ITの世界から飛び出しワインづくりを目指した雪川醸造代表の山平さん。新しい生活や働き方を追い求める人たちが多くなっている今、NexTalkでは彼の冒険のあらましをシリーズでご紹介していきます。人生における変化と選択、そしてワインの世界の奥行きについて触れていきましょう。
こんにちは(あるいはこんばんは)。
12月に入りましたね。東川では雪が降り始めました。青空に晴れると良い景色の季節です。
一方、数日前は京都にいました。市内の町家にあるワインバーでイベントがあったのですが、紅葉真っ盛りでした。
こうしたイベントごとをこなしながら、ワイン仕込みのフォローやぶどう畑の冬じまいをしていたりするので、まだゆっくりできる状況ではありません。年を越す頃にはゆっくりできると良いのですが。
ワイナリー立ち上げにおける生成AIの活用
しばらく間が空きましたが、ワインづくりにおける生成AIの活用を取り上げてみます。今回はワインづくりではなく、ワイナリー経営における生成AIの活用です。
ワタクシの周りにはこれからワイナリーを立ち上げようとしている人たちが少なからずいます。こうした人たちからは、「ぶどう栽培やワインづくりについて学ぶ場はあるが、ワイナリー経営について学ぶ場がない・少ない」という声が聞かれます。その中でも特に事業計画を立てるのが難しい、という意見をよく耳にします。
というわけで、事業計画、特に収支分析に生成AIを活用してみようと思います。
ChatGPT にワイナリー立ち上げにおける収支分析を実行させた結果を、まずは見ていただきます。
●ChatGPT出力結果「北海道でワイナリーを立ち上げる:具体的な収支分析と事業計画」
北海道で2haのぶどう畑と200㎡のワイナリー施設を賃貸し、新たにワイナリーを立ち上げる計画を想定しました。本計画では、設備投資額、年間経費、売上の推移、利益(営業利益・純利益)、初期投資の回収時期について、詳細な収支分析を行います。累積損益についても触れながら、事業の展望を具体的に説明します。
1. 初期投資の詳細
ワイナリー事業を開始するための初期投資は以下のようになります。
・ぶどう畑関連
農業設備費:500万円 × 2ha = 1000万円
農業機械費(トラクター、スプレイヤーなど):500万円
苗木費用:5000本 × 2000円(仮定) = 1000万円
・ワイナリー関連
醸造用設備費:4000万円
初年度のワイナリー施設賃貸料:350万円
追加設備投資:3年目に追加醸造設備投資:1000万円
・合計初期投資
初年度:1000万円(農業設備) + 500万円(農業機械) + 1000万円(苗木) + 4000万円
(醸造設備) + 350万円(賃貸料) = 6850万円
3年目:追加1000万円を計上し、総額は7850万円。
初期投資は10年間で均等に減価償却されます。
2. 年間経費の構成
・固定費
ワイナリー賃貸料:350万円
減価償却費:685万円(3年目以降は追加投資分を含み785万円)
・変動費
原材料費:売上の15%
販売管理費:売上の15%
年間経費は売上規模に応じて変動します。
3. 生産量と売上の推移
・ぶどう収穫量の推移
3年目:6000kg(最大収量の50%)
4年目:9000kg(最大収量の75%)
5年目以降:12000kg(最大収量)
・ワイン生産量
1kgのぶどうから0.75本のワインを生産。
3年目:4500本
4年目:6750本
5年目以降:9000本
・売上の算出
ワイン販売価格:2500円/本
生産したワインは翌年度に80%、翌々年度に20%販売。
4年目:4500本 × 2500円 × 80% = 900万円
5年目:4500本 × 2500円 × 20% + 6750本 × 2500円 × 80% = 1800万円
6年目以降:6750本 × 2500円 × 20% + 9000本 × 2500円 × 80% = 2700万円
4. 年間利益計算
営業利益は「売上 − 年間経費」で算出します。
・4年目
売上:900万円
経費:固定費(1135万円)+変動費(168万円 × 2) = 1471万円
営業利益:900万円 − 1471万円 = −571万円
・5年目
売上:1800万円
経費:固定費(1135万円)+変動費(253万円 × 2) = 1641万円
営業利益:1800万円 − 1641万円 = 159万円
・6年目
売上:2700万円
経費:固定費(1135万円)+変動費(338万円 × 2) = 1811万円
営業利益:2700万円 − 1811万円 = 889万円
5. 累積損益と初期投資の回収時期
初期投資の回収時期を累積営業利益で判断します。
