困難な時代だからこそ、書籍から学ぶことは多くあります!また、在宅勤務などで有効活用できる時間が増えた今、多くの本に触れるチャンスでもあります。第2回の推薦者は、1998年の長野五輪のスピードスケート金メダリストであり、現在は実業家として活躍する清水 宏保さん。「今だから読むべき1冊」として『キングダム』(32巻)を紹介してもらいました。紀元前3世紀の古代中国を舞台に、中華統一を目指す第三十一代目秦国王・政(せい・後の始皇帝)と、戦災孤児の信(しん・後の秦国大将軍の李信)の成長と活躍を描くこの超大作の読みどころとは――。清水さんが熱く語ってくれました。
Profile
1974年北海道生まれ。1998年の長野五輪のスピードスケート500m金メダリスト、1000m銅メダリスト。2002年のソルトレークシティ五輪で500m銀メダリスト。2010年に現役引退。その後は、スピードスケートの解説の他、情報番組のコメンテーターとして出演多数。2013年、日本大学大学院グローバル・ビジネス研究科修了。2015年、弘前大学大学院医学研究科博士課程に進学。現在は、少人数制フィットネススタジオの他、リハビリ型通所介護、訪問看護、居宅介護支援、サービス付き高齢者向け住宅などの介護・福祉事業を運営する株式会社two.seven代表取締役を務める。著書に『人生の金メダリストになる「準備力」』がある。
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巻を追うごとに、多彩な人物が登場しストーリーを盛り上げる
――『キングダム』(集英社)を挙げていただきました。コミックス既刊58巻(2020年7月現在)という、この大作をお薦めする理由を教えてください。
僕の場合、この春の緊急事態宣言による自粛期間中に『キングダム』を読んだのですが、序盤から主人公・信と、もう一人の主人公・政が信念を武器に、少年ながら強大な敵に立ち向う姿にすごく励まされました。特に、信が数々の戦場で戦いながら成長していく姿にはゾクゾクしますね。
そして巻を追うごとに、敵味方問わず武将や軍師など魅力的な人物が次々に現れて、話がどんどん面白くなっていく!気づいたらすっかり『キングダム』の世界観にハマっていました。僕の“いち推し”はやはり主人公の信です。戦災孤児から、一国の大将軍を目指す姿がアスリート的ですし、猪突猛進に戦う姿勢も好きですね。
その一方、敵役である趙国の武将・李牧(りぼく)にも惹かれます。知略と勇猛さを兼ね備えた人物です。また、政が要所要所でリーダーシップを発揮し、臣下や国民を鼓舞する姿もいいんですよ。「さすが後の始皇帝だな」と思います。それと、信と同じ秦国の将軍・桓騎(かんき)!いつも非道な戦法で敵将を追いつめて「やり方がエグい」と思うんですが、圧倒的な強さに憧れてしまう自分もいます(笑)。『キングダム』の登場人物は印象的な人物ばかりなので、世代や立場を問わずどんな方が読んでも、それぞれの目線で楽しめる漫画だと思います。
危機を乗り越えていく、「リーダーの在り方」
——実業家・経営者の視点から見て、特に印象に残ったシーンを教えてください。
『キングダム』の組織を作り上げてピンチに立ち向かっていくストーリーと登場人物たちの確固たる信念って、今の自分とすごくリンクするんです。というのは、起業してちょうど10年目なのですが、将来を見据えて組織を広げていく過程で、会社経営の難しさを感じていたからです。
『キングダム』では、まず秦国王・政と大将軍を目指す信の2人が秦国の内乱を戦い抜くなかで、少しずつ味方が集まりチームワークが生まれていきます。そして、物語が進む中で秦国以外の国である六国(楚・趙・魏・韓・燕・斉)連合からなる合従軍(がっしょうぐん)と⼀気に戦うことになる(※)。これ、一歩間違えれば国が滅ぶ大ピンチです。この国難の局面に、政が強力なリーダーシップを発揮して戦況を覆すんですよ。ずっとリーダーシップを取っているわけではなく、ポイントを押さえて、“ここぞ”という時に出てくるんですよね。
(※)後に斉は、合従軍を離脱。
強く印象に残っているのは、秦国の首都に近い「蕞(さい)」という城都が合従軍に攻め込まれた時のシーン。当時、蕞のほとんどの男性は別の戦場に駆り出され、その場に残っていたのは女性や子供、高齢者ばかり。城都が攻め込まれるため、非力な住民を民兵にして合従軍に立ち向かわないといけない。そんな時、秦国王である政が自ら蕞に乗り込んで指揮を執るんです。
それでも苦戦を強いられ、もう後がないという状況で、政は夜通し民兵たちに声をかけて回ります(※)。民兵たちは国王が寝る間も惜しんで直接声をかけてくれたことに喜び、奮い立ち、翌日の戦いに挑むんです。タイミングを押さえて、その心に寄り添いながら、弱っている民兵にフォローを入れていく――。このシーンは読みながら、僕も感激してしまいましたね。今、当社には80名の社員がいますが、声のかけ方やタイミングはやはり見極めが必要だと感じましたし、リーダーシップの在り方を見直すきっかけにもなりました。「自分が表に出過ぎないことも大事だな」と思ったんです。事業展開をしていく上で方向性を示したら、後は各事業がうまく回るよう、自分は資金調達など裏方でサポートに徹する。そして経営状況のみならず、社員一人一人に広く目を配るようにしています。
(※) 32巻339話。蕞防衛のストーリーは30~33巻にかけて掲載。
元アスリートならではの視点で「まちづくり」という社会貢献がしたい
——最後に、清水さんの目標をお聞かせください。
『キングダム』の“中華統一”とまではいきませんが、僕は「まちづくり」がしたいんです。住居の近くに医療施設があり、子供から大人まで気軽に体を動かせるジムがあり、シニア世代のリハビリ施設もある。いわば「ナショナルトレーニングセンター(トップレベル競技者用トレーニング施設)」を、一般向けに展開できたらと考えています。各国のナショナルトレーニングセンターには、整形、内科、歯科、リハビリとトレーニング施設が集約されています。欧州で活躍するスポーツ選手は、何かあるとそこで治療してトレーニングしています。もし僕たちの生活の一部に、そういうものがあればなと。より良い人生を過ごすために、医療や介護、看護、スポーツが一つになった「まちづくり」。その一端を担うことで、社会に貢献するとともに、多くの可能性を切り拓いていきたいと考えています。
取材こぼれ話
取材にあたってNexTalk編集担当とライターは、数⽇間で1巻〜最新刊の58巻(2020年7⽉取材時)まで全巻読破し、取材に臨みました。読み終えた頃には、仕事を忘れてすっかり作品のファンになっていたほどに。「58冊、全部ですか!?」と清⽔さんも驚かれていました(笑)。