ITの世界から飛び出しワインづくりを目指した雪川醸造代表の山平さん。新しい生活や働き方を追い求める人たちが多くなっている今、NexTalkでは彼の冒険のあらましをシリーズでご紹介していきます。人生における変化と選択、そしてワインの世界の奥行きについて触れていきましょう。
こんにちは(あるいはこんばんは)。
2月下旬に大阪で開催されたMARO Wines さんのメーカーズディナーにゲスト参加してきました。
メーカーズディナーとは、ワインに寄り添ってペアリングした食事をいただきながら、つくり手の話を聞き、そのワインへの理解を深めるイベントです。大阪以外でも開催されたのですが、日程が合うタイミングが大阪だったのでこちらに参加しました。
会場は、大阪で日本ワインをけん引しているお店「ミッシェル・ヴァン・ジャポネ」さん。ソムリエの「ミッシェル」こと渡辺正敏さんと、シェフの「アラン」こと渡辺博之さんの兄弟で営んでいらっしゃいます。場所は谷町四丁目駅近くにあり、落ち着きとともに親近感のある雰囲気のレストランです。
今回ペアリングしたワインは次の写真の通りです。
MARO Wines さんは、初めてのワインをリリースしたばかり。雪川醸造もこれまで3種類のワインをリリースした状況ですが、それらすべてのワインではコース全体をカバーできません。このため、今回のメーカーズディナーを企画された道産ワイン応援団の荒井早百合さんのアレンジで、道内の他のつくり手のワインを交えてのラインアップとなりました。
ミッシェルさんからは、メーカーズディナー当日の早い時間に、提供予定の料理それぞれとワイン(1〜2種類)の相性のあり方を確認して、最終的なペアリングを決めたとご説明いただきました。
まず、事前に得ているそれぞれのワインの情報から、組み立てをワインに寄せたアランさんの料理がおいしいのです。イタリアンがベースですが、和の要素をシームレスに取り入れられていて、日本ワインにあう品々が提供されました。
そして、それぞれの料理とペアリングしたワインをいただきながら、ミッシェルさんにその組み合わせになった理由をお聞きしました。その組立てのロジックは、自分では思いつかない納得度が高い内容。「なるほど!」の連続でした。自分のワインについて、どういうつくりでこういうワインになったのかを説明したのですが、それだけじゃ参加されている方にまだまだご満足いただけないなあとの実感も得て、今回のゲスト参加はとても学びになりました。
ワインを販売するルートの種類
さて、今回ですが、ワイナリーのお金周りの話に戻って、売上をあげていく手段としてのワインの「販売」について取り上げます。
ワタクシが思うに、ワイナリーとしてのワイン販売ルートは、ざっくり次のような感じに分類できると考えています。
1) 直接販売
a. 直売店、直営ショップ
b. ネット販売(通信販売)
2) 間接販売
a. 卸売業者への販売
b. 小売業者(酒販店)への販売
c. 料飲店への販売
まず、ここで大きなくくりとして上記で示したように「直接」「間接」があります。その区分は、ワインを購入して飲まれる方(以下「ワインの飲み手」と表現します)にワイナリーとして直接的に接するか、間接的に接するかどうかの違いです。
つくり手としてのワタクシは、ワインの飲み手にできるだけ直接接していきたいと思っています。メーカーズディナーのようにワインを飲んだ方々の感想をじかにうかがいたいですし、普段あまりワインを飲まない方々がワインに親しんでもらえるような場もつくっていければとも考えています。しかし、ぶどう栽培やワイン醸造など作業のボリュームを考えると、物理的にも時間的にも限界があるのが現実です。
また、雪川醸造のワインの飲み手を増やしていくこと(いわゆるマーケティング、プロモーション)も必要だと考えています。そうした目的の活動も空いている時間を縫ってある程度のボリュームで行うことは可能ですが、やはり限界があります。このため、直接販売はネットを用いたマーケティング・販売にフォーカスしながら(直売店、直営ショップを運営しながら販促活動を広げるには時間的余裕がないのです…)間接的なルートの販売を組み合わる、というのが現時点での雪川醸造の考え方です。
直接的なマーケティング・販売
次に、ネットを用いたマーケティング・販売についてです。マーケティングは、InstagramやFacebookといったSNSを活用し、販売ではShopifyで構築した自社サイトを立ち上げています。
ワインって、多くの人にとっては毎日飲むものではないと感じていて(ワタクシはほぼ毎日飲んでいますが…)、SNSでふとした時に触れて、時折思い出して買ってみようかなと思っていただくくらいが、居心地の良い距離感と思っています。また、SNSの中でもInstagram、Facebookを主に活用しているのは、ワインを飲む30代以降の方々が多く、あまり荒れない(炎上しない)のが、こうしたSNSだろうと想定しているからです。
<雪川醸造 Instagram(フォローしてください)>
インフルエンサーを活用したマーケティングや、炎上を前提としたマーケティングがあるのは承知していますが、ワタクシの肌感覚的には馴染まないので、トリッキーな広告手法を使わず、オーガニックにゆっくりと広めるアプローチで進めています。
自社サイトは独自ドメインに
ところで、ネット販売の環境を、既存サービスの間借りではなく自社ドメインで構築しているのは、自社ドメインのサービスがより高い信頼度を感じると捉えているためです。以下は、中小機構がまとめた自社独自ドメインの取得のメリットです。
独自ドメイン名を登録するメリットは、以下のとおりとなります。
(1)信頼性の証明
ドメイン名を登録すると、登録者や連絡先などの情報がインターネット上に公開されます。登録者の情報が直接公開されない場合でも、取次業者の情報が公開され、最終的に登録者に連絡が取れるようになっています。
(2)スクワッティング(ドメイン占拠)対策
