ITの世界から飛び出しワインづくりを目指した雪川醸造代表の山平さん。新しい生活や働き方を追い求める人たちが多くなっている今、NexTalkでは彼の冒険のあらましをシリーズでご紹介していきます。人生における変化と選択、そしてワインの世界の奥行きについて触れていきましょう。
こんにちは(あるいはこんばんは)。
新しい年になったかと思ったらあっという間に年度も変わりましたが、ワタクシは年度末ぎりぎりに北海道・東川町を出発し、東京・羽田〜オーストラリア・シドニーを経由して、ニュージーランドのカンタベリー地方に来ています。
昨年も同じ時期にオーストラリアのメルボルン近郊にあるワイナリーにワインづくり・ぶどう栽培を学びに行っていました。
今年はニュージーランドのワイパラにワインづくりを学びにきました。経験値をしっかりと上げるために、見て学ぶだけでなく、ワイナリーにお願いして自分自身でもワインを仕込んでいます。
というわけで、せっかくなので今回はニュージーランドでのワインづくりに関するあれこれをお伝えしようと思います。
ニュージーランドの生活環境
といいつつも、ワインづくりの本題に入る前に、ニュージーランド生活のあれこれを少し。
今回滞在しているのは南島最大の都市・クライストチャーチから北に30km(クルマで30分ほど)にあるランギオラ(Rangiora)です。人口は1.9万人強、ダウンタウンには大きめのスーパーが 3 軒あり、静かな郊外の住宅街といった感じの街です。
今回この地域には18日ほど滞在するため、Airbnb でキッチン・バスルーム(シャワーブース)付きの部屋を借りています(ホテル滞在だとかなり費用がかかってしまいます)。
キッチン付きの部屋なので、朝夕の食事については部屋で適当なものを作って食べています(昼は出かけていることがほとんどなので外で食べますが)。
このため、ほぼ毎日スーパーマーケットに買い物に行くのですが、食材がちょっとずつ高いのですよね。ランギオラ到着初日に買い出しに行った際のレシートがこちらです。
買ったものはうえからこんな感じです(1ニュージーランドドル=約91円)。
・鶏もも肉(大パック、380gくらい) 744円
・レモン1つ 86円
・ライム1つ 41円
・リユース 買い物袋 90円
・BRBビール ピルスナー 6缶 1,456円
・BRBビール IPA 6缶 1,456円
・Grove Mill ソーヴィニヨン・ブラン 750ml 1,456円
・バルサミコ サラダドレッシング 1本 327円
・ガーリックハーブソルト 1本 336円
・スモークサーモン ナチュラル 728円
・スモークサーモン ペッパー 728円
・スモークサーモン レモンペッパー 728円
3個まとめ買いで 365円値引き
・カット野菜 コールスロー用 200g 300円
・カット野菜 ルッコラ 45g 300円
2個まとめ買いで 54円値引き
合計 8,358円
お酒をまとめて買っているからこの金額になっていますが、このBRBというビールはこのスーパーマーケットにあった一番安いビールです(それでも1缶あたり242円)。クラフトビールっぽい他の銘柄だと、この2~3倍の価格で売られているものもあります(ニュージーランドはホップ産地で有名なので、クラフトブルワリーがたくさんあります)。
スーパーマーケットにおいてあるワインはめちゃくちゃ種類が多く(野菜売り場とおなじくらいの面積です)10~30ドルくらいのリーズナブルな価格帯のものがほとんどなので、ビールより安い感じがします。
思ったよりワインよりビールが高いので「もしかして」と思って調べてみたら、ニュージーランドはビールの酒税が高くなっていました。直近の2023年に6.65%、そのたった1年前の2022年に6.92%、つまり2年間で合計13.57%も酒税が値上げされたということです。
現在1缶 242円のビールも、酒税値上げ前は210円位で買えたのでしょう(酒税はリットルあたりいくらの課税なのでざっくりした価格比較になっています)。
肉と魚は、日本で買っている価格帯よりもちょっとずつ高い感じがします。鶏もも肉が100g 195円はちょっと高いなぁと思うけれど買えない価格ではない。スーパーマーケットではなく専門のお肉屋さんだと日本でもこれくらいの価格で売っていますよね。
別の日に手に入れたニュージーランド国内産のサーモンは300gで1,600円で、これもちょっと高いなと思ったのですけれど、ニュージーランドのサーモンの多くはキングサーモン(日本だとマスノスケと呼ばれる希少種)ですし、秋がサーモンの旬の時期なので納得して、日本から持っていっただし入り味噌を使ってちゃんちゃん焼きをつくっておいしくいただきました。
