ユニアデックスの片澤です。連載は、今回で20回目を迎えました。
と思えば、連載開始時は、米国がCOVID-19の猛威の始まりだったので、この20回目で生活面に関してはほぼ元通りになったことを報告でき、早いのか?遅いのか?わかりませんが、とりあえずは、良かったと思います。
カリフォルニア州は、COVID-19の感染が拡大してきた当初、都市から離れ、地方に移住する人も多くいました。その影響で家賃相場が大幅に変動していましたが、ここにきて住宅の家賃は、ほぼ元通りで上昇に転じていますし、シリコンバレーのオフィス家賃も上昇に転じようとしています。
そして、私たちの住んでいるエリアでは、ガソリン高騰、食品の値段も上がり始めており、経済が急速に回り始めている感触がします。
米国のホリデーシーズン
2021年も残すところ2カ月になりまして、米国は、ここからホリデーシーズンに突入していきます。
10月31日 ハロウィーン( Halloween )
11月25日 サンクスギビング(Thanksgiving)
12月25日 クリスマス(Christmas)
ハロウィーンは日本では、すっかり仮装祭りと化してしまった印象ですが、こちらはしっかり、カボチャをくりぬいたジャック・オー・ランタンでおうちの魔除けを行ったり、子供たちが扮する仮装お化けにおやつを渡したりと、季節の変わり目の風物詩を楽しむことができます。
そんなハロウィーンですが、ジャック・オー・ランタンに数々の電飾をほどこして家を飾るとか、「Happy Halloween Welcome」と玄関にボードを掲げるなど、子供の仮装お化けを歓迎する家ということを知らせます。子供たちはその場所に行って表示を確認するか、はたまたSNSなどの口コミ情報に頼るといった感じが基本になります。こういうところでもデジタルツールが活用されているのです。
ローカルコミュニケーションツールの Nextdoorは、住んでいるエリア内の住人同士の掲示板ツールを提供しています。サイト上でご近所のハロウィーンマップを見ることができます。
通常の利用方法は、住人同士の気楽なコミュニケーションや不要品情報はじめ、家のメンテナンス案内やハンディーマン(修理業者)の検索、地域での犯罪情報の共有などさまざまですが、ハロウィーンのように季節ごとのイベント情報なども連絡しあうことができます。同社は、日本でもサービスを開始しているので、利用してみてはいかがでしょうか。
都市ごとにあるローカルビジネス
さて、今回は、ローカル(Local)というキーワードを中心にお届けしていきます。
日本では「地方創生」という政策のもと、さまざまな取り組みが実施されていますが、米国では、「地方創生」というキーワード自体聞くことはありません。そもそも米国は、首都ワシントンD.C.にビジネスが集中しておらず、金融はニューヨーク、自動車はデトロイト、ITはシリコンバレーのように業種が州や地域に根付いています。シアトルのマイクロソフトやアマゾン、ボーイング、アトランタのコカ・コーラやデルタ航空、など企業が各地で発展し、都市のイメージにもなっています。
国土が広く、州ごとに文化や制度、法律が違う米国では、ローカルの都市ごとに企業も発展しており、現在もスタートアップを中心にローカルでビジネスが生まれていると考えます。
ではここから「〇〇×ローカル」というカテゴリーでスタートアップビジネスを紹介します。
小売×ローカル
小売業界では、パンデミックの影響もありShopifyが一気にメジャーになりました。 オンラインで簡単にeコマース、マーケットプレ―スが始められるSaaSソリューションは、ローカル企業をはじめとしてグローバルで多くの小売業者を獲得しました。直近のアナウンスでは、少し成長が落ち着き、パンデミック前に戻ってきているようですが、eコマースプラットフォームのプレゼンスが拡大しています。
Shopifyなどを利用し、小規模の小売業者がオンライン店舗を実現するモデルもある中、 ローカルに特化したマーケットプレースを展開するビジネスも存在します。
●nearby
本社 カリフォルニア州 オークランド。2020年創業 。シリーズAで2,610万ドルの資金調達実績。
nearbyは、地元のお店の商品がオンラインで購入できる方法がないことに着目し、地元のお店や商店街の小売店を集め、オンラインマーケットプレースの運営からマーケティング、在庫管理から出荷までを一気通貫で対応しています。ローカルの地域活性化を目指している企業。
現在は、カリフォルニア州オークランド、テキサス州オースティンの2都市で運営を実施中。オークランドでは、約1年前の事業開始後から60以上の地元ショップと提携し、すでに20万ドルを地元への還元として実現しています。
●Locale
本社 カリフォルニア州 オークランド。2020年創業。 Seedラウンドで210万ドルの資金調達実績。
Localeは、ローカルフードやお気に入りのレストラン、パン屋など、一つ一つの商品が安価で販売しているなどの理由からオンライン提供をしていない小売店をターゲットにしています。異なる商品をまとめて注文でき、それらを同じ箱に入れて配達するローカルフードデリバリーを提供。
マーケットプレース上では、複数あるローカルの店舗から自分の好きな商品を選択し、木曜日までに注文すれば、まとめて土曜日に受け取れる週1回オーダーシステムを実施しています。
現在のローカルエリアとデリバリーエリアは、サンフランシスコやシリコンバレーのベイエリア。今度ロサンゼルスにもサービス展開予定。
日本でも『お取り寄せ』や『ふるさと納税』がありますが、このようなソリューションにより、ローカル商店街や少し離れた場所の有名店の商品をオーダーできる仕組みはいかがでしょうか。特に有名店などは、休日はいつも行列で行きたくても行けない人に対して、ユーザー体験を自宅でできると新たな顧客層の獲得にもつながるかもしれません。
