ITの世界から飛び出しワインづくりを目指した雪川醸造代表の山平さん。新しい生活や働き方を追い求める人たちが多くなっている今、NexTalkでは彼の冒険のあらましをシリーズでご紹介していきます。人生における変化と選択、そしてワインの世界の奥行きについて触れていきましょう。

こんにちは(あるいはこんばんは)。

今回は嬉しいニュースから始めたいと思います。

雪川醸造がリリースを予定しているワイン「スノー リバー アンスパークリング ロザート 2021」が、アジア最大のワインコンペティション「Japan Women's Wine Award “SAKURA”
2022(サクラアワード2022)」のスティルワイン ロゼ部門においてゴールド賞を受賞しました。

画像: ワインショップでよく見かけるロゴが、自分のワインに与えられるとは思ってもみませんでした

ワインショップでよく見かけるロゴが、自分のワインに与えられるとは思ってもみませんでした

サクラアワードとは、ワインショップなどで目にされたことがある方もいるかもしれませんが、2014年に開始され、一般社団法人ワインアンドスピリッツ文化協会主催のワイン業界で活躍する女性のみが審査を行う国際的なワインコンペティション(審査会)です。今回(第9回)には28カ国より4,652アイテムがエントリー。審査は全てブラインドテイスティングにより行われました。なお、ゴールド賞を受賞したのは1,425アイテム(30.6%)です。

画像: 審査員一人一人が一日に数十本のワインを飲むということで、楽しいでしょうが、かなり大変だろうと思います

審査員一人一人が一日に数十本のワインを飲むということで、楽しいでしょうが、かなり大変だろうと思います

腕試しで申し込んでみたのですが、雪川醸造が初めてリリースするワインを、ワイン業界で活躍する女性の方々に高く評価いただいたことはとてもとてもうれしく、ちょっとした勇気と自信をいただいて、心の底から励みに感じています。

なお、今回受賞した「スノー リバー アンスパークリング ロザート 2021」は、2022年5月下旬以降の発売開始を予定しています。正式なリリース日程が決まりましたら、Facebook や
Instagram などを通じて、ワインの詳細を含めて改めてご案内いたします。ご興味ある方は、雪川醸造のアカウントをフォローしていただければ幸いに存じます。

●雪川醸造instagram アカウント
https://www.instagram.com/snowriverwines/
●雪川醸造 Facebook アカウント
https://www.facebook.com/SnowRiverWines

評価方法としてのテイスティング

さて、今回はワイナリーを立ち上げるためのお金まわりのお話を掘り下げる、と予告していました。しかし、このところ仕事の進め方に関する話が続いたので、趣向を変えて、上記のコンペティションにおける審査方法である「テイスティング」について取り上げます。

審査会や品評会では、ワインの品質を評価するためにテイスティングを実施します。サクラアワードでの評価基準の詳細は公開されていないため紹介はできないものの、前回紹介した書籍「ワイン醸造技術」に、国際ブドウ・ワイン機構(OIV)が後援する国際ワインコンクール「レ・シタデル・デュ・ヴァン(LesCitadelles du Vin)」の評価方法が紹介されています。ワイン評価のためのテイスティングの実施イメージをつかんでいただけるように次のようにまとめてみました。

