2023年12月9日、30歳以上の女子プロゴルファーによるダブルストーナメント「LADY GO」の第4戦となる「KDDILADY GO CUP in スターツ笠間ゴルフ倶楽部」が開催されました。その前段の試合で18ホールを回った直後とは思えないほど、快活な笑顔を見せて取材の場に現れたのは、プロゴルファーの甲田良美さん。結婚・出産を経て、二児の子育てをしながらプロゴルファーとして活躍されています。大好きなゴルフを続けるため、そしてこれから結婚・出産をする後輩ママプロゴルファーのために、新たな一歩を踏み出している甲田さん。ユニアデックスの大津麻由美が、その想いを伺います。

ユニアデックスは、「LADY GO」のコンセプトである「女性が輝く社会の構築を応援していくための、女子プロゴルフミドルトーナメントに賛同して、第4戦となる「KDDI LADY GOCUP in スターツ笠間ゴルフ倶楽部」を協賛しました。

目の前の一打に向き合いながら、悔いを残さずにプレーを楽しむ

大津 プロゴルファーを目指されたきっかけを教えてください。

甲田 高校まではソフトボールに打ち込んでいて、本気でオリンピックを目指していました。でも、同級生には圧倒的な才能と力を持つ上野由岐子選手がいたこともあり、自分の力の及ばなさを感じてしまって。スポーツは大好きなので、他の競技にもチャレンジしてみようと思っていた矢先、父から勧められたのがゴルフでした。「遊びではなく、プロゴルファーを目指すならやらせてあげる」というのが父の条件で、クラブを振ったこともないのに「じゃあプロになる!」と言ってゴルフを始めたんです。父の言葉に踊らされた感じはしますが、今ではプロゴルファーは天職だと思っています。

画像: プロゴルファー 甲田良美 さん

プロゴルファー 甲田良美 さん

大津 自身のプレースタイルにおいて、どんなことを大事にされていますか?

画像: ユニアデックス 人事部 働きがい推進室 室長 大津麻由美

ユニアデックス 人事部 働きがい推進室 室長 大津麻由美

甲田 まずはプレーを楽しむことですね! そして、その日の調子が悪かったとしても、悔いを残さないように打つことを大事にしています。実は、私は試合中でもいろいろなことを試しているんです。一緒に回っている選手に「今のどうやって打ったの?」と聞いて、その場ですぐに新しい打ち方を試すことも。「今、試合中だよ!?」ってびっくりされますけどね(笑)。試合でしか得られないことや、試合でやってみて初めて自信になることもあります。今成功していないと感じたら、とりあえずトライ。最終的にスコアが悪くても、悔いを残さず楽しめれば良しとしています。

大津 何事も楽しむことは大事ですよね。一番印象に残っている試合をおしえてください

甲田 忘れられないのは、やはり優勝した試合(※)です。どんな時も“今の一打”を大切にして、プレーを楽しむことは変わりませんが、優勝した試合では全てのショットが自分の思うように打てるし、入る! 「ミスしちゃったらどうしよう」という不安も全く感じませんでした。いわゆるトップ選手は、そのコンディションをずっと保っていられるからこそ勝ち続けられるのだと思います。その境地にたどり着くのは、本当に難しいんですけどね。

※2009年ステップ・アップ・ツアー第6戦「LIONレディースカップ」優勝、2010年LPGAツアー「リゾートトラストレディス」優勝

画像: 「LADY GO」の試合でもプレーを心底楽しんでいることが伝わります

「LADY GO」の試合でもプレーを心底楽しんでいることが伝わります

大津 今回参加されている 「LADY GO」は、女子プロゴルファーが長く活躍できる場として開催されているそうですね。

甲田 結婚・出産したプロゴルファーが出場しやすい貴重な大会で、本当に素晴らしい企画です。昨年から4回開催されていて、私はフル出場です。「LADY GO」は選手2人でペアを組んで18ホールを回るという点も楽しいですよ。ゴルフは個人プレーの競技ですし、普段はバーディーを取っても1人で喜びを噛みしめるだけですが、この大会は2人で思いっきり喜べます。一方で、ミスをしたらペアを組んだ相手に迷惑をかけてしまうので、その点ではいつもよりめちゃくちゃ緊張しますね。でもそのドキドキ感も含めて楽しいと感じています。

女子プロゴルフ界に変化の兆し。トーナメント試合会場には「託児所」が初設置

大津 お子さんがいる女子プロゴルファーは、今どのくらいいらっしゃるのでしょうか?