ドメイン名は、基本的に申請順が先の者に優先権がありますので、先に他者に登録されると後から自己の登録は難しくなります。なかには、転売目的で多くのドメイン名が占拠されたままになったり、勝手に別の商売を始められたりしてしまう例もあります。あらかじめ登録しておけば、これらのことを未然に防ぐことも可能です。
(3)意気込みのアピール
個人でも、お小遣い程度で気軽に独自ドメイン名を登録する時代です。ドメインの有無により、意気込みの違いを感じる閲覧者も多いのではないでしょうか。
個人的には、これらのメリットのうち、意外に(2)が大切と考えています。この世界は悪意を持ったヒトが皆無というわけではないので…。ワイナリーとして活動をしばらくしてから自社の名前に沿ったドメイン名(雪川醸造の場合、「snowriverwines.com」です)を取ろうとしても、他者(他社)に押さえられてしまっていることが判明すると、最悪の場合、ワイナリー名やブランド名を変更し、新たに周知しなくてはならないかもしれません。
「ドメインスクワッティング」と商標登録
snowriverwines.comではなく、省略形の「srw.com」でドメイン名を取ることも考えたのですが、このドメイン名はすでに押さえられています。whois.comでドメイン名の所有者を調べると海外の企業が1998年に登録していますが、使っている形跡はありません。whois.comでちょいと調べてみると、この企業は他の3文字ドメイン(rzj.comやjkc.comなど)も所有しているので、「ドメインスクワッティング(後で高く売りつけるためにインターネットのドメイン名を取得すること)」と考えることもできるでしょう。
whois.com "srw.com" 検索結果
何にせよ、自社ドメインの取得・維持に必要な費用は年間数千円なので、それでこれらのメリットが得られるのなら、取得しないという選択肢はないと思います(あくまで個人としての意見です。ドメイン管理業者の回し者ではないですよ)。
少々脇道に逸れますが、ドメイン名だけでなく商標登録も重要なプロセスです。ワイナリーは個人で始めていることが少なくなく、似たような名前になる可能性も少なくないと感じます。ワタクシの場合「雪川醸造」というワイナリーとしては使わなさそうな名前にしたのですが、活動を始めたころには日本酒の酒蔵や醤油醸造の業者と間違われることがありました。これはそういった業種で同じような名前が使われる可能性があるということ。あと、カタカナではなく漢字で構成される社名なので、漢字圏の方々が後から商標権を主張してくることが無いとも言えません。
このため、ワイナリーの名前を決める際にインターネットで検索して類似商標が無いことを確認しつつ(「雪川醸造」、「SnowRiver Wines」の両方で検索しました)、ワイナリーとして活動をはじめてしばらくしてから、弁理士事務所を通じて商標登録を行いました。商標登録には結構なコストがかかる(1つの商標を登録〔10年間有効〕)するのに、15万円前後かかります)のですが、幸か不幸か(?)商標登録でトラブっている(いた)事案を身近にみていたので、必要なコストだと割り切って、無事に登録しています。
結び
今回は、ワインの販売について取り上げたのですが、ドメイン名と商標にまつわる話が思ったより長くなってしまって、本題の販売についてあまり突っ込めませんでしたね・・・。
とはいえ、ドメイン名や商標、いわゆるブランドに関係する事柄にしっかり対応していくことが、ワインの飲み手との信頼関係をより良い形で醸成するための1つのアプローチである、というのがワタクシの考え方です。ワイナリーを知ってもらうための事柄にしっかり対応できなくて、ぶどう栽培やワインづくりにしっかり対応できるのかしら…ということです。
次回は今回取り上げられなかった、ワインの販売について、特にネットでの販売について、少し見ていこうと思います。
それでは、また。
「ワインとワイナリーをめぐる冒険」他の記事
第1回:人生における変化と選択(2021年4月13日号)
第2回:東川町でワイナリーをはじめる、ということ (2021年5月18日号)
第3回:ぶどう栽培の一年 (2021年6月8日号)
第4回:ぶどうは種から育てるのか? (2021年7月13日号)
第5回:ぶどう畑をどこにするか?「地形と土壌」(2021年8月17日号)
第6回:ワインの味わいを決めるもの: 味覚・嗅覚、ワインの成分(2021年9月14日号)
第7回:ワイン醸造その1:醗酵するまでにいろいろあります (2021年11月9日号)
第8回: ワイン醸造その2:ワインづくりの主役「サッカロマイセス・セレビシエ」(2021年12月14日号)
第9回:酒造免許の申請先は税務署です(2022年1月12日号)
第10回:ワイン特区で素早いワイナリー設立を(2022年2月15日号)
第11回:ワイナリー法人を設立するか否か、それがイシューだ(2022年3月8日号)
第12回:ワインづくりの学び方(2022年4月12日号)
第13回:盛り上がりを見せているテイスティング(2022年5月17日号)
第14回:ワイナリーのお金の話その1「ぶどう畑を準備するには…」(2022年6月14日号)
第15回:ワイナリーのお金の話その2「今ある建物を活用したほうが・・・」(2022年8月16日号)
第16回:ワイナリーのお金の話その3「醸造設備は輸入モノが多いのです」(2022年9月13日号)
第17回:ワイナリーのお金の話その4「ワインをつくるにはぶどうだけでは足りない」(2022年11月1日号)
第18回:ワイナリーのお金の話その5「クラウドファンディングがもたらす緊張感」(2022年12月13日号)
第19回:ワイナリーのお金の話その6「補助金利用は計画的に」(2022年1月17日号)
第20回:まずはソムリエナイフ、使えるようになりましょう(2022年2月14日号)