何かと後ろ向きの話題が多い中、暗い気持ちを吹き飛ばしてくれるのが、熱量を持って我が道を突き進む「夢中人」です!初回は、あのみうらじゅんさんが登場。「マイブーム」「いやげ物」「ゆるキャラ」などさまざまな社会現象を巻き起こすみうらさんが、小学生の頃から追い求めるテーマが「仏像」です。1990年代からは、作家いとうせいこうさんと共に「見仏記」もスタート。ずっと、「仏像を描く」ことに夢中と言います。そんなみうらさんに、仏像の魅力や、何かに夢中になるきっかけづくりについて聞きました。
Profile
1958年京都生まれ。武蔵野美術大学在学中に月刊漫画「ガロ」で漫画家デビュー。以来、マルチメディアに活動を展開。1997年には造語「マイブーム」が流行語大賞を受賞。2004年日本映画批評家大賞功労賞受賞。興福寺「阿修羅ファンクラブ」会長。第52回仏教伝道文化賞沼田奨励賞受賞。
主な著書に『見仏記』シリーズ(いとうせいこうさんとの共著)。その他にも『ボク宝』『青春ノイローゼ』『アイデン&ティティ』『色即ぜねれいしょん』『いやげ物』『ゆるキャラ大図鑑』『自分なくしの旅』『マイ仏教』など。音楽、映像作品も多数。
発表の場もないのに、勝手にサービス精神でやってしまうのが「夢中人」
――みうらさんといえば仏像ですが、最近は特に『仏像を描くこと』に夢中!とお聞きしています。
しんきんカードの会員誌『はれ予報』に、「僕宝(ぼくほう) 仏像の旅」という仏像のイラストエッセイを連載しています。気付いたらもう10年以上になっていて、自分でもびっくりです。仕事とはいえ、締め切りを気にして描いているわけじゃなく、描きたいから描いているってカンジです。それこそ、夢中になりそうな時を狙って描いているので、一度も苦だと思ったことはないし、「そこまで時間をかけて描くか?」っていうくらい塗り重ねているんです、あれ。それってたぶんおっしゃっている「夢中人」ですよね(笑)。仕事人の意識がないものは、すべて「夢中人」です。
――仕事と意識しないで、自発的に仏像を描いてしまう、ということですね。
だから、趣味とは全く違うんですよ。
僕は小学校4年生の時から仏像の絵を描いているんです。お寺回りをして集めたパンフレットや写真や記事を切り抜いて「仏像スクラップ」というものを作っていたのですが、構成上、空いたスペースにそのお寺の仏像の絵を描いていたんですがね。ま、小学生の頃から、「頼まれもしないことをやる」ことに燃える体質だったんでしょうねえ。
大人になってからもやっぱり、誰にも頼まれないことを歓んでやってきました。でも実は、僕はいつも「見せる前提」でやっているんですね。「見せる前提」=「見せ前(みせぜん)」なので、やはりサービス精神が入っている。誰かに見せて「喜ばないかなー」とか思ってる。それが僕にとっての“夢中”なんです。
小学生の時に、来たるべき「仏像ブーム」を予測
――みうらさんが小学生の時に作った仏像スクラップは、『見仏記』(角川文庫/いとうせいこう氏と共著)にも出てきますね。当時、クラスメイトに見せたりなどは?
当然、見せています(笑)。僕は一人っ子だったので、土曜日に友だちがうちに遊びに来ると、そのまま泊まってほしくてたまらなかったんですよ。友だちをひきとめるために、その接待用ツールとして作ったのが「仏像スクラップ」であり、その前にやっていた「怪獣スクラップ」なんです。
――で、友だちと一緒に仏像で盛り上がって?
いやー、あまりいい感触ではなかったですね(笑)。怪獣スクラップと違って。
なぜ仏像が盛り下がり、怪獣が盛り上がったかというと、当然、その頃に怪獣ブームがあったからです。しかし、仏像ブームはまだ来ていません。でもブームさえ起きれば、みんな見るようになるという確信はあったんです。実際、2009年に東京と九州で「国宝 阿修羅展」が開催されて、僕もファンクラブの会長に任命されました。160万人以上の観客を動員しましたよね。ああいう感じで、「いつか仏像が流行るようになれば、小学校の時からやっていたことも報われる」とずっと考えていて、壮大な長期計画で、現在に至るというわけです。そう考えると、僕の真の第1期マイブームは、間違いなく仏像でしたね。
――そもそも仏像にハマるきっかけは、怪獣だったそうですね。
小学生の時に特撮番組「ウルトラQ」が始まったこともあって、当時の男子はみんな怪獣好きだったんです。僕も親にデパートのアトラクションにも連れて行ってもらうほど好きだったんですが、その時怪獣がさほど大きくないことが分かって、若干ショックでした(笑)。人間が着ぐるみに入っているので当然ですけど、怪獣は「見上げるくらい大きい」イメージがあったので、やはり違和感があった。
一方、仏像の場合、多くは下から45度くらいの角度で見上げることを仏師は意識して作っていると思うんですよね。京都府・東寺(教王護国寺)の立体曼荼羅を見た瞬間、思わず「怪獣だ!」と叫びましたよ。とりわけ好きだったのが五大明王像(※)という荒ぶる系で、怪獣でしたね、もう全てに於いて。 だから仏像は初め、「美しい」などという観点で好きになったんじゃなく、怪獣に似ていてグッときたんです。
(※)不動明王、降三世明王〔ごうざんぜみょうおう〕、軍荼利明王〔ぐんだりみょうおう〕、大威徳明王、金剛夜叉明王の五大明王。
ちょっとした「後ろめたさ」があると、夢中になれる
――最近は仏像を「見る」よりも「描く」方がメインなのですか?