◆レ・シタデル・デュ・ヴァン(Les Citadelles du Vin)での評価(テイスティング)方法概略

テイスティングの目的最良の品質、国際的な関心、消費者の満足度
評価指針非常に良いもの(very good)および秀逸なもの(excellent)を選ぶ。
また、欠点がひどいものは失格(eliminate)とする。
評点100点法(OIV及び国際エノログ連盟の規定に準じる評価シートに
マーキングして提出。
カテゴリーワイン7種(白、ロゼ、赤ワイン、弱発泡性、発泡性の白、ロゼ、赤ワイン)
カテゴリーの内訳白、ロゼ、赤ワイン
 ⇒糖分(g/L)0-4、4.1-12、12.1-45、45超
弱発泡性
 ⇒糖分(g/L)45以内、45超
発泡性の白、ロゼ、赤ワイン
 ⇒糖分(g/L)0-4、4.1-12、12.1-45、45超
審査グループの構成1グループ5名で構成された9グループにより、
3日間にわたり審査(45点/日以内)を行う。なお、フランス人は各グループ
2名以内で、各グループの審査員の国が分散するように配慮されていた。
審査項目視覚15点(透明度5点、外観10点)
香り30点(清潔さ6点、強さ8点、品質16点)
 →花の香、果実香、スパイス、ミネラル、ロースト香、
  その他、欠陥臭について該当するものがあれば2-3項目について、
  3段階の強弱でチェックする。
味わい44点(清潔さ6点、強さ8点、余韻8点、品質22点)
 →フレッシュさ(白ワインのみ)、滑らかさ、バランス、
軽快さ、ボディーを強弱に応じて3段階でチェックする
バランス11点
合計100点
テイスティング時の情報カテゴリー、ヴィンテージのみ。18点のワインの評価が
終了した時点で、出品国名、地域、品種の情報を受け取る。
評価方法各グループのテーブルには審査員の前に18点の空グラス、吐器、
ミネラルウォーター、マークシートが用意されていて、注ぎ手が
黒いフィルムでブラインドにしたワインボトルから、
最初にリーダーにワインを注ぎ、ブショネなどの問題がないことを確認の上、
残り4名の審査員のグラスにワインを注ぐ。
審査員はマークシートを用いて審査を行う。リーダーは各審査員から提出された
採点の完了したマークシートの平均点を計算し、ワイン1点ずつについて
受賞ワイン(金、銀のみ)かどうかをメンバーに発表する。
ここで評価について議論すべきことがあれば、短時間の議論を行い、結果を出す。
その後、各審査員の評価シートにリーダーが確認済みの署名をして、事務局に
提出する。
各自のマークシートはスキャナーで読み取ってPCで処理する。
受賞出品点数の30%以内(金賞:評点88/100点超、銀賞:85-88/100点、
トロフィー・シタデル(特別賞))
「ワイン醸造技術」(公益既財団法人日本醸造協会)を参考に作成

テイスティングは人間の官能器官(視覚、嗅覚、味覚など)を用いて行うため、日本語では「官能評価」という表現を用いることがあります。多くのワインを複数の審査員が評価するため、個人差が存在する感覚器官の主観的な認知に頼るのではなく、客観的に判断できるようあらかじめ定量的な審査項目・基準が設定されています。審査項目・基準はOIVのような国際的な団体によって標準化されています(標準化された審査項目を使わない審査会もあります)。

画像: 評価方法としてのテイスティング

審査プロセスにおいては、似た系統のワインを比較評価するために、カテゴリーが細かく設定されています。同カテゴリーのワインを5名1組のグループで評価することで、特定の人の好みが反映されることなく、評価に偏りが出ない工夫がなされています。さらに、評価の際に最小限の情報(レ・シタデル・デュ・ヴァンの場合、カテゴリーとヴィンテージ〔生産年〕)のみを知る状態で評価するため、特定の国、生産者を優遇することなく、公平公正な審査が行えるようになっています。

こういった仕組み(テイスティング)で高く評価されるワインは、ワインづくりにおいてぶどうのポテンシャルを引き出すことに成功し、色・香り・味わい・バランスにおいて欠陥が無い(少ない)ワインだと言えます。クセの強いワインは審査会では評価されにくいのですが、高く評価されているワインは、素直につくられた品質の高いものだと捉えていただいて良いと思います。

ブラインドテイスティング

審査会、品評会で行われる品質評価のためのテイスティングとは少し異なるのですが、「ブラインドテイスティング」というものがあります。

ブラインドテイスティングとは、ワインの情報(生産者、産地、品種、ヴィンテージ、アルコール度数など)を隠した状態でワインをテイスティングし、これらの情報を推測することを言います。ワインを評価するためのテイスティング能力を身につけ、向上させるために行うことが多いのですが、日本ソムリエ協会やあちこちのワインスクールがコンクールを行なっていることもあって、イベントとして盛り上がってきています。直近では次のような大会が行われる予定です。

第6回J.S.A.ブラインドテイスティングコンテスト

第2回 レコール・デュ・ヴァン ~ブラインドテイスティングコンテスト

マンガなどではブラインドテイスティングで銘柄やヴィンテージまでぴたりと当てる様が描かれていますが、現実にはそんなことはあり得ないです(過去に飲んだことがあるワインでも、しばらく時間が経過するとなかなか判りません)。

