ヤクルトスワローズの選手として2,000本安打を達成した宮本慎也氏へのインタビューの後編です。前編ではリーダーとして、チームのメンバーとコミュニケーションの取り方について話を伺いました。
今回は試合に臨む心構えやキャプテンとしての体験談などをお聞きしました。

性格や日常の仕草が選手のプレーの中に出てくる

―リーダーには選手の性格などの見極めも必要になると思います。

画像: ―リーダーには選手の性格などの見極めも必要になると思います。

クラブハウスで、日常生活の様子をよく見ていました。例えば、風呂に入る時にスリッパをそろえているか、洗濯物をどうしているか、ロッカーをどう使っているか、などです。きちんとスリッパをそろえるような選手は周囲に対する配慮や、広い視野を持っていると思います。それは野球のプレーにもつながります。プロ野球はほぼ同じ相手とプレーするので自分の正体も相手にばれてしまい、こういう時はこの球が来るのを待っているのだな、と予想されてしまいます。

同じ攻め方をしていては同じように打ち取られてしまいますので、考え方を変えて攻めなければなりません。それができるようになるには積み重ねが必要ですが、相手が何を考えているか察する力や広い視野でものを考える能力も必要です。そういう選手は考え方も変えることができるので、確実に野球がうまくなります。

性格はプレーの中にも出てきます。例えば、エラーした時にグローブを叩く選手がいますが、グローブのせいや何かのせいにしたいと思うから、そういう仕草をするのです。そういう選手はこちらがいくら言っても分かりません。

―後輩に指導や注意をしたのはなぜでしょうか。

優勝するために必要だったというだけです。面倒くさいことをよくやっていたなと思います。放っておいても、その人その人の人生なので、そこまでやらなくてもよかったと思います。ただ2015年に優勝した選手を見ていて、自分が自主トレに連れていった選手たちが中心になっているのを見ると、うれしいですし、話をしたことが少しでも役に立っていたのならよかったと思います。

普段の生活から、きちんとすることが大切

―どうして、そう考えるようになったのでしょうか。

画像: ―どうして、そう考えるようになったのでしょうか。

PL学園、同志社大学、プリンスホテルと一貫して、普段きちんとやっていないと、ここ一番のプレーの時に力がでないと教えられてきました。いい加減にやっていたら、仲間の信頼が得られませんし、エースや4番バッターのようなリーダー的な選手は皆の見本にならなければいけません。レギュラー選手となれば、野球ファンの子どもたちから見れば、超一流の選手で、テレビでその姿を見て、自分もなりたいと憧れます。

ですから、ユニフォームの着こなしひとつにしても大切です。ボタンを2つも3つも開けて着ていたら、子どもも真似します。今は少年野球で教えていますが、「なんで、ガムかんでいるの」「何、あのネックレスは」と聞かれたら、「あんなのに、なるなよ」と言うしかないのです。私はインタビューされる時には、試合や練習で疲れていても、首にかけたタオルを取る、サングラスを外す、ということを意識するようにしていました。

すべての出発点は「準備」

―過去を振り返ってみて、リーダーとして失敗したと思うことはありますか。

北京オリンピック代表チームでキャプテンだった時です。予選では「おれについてこい」というトップダウン的なやり方でうまくいきました。しかし本戦の時は、予選で成功したからと同じやり方でやって、失敗しました。若い選手に気を使いすぎたのも失敗でした。彼らにも責任がでるようにするべきだった。「失敗した時はおれが責任を取る」というのは格好よく見えますが、リーダーの自分勝手な思いです。

この経験から学んだことは、どんな時でも「これでやれば成功する」という定石は無いということです。リーダーはさまざまな状況や情報を集めて把握し、自分なりに消化し、いろいろと考えて、その時のベストを選んでいくことだと思います。

―これからどのようなことに挑戦しようとお考えですか。

現役を退いた時は、何年か先には監督をやりたいと考えていました。しかし、外から見ていると、監督は自分がやりたいと思ってできる仕事ではなく、「お前しかいないからやってくれ」くらいにならないと、とてもできません。小学校3年生から野球だけの人生だったので、土日で仕事がない時に少年野球のコーチをやるような今の状態が楽しく感じます。

―最後にビジネスパーソンに対するメッセージをお願いします。

画像: ―最後にビジネスパーソンに対するメッセージをお願いします。

大切なのは、身体が元気であることです。私は現役時代、風邪を引かないようにと、手洗いとうがいは欠かさずやっていました。そういう心がけは常に必要です。その上で、自分自身を分析し、自分が相手にどう思われているか、会社の中の立ち位置なども含めて考えて、準備をすることが大切です。準備してやれば、万一失敗しても、その理由を考えれば、さらによく準備することができるので、ステップアップが可能です。準備して、結果を出すことの積み重ねが自分の力になっていくので、常に次に向けて準備していくことが大切だと思います。

画像: プロ野球解説者・評論家 宮本 慎也(みやもと しんや) プロフィール: 1970年大阪府生まれ。 PL学園高校、同志社大学、プリンスホテルを経て、1995年ヤクルトスワローズ入団。 2001年には、シーズン最多で日本記録、世界タイ記録となる67犠打でヤクルト日本一に貢献。 04年のアテネオリンピック、08年の北京オリンピックでは日本代表のキャプテンを務める。 12年に41歳5カ月の最年長記録(当時)で、プロ野球2,000本安打を達成、13年に引退。

プロ野球解説者・評論家
宮本 慎也(みやもと しんや)
プロフィール:
1970年大阪府生まれ。
PL学園高校、同志社大学、プリンスホテルを経て、1995年ヤクルトスワローズ入団。
2001年には、シーズン最多で日本記録、世界タイ記録となる67犠打でヤクルト日本一に貢献。
04年のアテネオリンピック、08年の北京オリンピックでは日本代表のキャプテンを務める。
12年に41歳5カ月の最年長記録(当時)で、プロ野球2,000本安打を達成、13年に引退。

【元プロ野球選手・宮本慎也氏に聞く「結果を出すチーム力」第1回:準備して結果を出す─その積み重ねで力がつく(2016年1月12日号)

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