いつ何時も“好き”という気持ちに揺るぎなく、我が道を突き進む「夢中人」。第2回となる今回は、お笑いタレントの川村エミコさんが登場。スッとした立ち姿に一目惚れして以来、こけし一筋。芸能界随一のこけし愛好家としても知られる川村さんは、ブログやバラエティー番組を通じて、こけしの魅力を発信し続けています。「大変な状況下でもこけしちゃんと一緒なら孤独を感じず、むしろ明日への活力が湧いてきます」という川村さんに、こけしと暮らす楽しさや、好きなものを見つけるコツについてお話していただきました。
Profile
1979年神奈川県生まれ。2008年、白鳥久美子さんと共にお笑いコンビ・たんぽぽを結成。主な出演作品に日本テレビ『世界の果てまでイッテQ!』、東海テレビ『スイッチ!』など。YouTube
「おかっぱちゃんねる川村エミコ公式動画館」やオフィシャルブログ「川村エミコのカエルが寄ってきます…。」などでも活躍中。
下積み時代を耐え忍ぶ日々の中、偶然出会ったこけしに一目惚れ
――川村さんは、テレビのバラエティー番組やブログなどで「こけし好き」を公言されています。こけしにハマったきっかけは何だったのでしょう?
ファーストこけしちゃんに一目惚れしたのは、確か14年ぐらい前になると思います。すごく貧乏で、ほぼ毎日居酒屋でアルバイトをしていた時期です。
閉店時間には締め作業をやるのですが、辛い作業はいつも私ばかり。作業の1つに、油脂や生ゴミを下水に流さないように、ヘドロ状の油脂をすくい取る「グリスト掃除」があります。本来ならリーダーの男性と私で手分けしてやらないといけないのに、そのリーダーはいつも自分の彼女を居酒屋に連れて来て、作業そっちのけで、店内でイチャイチャしてるんですよね・・・。一言いいたかったけど、我慢するしかありませんでした。
そんなある日、たまたま入ったJR荻窪駅界隈の雑貨屋さんで、このファーストこけしちゃんに出会ったんです。右も左も向かずに、実直にすん、という感じで立っていて。私がお店に入った瞬間、お互いに「目が合った」と感じました(笑)。
――それがこけしにハマった瞬間だったんですね。その後、生活や心境に変化はありましたか?
はい。私、恋愛で一目惚れすることはあまりないんです。でも、このこけしちゃんとの出会いはまさに一目惚れ!そのスッとした立ち姿が「耐えている私のようだ」と思えて、文字どおり胸が「キュン」となったんです。これがこけし愛の始まりです。
その日以来、こけしちゃんと一緒に居酒屋のバイトに行くようになりました。胸ポケットに入れて、「今日も頑張ろう」と。「私にはこけしちゃんがいる」という心の支え、拠り所ができたんです。これを「お供こけし」と呼んでいます(笑)。
川村エミコ一押し!初心者、玄人受けするこけしとは?
――こけし愛を貫いて14年。日に日に愛が深まっていく感じでしょうか?
こけしというと、「不気味」「東北の工芸品」というイメージがあると思います。ですが、調べるうちに、実は全国に11種類の系統(※)があって地域によって顔の表情や柄、構造が全然違うことが分かりました。そういう面白さにどんどんのめり込んでいきましたね。
手作りという点も、こけしの大きな魅力です。こけしを作る職人・工人(こうじん)さんが1つずつ顔を描くので、1体1体表情が違うんですね。だから、こけし屋さんに行った時に、目が合った子、胸に「キュン」とくる子は、やっぱり自分にとって「唯一無二の1人(1体)」になるんだと思います。
(※)伝統こけしは11系統に分類される。それぞれ津軽系、南部系、木地山(きじやま)系、鳴子系、作並(さくなみ)系、遠刈田(とおがった)系、弥次郎系、肘折系、山形系、蔵王高湯系、土湯系。
――全国に11系統も! その中で、川村さんの「推しこけし」はどの子なんでしょう?
