ユニアデックスの片澤です。
今回も冒頭に少し都市の話題をお話します。ご紹介するのは、北米のテクノロジー人材のハブ都市に関してです。テクノロジーやエネルギーなどに関してのオンラインマーケティング情報を提供しているVirtual Capitalistの調査によると、北米でのテック人材のメイン拠点が非常によくわかります。
北米で活躍しているテック人材は、推定650万人を誇っており、そのうち米国人が550万人とされています。
シリコンバレーエリアが最も人材が豊富で約38万人、続いてニューヨークエリアとなっています。驚くことに、3番目は、以前のレポート(Vol.29)でも紹介したカナダのトロント(ウォータールーなどを含む)です。さらに、2016年から2021年の人材成長率も合わせて紹介されていますが、シリコンバレーは13%、ニューヨークは3%、トロントは44%と驚異的な成長率です。大学から広がるエコシステムの良い例といえると思います。
そして、パンデミックの影響から、都市部は人が離れた影響なども出ていて、まだまだサンフランシスコ市内などは、人が戻ってきていない状況です。引き続きリモートワークは続くと見られており、その影響で家賃コストなどが低めであるソルトレークシティーやポートランド、デンバー、ダラスなどは人の流入が増えた都市になっています。
皆さんにはどう映りましたでしょうか。
米国の5Gの現状
さて、今回は、MWC America(Mobile WorldCongress)に参加したので、このイベントから見えた米国の5Gの現状をお届けします。
初めに基調講演での米国業界団体と大手キャリアのメインアピール内容を紹介します。
●CTIA(Cellular TelecommunicationsIndustry Association)
・2022年の米国の5G設備投資は、350億ドル。各インダストリー(製造、自動運転、スマートシティー、スマートホーム、Agritechなど)で効果を発揮している。
・家庭のインターネットが、ケーブルから5Gモデムへの切り替えが多く起こっている。すでに7,000万世帯で利用開始している。これはデジタルデバイドを解消するのにプラス効果が出ている。
・今、米国の物価は大幅に上昇しているが、通信料金に関しては、過去2年間で価格はむしろ下がっている。上がっているのは通信速度。
・米国の5Gに関しては、今後も10年間進化する。現状まだ利用できるミッドバンドエリア(サブ6)は開放されていないが、開放するための政府認可、オークション(開放)などが今後実施されていく。また、ミッドバンドエリアの利用ができることによって、さらなるイノベーションが可能となる。
●Verizon
・コンシューマー向けサービスについて言及。
・モバイルとホームの両方でサービスを展開しており、ホーム5Gルーターでは、最低月額25ドルから利用可能になるサービスを展開。ユーザー自身で簡単にセットアップができる。
・エンターテインメントにも力を入れており、Apple arcade、Musi、Disney plus、ESPN plus、Google playなどのサブスクプランも一緒に提供している。ゲーム、ライフスタイル、フィットネス向けのサービスも拡充していく。
・そして、これらを実現するためのハードウエア、5Gルーターを長年のパートナーであるQualcommと共同で開発し、Verizon Routerをリリース。ルーターは、Qualcomm 5G Fixed Wireless Access Platform Gen 2を採用し、前世代よりも60%小型化を実現し、完全防水仕様となっているので、屋内外両方に対応が可能。ミリ波とミッドバンド両方に対応しており、高スループットと低遅延を実現している。ホームデジタルトランスフォーミングを実現していく。
●T-mobile
・Verizonがコンシューマー向けのアプローチだったのに対して、エンタープライズ向けのサービス「Advanced Industry Solutions」を紹介。
・「Advanced Industry Solution」は、スマートシティー、小売、製造や物流ビジネス向けに素早く提供できるソリューションのポートフォリオとなっている。従来、ビジネスオーナーが、新しいソリューションの事業展開を検討した際、通信、接続性、セキュリティー、適切なハードウエアとソフトウエア、監視、分析などを検討するために長期間を要し、多くのテクノロジーベンダーとのやり取りが必要となる。「Advanced Industry Solution」は、業種に合わせたポートフォリオを準備できるので、素早い提供が可能なエンタープライズサービスとなっている。さらに、5Gの接続性と優位性を一緒に提供する。
・ソリューションパートナーとして、Dell Technologies、Ericsson、NOKIA、OCEUS、Starlinkが紹介されていた。
●AT&T
・デジタルデバイド、デジタル格差に関しての対応を説明。各キャリアが米国内での設備投資を実施しているものの未だ数百万人の国民がブロードバンド環境に接続できない現状がある。
・これに対して、同社は、州や自治体と連携してインフラへの資金提供を政府と調整することで、学校や医療現場でのインフラ投資を実現している。インディアナ州の事例などを紹介。インディアナ州の他にもテキサス、ケンタッキー、ルイジアナなどでも官民パートナーシップを採用している。
・また、公衆無線LANネットワークのFirstNetの拡張なども紹介。
米国の5G の現状
ここで米国の5G環境を振り返ってみたいと思います。
5Gには、Low Band(600MHz~850MHz)、Mid Band(1GHz-6GHz)、High band(24GHz-40GHz)の3つの周波数帯があります。
