ITの世界から飛び出しワインづくりを目指した雪川醸造代表の山平さん。新しい生活や働き方を追い求める人たちが多くなっている今、NexTalkでは彼の冒険のあらましをシリーズでご紹介していきます。人生における変化と選択、そしてワインの世界の奥行きについて触れていきましょう。
こんにちは(あるいはこんばんは)。
ぶどう栽培のシーズンがはじまり、先月は苗木の新植(今年は2,500本近く植えました)とそれにまつわる作業で時間がなかなか取れず(4月中旬からほとんど休んでいません…)、実に2カ月ぶりのコラムとなります。
このコラムを準備している6月下旬は、北海道でのぶどうの開花シーズン。雪川醸造のヴィンヤード(ぶどう畑)でも、今年は3年目の樹で果実を少し生らせようと考えています。その中で早い品種は、6/23にシャルドネの開花を確認し、遅い品種では6/30にソーヴィニヨン・ブランの開花を確認しました。
見ていただくとわかるのですが、ぶどうの花は地味です。いわゆる花びら(花弁)がなく、つぼみ(キャップ)とオシベとメシベで構成されています。暖かくなって成熟が進めば、キャップが取れて開花となります。開花した後に、オシベとメシベが受粉して、ぶどうの果粒(つぶ)になっていきます。
一般的に、ぶどうは開花から100日後が収穫のタイミングとされます。収穫まであと3カ月ちょっと。ぶどうの成長と共に駆け抜ける日々が続きます。
間接販売について
さて、前回に続きワインの販売のあれこれについて見ていきます。前回は、直接販売を取り上げたので、今回は間接販売についてです。
間接販売の場合、卸売業者を通じて小売業者(酒屋さん)に販売するルートと、小売業者(酒屋さん)に直接販売するルートの2種類にざっくりと分類されます(飲食店〔料飲店〕の話は後ほど)。
ワインに限らず、酒屋さんでお酒を買って飲む方々は、よく行くお店がいくつかあると思います。酒屋さんからみると、それなりの頻度でお店に来るお客さんはお得意さまということになり、お得意さまが多い酒屋さんは売上規模が大きくなるということになります(ざっくりした説明ですみません)。
よく似た構造が卸売業者と酒屋さんとの間にも生じていて、注文を頻繁にもらう酒屋さんをたくさん持っている卸売業者は売上規模が大きくなります。そして、そのルートを用いれば、多くのワインの買い手にワインをお届けできることになります(これまたざっくりした説明ですみません)。
ワインをたくさん販売することを目的とするなら、売上規模の大きな卸売業者に販売するのが最善の方法といえます。一方ワタクシとしては、前回も触れましたが流通過程を複雑にせず、雪川醸造と自分のワインを飲む人とがシンプルに関わる仕組みにしたいと考えています。このため、いまのところは、卸売業者を通さずに、小売の酒販店に販売するルートのみで販売しています。
卸売なのか、小売なのか、どちらだ?
ここで「いまのところは」としたのは、卸売業者経由で購入したいとの声がぽつぽつと聞こえてくるからです。その多くは、酒屋さんではなく飲食店だったりします。
ワタクシもワインの流通チャネルを(ワイン製造業者として)片側から観察しているので間違った認識かもしれませんが、卸売業者(多くはワインのインポーター)が飲食店に販売しているケースが少なくないように感じます。ワインのつくり手からは卸売業者に見えるのですが、飲食店からすると酒販店(小売業者)の1つと見えているわけです。こういう立ち位置の事業者って、卸売なのか、小売なのか判断に困ります。卸売が小売の顧客に直接販売すると、小売専業の方々に怒られそうな気がするのですが…。
ここで飲食店の立場から考えてみます。例えば、さまざまな種類のワインを常に取り揃えておきたいという傾向のレストランだと、同じ種類のワインを2~3本ずつ、数種類まとめて1ケース(12本)で購入したいわけです。ワインは元々が輸入された商品で成立した市場なので、輸入業者が小売である酒販店だけでなく、大口顧客になり得る飲食店に直接販売する流通経路ができ上がっています。こうした状況にどう対応すれば良いのか、まだスッキリ整理できていません。
飲食店向けの販売ルートをどう考えていくかが、雪川醸造のワイン販売における現時点での課題の1つです。
ワインを売るには酒販免許が必要
卸売業者、小売業者と分けて整理している理由の1つに、酒類販売業免許(酒販免許)の種類の問題があります。ワインを含めて、お酒を販売するためには酒販免許が必要です。酒販免許なくお酒を販売すると酒税法違反となり、「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」に処せられます。
少し話が脱線しますが、酒屋さんとしてお酒を販売するためには酒販免許が必要です。しかし、飲食店としてお酒を販売するには酒販免許は不要。その代わりといってはなんですが、飲食店は保健所から飲食店営業許可を受ける必要があります。この違いは、「お酒の容器を開栓してから売るか、開栓せずに売るか」にあります。レストランでボトルワインを開栓してお客さまに提供する場合には、酒販免許は不要です(飲み残しを持って帰るのも大丈夫です)。一方、ボトルをそのまま(開栓せずに)持ち帰るように販売する場合には、酒税法上の酒類の販売にあたるため、酒販免許が必要になります。ややこしいルールですよね。
そして、酒販免許は、「酒類小売業免許」と「酒類卸売業免許」の2種類に大別されます。国税庁の定義では、小売業免許は「消費者、料飲店営業者又は菓子等製造業者に対し、酒類を継続的に販売することを認められる」もの、卸売業免許は「酒類販売業者又は酒類製造者に対して酒類を継続的に販売することを認められる」ものです(小売業免許、卸売業免許それぞれに区分があるのですが、その説明は細かくなってしまうのでここでは割愛します。知りたい方はGoogleで「酒類販売免許 種類」と検索すると、解説ページがいくつも見つかると思います)。
Google 検索「酒類販売免許 種類」
酒造免許(お酒をつくる免許)を申請した際にこのあたりの制度のことを調べたので、お酒を売る人には小売と卸売の2種類がいて、飲食店(料飲店)に販売するのは小売業者、と思ってしまったのです。これら2つの免許は排他的ではないので、両方を持っていれば、消費者にも酒販店にも販売することができるわけです。
なお、雪川醸造は果実酒の酒造免許を受けているのですが、酒造免許を持っている場合、酒販免許を受けることなく果実酒については販売を行うことが可能です。
国税庁【酒類製造免許関係】
これちょっと面白いルールでして、製造免許を受けた製造場(ワイナリー)であれば、自社製造のワインじゃなくても、他社製造ワインの輸入や仕入れを行って、酒販店や消費者に販売してもよい(店頭販売でもネット販売でもOK)のです(果実酒以外はダメですけれど)。直営のワインショップで他社製造のワインを販売するのは混乱を招きそうですが、ネット販売で別ブランドを冠すればオンラインワインショップを運営するのならできそうかなと思っていたりします。
結び
今回はワインの販売経路で間接販売のルートを見てみました。ワインは、65~70%程度が輸入されているので、輸入業者(インポーター)が市場形成に大きな役割を果たしていますが、国内で製造されているワインもあることでわかりにくい流通構造になっています。詳しく触れませんでしたが、日本ワインを扱っている飲食店がまだ少ないこととワイン市場の流通構造の複雑さは無関係ではないように思います。
次回ですが、ワインの市場についてちょっと深掘りしてみたいと思います。グローバルにみたワイン市場の傾向や、日本市場の特徴について、つくり手として見聞きする話を起点として、少々考えてみたいと思います。
それでは、また。
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