2004年のアテネオリンピック、08年の北京オリンピックでは日本代表のキャプテンを務め、12年には41歳5カ月の最年長記録(当時)でプロ野球2,000本安打を達成しました。
宮本氏はどのような考え方で結果を出そうとしたのか、チーム力を高めるためにどうしてきたのか、野球にかける思いや結果を出すための考え方について話を聞きました。
チームをまとめようと意識したことはない
―企業と違い、個人事業主の集まりであるプロ野球のチームをまとめ上げるには、どのようなやり方があるのでしょうか。
私はキャプテンをやっていましたが、そもそもプロ野球では「キャプテンは要らない」と考えています。おっしゃるとおり選手は個人事業主で、一人ひとり立場が違います。それをまとめるのはキャプテンではなく、監督だと思います。チームの中には、よほどのことがない限りレギュラーから外れない選手や、これからレギュラーを取ろうとしている選手などがいます。一方で完全なスペシャリストとしてサブの選手がいて、一軍に引き上げられるかどうかという選手もいて、ずっと二軍の選手もいます。
そうした中で私が若い選手に言っていたのは、「『どうしたら、自分がレギュラーを取れるか』『どうしたら、一軍に上がれるか』を考えたら、それがチームのためになる」ということです。二軍から一軍に懸命に上がろうとしている選手にストレートに「チームのためにやれ」と言ってもなかなか難しいです。
しかし、レギュラーは違います。チームのためにやらずに、それぞれ思い思いの方向に走ってしまったら、チームはバラバラになってしまいます。ですからレギュラーは、キャプテンという立場に頼らず自分の考えでチームのために振る舞うべきなのです。
―とはいえ、いろいろな考えを持った選手をよくまとめていらっしゃった、という印象が強いのですが・・・
まとめようと意識をしたことはありません。考えていたのは、単純に勝ちたいから言っていただけです。ベテランになった後はレギュラーを取れるか、私生活の部分ではこうした方がいい、負けがこんだ時はこうした方がいい、ということでした。ヤクルトスワローズはお金をかけて戦力を整える余裕はなく、今いる選手たちが戦力にならないといけません。それでも優勝したかったので、シーズン中、慕ってくる選手にいろいろなアドバイスをしただけです。
また、古田さんも30代半ばでいちいち若い人に言いたくないだろうな、ということをアドバイスしていたところはあります。しかし本音としては、プロに対して余計なお世話をしすぎたなーと思っていました。基本的に、しっかりするように仕向けるキャプテンは要らないのです。プロなら自然としっかりするし、しない人はプロとして失格なだけです。
―オリンピック日本代表チームとプロ野球のチームは違うのですか。
ここでもキャプテンはいてもいなくてもよいのですが、オリンピックは即席のチームなので、誰かがキャプテンでいた方が分かりやすかったと思います。最近の日本代表はメジャーに行きたい選手のアピールの場になっている部分がありますが、私の頃はそれが前面に出ず、自分が活躍したいからと我を通す選手はいませんでした。勝つか、負けるかのどちらかで、皆一生懸命やるので、個人的な欲が出てまとまらないということはありませんでした。ですから、しんどいと思った記憶はありません。
立ち居振る舞いと成績を両立できる人
―ある選手をしっかりさせるためにキャプテンにさせるという考え方があります。
試合の時に、選手がミスをしたら、その場で話していました。試合が終わった後になって話しかけてもピンときません。それをあるコーチに話したら、「選手が萎縮するからその場では言うな」と言われました。けれども、私は野村監督時代にミスしたらすぐに呼ばれて怒られ、萎縮しまくりながらやっていました。その経験が身体に染み込んで、ミスをしないようにプレーできたのです。ですから、すぐに言う方がよいと考えました。ささいなことでもすぐに話すようにしたのです。
―今の選手に対して伝えたいことはありますか。
例えば、ある選手に自打球が当たった時のことです。翌日になって、腫れているので「今日は様子を見ます」と言うのです。そこで「明日腫れが引いたら、やるのか」と言うと、「はい」と言うのです。そういうことを聞くと、今日やったらどうだと思います。1日で治るケガなら休まずやればよい、1日休むことで他の選手にチャンスがいってしまいます。休んだらポジションを取られてしまうということです。
自分がケガをした時、野村監督から言われたことは「今、できるのか、できないのか」ということでした。できるのなら一軍に残す、できないなら二軍に行くというわけですから、必死に隠しました。誰かにチャンスを取られるのが嫌だったのです。野球以外にやれることがないのに、やっていけなくなります。つまり、メシが食えなくなるわけです。私は、高校生時代から野球しかやってこなかったので、プロ野球選手になることができなかったら、先がないという切羽詰まった気持ちで生きてきました。今の人たちにも、これでメシを食っているんだという切迫感をもってほしいと思います。
【元プロ野球選手・宮本慎也氏に聞く「結果を出すチーム力」 第2回:ここ一番での成果を出す心がけ(2016年02月09日号)