交通×ローカル
広い国土の米国は、限られた都市部での生活以外では、車が必須アイテムです。地下鉄があり、バスも走り、自由に行動できる都市は、ほんの限られた都市のみ、私が住んでいるシリコンバレーも車がないと生活自体厳しいものがあります。
また、地域によっては公共交通機関の運営が厳しく、バス路線に関しても固定化されているため、利便性が悪い場合もあります。そういった中で、マイクロモビリティーという考え方のもと、移動する箱(クルマ)を小さくし、路線に限らず柔軟に人を運ぶというマイクロモビリティーサービスが始まりました。その中でもViaの実績は特出しています。
●Via
公共交通機関の置き換えにもなりますので、自治体との連携が必要です。同社は、複数のローカルエリアにて路線バスに代わるサービスを展開しています。バスの置き換えということで運賃も$3や$5など低コストでの運用を実施していることも特徴で、すでに世界35カ国以上、日本でも茅野市などで事業を展開中です。
このようなマイクロモビリティーを生かしたサービスのターゲットの一つとして、高齢者がいます。ただ、スマートフォンのアプリケーション利用が必要になるので、導入のハードルが高いという側面もあります。
●GoGoGrandparent
本社 カリフォルニア州 マウンテンビュー。2016年創業 プライベート企業。
GoGoGrandparetは、スマートフォンアプリの利用が不得意な高齢者向けに電話でのUberやLyftを依頼するサービスを提供しています。
また、DoordashやGrubhub、Uber Eatsなどのフードデリバリー、InstacartやWalmartなどのグロッサリーデリバリーも電話での依頼ができます。Uberなどはすべてアプリで依頼ができますが、GoGoGrandparetは、 電話による仲介ビジネスモデルのため、高齢者には不便と感じてしまうことを、人・コミュニケーションを介在させることで、顧客満足を実現しています。アメリカとカナダでサービスの利用が可能で、ローカルの場所でもその地域で利用できるサービスがあれば可能となります。
さらに日本の『交通×ローカル』の分野では、地方創生がお題目としてあり、地域商店街との連携でクーポン発行や観光情報などとセットになっていることが多い印象ですが、米国では、マイクロモビリティーによるエネルギー削減、CO2削減などのサスティナブルの取り組みに繋げる動きが主流のように感じます。
SNS×ローカル
前段で紹介したNextdoorは、地域のメンバー同士がコミュニケーションを取れるサービスですが、地域の情報を投稿したり、確認したりする方法として外せないSNSがあります。
●Zencity
本社 イスラエル テルアビブ。2015年創業 。プライベートカンパニー。
SNSから『ローカル住民の声』を抽出し、自治体に届けるスマートシティープラットフォームを提供しています。
交通情報や社会インフラの状況、犯罪情報など、SNS上に流れている住民の考えや苦情投稿を集約し、分析を実施。自然言語処理を用いて、自動的にカテゴライズし、詳細な地域やジャンルごとに「ホットワード」として見える化することができます。
ローカル地域では、エリアも広く、社会インフラの管理が難しいため、SNSから効率的に情報が引き出せるとすると非常に有益ではないでしょうか。すでに米国の複数都市で実用化されています。
Big Company × ローカル
AmazonやWalmartもローカル企業支援を実施しています。
●Amazon Local Selling
Amazon は、Amazon Local Sellingというサービスを発表しました。
Local Sellingを出展者側が利用すると、Amazonマーケットプレース上で近くに住んでいる顧客に対して商品の広告をすることができ、その地域での短時間配送やBOPIS(Buy Now Pickup In Store)が可能になります。顧客側は、どうせ買うなら地元の商店からというように自分の地域企業を応援することもできます。
大型の商品や、家具などの販売などに売り手側は、組み立てサービスなどをオプションで付けられ、ビジネス拡大ができ、サービスは、先月にリリースされ、順次エリアなど拡大されていく予定とのことです。
●Walmart GoLocal
小売業大手のWalmartもローカル企業に対して、支援サービスを展開し始めました。Walmartは、アメリカでも最大の小売事業者であり、約3,000店舗で商品の配達サービス(当日2時間以内や翌日サービス)を実施しています。この配達のサービスをローカルの小売店にも利用できるサービスを開始しました。
Walmartが独自で開発・運用してきたデリバリーサービスのプラットフォームを外部に販売するビジネスモデルです。小売店側は、自社のeコマースシステムにAPIでGoLocalに接続することでデリバリーサービスを利用することが可能となります。
Walmartは、ラストマイルデリバリー事業に力を入れており、以前の記事でもお伝えした自動配送の NuroやCruise、ドローンデリバリーのdroneUpやZiplineとも提携しており、GoLocalではこれらのサービスの利用も可能になる予定とのことです。
さて今回は、ローカルというキーワードで新しいビジネスやソリューションをお届けしてきました。巨大国家の米国では、地方創生ということはあまりなく、各都市、地域が独自に進化しており、地方都市ごとに新しいサービスなどが生まれ続けていて、成功したサービスが横展開されています。地方ごとに特色があり、それぞれが成長していく米国の底力を感じています。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
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