ITの世界から飛び出しワインづくりを目指した雪川醸造代表の山平さん。新しい生活や働き方を追い求める人たちが多くなっている今、NexTalkでは彼の冒険のあらましをシリーズでご紹介していきます。人生における変化と選択、そしてワインの世界の奥行きについて触れていきましょう。

こんにちは(あるいはこんばんは)。

今年の夏はとても暑かったですね。北海道というか、東川町のある上川盆地では、夏はお盆をすぎると涼しくなると言われています。ですが、このコラムを書いている9月上旬でも最高気温が30℃近く。なおかつ湿度が高めの状態が続いて、ぶどう畑で作業しているとひっきりなしに汗が流れてきます。

雪川醸造の自社ぶどう畑ですが、3年目の樹はぶどうをならせて、収穫されようとしています。成長中の樹への負担を軽減するために、ぶどうの房の数は減らしているのですが、8月中旬頃から「ヴェレゾン(ぶどうの実が色づき、柔らかくなっていく状態)」が始まっています。

3年目のピノ・ノワールです。黒ぶどうは色が変わっていくので分かりやすくて良い

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こちらはソーヴィニヨンブランです。白ぶどうの場合、果肉に透明感が増していきます

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一般的にぶどうは房の上部の実が一番甘く、下の方に行くにしたがって甘さが弱くなるとされていますが、ヴェレゾンによる色の変化はランダムに発生します。そのランダムなメカニズムについては、まだ分かっていないらしいのですけど、不思議ですね。こうしてぶどうの色づきが進んでくると、そろそろワインの仕込みが始まるんだと緊張してきます。あと1カ月ほどで2023年ヴィンテージの仕込みが始まります。

グローバルな比較

さて今回ですが、ワインの市場についてちょっと深掘りしてみたいと思います。

まず日本人が年間にどれくらいの量のワインを飲んでいるかご存知ですか?

フランスに本拠地を置くぶどう・ワイン関連の研究機関である「O.I.V.(Office International de la vigne et du vin、国際ぶどう・ワイン機構)」が毎年ぶどう・ワイン業界に関する調査レポートを発行しているのですが、それによると日本では年間で1人あたりおよそ3.1リットルのワインが飲まれているとされます。

他の国はというと、中国は0.8リットル、ブラジルは2.1リットルで日本より少ないです。アメリカが12.6リットル(日本のほぼ4倍)、イギリスが23.2リットル(同7.5倍)となっており、この調査での第3位イタリアは44.4リットル(同14.3倍)、2位フランスは47.4リットル(同15.3倍)、1位のポルトガルはなんと67.5リットル(同21.8倍)も年間に飲んでいます。

画像: 日本より消費量が少ないブラジルと同じ南米にあるアルゼンチンはワイン産地なので、イギリスと変わらない量のワインを年間に飲んでいるんですよ

日本より消費量が少ないブラジルと同じ南米にあるアルゼンチンはワイン産地なので、イギリスと変わらない量のワインを年間に飲んでいるんですよ

これらの数字を見ていると、日本でのワイン消費は、ヨーロッパの国々とならぶところまでは難しいものの、アメリカやカナダの消費量に近づく潜在性はあるのではと感じています。とはいえ、グローバルには「ソバーキュリアス(お酒を飲める人があえて飲まないことを選択するライフスタイル)」な生き方を選択する人も増えている傾向なども踏まえると、そう簡単に増えるものではないとも思っています。

お酒の種類による比較

では、日本人はワインの他にどんなお酒を飲んでいるのでしょうか?

今度は国税庁が刊行している「酒のしおり」(令和5年6月版)を参照してみます。

画像: https://www.nta.go.jp/taxes/sake/shiori-gaikyo/shiori/2023/index.htm

https://www.nta.go.jp/taxes/sake/shiori-gaikyo/shiori/2023/index.htm

このレポートには「成人1人当たりの酒類販売(消費)数量表(都道府県別)」が含まれています。この表によると主な種類のお酒の消費量は次のようになっています(カッコ内は酒税法で定義される酒類カテゴリー)。

・ワイン(果実酒)3.4リットル
・ビール(ビール)17.9リットル
・発泡酒(発泡酒)5.7リットル
・酎ハイ+梅酒+第3のビール(リキュール)23.3リットル
・日本酒(清酒)3.9リットル
・焼酎(連続式蒸留焼酎+単式蒸留焼酎)6.7リットル
・ウイスキー(ウイスキー)1.6リットル

