ユニアデックスの片澤です。
私が活動していますBIPROGY USAはボストンにもオフィスを持っており、3名の駐在員がいます。今回、ボストンを訪れましたので、冒頭にご紹介していきます。
ボストンは、米国の東海岸、マサチューセッツ州の州都です。米国で最も古い街の1つであり、独立戦争の引き金となった虐殺事件や茶会事件などの舞台でもあります。独立後は、製造や貿易などで発展しています。現在ボストンは、世界の都市総合ランキングで27位(米国では5番目)に位置しており、大きな経済規模も誇っています。テック企業も多く、セキュリティーのCybereasonやRapid 7 なども本社を構えています。
そして、ボストンといえば、学術都市です。米国で最も古い大学であるハーバード大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)、ボストン大学、バークリー音楽大学などがあります。そのため、学生の数が多く、活気に満ち溢れていると感じました。
このように米国の中では歴史も古く、落ち着いた街並みでありながら、スポーツも盛んで、活気に満ち溢れているボストン。一度は訪れてみてはいかがでしょうか。その際は、ぜひ弊社にもお越しください!
さて、今回は、ビッグテック企業に焦点を当て、彼らの今までの投資、買収動向から読み取る新規ビジネス領域進出の遍歴、今後フォーカスしていきそうな領域を推察してみたいと思います。
Microsoft社の投資・買収動向
まずは、Microsoftから見ていきましょう。以下のグラフは、2017年からの投資、M&A、提携先の企業数を表したものです。
これを見るとMicrosoftがどの分野・領域に注力しているのが分かります。Microsoftのプロダクトポートフォリオからも、AzureクラウドやDynamics 365などのデータ活用系、Office連携のワークツール系、AIツール系(図では、ノーコード開発ツールに分類)での戦略投資が最も実施されています。
データインフラストラクチャーや分析エリアでは、データ利活用を目的とした企業連携の動きが見られます。2019年以降、Westpac(オーストラリアの銀行)、Chevron(アメリカの石油販売)、Schlumberger Limited(国際油田、海洋掘削)、SAS(データ分析)などと提携しています。
ワークツールとノーコード開発ツールでは、買収した企業が、確実にMicrosoftのサービスの一部になって提供されています。動画編集アプリのClipchamp、高品質大規模ストリーミング制御のPeer5は、ともに2021年に買収されましたが、今年すでにMicrosoftのサービスとして提供開始されています。AIツールでは、2018年に買収されたBonsaiやLobeが2020年にMicrosofのサービスになっています。
細分化された領域では、サイバーセキュリティーとエッジコンピューティングが際立っています。連携件数も多いですが、サイバーセキュリティーは最大の6社、エッジコンピューティングは3社と、買収した企業数も多いです。このことから、今までの製品にはなかった分野をまるっと買収した形で移植する戦略がとられていることが読み取れると思います。
CyberX:IoT、OTセキュリティープラットフォーム
CloudknoxSecurity:CIEM
RiskIQ:サイバー脅威検出
ReFirmLabs:ファームウエアセキュリティー分析
Miburo:サイバー脅威分析、調査企業
expresslogic:エッジデバイス向けのRTOSを提供
AffirmedNetworks:IoT、5Gネットワークインフラプラットフォーム
TheMarsden Group:ラピッドプロトタイプ
この領域は、今後も成長分野ですので、投資企業の中から買収まで実施する可能性があるのではと感じています。この領域だけではありませんが、Microsoftは、近年積極的に買収によるサービス拡大を他社よりも多く実施していることも特徴です。
Microsoftは、上記に示したICTに特化しているイメージが強いですが、業界に特化した連携や投資も積極的に実施していることに驚かられたかもしれません。トランスポーテション、ゲーミングやエンターテインメント、教育、フィンテック、ヘルス関連と実に幅広い分野に投資、連携を実施していますが、これらの分野での買収は、テレヘルスのNuance Communicationsに限られています。Microsoftも業界特化の企業買収は、まだこれからなのか、スコープ外なのか、気になるところではあります。
Amazon社の投資・買収動向
続いて、Amazon を見てみましょう。
Amazonといえばここ数年最も活発だったのが、ヘルスケア分野です。オンライン薬局のPillbackの買収から2年で、Amazonマーケットプレースでの販売を開始しました。日本でも販売開始されるとのことで、話題になっていると思います。そして今年、プライマリーケアネットワークのOne medicalを買収。先に提供開始ししていたAmazon Careを閉鎖し、One medicalを手中に収めました。UKでは、医療保険販売も開始し、ヘルスケア部門への挑戦が拡大しています。
そして、意外に感じたのは、なんといっても目を引いた、教育分野のテクノロジーのエドテックです。
Amazonは、Amazon Future Engineer(子供向けエンジニア教育)、Amazon Ignite(K12教育コンテンツマーケットプレース)、AWS Educate(AWSなどクラウド自己学習)の 教育サービスを提供しており、ここを補完するための投資を積極的に実施しています。特に2019年前後には、音声認識技術のスタートアップを買収していました。
