ITの世界から飛び出しワインづくりを目指した雪川醸造代表の山平さん。新しい生活や働き方を追い求める人たちが多くなっている今、NexTalkでは彼の冒険のあらましをシリーズでご紹介していきます。人生における変化と選択、そしてワインの世界の奥行きについて触れていきましょう。
こんにちは(あるいはこんばんは)。
今回は最初に宣伝させていただきます。やっとワインをリリースすることができました!
雪川醸造のファーストリリースワイン "Snow River Unsparkling Rosato 2021" を 7 月上旬に販売開始しました。日本の食事に合うワインを目指し、北海道では赤ワインとして醸造されることの多い セイベル13053をメインにし、ロゼワインとして仕立てています。
このワインで使用しているセイベル13053という品種は、北海道でワイン造りがまだあまり盛んではなかった1980年代に栽培が始まっており、現在でも北海道のワイン用ぶどうの主要品種です。寒冷な気候に向いていることから、日本では他の地域においてあまり生産されていないこともあり、北海道を代表する品種の1つになっています。
雪川醸造の位置する東川町では30年ほど前から栽培されており、「Snow River Unsparkling Rosato 2021」も東川町の公営ぶどう畑で採れたセイベル13053を用いた、栽培から醸造まで100%東川町産のワインとなっています。
東京都、北海道のいくつかの酒販店で販売しておりますが、雪川醸造のオンラインストアでご購入いただくのが最も手っ取り早いです(まだまだ暑い日がつづきますから…)。ご興味ある方はぜひ下記からご購入いただけますと非常にうれしいです!
ワインの醸造所にかかる費用
今回はワインの醸造所にかかる費用について取り上げようと思います。
ぶどうからワインを醸造して、瓶詰めして販売できるようにするためにワイナリー(醸造所)として必要となる主な施設、設備には次のようなものがあります。
1) 醸造所の土地、建物
2) 醸造するための設備(プレス機、タンク、ホースなど)
3) ワインを醸造する材料(ぶどう、酵母、瓶など)
これらそれぞれについて、必要な投資、コストを考えていくことにします。
ワイナリーの土地と建物
雪川醸造の醸造施設(ワイナリー)としてどういったものを準備するかについてイメージ・検討するにあたり、都市部や郊外など、いろんなパターンのワイナリーを 20 カ所以上訪れました。それぞれのワイナリーでワインづくりのための施設、設備についてあれこれと教えていただきました(イメージし始めたのはコロナ禍以前でしたので、日本国内だけでなく休暇で訪れたイタリアやオーストラリアのワイナリーでもあれこれ訊いていました)。
醸造所のロケーションは2つのグループに区別されるように思います。1つ目は、ぶどう畑のそばに醸造所を構えているワイナリー。自社のぶどう畑が1カ所にまとまっていてその傍に醸造所があるパターンが多いのですが、ぶどう畑が複数に分散していて、そのうちの1つに醸造所を構えているケースもあります(醸造所が主な施設としてあって、小さなぶどう畑が併設されている場合もあります)。
なお、新設のワイナリーでは畑が1カ所にまとまっていますが、歴史あるワイナリーの場合にはさまざまな経緯でぶどう畑を取得したことで複数のエリアに圃場(ほじょう)が分散していることが多いように感じます。
2つ目は、醸造所とぶどう畑が別のロケーションにあるワイナリーです。まず、東京都内にあるような都市型のワイナリーの場合、各地のぶどうを調達してワインづくりを行っており、おのずと醸造所が畑とは分離して設置されています。
また郊外や山間地にあるワイナリーでも、醸造所へのアクセスを考慮して、醸造所がぶどう畑とは独立して設置されているケースもありました。
この2つのグループをそれぞれ比較してみます。まず、ぶどう畑のそばにワイナリーがあれば、施設として見栄えも良く、景色も良いので行ってみたいなあと感じるのではないでしょうか。醸造所にワインをテイスティングしたり、販売したりするいわゆるセラードア的な施設(ワインショップ)を設置することで、その地域に人を呼び込むツーリズム施設としての役割が果たせます。ワタクシもそういう位置づけのワイナリーに訪問することで、ワインへの興味が広がったところがあります。
また、畑の近くに醸造所(建物)があると、畑作業で必要な農業用の機器、道具、資材類を保管できるので、作業効率も向上するように思います。
実は、雪川醸造のぶどう畑のそばには倉庫がなく、毎回別の場所にある倉庫から作業に必要な道具や機材を運んでいます。すると、どうしても、あれが足りないので取りに行く、これが切れたので新しく補充する必要がある、という状況も生まれるのです。倉庫を建てればいいのですが、どのくらいのサイズの倉庫を準備するかイメージができておらず(大きくすればコストがかかります)、また傾斜地なのでどう建てればいいのかが整理できていないのです。倉庫、ほしいなあ…。