これによると日本人が最も多く飲んでいるお酒は、酒税法での定義だと「リキュール」です。ほとんどの人にとってリキュールをたくさん飲んでいる感覚はないと思いますが、酒屋やコンビニ・スーパーで数多く販売されている酎ハイ(一部のハイボールも含む)や梅酒、そして第3のビールがこのカテゴリーに属しており、これらが一番消費されているということです。

酒税法における「リキュール」の定義:「酒類と糖類等を原料とした酒類でエキス分が2度以上のもの」

また、ビールと発泡酒の消費量を合計すると23.6リットルとなり、リキュールを上回ります。リキュールに含まれる第3のビールも考慮すると、実質的に日本人が一番多く飲んでいるのはビール(系飲料)だと思われます。日本で最初のビール醸造所が横浜にできたのが1869年。清酒の消費量をビールのそれが上回るのは1956年から59年にかけてとされているので、80年ほどでビール(系飲料)が最も消費量の多いお酒となり、それ以来ナンバーワンの地位を維持し続けているということです。温暖化が進んで、夏の暑さがさらに厳しくなっていくと、ビール(系飲料)の消費は増えていくんでしょうかねぇ。

あと、ワインと清酒の消費量はほぼ同じ状況です。これはワインの消費量は増え、清酒の消費量が減って、現時点でほぼ同じ状態にあるのです。いまから20年前の2003年(平成15年)のそれぞれの消費量を見てみると、ワインは2.5リットル、清酒は9.3リットル。ワインが増える傾向にあるのは、ワインづくりに携わる者として喜ばしいのですが、伝統的なお酒である清酒の消費量が減り続けている状況には、複雑なものを感じます。

ちなみにこの「酒のしおり」には主要なお酒の税負担を比較した表が掲載されています。その表によると、それぞれのお酒の税負担は次のようになります(2022年12月現在、税負担は酒税+消費税)。

・ビール大瓶(633ml)44.3%
・発泡酒1缶(350ml)35.1%
・清酒一升瓶(1800ml)18.2%
・ワイン1本(720ml)17.5%
・単式蒸留焼酎一升瓶(1800ml)31.5%
・ウイスキー1本(700ml)23.6%

今後酒税法が改正されるので、これらの差は縮まるのですが、現時点ではビールが税負担の一番大きいお酒、そしてワインが税負担の一番小さいお酒と見ることもできます。税負担が大きいのはちょっと…、と思われる方はぜひこれからは選択肢にワインを加えていただければと思います。

結び

今回は一人あたりが飲むワインの量を通じて、ワインの消費について見てみました。グローバルに見ると、フランスなどはワインの生産・消費ともに多いように見えますが、実際のワイン消費量はとても減少しています(ピークの1926年に136リットルを飲んでいたのが、2022年には47.4リットルとなりほぼ1/3に)。日本国内のデータを見ると、ワインの消費量は徐々に伸びているのですが、トレンドに乗っていれば順調に増える簡単な状況ではないと言えます。

次回ですが、ワインの市場についてもう少し見てみたいと思います。お酒の消費量が減っているのはどういう状況なのか、消費が増えているものがあるとするなら、どういうメカニズムで増えているのか、そんなことを見ていければと思っています。

それでは、また。

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画像: 山平哲也プロフィール: 雪川醸造合同会社代表 / 北海道東川町地域おこし協力隊。2020年3月末に自分のワイナリーを立ち上げるために東京の下町深川から北海道の大雪山系の麓にある東川町に移住。移住前はITサービス企業でIoTビジネスの事業開発責任者、ネットワーク技術部門責任者を歴任。早稲田大学ビジネススクール修了。IT関連企業の新規事業検討・立案の開発支援も行っている。60カ国を訪問した旅好き。毎日ワインを欠かさず飲むほどのワイン好き。

山平哲也プロフィール:
雪川醸造合同会社代表 / 北海道東川町地域おこし協力隊。2020年3月末に自分のワイナリーを立ち上げるために東京の下町深川から北海道の大雪山系の麓にある東川町に移住。移住前はITサービス企業でIoTビジネスの事業開発責任者、ネットワーク技術部門責任者を歴任。早稲田大学ビジネススクール修了。IT関連企業の新規事業検討・立案の開発支援も行っている。60カ国を訪問した旅好き。毎日ワインを欠かさず飲むほどのワイン好き。

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