米国では、High BandのmmWave戦略を取っていたので、Mid bandは、長らく国が占有していたため、民間への開放(オークション)が遅くなったという経緯があります(その影響により、中国企業に技術開発を先行されてしまい、企業の締め出し政策となります)。
そして、2021年2月(図①)と2022年2月(図②)のオークションにより、Mid Bandの一部分が民間に開放されました。すでに①に関しては、現在利用できるブロックが制限されていますが、VerizonとAT&Tがサービスを開始しており、順次広がっている状態です。2023年末にブロック制限が解除されるため、2024年から本格的な5G利用となるというのが大方の予想です。
キャリアごとにそれぞれ内容が違っているのも面白かったですが、全体を通してデジタルデバイド、デジタル格差をなくしていくというメッセージが強い印象を受けました。パンデミック化でデジタル格差問題が米国の特に教育現場で話題になりました。国、州、業界団体、キャリアなどが協力してこの問題に対峙しているということが鮮明になっています。
MWC America(Mobile WorldCongress)トピックス
さて、ここからは、イベントでのトピックスをいくつか紹介します。
●Open RAN
Open RANとは、無線携帯基地局や基地局コントローラー、ネットワークオーセンティケーターなどの仕様をオープン化にすることによって、さまざまなベンダー機器やソフトウエアなどを相互に接続を可能にさせる無線ネットワークです。
業界団体のO-RAN Allianceも存在。従来は、シングルベンダーで基地局からコアバックボーンに至る部分まで提供していたものを、オープンにすることで、汎用性とコスト削減が可能になり、5Gネットワークの主流となりつつあります。またコアバックボーンについても、大型ネットワーク機器から仮想化ネットワークが用いられ始めています。
Open RANの利用実績がかなり進んでいることを印象付けるセッションも多く開催され、その中から事例を抜粋します。
米国では、Dishwirelessが先行してクラウドを利用したOpen RANを採用。
英国では、Vodafoneが今年の1月にサービスリリース実施。
日本勢は、Rakuten Symphony、NTT Docomoなどが採用している。
Rakuten Symphonyは、Open RAN方式に投資を実施し、27万セル以上を展開している。これをコアバックボーンまで合わせたエンドツーエンドの仮想化で提供したからこそ、モバイルネットワークの早期大規模展開と運用自動化を可能にできたと語っていました。
Open RAN自体は、Verizonも採用に向けた方針を示しており、市場として勢いが続いていることを表しています。また、半導体不足による製品の出荷遅延などは、キャリアサービスにとってもリリースに影響がでるため、サプライチェーンリスクを分散する上でもOpen RANは有効といえます。今後、プラットフォームを提供するベンダーの競争も増えていくと予想されています。
●eSIM
業界標準(GSMA)のデジタルSIM、物理SIMカードを使用しないIDモジュール。数年前から主にスマートフォン向けには、基盤に内蔵されていてソフトウエアを経由し設定し、キャリア接続に利用されています。物理SIMを利用しないためにセキュリティー面の安全性がメリットとして挙げられ、アプリケーションを利用して、複数のプロファイル設定を持ち、キャリア選択などのプロビジョニングが可能になるため利便性も上がります。
また、スマートフォン以外の用途が広がっており、IoT市場に向けては大きなポテンシャルがあるとeSIMベンダーの鼻息は荒いです。そして、IoTでは、利用用途や通信量、時期によって接続するキャリアサービスをマネージしていく必要があるというのが業界の見解があり、これをうまくコントロールすることでコスト削減につなげることができ、マネージメントする企業も登場しています。
また、マネジメントに合わせて、セキュリティーや独自アプリケーションを一緒に提供していくビジネスモデルに成長していくと予想されていました。
複数のプロファイルを保持することができるということは、国ごとのプロファイルを持つことも可能となるため、グローバルコネクティビティーが実現できます。
●K-Metaverse
MWC Las vegasには、韓国からの出展が多く、その中でも韓国のNationalIT Promotion AgencyがAR/VR、メタバース関連スタートアップを集めたパビリオンとDemo Dayを実施していました。5つの領域(エンターテインメント、教育、XRコンテンツ、XRプラットフォーム、産業ソリューション)で26社のスタートアップが参加していました。
AR/VRやメタバースは、高画質や低遅延、高レスポンスが必要となるため、5Gとの相性が非常に良いソリューションであることは、読者の皆さんも察しがつくところかと思います。しかし今回のイベントでは、このような5Gを利用したユースケースを提案している企業は少なかったように思えました。
5Gの普及率が高い韓国では、5Gを意識したさまざまなスタートアップが多く生まれており、国を挙げて米国市場に乗り込んでくる様子がうかがえました。(韓国企業は、このイベント以外でも自国からスタートアップ企業を募り、あらゆるテクノロジーや業種、領域で米国進出を模索していることがこちらにいると非常によくわかります。)
さて、いかがだったでしょうか。米国の5Gマーケットは、政策の読み間違い?により出遅れた印象がありました。むしろ日本の方が早いですね。Mid bandが本格化してからのさまざまなユースケースや米国独自の利用シーンなどに期待が持てるような気がしています。そして、6Gマーケットに関して、イベントでは多く語られていませんでしたが、米国内は、Next G ALLIANCEなどが規格策定に向けた活動を実施しています。
今回も最後までお読みいただき有難うございました。