こんにちは(あるいはこんばんは)。
暑かった夏が終わり、秋の気配が広がりつつありますが(そういえばこの時期には「三寒四温」のような表現が無いですね)、今年のワイン仕込みが本格化してきました。
といっても、北海道のワインの仕込み(≒ワイン用ぶどうの収穫)はまだ先で、9月中旬に始まり、10月に本格化します。一方、九州などの温かい地方では 8 月中旬ごろからワイン用ぶどうの収穫がスタートしており、本州のワイナリーでも早生品種の仕込みが始まっています。
日本各地のワイナリーに知人がいて SNS でつながっていたり、ワイナリーそのものをフォローしていたりすると、あちこちのぶどうの収穫やワインの仕込みの様子が流れてきます。
● 熊本の菊鹿ワインの仕込み
● 山梨の岩崎醸造の仕込み
● 栃木のココファームワイナリーの仕込み
今年は全国的に気温が高かったのですが、雨が多く日照時間が短めのところが多かったためにぶどうの病気に悩まされたところが多いようです。そんな状態の中で、なんとか健全に育ったぶどうを収穫し、ワインづくりにたどり着いたときは喜びもひとしおでしょう。ぶどうの収穫につづいて、ワインを仕込み始めれば、気の抜けない日々がつづきますが、すべてのワイナリーで美味しいワインができあがるように願っています(ワタクシのところもがんばります)。
なお、今シーズンの雪川醸造の仕込みではいくつか新しいことを手掛けます。そのうちの1つがニュージーランドで活躍するワイン醸造家小山竜宇さんと、北海道を代表するワイン醸造家麿直之さんが共同で立ち上げたワインブランド "KOYAMARO" のワイン醸造を雪川醸造で行うことです。詳細は以下のニュースリリースを御覧ください。
経験と実績をお持ちのお二人をサポートすることで、ワタクシ自身が猛烈に学べる機会をいただけることとなり、大変嬉しい限りです。
どのような設備が醸造には必要なのか?
さて、今回は醸造するための設備(プレス機、タンク、ホースなど)にかかる費用について取り上げようと思います。
ワインの醸造については以前のコラムで2回にわたって取り上げています。これらを読んでいただければ、ワイン醸造の流れをなんとかイメージしていただけると思います。
第7回:ワイン醸造その1:醗酵するまでにいろいろあります (2021年11月9日号)
https://nextalk-uniadex.com/_ct/17493717第8回:ワイン醸造その2:ワインづくりの主役「サッカロマイセス・セレビシエ」(2021年12月14日号)
https://nextalk-uniadex.com/_ct/17502484
これらの醸造作業を行うために必要な設備ですが、ワタクシの独断と偏見で整理すると、かならず必要なものとあると良いものの2種類に区分できると思います。
●かならず必要なもの
ぶどう用コンテナ、重量計
タンク(ステンレス、樹脂など)
プレス機
ポンプ
ホース、アダプター、バルブ類
フィルター(ろ過器)
瓶詰め関連機器
分析関連機器
●あると良いもの
オーク樽
選果台
除梗破砕機
フォークリフト、ハンドリフト
ここでは最低限必要だろうと思われるものを取り上げています。実際にワインづくりを行うには細々とした機器、機材が必要ですが、まずはどんなものが必要なのか、それぞれについてざっと見ていきます。
かならず必要な醸造設備
1. ぶどう用コンテナ、重量計
収穫したぶどうを入れるカゴです。食品衛生法に準拠した素材であることが必要です。ホームセンターなどで、1つ数百円で販売しています。1コンテナあたり 20 kg のぶどうを入れるとすると、1トンで 50 個必要になります。年間で使わない時期のほうが長いので、あまりたくさんあると場所を取ります。折りたたみ式のカゴもありますが、1つあたりの単価は高くなります。農家や農協などからぶどうを買って醸造する場合、コンテナに入ってくるため不要なこともあります。
ワイナリーに搬入したぶどうの重さをはかる秤です。利用シーンを考えると防塵、防水であるほうが良く、そうすると 1 台あたり数万円となります。酒税法でかならず計る義務が規定されているので、設置が必須です。