画像: グラスに番号が振られていて、外観・香り・味わいからそのワインの素性を推測します(厳密にはこの写真はブラインドテイスティングの際のものではないですが、イメージとして

グラスに番号が振られていて、外観・香り・味わいからそのワインの素性を推測します(厳密にはこの写真はブラインドテイスティングの際のものではないですが、イメージとして

ブラインドテイスティングの実施方法としては、ボトルを袋などに入れてエチケット(ラベル)を見えないようにしてワイングラスに注ぎ、ワインの外観・香り・味わいから、そのワインのぶどう品種、産地、ヴィンテージを推測していきます。ゲーム、競技として楽しんでいる人もいますが、ワタクシとしては、ワインを分析的に読み解いていき、そのワインへの理解を深めていくためのプロセスだと捉えています(ぶどう品種、産地、ヴィンテージなどがピタリと当たれば、それはそれで気持ち良いですが)。

自分自身でブラインドテイスティングを始めてみてわかったのが、外観・香り・味わいの中で、香りについてのボキャブラリーが少ないことです。まず、「レモンのような」、「熟したプラムのような」、「ホワイトボードマーカーのインクのような」と他の香りの表現を借りてこないと言い表せない香りがあります。その上に、そういう他の香りの表現でも表せないような香りもあります。以前のコラムで取り上げましたが、人間の嗅覚は400種類近くに分類できるので、これらを上手に表現・記憶して操ることができれば、もう少しテイスティング能力も上がると思うのですが…(さらなる研鑽が必要です)

結び

今回は、ワインを評価するためのテイスティングと、最近イベントとして盛り上がってきているブラインドテイスティングについて取り上げました。テイスティングの仕組みの理解を通じて、ワインの評価プロセスをイメージいただけたのであればありがたいです。また、ブラインドテイスティングは、テイスティング能力を向上させる一つの方法ということもありご紹介しました。

次回は、今回取り上げる予定だった、ワイナリーを立ち上げるためのお金まわりのお話を取り上げようと思います。もしかすると、今回同様に書き始めたタイミングで別のテーマを取り上げるかもしれませんが……。

それでは、また。

「ワインとワイナリーをめぐる冒険」他の記事
第1回:人生における変化と選択(2021年4月13日号)
第2回:東川町でワイナリーをはじめる、ということ (2021年5月18日号)
第3回:ぶどう栽培の一年 (2021年6月8日号)
第4回:ぶどうは種から育てるのか? (2021年7月13日号)
第5回:ぶどう畑をどこにするか?「地形と土壌」(2021年8月17日号)
第6回:ワインの味わいを決めるもの: 味覚・嗅覚、ワインの成分(2021年9月14日号)
第7回:ワイン醸造その1:醗酵するまでにいろいろあります (2021年11月9日号)
第8回: ワイン醸造その2:ワインづくりの主役「サッカロマイセス・セレビシエ」(2021年12月14日号)
第9回:酒造免許の申請先は税務署です(2022年1月12日号)
第10回:ワイン特区で素早いワイナリー設立を(2022年2月15日号)
第11回:ワイナリー法人を設立するか否か、それがイシューだ(2022年3月8日号)
第12回:ワインづくりの学び方(2022年4月12日号)

画像: 山平哲也プロフィール: 雪川醸造合同会社代表 / 北海道東川町地域おこし協力隊。2020年3月末に自分のワイナリーを立ち上げるために東京の下町深川から北海道の大雪山系の麓にある東川町に移住。移住前はITサービス企業でIoTビジネスの事業開発責任者、ネットワーク技術部門責任者を歴任。早稲田大学ビジネススクール修了。IT関連企業の新規事業検討・立案の開発支援も行っている。60カ国を訪問した旅好き。毎日ワインを欠かさず飲むほどのワイン好き。

山平哲也プロフィール:
雪川醸造合同会社代表 / 北海道東川町地域おこし協力隊。2020年3月末に自分のワイナリーを立ち上げるために東京の下町深川から北海道の大雪山系の麓にある東川町に移住。移住前はITサービス企業でIoTビジネスの事業開発責任者、ネットワーク技術部門責任者を歴任。早稲田大学ビジネススクール修了。IT関連企業の新規事業検討・立案の開発支援も行っている。60カ国を訪問した旅好き。毎日ワインを欠かさず飲むほどのワイン好き。

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