これはもう、話すと長くなるのですが、初心者の方には、がぜん「弥治郎系」のこけしをお薦めします。赤・黄色・緑など元気な色使いで、ポップさは11系統中ナンバーワン。昔、おじいちゃんやおばあちゃんの家にあった、「夜、歩き出しそうで怖い」というこけしのイメージが強い方にこそ、お薦めです。
かわいいので、みなさんの家にある雑貨やインテリアにも自然になじむと思います。高さも8センチぐらいで、そんなに大きくありません。1つ置いておけば絵になる、ほっこりするこけしです。
――玄人受けするこけしにはどのようなものがあるんですか?
私は「日本美人」と呼んでいるのですが、こけしちゃんの中でも「ザ・こけしちゃん」と呼べる王道系のこけしがあります。それが「鳴子こけし」(宮城県鳴子温泉が主な産地)。芸能人でいえば吉永 小百合さんですね。玄人なこけしファンからも「やっぱり鳴子だよね~」という声を聞きます。
あとは本当に、人それぞれですね。私の場合は、ボーダーが特徴の「土湯こけし」がお気に入りです。私はしましま子ちゃんと呼んでいます。頭が平らなのも特徴で、お高く止まっていないところが大好き。このしましま柄もボーダーのシャツみたいでカジュアルだし、土湯(福島県土湯温泉)という寒い地域で耐え忍んだという気持ちの強さも感じますね。
こけし歴の長い方の中には、こけしを愛するがゆえ、その先にいる工人さんのファンになる人もいるんですよ。競馬でいえば、競走馬の先にいる調教師のファンになる感じでしょうか。私自身、メル友になっている工人さんもいらっしゃいますし、サインもいただいたことがあります。
――それはすごいですね。工人さんとはどこで出会うのですか?
年に数回、東京・高円寺周辺や巣鴨のとげぬき地蔵周辺などでこけしイベントが開かれていて、たくさんの工人さんが東北からいらっしゃいます。その時に、連絡先を交換し、交流を深めているんです。ちなみにこけしちゃんの足の裏には、工人さんの名前とこけしの系統が記載されています。少なくともサインは必ず入っているので、こけしをお持ちの方はぜひご覧になってみてください。
あとですね、「東京こけし友の会」という集まりにも所属しています。東京在住のこけし愛好家が集まって、戦前のこけしの貴重な映像を鑑賞したり、こけしのオークションがあったりと内容が盛りだくさんです。でも、今は新型コロナウイルスの影響で開催できていないんですよね。ちょっと残念です。
コミュニケーションの輪がこけしをきっかけに広がる
――今、70体ほどのこけしをお持ちだと伺っておりますが、こけしの魅力はどこにあるのでしょうか。
やはり、木のぬくもりとスッとまっすぐに立っている実直な感じがいいなと思います。「私が私が」みたいに前に出てこない感じもいいですね。ただそこにいるだけ。そんなかわいらしさがありますね。
――普段はこけしちゃんとどのように触れ合っているのでしょう?
棚にオープンに並べているのですが、数が多くて奥に行っちゃう子もいるので、夜な夜な並べ替えています。あとAKB48グループを参考に、推しこけしを5体選抜する「神5(ファイブ)」もいます(笑)。自分の中で新しいアイドルの形を模索しながら、ずっとセンターで頑張っているあっちゃん(前田敦子さん)みたいな子、「今やアイドルだって結婚するんだから」ということで、子どもがいるこけしちゃんを選んだりして遊んでいます。
「忍ばせこけし」も、お気に入りの遊び方です。仕事に出る前に、こけしちゃんを冷蔵庫に忍ばせておいて、あとは全力でそのことを忘れる。で、帰宅して、何か飲もうと冷蔵庫を開けると、こけしちゃんに出会う。「あら〜、こんなところまで歩いてきたのね〜♥」と言いながら、元の場所に戻す。たまに下着入れとか靴下入れに入れっぱなしになり、そのまま忘れ去ることもあるので要注意ですが、結構楽しいのでお勧めですよ。
――え……、ええ、それは楽しそうですね。ちなみに、こけし愛が深過ぎて周囲が引いてしまったことなどは?