日本との価格の差異が一番大きいのは野菜じゃないかなと思います(数日滞在しただけなのであくまで個人の意見ですが)。マーケット内で通りすがりに高くておどろいて写真だけ撮って買わなかったのですが、もやし200g 1袋が253円でした。
もやしを使う料理ってアジア系に限られますからね。需要と供給のバランスでこういう価格になっているのはしかたないのかもしれない。
元のレシートに戻りますが、ルッコラ45g 300円、レモン、ライム1つで100円以下というのは安いです。もやしと逆で需要が大きいので、数多く供給されることでこなれた価格になっているのでしょう。
ワインづくり
さて、本題のニュージーランドでのワインづくりです。
経由地であるシドニーを出発したフライトがクライストチャーチ空港に到着したのが夜中0時近く。空港の近くで1泊し、翌朝レンタカーを借りて今回ワインづくりでお世話になるGreystone Winesに向かいました。
ワイナリーがあるのは、クライストチャーチから北にクルマで約60分のワイパラです。ここはカンタベリー地方随一のワイン産地として知られています。
Greystone Winesで、今回のニュージーランドでのワインづくりをアレンジいただいたTaka K Winesの小山竜宇さんと落ち合って、さらに北にクルマで50分ほどに上がったスポッツウッド(Spotswood)にある畑で、今回ワインとして仕込むソーヴィニヨン・ブランを収穫しました。
10人ほどの収穫チームで約4時間かけて2トン分。しばらくぐずついた天気の日が続いていたそうですが、収穫のタイミングには一転してすっかり晴天。さっぱりと乾燥したきれいなぶどうを収穫することができました。
カンタベリー地方にぶどう畑のある土地の多くは、年間降水量が600~700mm。ワイン用ぶどうの栽培に適しているのが年間降雨量500~900mmと言われるので、最適な気候条件です。最近では干ばつ気味の天候が続くことも多いので、ほとんどの畑で灌漑設備が設置されています。
収穫したソーヴィニヨン・ブランはトレーラーでワイパラまで運んで戻り、大きな冷蔵庫で一晩冷却してから翌朝プレスへ。
フォークリフトで持ち上げる400kg用プラスチック容器5個分、合計2トンをプレス機で圧搾し、ぶどうをジュースにします。
ちなみにこのぶどうが入っているプラスチック容器、海外のワイン産地だと割とよく見かけるのですが、日本国内ではほとんど見かけません。産業用プラスチック容器をつくっている日本のメーカーは、例えば漁業向け容器はバリエーション豊かに品揃えしているのですけど、ぶどう収穫に使えるちょうど良い既製品は提供していないのです。こういう産業向け製品はそれぞれの地域や国における業種、産業に最適化されながら進化しているのだと感じさせられます。
今回、北海道での仕込み同様に全房圧搾(ぶどうを茎がついた房のままプレスして果汁を取り出す。果粒だけで搾るよりもクリアな果汁が得られます)でぶどうをプレスしてもらったので、ワタクシとしてはいつもの雪川醸造のやり方でワインが仕込めています。
プレス後、ジュースを10℃に冷却して2日間静置して澱を落とし、底に溜まった固形分だけを残して澱引きしてから、今度は15℃まで温度を上げて、一次発酵を開始します。
そして、このコラムをしたためている現在のタイミングではまだ一次発酵中です。この先、健全につつがなく発酵が進んで風味豊かなワインができあがるように、これから集中してワインの状態を見極めていきます。
結び
今回はニュージーランドでの生活とワインづくりのあれこれをお伝えしました。
このコラムでも何度かお伝えしているように、ワインは年に一度、ぶどうを収穫するタイミングにしか仕込めません。これをニュージーランドに来ることで年に二度仕込み、経験値を上げていくのが南半球でワインづくりを行う目的です。
それに加えて、ただ漫然とワインをつくるだけでなく、経験豊かなニュージーランドのぶどう栽培家やワイン醸造家と対話しながらワインをつくることで、ぶどうとワインにまつわる知見・見通しを深めていくことができます。
こうした経験が得られるしあわせな環境にいることを感謝しつつ、次のシーズンも南半球で仕込められるようにひとつずつ歩みを進めていきたいと考えています(まだ今年のワインも出来上がっていませんが…)。
それでは、また。
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