甲田 私の知る限りでは、中学生までのお子さんを持つ方は130人くらいいます。意外と多いと思われるかもしれませんが、子どもを預けて試合に行く環境が整えられず、ゴルフを諦めざるを得ないという話はよく耳にします。女子プロゴルフのツアー大会は3月に開幕してから11月末まで毎週実施されます。試合に出場するほぼ一週間の間、子どもを誰かに見てもらうのは難しいですよね。しかもそれが9カ月も続くとなると、さらにハードルは上がります。

一方で、ステップ・アップ・ツアー「カストロールレディース」という、ママプロゴルファーだけのトーナメントも開催されています。2019年に開催された大会では、娘さんがいらっしゃる佐藤靖子選手が所属するおもちゃ王国さんがスポンサーとなって、試験的に託児所を設置してくれました。私も長男を預けて、安心して試合に出場することができました。

大津 さまざまな企業で女性活躍が推進されていて、当社もどのシーンにいる女性でもイキイキと活躍できる職場を目指しています。ゴルフ界でも少しずつママを取り巻く環境が変わってきているのですね。

甲田 翌年度のツアー出場権などを決めるQT(※)という大事なトーナメントでは、2023年から託児所が設置されました。少しずつ環境が変化しているのはうれしいことですが、ここで出場権を獲得できたとしても、ツアー大会全てに託児所があるわけではありません。わが家は次男がまだ2歳なのでお留守番ができません。子どもを見てくれる大人を一緒に連れていくにも、夫は仕事がありますし、高齢の親は疲れてしまう。そうなると、託児所が設置される試合か、家から通える試合を選ばざるを得ないのです。

※QT(クォリファイングトーナメント):翌年度のJLPGAツアーおよびJLPGAステップ・アップ・ツアーの出場資格を決定するためのトーナメント

私はこういったママプロゴルファーの制約をなくしたいと本気で思っていて、実は今、自分で託児所を経営しようと動き始めています! 「託児所をつくってほしい」という声を6~7年前から挙げていたのですが、場所の確保やスポンサー間のすり合わせが難しい。また、試合会場に保育士さんが入ることの懸念などから、大会運営側もそう簡単には動けないことがわかったんです。じゃあ、プロゴルファーの私が託児所をつくれば解決するのかなって。さっそくベビーシッターの資格も取得しました。

画像: 今回の「LADY GO」では、米澤有選手とペアを組みました

今回の「LADY GO」では、米澤有選手とペアを組みました

大津 現状を変えていこうとする行動力を見習いたいです! その原動力はどこから来ているのでしょうか?

甲田 先ほど、ママプロゴルファーは130人くらいとお話ししましたが、レギュラーツアーに出場しているママさんゴルファーは3名ほど。時間の融通が利く大人がお子さんの面倒を見てくれるとか、自宅近くに自分の両親と義両親の両方が住んでいるとか、条件や環境がそろっているほんの一握りの人たちです。

だから、私は、これから結婚・出産を考える選手のためにも動きたいんです。私は32歳で長男を出産しましたが、同じ30代前半の選手が出産して、環境が整わなければ試合に出場できないことは、すごくもったいないと感じました。30代前半なんて、まだまだ戦える年齢です。「諦める」という選択を若い選手たちにさせたくないからこそ、JLPGA(日本女子プロゴルフ協会)を変えていこう! と勝手に思ってしまって(笑)。試合の会場に託児所が設置されるようになれば、当然ママは試合に参加しやすくなります。子どもにも「今週はママと一緒に試合に行く」「今週はパパとお家にいる」と選択肢を与えてあげられます。

まずは私が住んでいる成田に1カ所目の託児所をつくりたいと考えています。プロゴルファーだけでなく、一般の方も使えるような託児所です。例えば、東京在住の方が成田のゴルフ場でプレーする場合、子どものお迎えの都合で、15~16番ホールで切り上げて帰宅されるケースも多いと耳にしました。

ゴルフ場に託児所があればお迎えの時間を気にしなくて済みます。そして、託児所の横に5打席ぐらいブースをつくって、預けた子もゴルフを習えるようにすれば、子どもも楽しめますよね。一般の方もゴルフを楽しむ機会が増えれば、ゴルフ界がもっと盛り上がると思うんです。もちろん、ゴルフとは関係なく、近所に住む保護者にも普通に託児所として使ってもらいたいですし、プロゴルファーにゴルフを習いたい子どもが集う場所にもできそうですよね。今はまだ準備段階ですが、“みんな”が幸せになれる託児所を目指しています。