そもそも僕の描く絵は果たして「仏画」なのかという疑問がありますよね。仏画というのは、均等な線で描かれてこそなんです。しかし、僕は仏像を「色鉛筆で描く」。そこに俄然ハッスルする要因があるんです。言うなれば「ニュー仏画」ですかね。そんな自由さは、それこそ僕が小学生の時の仏教界では許容されなかったと思います。
僕は、何か新機軸がないとハマらない体質なんだと思うんですよ。「こんなことやっちゃっていいのかな」という“後ろメタファー”(編注:後ろめたさという感情を象徴する概念)と、やはり体制に反発するロックスピリッツが相まって、夢中になる。「見仏記」を始めた時も、「仏像をあんなふうに扱っていいのか」とか「仏は見るものではなく、拝むものだ」とか、いろいろ言われてたんですよ(笑)。
――仏像好きが高じて、何か失敗したことは?
友だちに紹介してもらった彼女との初デートで、僕は当然、京都・東寺講堂の伽藍に誘ったんです。で、立体曼荼羅の前で弘法大師について熱く語っていたら、しばらくして「みうらクン、そろそろ私、帰っていいかな」って言われたんですよね(笑)。一瞬、意味が分からなくて。でもよく考えれば、デートスポットではなかったな、と今は思います。いや、本当に“ノイローゼ状態”でした(笑)。 ただ、そんなふうに脳内ノイローゼが起こらないと、なかなか好きになれない、夢中になれないと思います。特に大人になるとすごく難しい。今は、あの頃のノイローゼをわざと引き出す方法を考えていますから。
何かに夢中になりたいなら、まず自分から好きになること
――1つのものに夢中でいるため、好きでい続けるために、どんな工夫をしているのでしょう。
好きという感情が「向こうからやってくる」というイメージは若い頃だけでね、やはりこっちから無理やり好きにならないと脳内がノイローゼ状態にならないんですよね。
たとえば仏像の絵を描く時には、単に拝観している時より、細部がとても気になるんですよ。衣の波状の感じとか、見ると「きれいだな」くらいでも、描くとなると、実は邪魔くさいほど細工がしてあることに気付くんです。最初はそういう面倒なところは勝手にトリミングして、なかったことにして描いていたのですが、今はあえてその面倒なところを描くようになりました。夢中になるって、恋愛とかなり似ていると思うんですけど、正体はノイローゼ状態です。そこまで追い込めるぐらいじゃないと、「ものすごく好き」にはなれないんじゃないでしょうか。
定年後に「趣味がなくて困っています」という悩み。やっぱり、自分を追い込める努力がないと、好きなものってでてこないと思うんですよ。ある程度年をとると、簡単にものを好きになれなくなる。「そこまでしなくても」という人には、「そこまですることはない」と思いますけどね。
――なるほど。ただ、何かに夢中になりたいのに、きっかけをつかめない人もいますが、そこを打破するにはどうすればいいのでしょうか。
僕は、その後もゆるキャラとかいやげ物とかいろんなものに無理やりハマりました。ゆるキャラの場合、キャラクターというからには、「キャラが立ってナンボ」なのに、全然キャラが立っていない状態がおかしくて。でも当時の地方のイベントでは、キャラクター然として振る舞っている。当然誰も寄り付かないし、誰も認知していませんでした。
で、「それはどうなんだ?」と疑問が湧いたのですが、好きにならないとその疑問は解決しないんですよね。だから地方の国民体育大会とかに電話をかけまくって、ゆるキャラがいつ出演するのか聞いたりして、それだけのために地方に行きました。そういう労力や、費やしたお金を考えると、後ろメタファーが働いて、好きにならざるを得ない(笑)。好きになるしかないじゃないですか。
ただ、やっぱり3〜4年くらい同じことを続けていると、飽きてくると思います。僕もそうです。でも僕の場合、「飽きていないふり」を考えついたんですよね。それは「自分をも騙す」、いわば自分洗脳している状態なんですね。 「みうらさん、また仏像見ているの?」ではなく、「“まだ”仏像見ているの?」と言われるようになるためにね。
――ありがとうございます。最後に、この社会状況下で、明るく楽しく夢中で暮らすためのアドバイスをお願いします。
ステイホームが長かったもので、僕は、頭の中で「ホームステイ」に切り替えたんです。当然、ここは「インドにホームステイ」です。髭ボウボウでしょう(笑)。いつも心に「マイ・インド」、それを縮めて「マインド」って呼んでるんですけどね。
こういう状況なので、各地でイベントが中止になって、楽しみにしていたフェスやコンサートに行けなくなった方もいると思います。晴れてコロナが明けたら、ぜひ、お寺に行ってみてください。日本人は幼い頃から仏像に慣れ親しんでいますけど、よく考えればあの方たち、みんな「外タレ」ですからね(笑)。日本の滞在歴が長いので、ちょっと「ベンチャーズ(※)」状態になってはいますけど。
(※)ザ・ベンチャーズ:米国のインストゥルメンタル・バンド。1959年に結成され日本でも定期公演を続けている。