・4年目には売上が900万円、経費が1471万円となり、営業利益は▲571万円となります。
この段階ではまだ赤字が続き、累積損益も▲571万円です。
・5年目には売上が1800万円に増加し、経費が1641万円となります。
この年の営業利益は159万円となり、累積損益は▲412万円に改善しますが、
依然として赤字状態です。
・6年目以降、売上は2700万円、経費は1811万円となり、
営業利益は889万円を達成します。
この年で累積損益が477万円と黒字に転じます。
・7年目には、同じく889万円の営業利益を上乗せし、累積損益は1366万円になります。
・8年目から10年目まで同様に毎年889万円ずつ累積利益が増加し、8年目に2255万円、
9年目に3144万円、10年目に4033万円となります。
・11年目には累積利益が4922万円に到達し、12年目には累積利益が5811万円となります。
この段階では初期投資7850万円にはまだ達しません。
・13年目に累積利益が6700万円に、14年目には7589万円となり、
15年目に累積利益が完全に初期投資額を上回り、初期投資回収が完了します。
6. 課題とリスク対応
・気候リスク
北海道の冷涼な気候はぶどう栽培に適していますが、霜害のリスクも伴います。
防霜ファンの導入や耐寒性品種の選定が重要です。
・市場競争
国内外で競争が激化している中、北海道ブランドの強みを活かした
差別化戦略を検討する必要があります。
・資金繰り
補助金やクラウドファンディングを活用して資金調達を行い、
キャッシュフローの安定化を図ります。
7. 事業の展望と結論
この計画では、初期投資回収に12年を要する長期的な視点が必要です。しかし、6年目以降は利益が安定して確保される見込みで、12年目以降は累積利益が大きく成長する持続可能なモデルです。
北海道の冷涼な気候で生産される高品質ワインは、地域ブランドとして国内外に訴求する可能性があります。観光資源との連携やワインツーリズムの促進により、収益の多角化も期待できます。
本計画を通じて、地域社会と共に成長するワイナリーを目指し、自然環境と文化を活かした新しいワイン体験を提供するビジネスモデルを構築します。
プロンプト例
以上がChatGPTの出力結果です。
この出力を得るために入力したプロンプトは次のとおりです。
●入力プロンプト:その1
ワイナリー立ち上げにおける事業計画立案を手伝ってほしい。
●入力プロンプト:その2
まずこのコラム「ワインとワイナリーをめぐる冒険」に目を通してほしい。
(補足:本コラムをまとめて掲載しているページへのリンクです)
●入力プロンプト:その 3
以下のパラメーターを踏まえて、新しくワイナリーを立ち上げると仮定して、設備投資に必要な初期費用(賃貸によりぶどう畑、ワイナリーを始めるシナリオで)、年ごとに必要とされる経費、年ごとの売上の推移、年ごとの利益(営業利益、純利益)、初期投資の回収時期、について具体的な数字を挙げながら、収支分析について詳しく説明するコラムを書いてください。
○補足
・コラムの文字数は、日本語で3,000-3,200文字とします。
・パラメーターの説明で足りないところは過去のNexTalk「ワインとワイナリーをめぐる冒険」コラムで挙げている具体的な数字によって補ってください。
○パラメーター
・準備する施設は 1)ぶどう畑、2)ワイナリーの2つ。
・ぶどう畑の面積は 2ha。
・2ha のぶどう畑に植えるぶどうの苗木は 5,000 本。
・1ha のぶどう畑で必要となる農業設備に 500万円かかる。
・一つのぶどう畑に必要となる農業機械(トラクター、スプレイヤーなど)に 500万円かかる。
・ワイナリーの面積は 200㎡
・ワイナリーの賃貸料は年間 350万円。
・醸造用設備の初期投資は 4,000万円。
・3年目に発生する醸造用設備の初期投資は 1,000万円。
・初期設備投資の合計を 10 年の減価償却で毎年の経費に組み込む。
・生産したワインは翌営業年度に 80%、翌々営業年度に20% が販売されるとする。
・ワイン1本の販売価格は2,500円。
・原材料費は販売価格の15%
・販売管理費(経費)は販売価格の15%
・初期投資の回収は、初期投資の合計を年度ごとの営業利益の合計が上回った時に実現するものとする。また、回収までの毎年の累積損益について記載する。
ここまでが入力プロンプト
これらの内容を見ていただくとわかるのですが、依頼する内容、前提となる条件やデータについては、比較的細かく伝える必要があります。これは生成AIだから必要とされる指示ではなく、おそらく他の人(人間)に仕事として依頼する場合にも伝えなければならない項目と言えるでしょう。