一方、ぶどう畑のそばに醸造所として使えそうな建物がないと、ワイナリーを新築する必要があります。既存施設の活用であれば、改修コストだけですみますが(それでもそれなりの費用がかかります)、新築の場合には施設としての使い勝手を追求することで、コストが想定より増加することが多いように思います。もちろん規模にもよりますが、国内でワイナリーを新築した場合の建設コストは 1,000万円以内に収まるケースは知る限りほぼ無く、2,000 - 5,000 万円程度の費用が発生している例が多数を占めています。
醸造所を新築するという流れとなったので、建物としてどの程度の規模のものが必要となるかを考察してみます。ワイナリーの持つ酒造免許(果実酒製造)であれば、年間最低 6,000 リットル生産する必要があります。年間で 6,000 - 20,000 リットル程度を生産する小規模ワイナリーで、ワタクシが見に行ったところの多くは 50-150 ㎡ の範囲に収まっていたように思います。
これはワインを醸造(製造)するためのスペースの面積で、これとは別に貯酒(貯蔵)するためのスペースが同じくらい必要です。貯酒スペースは長期熟成する場合には多く必要ですし、短めの熟成で販売する、あるいは早期に卸売業者に販売すればスペースを少なくすることも可能です。それにしても醸造エリア+貯蔵エリアの合計で 100-300 ㎡の建物が必要です。これらを新築すると、先に触れたような規模の費用が発生します。そこまでのコストを許容できないのであれば、既存の建物を改修して醸造所として準備することで、必要な費用を抑えることになると思います。
ちなみに雪川醸造は、ぶどう畑とは別のところにある既存の建物を改修してワイナリーとして準備しました。
赤レンガで築かれており、元々は農作物用の倉庫(築50年以上経つと思います)だったのですが、東川町役場を中心としてご助力いただいたことにより、醸造用の施設として利用できるようになりました。利用開始にあたっての費用について、ここでは詳しく説明することは差し控えますが、新築するよりは負担が少ない形を取ることができました。
結び
今回でワインの醸造所にかかる費用すべてを取り上げられるかと思っていましたが、想定よりも土地と建物の説明に文字数を要してしまいました。醸造するための設備(プレス機、タンク、ホースなど)の説明はそれなりのボリュームになると思いますので、次回に取り上げたいと思います。
暑い夏がまだしばらく続きそうですが、おいしいものを食べて、飲んで、そして乗り切っていっていただければと思います。ご自愛下さいませ。
それでは、また。
【おまけ】
さてこのコラムは2カ月ぶりですが、この期間前半は、ぶどうの栽培管理に必要な農業機械の手配に走り回っていました。来年は準備作業をもう少し前倒ししてはじめたいと思っていまして(今年は準備作業のツケがボディーブローのように効いていて…)。
調達した機械のうち、まずは乗用型の草刈り機はこんなのです。
草刈り機には刈払機、自走式、乗用型、ラジコンタイプなどいろいろ種類があります。雪川醸造のぶどう畑は全部で 3ヘクタールあり、草刈り対象の面積が広いため、体力的なことも考えて乗用型にしました。見た目がゴーカートみたいなので、乗ると絶対に楽しそうです(実はまだ使っていません)。
あと「SS」も手に入れました。SS とはスピードスプレーヤーの略で、果樹園に農薬を散布する機械のことです。農薬を散布する仕組みも、肩掛け式、背負い式、動力噴霧(動噴)式などいろいろな種類があるのですが、草刈り機の選定同様に、畑が広く、ぶどうの樹が育ってきたときの体力的なことを考慮するとSSが最適だという判断でした。
ただ、東川町周辺には果樹農家が少ないために SS を見かけることがほとんどなく、どこから調達しようかと悩んでいたのです。そんな中、ある用事でお伺いした余市町のぶどう農家さんに相談したところ、使っていない SS があるので、それを譲っていただけると! あ、もちろん有償です(非常に良い条件でしたが)。苗植えが一段落してから、2トントラック(ロング)をレンタルして、余市まで取りに行ってきました。早く使いたいのですが、他の作業があるため、まだ使えていません…。
「ワインとワイナリーをめぐる冒険」他の記事
第1回:人生における変化と選択(2021年4月13日号)
第2回:東川町でワイナリーをはじめる、ということ (2021年5月18日号)
第3回:ぶどう栽培の一年 (2021年6月8日号)
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