さて、ここで、Amazon の投資動向に関して年代別に見てみましょう。
なかなか面白いデータで、年代別に注力領域がはっきりしています。2019年は上記に説明したエドテック、2020年は自動車などのオートテックとエッジコンピューティング、2021年はクリエーターエコノミーとeSportsとBNPL(Buy NowPay Later)、2022年はオートメーションストアとなっています。
コマース、物流関連がやはり多いですね。自動車関連では、Rivianに投資を実施。2022年にAmazonのデリバリー商用車としてEVを投入し、買収した自動運転技術を提供するZooxも将来的にロボタクシーや商用車事業との連携が検討されています。オートメーションストアやBNPLもコマース関連の最新トピック領域で、Amazon Goの技術がほかのリテールなどでも利用され始めたり、マーケットプレース上のでBNPLが提供されたりしています。
クリエーターエコノミーやeSportsは、これからの領域として狙っていることが分かると思います。クリエータエコノミーは、パーソナライズビデオコンテンツ作成のマーケットプレースのCameoやVR上のビデオキャプチャー作成のLIVに投資を実施しており、Twitchサービスなどとの連携を狙っているのも垣間見えます。
AWS関連での連携は、エッジコンピューティング領域がフォーカスされています。まずは、各国通信キャリアとの連携として、Verizon、Telstra、BellCanada、Vodafoneとの取り組みが報じられています。同社のサービスとしては、サーバーレスコンピューティングのAWS Lambda、オンプレコンピューティングのAWS Outpostsを有していますので、これらのサービス補完であると考えられます。
Google(Alphabet)社の投資・買収動向
3つ目はGoogle(Alphabet)を見てみましょう。Microsoftと非常に似ているポートフォリオです。
この中でも最も積極的に投資を実施しているのは、データインフラストラクチャーと分析のエリアです。
GoogleはGoogle Cloudの補完として、Dataform(BigQuery上でのデータ管理)、Looker(BigQuery上のデータBI)、Kaggle(データ技術者のコミュニティー)、Cask(データ分析)を買収しています。これらはすでにGoogleと連携してサービスが提供されいています。DatabricksやAhanaなどデータレイク企業にも積極的に投資していることからGoogle Cloud Platform(GCP)の利用拡充を狙っていることが理解できます。
そして、クラウドに接続、連携させるエッジコンピューティング領域とセキュリティー領域にも注力しています。すでにGoogle DistributedCloud(GCPのエッジやデータセンター利用)、Edge TPU(エッジコンピューティング用のASIC開発)などを提供しています。Vapor(エッジコンピューティングのプロバイダー)やZededa(エッジコンピューティングオーケストレーター)などとパートナーシップや投資という選択をしてきましたが、今年に入り始めてMobileedgeXという企業を買収しました。今後は、買収を実施したポートフォリオ補完がされていくのでは?と思っています。セキュリティーに関しても今年、Mandiant(セキュリティー脅威分析サービス)とSiemplify(SOAR)の2社を買収しています。Siemplifyはすでにサービスとして加わりました。
Googleが他社との違いで一番特徴として語られるのが、AIです。Googleのヘルスケア事業は、同社が持つAIの利用領域として早くから研究開発が行われてきました。子会社のDeepMindがたんぱく質の3Dモデル予測を実施するAlphaFoldのサービスを提供していて、AIを利用した製薬事業会社Isomorphic Laboratoriesを今年、新規に立ち上げました。予防医療や遠隔診療などにも積極的に投資しています。Fitbitも新しいPixel watchに移植もされていますし、ヘルスケア事業におけるAIやクラウドなどの得意分野を生かした連携モデルを着々と作っています。
そして、近年投資や事業連携の特徴の1つにトランスポーテーション&物流関連があります。自動運転を提供しているWaymoは、ロボタクシーとしてアリゾナ州フェニックスやサンフランシスコでも事業化を実現(次は、ロサンゼルス)、UPSとのパートナーシップで荷物の配送にも利用されています。また、ドローンデリバリーを提供するWingは、FedEx や Walgreensなどと連携して米国内でサービスを開始しています。オンライン貨物プラットフォームのMotiveやFlockfreightへの投資も実施するなど事業領域拡大を目指しています。
さて、いかがでしたでしょうか。エンタープライズ向けのサービスを展開するGAFAMの中から3社をピックアップして買収、投資動向をご紹介しました。買収は当然ですが、投資情報を見ることでその企業の方向性や戦略を予測することができることがお判りいただければ幸いです。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回は、2022年最後の回になりますので、来年のテック予想などをお届けしたいと思います。