使っているとわかるのですが、生成AIはしかるべきデータや条件、それに作業内容を与えれば、短い時間で疲れることなくアウトプットを提示してくれます。言い換えると、人間には、生成AIの利用によって知りたい答えを得るためのしかるべき問いを立て、必要十分なデータや条件、アウトプットイメージを整理して与える能力が必要とされるといえるでしょう。
なお、上記でChatGPTに与えたパラメーターは、ワタクシがワイナリーをはじめる前に作成した事業計画から抜粋した検討項目です。そして、各パラメーターに与えている値については、それなりに正しいデータもありますが、現実とはかけ離れている情報もあるので、このChatGPTのアウトプットをそのまま信じないようにしてください(人間に必要なもう1つの能力は、生成AIが出すアウトプットが利用できる内容かどうかをレビュー、判断する力です:なお上記の収支分析試算には誤りと不足項目があります…)。これを補完するには、以前のコラムで取り上げたように、複数サービスを使用して比較することでより精度の高いアドバイス(回答)を得るというアプローチが考えられます。
結び
今回はワイナリー経営、特にワイナリーの立ち上げ時に必要とされる事業計画の検討というシナリオでの生成AIの活用を取り上げました。
生成AIを活用するにはこういう力が必要ですよ、といくつか指摘していますが、一番大事なのは「生成AIのアウトプットを信じてよいか(使えるものか)どうかを判断する力」だと言えます。言い換えると、アウトプットを判断・信頼できない領域、事柄において生成AIは使えないということです。まあ、人間のアウトプットであっても、実はその結果は信頼・判断できないと思うのですけれど…。
仕事や作業をお願いする側は「なんかうまいことやっといて」という阿吽の呼吸的な関係が成り立つことは生成AIでも人間に対してでもほぼ無いですね。良質のコラボレーションには、データや作業内容の適切な整理としかるべきコミュニケーション、そして結果を判断する能力を磨き続けることが大事なのだと、ひしひしと感じます。
それでは、また。
「ワインとワイナリーをめぐる冒険」他の記事
第1回:人生における変化と選択(2021年4月13日号)
第2回:東川町でワイナリーをはじめる、ということ (2021年5月18日号)
第3回:ぶどう栽培の一年 (2021年6月8日号)
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第5回:ぶどう畑をどこにするか?「地形と土壌」(2021年8月17日号)
第6回:ワインの味わいを決めるもの: 味覚・嗅覚、ワインの成分(2021年9月14日号)
第7回:ワイン醸造その1:醗酵するまでにいろいろあります (2021年11月9日号)
第8回: ワイン醸造その2:ワインづくりの主役「サッカロマイセス・セレビシエ」(2021年12月14日号)
第9回:酒造免許の申請先は税務署です(2022年1月12日号)
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第11回:ワイナリー法人を設立するか否か、それがイシューだ(2022年3月8日号)
第12回:ワインづくりの学び方
第13回:盛り上がりを見せているテイスティング
第14回:ワイナリーのお金の話その1「ぶどう畑を準備するには…」
第15回:ワイナリーのお金の話その2「今ある建物を活用したほうが・・・」
第16回:ワイナリーのお金の話その3「醸造設備は輸入モノが多いのです」
第17回:ワイナリーのお金の話その4「ワインをつくるにはぶどうだけでは足りない」
第18回:ワイナリーのお金の話その5「クラウドファンディングがもたらす緊張感」
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第20回:まずはソムリエナイフ、使えるようになりましょう
第21回:ワイン販売の話その1:独自ドメインを取って、信頼感を醸成しよう
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第23回:ワインの販売についてその2「D2C的なアプローチ」
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第26回:ワインの市場その1_1年に飲むワインの量はどれくらい?
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第32回:ワインづくりと生成AI その1 ラベルの絵を「描く」
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