正解のない道に飛び込んでいった方が「面白い」
― ラジオを起点に次々と新しい挑戦を仕掛けられていますが、その面白さやラジオづくりに生きていることを教えてください。
ラジオが斜陽であることは確かで、今までと同じことを繰り返していても右肩下がりになるだけです。そこから脱却するためには、誰もやったことのない新しいことをやらないといけません。そのために音声を介してさまざまな分野に展開していくことは、正しい道だと思っています。それに、そういう仕事の方が“飽きっぽい”私にとって面白さを感じますし、結果的にラジオに還元されるものも出てくるはずです。
伸びているものをさらに伸ばすよりも、落ち込んでいるものを立て直す方が難しいです。でも、私はラジオに関わる人たちが好きで、私もラジオに生かされてきた。道は険しいですが、使命感を自覚していますし、何より面白そうという思いが強いです。
エッセイにも書いたのですが正解のない道とは、逆説的に言うと成功も失敗もないということです。だから、私は今まで失敗したことがないんですよ。今、私は音声メディアがどうすれば盛り上がるのか試行錯誤しているけれど、そもそもどうなったら成功なのか、明確な答えはないんです。すでに実績があり、前回値を超えなければいけないようなものだと、結果は成功か失敗かの2択になってしまいます。でも、実績がないものに関しては「こういう状態になれば、この企画は成功だ」と自分で定義することができます。また、会社としては目標値を設定することが多いと思うのですが、それを上回ろうが下回ろうが、蓄積したノウハウは財産になりますよね。私はこのあたりのコントロールが上手な方なのだと思います。
石井さんの新著『正解のない道の進み方』(KADOKAWA、2025年4月16日発売)。2020年から現在に至るまで、ラジオやイベント、そして起業と、“正解のない道”をどう進んできたのか。石井さんの仕事論を詰め込んだ一冊
― 今後ラジオはどう変わっていくと思われますか。聞き手側の変化はあるのでしょうか。
SNSなどではバズって一気に注目度が上がっても、すぐに離れていく人が多いですし、格好の標的として炎上してしまうこともあります。また、インプレッションを狙うことばかり考えると、コンテンツがつまらなくなってしまう傾向があります。だから、「時間をかけて少しずつ伸ばしていく方が良い」というのが、今の私の結論です。
人々の好みが細分化し多様化する中で、それぞれの好みに合ったものをつくる方が、より深く濃く、面白いものになるはずです。その際、広げていくと同時に、有料イベントなどあえて“閉ざす”ものを並行してつくっていく方が良いと思っています。気の合う人たちとコミュニティーをつくって、1万人でも1000人でもいいから身の丈に合ったマネタイズ方法を考え、長く続けていく方がこれからの時代のメディア運営として幸せな道だと考えます。
『オードリーのオールナイトニッポン in 東京ドーム』の場合、16万人の熱狂的なファンが集まり、ものすごい実績としてニュースになりました。しかし、動員数でいえばアーティストのライブはもっと多くの人を集めますし、収入でいえば映画は数十億円の興行収入を得ています。そう考えると、音声メディアはマーケットとしてはすごく小さいですよね。ラジオや音声メディアで上を目指すことは、単に数字を取ることではないと、ここからも分かります。
また、パーソナリティーとリスナーの1対1の関係性は、今も変わっていません。つながりを感じられることは、ラジオの一番の魅力だと思います。その上で、リスナー同士のつながりやコミュニティーが発展していって、リスナーがリスナーであることを誇りに思えるようになればいいなと思います。

注力すべきことは数字を分析し、コンテンツに落とし込むことだと思います。ラジオ業界はこれまで数字の分析をほとんどしてきませんでした。しかし、radikoやポッドキャストといったオンライン配信の登場によって、詳細なデータ分析が可能になってきました。この動きが進めば、リスナーがより楽しめるようなコンテンツづくりの精度が上がり、マネタイズにもつながります。業界にとって大きなプラスになるはずです。
― 最後に、音声メディアの人気を押し上げてきた立役者の一人として、石井さんがこれから描く未来についてお聞かせください。
2024年には、ラジオ関係者が使う情報共有アプリをリリースしました。なぜかというと、スポーツや料理、お笑いなど、今はYouTubeを見て勉強して上達する人が多いですよね。それをラジオ業界でもやりたいと思ったんです。ラジオのつくり方は外からだと全く分からないので、中でつくっている人たちを表に出して情報共有することで、業界全体のレベルを上げたい。そんな理想があります。また、業界を目指す人たちを増やす狙いもありますね。
喫緊の課題として、プロデューサーの育成は業界全体の活性化に不可欠なことです。私も今まさに自社の人材を増やそうとしているところ。その人を育てて一人前にして、自分とはまた違う感性で独自の何かを生み出す瞬間を見られたらいいですね。それができたら引退してもいいかな、なんて(笑)。今、私を求めてくれているのがやはり音声メディアですし、それを中心に、まだ見たことのない新しい仕事、「正解のない仕事」を今後もしていきたいと思います。

プロフィール
株式会社 玄石 代表取締役 石井 玄(いしい・ひかる)

1986年生まれ。2011年株式会社サウンドマン入社。『オードリーのオールナイトニッポン』『星野源のオールナイトニッポン』『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』などにディレクターとして携わり、『オールナイトニッポン』全体のチーフディレクターを務めた。2020年株式会社ニッポン放送入社。『東京03 FROLIC A HOLIC feat.Creepy Nuts in 日本武道館』『オードリーのオールナイトニッポン in 東京ドーム』などのプロデュースを担当。2021年にはエッセイ『アフタートーク』(KADOKAWA)を刊行。プロデュースした『あの夜を覚えてる』が「2022 62nd ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」ACCグランプリ、Amazonオーディブル『佐藤と若林の3600』が「第4回 JAPAN PODCAST AWARDS」大賞を受賞。2024年株式会社玄石を設立。2025年4月16日に新著『正解のない道の進み方』(KADOKAWA)を刊行予定。