ITと新たな分野を掛け合わせた取り組みをご紹介する「IT×○○」。今回は、食品ロスを“レスキュー(購入)”するフードシェアリングサービス「TABETE(タベテ)」を提供している株式会社コークッキングの川越一磨代表取締役CEOにインタビュー。店と消費者をマッチングする仕組みと、食品ロスを生んできた消費行動を再定義する挑戦について伺った。
自宅近くでレスキューを待っている食品をスマホ検索
―TABETEはどのように食品と消費者をマッチングするのでしょうか?
TABETEは売れ残りや突然の予約キャンセルなどで食品が余ってしまい捨てるしかない飲食店と、その食品を“レスキュー(購入)”したい消費者をマッチングするプラットフォームです。アプリをダウンロードしてスマホから自宅近くで“レスキュー”を待っている食品を検索することができます。そこで購入していただいた食品は、出品した店舗で受けとることができます。
登録店舗には飲食店だけでなくスーパーもありますが、出品はお惣菜やパンなどの調理済みの足の短い食品に限定しています。TABETEでは出品の際に食品ロスに至った経緯や出品者側の想いなどのストーリーまでちゃんと伝えて、消費者側にそういう現実を知ってもらった上でお金を支払うかどうか決めていただいています。そこが食品ロス削減のために一番価値のある取り組みだと思っています。2018年4月にサービスを始めて現在のユーザー数は約33万人に増えました。登録店舗数も約1450店舗になります。
―出品価格を250円~680円に設定されていますが、この値段にされた背景を教えてください。
立ち上げ段階では出品価格に上限も下限もなく、一律35%手数料いただくビジネスモデルだったのですが、そうすると結構高級なお弁当などの出品も出てきてしまい「食品ロスなのに高い」という批判を消費者の方々からいただくことがありました。せっかくお店側が勇気を出して出品したのに、消費者側から悪評が立ってしまうと本末転倒です。出品価格として一番良いレンジはどこかということで、今はその範囲で区切らせてもらっています。
ただ、値段も今みたいに固定がいいのか、(需要動向に応じて価格を変動する)「ダイナミックプライシング」のような方法がいいのか、出品時間と食品の引き取り時間の組み合わせ含めて色々と仮説検証している段階です。
自身も大量廃棄をしていた当事者、モヤモヤが出発点に
―食品ロス削減を事業として始めたきっかけを教えてください。
私自身、料理人修行や飲食店勤務経験の中で、食べ残しも含めてですが食品を大量に廃棄していた当事者でもありましたので、ずっとモヤモヤした思いを抱いていました。食品廃棄の啓蒙活動「Disco Soup」(廃棄前の食材を音楽と共に楽しく調理して食べるイベント)の運営にも従事してきましたが、啓蒙活動だけではなく、もっと持続可能な取り組みを色々なプレーヤーを巻き込んでやるべきだろうなと思ったのが事業を始めた経緯です。
元々はヨーロッパにこうしたサービスの先行事例が存在していて、それを参考にしています。ただ、そうしたヨーロッパ発のサービスはアジアに一回進出したものの撤退している事実があります。やはりアジアにはアジア特有の消費行動というものがあり、ローカライズしていくのが肝だと考えています。
―日本特有の消費行動とは、どういう所に感じられますか?
ヨーロッパは環境活動に関わるプライオリティーが非常に高く、事業者側も消費者側も食品ロスに取り組んで当然という意識があります。その点、日本はまだそこまで到達できておらず移行期間というフェーズにあるのかなと思います。やらなきゃいけないというならやるけどね。みたいな。食に利便性やエンターテインメント性を求めてしまう“無邪気な消費者心理”がまだ勝っています。
日本の食品ロスは年間612万トン(国民1人当たり毎日ご飯お茶碗1杯分)と言われています。その中の約45%は家庭から出ているというデータがあります。事業者側が廃棄している食品ロスについても削減するのは誰なのかと言うと、やはり消費者側によるところが大きいです。TABETEのようなマッチングプラットフォームにしている意義は、事業者側と消費者側双方の意識づけに良い影響が出るからだと考えています。「食品ロスへの意識を持つのは当然」を前提とした消費者側の行動をいかにアップデートし、再定義していくかが重要ですし、事業者側も同じくです。両方向からキャッチアップしていくことが重要だと考えています。
ブラックボックス状態の食の世界をオープンに。そして売り切れ御免の世界へ
―消費行動の再定義。成果の方はいかがですか。
やはり当初思い描いたようなスピードではいきません。今まで見えなかった消費行動を見える化していく、というよりブラックボックスにしておく方が都合のよかった世界を開いていく活動になりますので。例えばパン屋さんが閉店間際にパンをたくさん並べていますよね。お客さんにとっては、「最後まで色々なパンを選べて嬉しい」となりますが、事業者側や食品ロスの目線から見ると、売り切れるわけがないんです。お客さんにとっては便利だけれど、裏側で結構捨てているということが日々起きています。
―ブラックボックス化には、どういう背景があるのでしょうか?
