、しばらく先のことなのですが、今この段階で楽しみでしかたありません。
結び
横道に逸れたりして長くなってしまったので、NZからのレポートはこれくらいにしておきます。
なお、この他のトライアルとしては、過去2年とは異なる地域の畑からぶどうを調達したり(ワイナリーのすぐそばの畑になりました)、NZに現地法人を設立したり(輸出手続きの簡略化が目的です)。現地法人に関連して現地でサポートしてもらっている方々にお目にかかる(1年近くメールだけのやり取りだった人たちが何人もいたのです)などと、越境先でのワインづくりの環境が徐々に整ってきました。
これまでだと「次のNZ訪問は1年後!」だったのですが、今シーズンからはより短いスパンで訪問しようと考えています。今回仕込んだワインのボトリング(びん詰め)のタイミングで訪問してワインの最終的な状態を確認し、場合によってはブレンドについても検討してからボトリングすることで、出来上がったワインにより関わっていこうと考えています。
そして、これで北海道に戻ったら、2026年のヴィンヤード(ぶどう畑)の活動が始まります(実はもう始まっていますが……)。
それでは、また。
ワインとワイナリーをめぐる冒険
ITの世界から飛び出しワインづくりを目指した雪川醸造代表の山平さん。新しい生活や働き方を追い求める人たちが多くなっている今、NexTalkでは彼の冒険のあらましをシリーズでご紹介していきます。人生における変化と選択、そしてワインの世界の奥行きについて触れていきましょう。
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第2回:東川町でワイナリーをはじめる、ということ (2021年5月18日号)
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第4回:ぶどうは種から育てるのか? (2021年7月13日号)
第5回:ぶどう畑をどこにするか?「地形と土壌」(2021年8月17日号)
第6回:ワインの味わいを決めるもの: 味覚・嗅覚、ワインの成分(2021年9月14日号)
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第8回: ワイン醸造その2:ワインづくりの主役「サッカロマイセス・セレビシエ」(2021年12月14日号)
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第43回 ワインと税金(あるいは税務署)
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第45回 ワインと税金(あるいは税務署)その2
第46回 海外でのワインづくり:3度目のニュージーランド

山平哲也プロフィール:
雪川醸造合同会社代表 / 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授。ワイナリーを立ち上げるため2020年に東京から北海道の大雪山系の麓にある東川町に移住。大阪出身。移住前はITサービス企業でIoT事業開発責任者、ネットワーク技術部門責任者等を歴任。パラレルワークでIT企業の新事業検討・開発を支援。早稲田大学ビジネススクール修了。61カ国を訪問した旅好きでニュージーランド、南アフリカでもワインをつくっている。毎日ワインを飲むほど好き。




