入社以来商品開発に携わってきた赤城乳業 監査役の鈴木政次さん。前編では、「ガリガリ君」の誕生と成長秘話を語っていただきました。後編では、アイスクリーム(アイス)とは何か、商品開発に大切なこと、組織人として求められることは何か、鈴木さんが商品開発を続けてきた中で気付いてきたことを語ります。

自分の立ち位置を明確にする

―社名ロゴを見ると「あそびましょ。」と書かれています。これにはどのような意味が込められているのでしょうか。

画像: ―社名ロゴを見ると「あそびましょ。」と書かれています。これにはどのような意味が込められているのでしょうか。

この企業メッセージの根っこにあるのは、自分の立ち位置を明確にしなければならないということにあります。アイスは主食ではありません。極端な言い方をすれば世の中の必需品ではありません。
しかしアイスがこの世の中にあるのは、ハレの日だったり、自分へのご褒美だったり、またはクールダウンしたい、さわやかな気分になりたいといったお客さまの気持ちに応えることができる食品だからです。

アイスには役割があるのです。その役割は何かを「あそびましょ。」というメッセージに込めているのです。社名ロゴの上にもこの言葉を入れて、常に、遊び心のある商品を作ることを大切にしています。

―「ガリガリ君」からは、コーンポタージュ味のような遊び心のある商品も発売されました。

「ガリガリ君」はこれまで、期間限定を含めると約1,000のフレーバーを発売してきました。「ガリガリ君リッチ コーンポタージュ味」もその一つで、2012年に発売された商品です。

ある若手社員が、「コーンポタージュを嫌いな人はいない」という言葉を聞き、それを「ガリガリ君」に生かせないかと考えたのが最初です。商品開発会議で聞いたとき、誰もが成功するとは思っていませんでした。でもその社員がどうしても取り組みたいというので、挑戦することにしました。

画像1: ―「ガリガリ君」からは、コーンポタージュ味のような遊び心のある商品も発売されました。

この商品は、発売前から話題に上り、発売直後には欠品状態が起こり、しばらく販売休止にせざるを得なかったほどの人気となりました。そのあと「ナポリタン味」も発売しましたが、逆にこれは見事に失敗。後で社員がテレビのバラエティー番組に出演した際、「会社に3億円の損を出しました」と発言しているのを聞きました。決して遊んでいるわけではありません。遊び心を大切にしているのです。アイスの立ち位置を確かめながら、アイスの商品開発に挑戦する心を失ってはいけないと思っているのです。

画像2: ―「ガリガリ君」からは、コーンポタージュ味のような遊び心のある商品も発売されました。

商品はお客さまの七光り

―2016年4月に、「ガリガリ君」の値上げのCMが話題になりました。ネガティブなことでも言い訳をしない真摯な会社であるという印象をもちました。

井上秀樹会長(現在)を含めた社員が頭を下げたCMは、話題になりましたね。アメリカのニューヨークタイムズ紙にも紹介されました。欧米では、株主にとって利益を追求するのは良いことなので、値上げは悪いことではないという認識がありますが、日本ではお客さまにとって良くないことなので、良いことではないというイメージがあります。どちらが良いとか悪いではないのですが、これも遊び心を大切に放映したCMでした。

井上秀樹会長が以前、「社長は社員の七光りだ」と言いました。私はこの言葉が大好きです。これは会社経営の神髄を表しているとさえ思っています。言い換えれば「上司は部下の七光り」ですし、「商品はお客さまの七光り」だともいえます。今、真摯な会社であるという印象を持たれたと言われましたが、「社長は社員の七光りだ」の言葉が、社員全体に染み渡り、それを念頭に会社経営や商品開発を行っているからではないかと思います。