こうした食品ロスをあえて表に出さなかったのにはブランドイメージを棄損したくないなど色々な要因があります。ただ、そうした隠さざるを得なかった所も、インターネットの力によってオープンになっていくのだと思っています。食の安全は一番大事なはずなのですが、食のサプライチェーンに目を向けたら実はよく知らないこともたくさんあります。そういうブラックボックス状態になっている食の世界を開けていき、最適化していきたいのです。最適化の中には、便利さだけではなくて、消費に対して自分の幸福感や満足感を追求する新たな価値観も含まれるのだろうと思っています。
―食品ロスを隠すのではなく、オープンにする社会へ変わっていくのが理想ですね。
そうですよね。事業者側としては、お客さんの便利さのために、わざと余る量を仕入れざるを得ないのが現状です。そこでTABETEのように余った食品を消費者につなぐサービスがあれば、事業者側もまた違った見せ方ができます。それがもう少し進めば、売り上げの右肩上がり成長よりも、食品を無駄にしないことに重点を置いて、そもそも仕入れ量自体を制限して「売り切れ御免」スタイルへと転換する店は増えていくと思います。
TABETEに出品している飲食店の方からも「TABETEを卒業します」という声をいただくことがあります。そもそもの仕入れ量を減らしたり、調理する際にアレンジができるように作っておき、売れ残った場合にはアレンジを加え翌日に販売したりなど、食品ロスが出ない経営スタイルへと見直しをされたんです。そういう声を聞くと、我々も役割をしっかり果たしているなと感じます。
レスキュー率100%目指して「顔の見える消費」コミュニティーへ
―TABETE登録ユーザーはどういう属性の方が多いですか?
30代、40代、50代の女性の方が75%くらいを占めています。日本においても、食品ロスに対して潜在的に当事者意識を持っている方々は多くいらっしゃいます。とくに飲食店などで勤めたことがある人たち。違和感を抱きながら食品を捨てた経験が絶対にありますから。ただ、そうした方々が食品ロスに対して気軽に行動を起こせるツールがこれまで全然ありませんでした。TABETEでは余った食品を手軽に“レスキュー”できますので、「おいしく、楽しく、負担にならずにできるのがいい」という声もいただいています。
―掲載店舗も東京以外に、金沢市、大阪市、福岡市、名古屋市など順調にエリアを拡大されていますね。
地方自治体の方々ともたくさん連携協定を結ばせていただいている関係でエリアも増えて来ています。食品ロス削減推進法が2019年に施行され、各自治体で削減へ向けた推進計画策定が義務付けられました。その中で、TABETEも手段の一つとして注目していただき、お問い合わせを多くいただいております。
ただ掲載店舗数やユーザー数という数値よりも、総合してレスキュー食数が何食になるかが重要な指標だと考えています。東京では人気店だとレスキュー率100%達成しているようなお店も結構ありますが、全体平均をとると半分くらいに落ちてしまうので、これを底上げすることにまず注力していきたいです。
―食品ロス削減に向けて今後の目標を教えてください。
5年後ぐらいを目途に日本全国に展開されているサービスになっていたいです。社会全体としても、食品ロスをもっと当たり前に意識するように消費行動を再定義し、社会をアップデートしていきたいですね。その過程で、TABETEのサービスも少しずつ変わっていく必要があると思っています。お店と消費者の関係性をもっとインタラクティブにできるコミュニケーションツールに近づけていきたいです。“顔の見えない消費”が食品ロスを大量に生む原因の一つですので、事業者側も消費者側も互いの顔が見えるようなコミュニティーを自然と根付かせる、そんなITインフラにすることが我々の目標です。
プロフィール
株式会社コークッキング
代表取締役 川越 一磨(かわごえ かずま)
2014年慶應義塾大学総合政策学部卒業。大学在学中に和食料理店で料理人修行をし、卒業後は株式会社サッポロライオンで飲食店の店舗運営の経験を積む。退職後、2015年7月富士吉田に移住。空き家をリノベーションしたコミュニティーカフェやこども食堂の立ち上げなどを行う。同年12月に株式会社コークッキングを創業。料理を通じたチームビルディングワークショップ等を、主に法人向けに展開。2017年からはサスティナブルな食の未来を切り拓くべく、日本初のフードロスに特化したシェアリングサービス「TABETE」の事業化に取り組む。