2. タンク(ステンレス、樹脂など)
発酵および貯蔵・熟成に使用する容器です。タンクに使用される素材は色々ありますが、ステンレスと樹脂が代表的です。ステンレス製の場合、ワインづくり用に設計されたものは国内製造がなく、ヨーロッパや米国のメーカーから輸入することになります。納期は、コロナ禍によるメーカーの製造スケジュール遅延と国際物流の遅延、その両方の影響があるため、このコラムを書いているタイミングでは半年以上かかっています。費用ですが、タンクのサイズによりますが、1 基あたり数十万〜数百万円です。
樹脂製のタンクは、食品関連の液体貯蔵・運搬用に販売されている容器をワインづくりに転用して使用します。このため、ワインづくりには若干使い勝手が悪く、樹脂がワインの風味に影響する可能性がある、というデメリットがあるものの、国内メーカーが製造しており、費用が数万〜十数万円(サイズにより変動)、納期が1〜3週間程度といった点がメリットです。
樹脂タンクを発酵時に使用し、貯蔵・熟成にはステンレスタンクを用いる組み合わせで比較的コストを抑えることが可能になります。一方、毎回同じ量を仕込めるとは限らず、複数のワインの種類を仕込むとすると、異なる容量サイズのものを揃えなければならず、思った以上にタンクの種類と数が必要になります。
3. プレス機
ぶどうを圧搾して、果汁あるいはワインの液体として取り出すための機械です。垂直型のバスケットプレス、水平型のメンブレンプレスなど、種類がいくつかあります。ワタクシの知る限りでは、ステンレスタンク同様に国内には製造メーカーがなく、ヨーロッパや米国から輸入することになります(納期もタンク同様、現在半年以上です)。小規模のバスケットプレス(数十 kg のぶどうを絞れる)であれば数十万円、数百 kg を圧搾できるメンブレンプレスでは数百万円程度の費用が必要です。
4. ポンプ
プレス機、タンク間で果汁、もろみ、ワインを移すための機械です。食品グレードのもので、液体あるいは発酵中のもろみを移送するためのポンプになります。国内メーカーでも製造していますが、タンクやプレス機をヨーロッパ / 米国のメーカーから調達する際にワイン用に設計されたポンプを一緒に取り寄せていることが多いように思います。費用としては機能によりますが、十数万〜数十万円といったところです。
5. ホース、アダプター、バルブ類
プレス機、タンク、ポンプなどを接続して、果汁あるいはワインを移すために必要です。食品用のグレードであることが必要です。いずれも国内メーカーが販売しており、1カ月以内の納期で調達できると思います。いずれも数千〜数万円の費用です。
6. フィルター(ろ過器)
ワインを清澄化(せいちょうか)するためにろ過する機械です。主なものにシートフィルターとメンブレンフィルターの2種類があります。シートフィルターはセルロースなどを用いた濾紙を使用して粗ろ過に用い、メンブレンフィルターは膜を濾材として用いて精密ろ過に使用します。いずれも本体とフィルターが必要となり、本体の費用はシートフィルターが数十万円、メンブレンフィルターは数万〜十数万円で、いずれも使用時にはフィルターが別途必要になります。
7. 瓶詰め関連機器
ワインの瓶詰めに使用する機械です。瓶詰めには、瓶を洗浄するリンサー、瓶に決まった量のワインを充填するフィラー、コルクを打栓するコルカー、スクリューキャップを巻き締めるキャッパーなどが必要になります。リンサー、フィラーは日本酒の 4 合瓶に使用しているものを流用できるので、国内メーカーの製品を使えますが、コルカー、キャッパーについてはヨーロッパ / 米国メーカーのものが主流です。リンサー、フィラーは数十万円、機械式(半自動式)のコルカー、キャッパーについては百数十万円といったところです。
8. 分析関連機器