―1,000アイテムの商品開発をされてきた鈴木さんにとって、商品開発の極意とは何ですか。

私なりに商品開発の極意を整理しますと、ユーザーインの発想から「お客さまの声を聞く」「お客さまのメリットは何かを考える」「お客さまを驚かせる」ことではないかと思います。では、そのためにどのような心構えが必要なのかを考えると「過去を否定する」ことにあります。経験値で物事を判断しない、過去の成功体験にとらわれない、過去の発想から脱却することですね。これは経験を積んだり、立場が上になればなるほど難しくなります。

画像1: ―1,000アイテムの商品開発をされてきた鈴木さんにとって、商品開発の極意とは何ですか。

では、どうしたら過去を否定して考えられるようになるのか。それは自分に情報が集まるようにすることだと思います。つまり、「報・連・相」を大事にしなければならないということです。上司は、部下から報告を受けたり、相談されたりしたとき、「後にしてくれないか」とか「それは知っている」という発言は絶対に発してはいけない。そうした対応を取ると、だんだんと情報が集まらなくなります。

画像2: ―1,000アイテムの商品開発をされてきた鈴木さんにとって、商品開発の極意とは何ですか。

上司は部下を見ることが大切

―高度な情報社会の中で、商品開発においてもさまざまな手法や技術が活用されるようになっています。鈴木さんはどのようにお考えですか。

商品開発において、マーケティング手法や、市場分析が大切なことは言うまでもありません。しかし、私はもっと人間にあるアナログな部分、心情的なこと、肌感覚といったことが大切なのではないかと思っています。

商品開発で大切なことは、一言で言えば「覚悟を決めること」にあります。これを開発したい、売りたい、お客さまに届けたいという覚悟です。覚悟は一朝一夕に養えるものではないでしょう。商品コンセプトも机上で考えられるものではありません。365日、毎日考え抜くことです。その先に出てくるアイデアや発想を形にして、お客さまに届ける喜びを大事にする、その覚悟が求められるのです。

画像: ―高度な情報社会の中で、商品開発においてもさまざまな手法や技術が活用されるようになっています。鈴木さんはどのようにお考えですか。

―そのためには、社員一人ひとりの力も大切になりますね。

会社組織を強くするためには、そこに属している人間の力を高めなければならないと思います。経営者に求められることは、社員に対して夢を言い続けること、方針を提示すること、そして決断して結果を出すことです。

では、社員には何が求められているのか。それは、問題発見能力と解決能力です。学生の時は、問題は用意されており、その解答は1つしかありません。しかし、社会に出たら、問題は用意されません。問題そのものを見つけなければならない。

そのためには、上司は、部下を見なければならない。「愛」の反対語はなんだかご存知ですか。愛の反対語は、「無関心」なのです。社員一人ひとりの動きに関心を持つこと、それが組織全体の活性化につながり、新しい革新的な商品が生み出されるのだと思います。

画像: ―そのためには、社員一人ひとりの力も大切になりますね。
画像: 鈴木政次(すずき まさつぐ) プロフィール 1946年、茨城県出身。1970年東京農業大学農学部農芸化学科卒業後、赤城乳業株式会社に入社。1年目から商品開発部に配属。その後、開発営業、原価計算、購買、経営など人事以外のすべての部門に携わる。愛すべき失敗作を生み出しながらも、「ガリガリ君」「ガツン、とみかん」「ワッフルコーン(大手コンビニPB)」など、数々のヒット商品を国民的ロングセラーに育て上げた。 著書:『スーさんの「ガリガリ君」ヒット術』(ワニブックス)

鈴木政次(すずき まさつぐ)
プロフィール
1946年、茨城県出身。1970年東京農業大学農学部農芸化学科卒業後、赤城乳業株式会社に入社。1年目から商品開発部に配属。その後、開発営業、原価計算、購買、経営など人事以外のすべての部門に携わる。愛すべき失敗作を生み出しながらも、「ガリガリ君」「ガツン、とみかん」「ワッフルコーン(大手コンビニPB)」など、数々のヒット商品を国民的ロングセラーに育て上げた。
著書:『スーさんの「ガリガリ君」ヒット術』(ワニブックス)

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