喫茶店にこけしを連れて行き、飲み物の横に置いたりして驚かれることは多々ありますね。あとは海外ロケでモンゴルに行った時、お供こけしを連れて行ったのですが、村の男の子がこけしをすごく怖がってしまって。ただ、取材した女の子が「かわいい」と言ってくれたので、そのままプレゼントして国際交流に貢献もしました。
また、やはりテレビ番組のロケで、カリフォルニアのディズニーリゾートにこけしを連れて行ってミッキーマウスに差し出したこともあります。ミッキーは戸惑っていましたが(笑)、世界のミッキーマウスとこけしのコラボは、おそらく世界初だと思います!
――今も仕事に「お供こけし」を連れて行くことは多いんですか?
待ち時間が長いことが分かっている仕事は、本と一緒にこけしちゃんも連れて行きます。それがきっかけで、共演者の方と話が弾むこともあるんですよ。先日は俳優さんたちとご一緒する仕事があったんですけど、普段あまりお会いしない方ばかりなので、なかなか話に入っていけなかったんです。すると、お供こけしを見つけた俳優の木下ほうかさんが「何これ、一緒に写真撮ろうよ」と声をかけてくださって。それがきっかけで、木下さんがお好きなバイクの話などをしました。これもみんな、こけしちゃんのおかげです。
今は新型コロナウイルス感染予防で、他人同士距離を取ることが求められていますが、やはり人とのコミュニケーションは大切だと思います。「きっかけこけし」、お勧めですよ。
楽しむこと、興味を持つことが「夢中」を見つける第一歩
――今年4月、相方の白鳥久美子さんが新型コロナウイルスに感染し、川村さんも健康観察期間で自宅にこもる日々が続いたと伺っています。その時、こけしという存在はどのような癒やしを与えてくれたのでしょうか。
こけしは人の形をしているので、「1人じゃないんだ」と思いましたね。健康観察期間中は、ポップコーンメーカーを買い、自家製ジンジャーシロップを使ったジンジャーエールを作って、映画館ごっこをしていたんですが、その時にもこけしちゃんを並べて、みんなで映画を見ていました。
こういう状況下なので、やはり好きなものと一緒にいると、気が紛れたり、心が明るくなったりすると思います。それに好きなものがあると、「そのために頑張ろう」という目標にもなりますよね。
――川村さんにとってのこけしのように、何か1つ夢中になれることを見つけるためのアドバイスをお願いします。
好きなものを見つけることは、人を好きになるのと一緒で“フィーリング”が大切です。まずは「楽しむこと」から始めてみるのがいいかな、と思います。たとえばお酒を飲むのが好きだったら、「趣味はビール」ということで、全国のビールをお取り寄せして飲み比べるとか、自分流の楽しみ方を見つけてみる。そうして続いてきたことが、「自分の好きなもの」になっていくと思います。
あとは、友達がどこかに行くときに自分も一緒に参加するとか、「勉強しよう」「興味を持とう」と、一歩踏み出すことでしょうかね。旅行に行って美味しい食べ物に出会ったら、作り方を聞いてみるとか。1つの出会いを大切なものにするか、素通りするかは、結局は自分次第。興味を持つこと、楽しもうと思うこと、そんな自分の感情に敏感になることが、夢中になることを見つけるきっかけになるかもしれません。
――ありがとうございます! 最後に、これからもこけし愛をさらに深めるべく、やってみたいことや目指していることを教えてください。
こけしちゃんには、やっぱりまだ「怖い」というイメージを持っている方も多いと思うので、それを払拭するような企画をやりたいですね。コロナ禍が落ち着いたら、小さい会議室でいいので、「こけしちゃんミュージアム」みたいな場を立ち上げて、おかっぱ頭のミュージシャンを呼んでライブをやったり、工人さんとのトークイベントをやったり。そうして、こけしの魅力をみなさんに伝えられたらいいなと思います。