社会と接合できる唯一の場所。それがラジオだった
― 石井さんがラジオに関する仕事を選んだ理由とその原点について教えてください。
大学時代はやりたいことが見つからず、就職活動もせずに過ごしていました。月日は流れ卒業間近。留年する気でいたので追試では「来年もよろしくお願いいたします」とまで書いたのに、想定外に、卒業できてしまって。まるで大学から追い出されたようなものでしたね(笑)。

コンテンツプロデューサー 石井玄(ひかる)さん。大学時代は、お笑いとラジオが大好きだった
そこで、自分のやりたいことは何か、改めて考えるようになりました。アルバイトをしても1週間で辞めてしまうし、大学にもちゃんと通っていなかった。そんな私にとって社会とつながれる唯一の場所、それがラジオでした。そこで、ラジオの制作会社への入社を目指して専門学校に入ることに。すると、そこでの勉強がめちゃくちゃ面白くて。どんどんのめり込んでいきました。
人生で初めて目標を見つけた瞬間でしたね。ラジオの向こう側に足を踏み入れてみたい気持ちでいっぱいで、番組づくりの実習をはじめ、夢中で勉強しました。大学の授業は真面目に取り組んだ記憶が全然ないのに、専門学校の授業は全部出席して、しっかり単位を取りました。
ラジオを初めて聴いたのは、好きな女優さんのラジオでした。なかなかメディアに出る方ではなくて、唯一出演されていたのがラジオ番組だったんです。その時点ではラジオにのめり込むほどではなかったのですが、高校時代にはラジオ友達もでき、友達から教えてもらった芸人さんのラジオを聴き始めるなどして、徐々にラジオの世界にハマっていきました。
― ラジオディレクターとして活躍後、昨年春に独立されました。現在のお仕事内容は?
最も多い仕事はポッドキャストのプロデュース・制作です。10本ほどの番組が同時進行しています。また、ニッポン放送時代にイベントも企画していたので、さまざまなジャンルのイベントプロデュースも定期的に任せていただいています。
ラジオ関連の仕事とは全く異なる分野の仕事も増えました。例えば、企業のメンターといった仕事です。人材系やIT系の企業の方とお仕事をするようになったのが意外でしたね。
このメンターの仕事は、独立直後に依頼がきたことがきっかけでした。私の本を読んで頼みたいと思ったそうで、ある企業の役員の方と月に1回、お話をしています。内容は、「社員のモチベーションを維持するにはどうすれば良いか?」、「会社が変化していく中で、どのように立ち回るのが良いか?」など、経営にまつわるさまざまなトピックです。
私はこれまでいろいろな立場で、多種多様なジャンルの人と仕事をしてきたことから、一般的なメンターとは全く異なる視点でアドバイスできているらしく、それが響いているようです。ポッドキャストなどの収録で常に各業界の最先端で活躍する経営者、クリエイターなどの新しい情報をインプットしていることも、メンターとしてアドバイスする上で役立っていますね。
― 石井さんのインプット術や仕事の仕方、時間管理で意識していること教えてください。
やはり、ポッドキャストでの収録が大きいですね。料理、漫画、芸人、アニメなどさまざまなジャンルの収録を行っているのが、良いインプットになっています。他には、昔から移動中には活字や漫画を読むことを意識していて、加えて配信番組や映画も気になるものは見るように心がけています。会社員時代よりは時間ができたので、ポッドキャストもよく聴くようになり、インプットの幅が広がっています。活字のインプットには、一緒にポッドキャストをやっている漫画編集者の林士平さんが教えてくれたAmazonの『Kindle Paperwhite』が、読書に集中できてとてもおすすめです。
私は、同じ仕事を延々と続けるのは苦手なので、一日の中でいくつかの異なる仕事をするようにしています。良い刺激があって飽きませんし、私にとってはその方が楽なんです。
時間管理では、オンライン会議との向き合い方に気をつけています。オンライン会議が主流になってから、朝から晩まで会議で埋め尽くされることが増えましたよね。一時期、30分刻みで会議を詰め込んでいたのですが、休憩時間はつくれないし、隙間時間にできる小さなタスクも後ろ倒しになってしまいました。今は1時間で設定しつつも、50分で終わるように努めて、10分間の空白時間を確保しています。

― モチベーションが上がらない仕事やリソース的に対応が難しい時、どう乗り越えましたか?
仕事を振られて、どうしても対応が難しい時は、一度断ることは大事だと思います。例えば、「○○さんに相談してみたところ、スケジュール的に無理じゃない? と言われたんですよね」などと、上司や仕事相手が納得しそうな人の話や根拠、状況を説明して説得してみるのは一つの手です。
視点は変わりますが、自分にとってはやりたくない仕事だとしても、会社からすると「石井の好きな仕事」だと勘違いされていることが意外に多いんですよ。それもあって、一度断った上で仕事を受けると、上司の見る目が変わりサポートを得やすくなります。何にせよ、自ら意思表示をすることは非常に大切です。
それでも仕事をねじ込まれるような状況があるかもしれません。その際は、「(その案件に携わる)タレントさんや関わるスタッフ、観客のために」といったように、一緒に仕事をする人のために全力を尽くす気持ちで乗り切っています。