果汁あるいはワインを分析するために使用する機器です。測定・分析するのは、糖度、pH、総酸、比重、液温、資化性窒素、亜硫酸、タンク貯蔵量などの値で、収穫前のぶどう、醸造中の果汁 / ワイン、貯蔵・熟成中のワイン、それぞれの状態を知るために行います。ワイン醸造中の一部の値については、測定方法が国税庁によって定められているため、その方式に沿って測定できる器具が必要になります。必要な機材を一揃い準備すると、2-30 万円ほどかかります。
あると良い醸造設備
9. オーク樽
発酵および貯蔵・熟成に使用する木製の容器です。ワインづくりにオーク樽が必須ということではなく、樽がなくともワインをつくることはできます。樽材の産地や加工する地域によっていくつかの種類があるのですが、主流なのはフレンチオーク樽とアメリカンオーク樽です。オーク樽を輸入する場合、フレンチオーク樽は1本数万〜数十万円、アメリカンオーク樽は1本数万円です。
10. 選果台
ワイナリーに納入されたぶどうを選別するための台です。なくても良いのですが、乾燥果 / 腐敗果 / 未熟果などをていねいに取り除くことで、高品質なワインを仕込むことが可能になります。振動式、ベルト式、ローラー式があり数十万〜数百万ほどの費用がかかります。
11. 除梗破砕機
ぶどうの房から、ぶどうの果粒と梗(こう:茎のこと)を分離し、果粒を軽く潰すための機械です。赤ワインの仕込みを行う場合には必須の機材なのですが、白ワインの仕込みでは使わないこともあるため「あると良いもの」に位置づけています(雪川醸造にはこの機械はありません)。これも国内メーカーで製造しているところがなく、ヨーロッパ / 米国のメーカーから調達する必要があります。安価なものであれば100万円前後で調達可能です。
12. フォークリフト、ハンドリフト
ワイン醸造には直接関係ないのですが、ぶどうの搬入や、発酵・貯蔵中のワインタンクや瓶詰め後のボトルの移動に使用します。これらが無いと、肉体的に非常に負荷がかかるので、よっぽどのことが無い限りあったほうが良いです。なお、エンジンやモーターを動力源として作動するのがフォークリフトで、動力源がなく手で動かせるのがハンドリフトです。フォークリフトは中古車であれば 100 万円前後で流通しており、ハンドリフトは数万円で調達することが可能です。
これらの機材を、中古機材などを織り交ぜて極力コストを圧縮して調達すると1000万円以内で調達できるかもしれませんが、現実的には 2-3000万円程度かかるのが現実的だと思います。費用面だけでなく、一部の設備についてはヨーロッパあるいは米国からの輸入となるため、機材を揃えるために必要な期間は半年以上、場合によっては1年近くかかる可能性もあります。
雪川醸造では、これらの醸造用設備を公的な補助金(ものづくり補助金)を活用して調達しました。紙面が足りないので仕組みについては詳しく説明しませんが、補助金により 2/3 が負担され、自己負担は1/3 ですみました。ワイナリーを始める場合には、こうした補助金を設備調達のタイミングとうまくあわせて活用することが、とても重要だと感じています。
結び
長くなりましたが、今回は醸造するための設備(プレス機、タンク、ホースなど)にかかる費用を取り上げました。これらの設備を調える場合、必要な費用がそれなりに大きいので資金調達の組み立て方が大事なのですが、輸入せざるを得ない設備があり、コロナの影響で納期がとても長くなっていることにも気を配る必要があります。
次回ですが、ワインを醸造する材料(ぶどう、酵母、瓶など)にはどのようなものがあるのかを見ていきながら、ワイナリー全体でどの程度のコストがかかるのかを、整理してみたいと思います。
最後に、前回のコラムで当ワイナリーのファーストリリースワインを発売開始したとご案内しましたが、おかげさまでほぼ売り切れました(クラウドファンディングのリターンとしてはまだご提供しています)。こちらのコラムを読まれた方々にもご購入いただきました。ありがとうございました。11 月頃には、別のワインもリリースできると思いますので、その際にはまた案内させていただきます。
それでは、また。
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