全米シニア出場が「夢」、目標は日本のシニアツアーで「優勝」。ゴルフと同じように、人生の夢に向かってアプローチ

大津 子どもを預ける場所がないことを悲観するのではなく、プライベートとゴルフの両立を前向きに捉えていらっしゃるのが印象的です。当社も社員が「働きがいある会社」と思えるようになるために試行錯誤の毎日です。

甲田 私は今まで生きてきた中で後悔がないんです。それは「苦しい」と感じた時、そこから脱するために自分が何をするべきなのかを考えて、どんどん実行しているから。やってみてダメなら諦めがつきますが、何もしないまま諦めたくはないですよね。

ジュニアの子にゴルフを教える時も、初めに「自分のゴルフ人生のプランを書いてください」と話して、紙を渡しています。例えば、北海道の中学1年生の子が高校卒業後にすぐプロになるのが目標なら、プロテストをトップレベルで合格するには20アンダーのスコアが必要→高校卒業時に20アンダーを出すためには、来年までに北海道でトップ選手になる→道内トップになるために、今どんな練習をすべきかを考える。こんなふうに、どんどん掘り下げてゴルフ人生のプランを考えていきます。

私も目標に向かってこのアプローチを実践しています。バーディーを取りたい時は、グリーンから逆算して「次はここにつけなきゃいけない」と考えるので、それと同じです。ゴルフと人生は似ているような気がします。

大津 「目標」というワードが出ましたが、ぜひ甲田さんの今後の目標や夢を聞かせてください。

甲田 目標は日本のシニアツアー優勝です。そして、ツアー通算70勝以上を挙げている、アニカ・ソレンスタム選手と回るのが昔からの夢なんです。彼女は一回引退してしまって、私の夢もついえたと思っていたのですが、まさかの2021年にシニアで復帰したのです。全米シニアに出場できれば、夢をかなえるチャンスだと思っています。

画像: 全米シニア出場が「夢」、目標は日本のシニアツアーで「優勝」。ゴルフと同じように、人生の夢に向かってアプローチ

実は、31歳で長男を出産した時に「プロゴルファーとしての人生は終わりかな」と一度は覚悟しました。それでも、家族の後押しがあって続けることにしたわけですが、その時に目標として頭に浮かんだのが「日本のシニアツアー」で勝ちたいという思いでした。シニアの出場は45歳からなので、31歳から14年の準備期間があれば十分狙えるはず。これからも自分の技術を磨いて、子どもを安心して預けられる場所をつくり、試合経験を着実に積んでいきたいです。「日本シニアツアー優勝/全米シニア出場」はとてつもなく大きな目標と夢ですので、達成できない可能性もあると思います。それでも今自分がしていることが、これからママになる選手のステップとなって、その選手が持つ夢の実現につながればうれしいです。

大津 一度は諦めかけた仕事を続けるためにも目標を持つことは大切ですね。企業でも社員がさまざまな事情で仕事をセーブせざるを得ないことがあります。しかし、長い仕事人生ですので、心も体もいい状態に持っていき、家庭と仕事のバランスを整えることが重要だと考えます。最後に、同じワーキングマザーとして奮闘するママさんたちへメッセージをお願いします!

甲田 「皆さん、ラクしてね!」と伝えたいです。育児は思い通りにならないことだらけで、普段の生活でストレスも溜まります。だからこそ子どものことは完全に忘れて、ラクできる時間がママには必要だと思います。私にとってはそれがゴルフですが、本格的な“何か”でなくても、夢中になれる趣味を見つけたり、ちょっと体を動かしたり。私が託児所をつくることで、そんな時間を取れるママが一人でも増えたら良いですね。

画像: プロフィール プロゴルファー 甲田良美(こうだ よしみ) 1983年4月1日生まれ、栃木県出身。高校卒業と同時にゴルフを始め、2009年にプロテスト合格。同年のステップ・アップツアー「LIONレディースカップ」で優勝。2010年「リゾートトラストレディス」でツアー初勝利。結婚、出産後もゴルファーとして活躍する。

プロフィール

プロゴルファー 甲田良美(こうだ よしみ)
1983年4月1日生まれ、栃木県出身。高校卒業と同時にゴルフを始め、2009年にプロテスト合格。同年のステップ・アップツアー「LIONレディースカップ」で優勝。2010年「リゾートトラストレディス」でツアー初勝利。結婚、出産後もゴルファーとして活躍する。

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