ITと新たな分野を掛け合わせた取り組みをご紹介する「IT×○○」。今回は、AIを活用して万引きを未然に防止するセキュリティーシステム「AIガードマン」を提供するアースアイズ株式会社の山内三郎社長にインタビュー。不審な行動を判定する仕組みや、万引きの未然防止に込められた想いを伺った。

AIカメラが万引きの前兆を捉えて即座に通知

―「AIガードマン」は、どのように万引きを未然に防止するのでしょうか?

AIカメラが来店者の移動距離や動きなどを3次元で認識・解析し、きょろきょろと周囲を見回したり商品棚の周りをうろうろしたりといった万引きの前兆となる動作を捉えて、即座に従業員のスマートフォンなどへ通知します。

映像をご覧いただくとわかると思いますが、AIは人間をシルエットのようにぼんやりとではなく、骨や関節の動きが分かる棒人間のような形に分解して捉えています。これにより動きを正確に把握し、万引き犯の行動パターンとの一致を判断しているんです。

そして、専用アプリで通知を受け取った従業員から、不審な来店者にお声がけをしていただくことで、万引きを思いとどまらせるという仕組みです。不審な動作の前後の状況を知りたい場合は、クラウド上に保存された映像データで確認することもできます。

画像: 画面に映っているのがAIガードマンで撮影した映像。人の動きを棒人間のような形で捉えている。

画面に映っているのがAIガードマンで撮影した映像。人の動きを棒人間のような形で捉えている。

―システムはもちろんのこと、声がけも大切なのですね。

システムが万引き犯を捕まえるわけではないので、「AIガードマン」とともに、お声がけによって万引き防止や顧客満足度向上を図るための従業員研修も提供しています。AIは判断を間違うこともありますし、きょろきょろしている来店者の中には単にお困りの方もいますから、従業員の皆さんには疑わずにお声がけしていただくようにお願いしています。

―AIにはどのように学習をさせているのですか?

一般にAIの判断は過程がわからないものですが、この「AIガードマン」は心理学や私自身が培った警備の知見から導いた仮説をベースに行動パターンなどを学習させているため、検証が可能です。検証結果をもとに注意すべき要素を新たに加えていくことで精度を向上させています。

また、AIが誤検知するパターンで特に多いのは、従業員を検知してしまうケースです。そのようなときは専用アプリの「従業員検知」ボタンをタップすれば、従業員の特徴を学習できるようにしています。

画像: 右のカメラが「AIガードマン」。従業員は、タップするだけという簡単な操作で済む。

右のカメラが「AIガードマン」。従業員は、タップするだけという簡単な操作で済む。

万引き被害は年間約4,600億円。事件後に動いても意味がない

―なぜAIを活用して小売業のセキュリティーに取り組まれるようになったのか、「AIガードマン」誕生の背景を教えてください。

富士通を退職後、広告代理店を経て、父が経営する小さな警備会社で万引きを捕捉する保安員の育成に取り組みました。その後、リテールサポートという会社を設立し、万引きを中心とした小売業のロス削減のコンサル事業を行う中で、それまでのノウハウをもとにシステム化できないかと考えたのが始まりです。

当初は「サブローくん」というソフトウエアをつくったのですが、市場に出回るハードウエアではスペックの問題で距離や動きまで捉えることができず、理想とする画像解析の水準には届きませんでした。そんな時にちょうどAI技術が広まったこともあり、AIを活用してより高度な解析ができるハードウエアを自社でつくろうと、アースアイズを立ち上げました。

―そもそも、小売業における万引き被害はどのくらい大きいのでしょうか?

小売業の売上に占めるロス率は万引きを含めて1%程度、そのうち万引きが5割前後を占めると言われています。小売市場は約130兆円ですから、およそ4,600億円が万引きの被害によるものということになります。特に書店など利益率が低い業態においては、利益とロスが同程度になってしまう可能性も十分にあります。

―いわゆる万引きGメンは万引き発生後に対処しますが、未然に防ぐことに注力する理由は?

何でもそうですが、事件後に動いても意味がないですし、保安員としても犯人を捕まえるのはすごく嫌なものなんですよ。小売店は犯人を捕まえたいのではなく万引きを減らしたいわけですから、そもそも万引きができない仕組みをつくることが大事だと思うんです。

画像: アースアイズ株式会社 代表取締役 山内 三郎さん

アースアイズ株式会社 代表取締役 山内 三郎さん

抑止はもちろん、万引きしないよう心を救う仕組みをつくりたい

―店舗にはどのくらいの間隔でカメラを設置しているのですか?導入店舗での万引き抑止効果はいかがでしょうか?

200坪、つまりコンビニの2~3倍程度の店舗であれば、だいたい7、8台ですね。カメラ画角は144度あり、約10メートル先まで監視することができます。

導入前は半年間で250~300万円のロスあった店舗で、ロス額が半減したというデータがあります。導入効果はきちんとお声がけを継続していただく限り続きます。効果を知って「こんなにやられていたのか」と驚かれるケースも多いですね。

どのカメラが何回検知したかをレポートするサービスも提供していて、カメラが10台あると、来店客数にもよりますが1日に10~15回くらいは検知されます。

―万引きGメンと比較した場合にAIが優れている点、逆にかなわない点があれば教えてください。

優れている点は365日ずっと稼働できるところですね。保安員は不審な人物を見つけるとその人の後をつけて監視し、もし万引きが発生したら店外まで目を離さずに捕捉します。でも、1日中見ていて1人も捕まえられないことのほうが多いんですよ。

逆に人間にかなわない点は愛情です。以前、ある保安員が高校生の万引き犯を捕まえて、その子の父親を店舗に呼び出すことになったのですが、その父親は我が子を怒ることなく自分の責任だと言って真摯に謝罪したんです。それを見た保安員は、「この子はもう二度と万引きをしないだろうな」と思ったそうなんですが、AIには人間が持つ「二度としてほしくない」という愛情はありません。

抑止はもちろんですが、万引きをしないように心を豊かにしたり、心を救ったり、そういう仕組みまでつくっていけるといいなと思いますね。

画像: 【IT×万引き防止】不審な行動を即キャッチ。アースアイズの万引き未然阻止へのこだわり(2019年10月8日号)

今後はストーカー対策、介護分野など他業界への展開も

―学習したデータをさらに活用する予定はありますか?

先ほど従業員の特徴を学習するという話をしましたが、その従業員がどこの売り場に多くいたか、品出しの時間はどの程度かかったかなどを分析し、効率的なスケジュール管理に活用することができると考えます。また、反対に来店客だけの動きを把握することもできるので、ヒートマップ化してマーケティングに活用することにも挑戦していきたいですね。

―「AIガードマン」の今後の展開について教えてください。

現在予定しているのは、アパレルショップでサイズ違いが欲しいなど従業員の助けが必要な来店者を不審行動とは別に通知できるようにする取り組みです。他にも、ストーカーなどの不審者対策への転用、介護分野でみまもりに活用するなど小売業以外の分野にも活用していきたいですね。

画像: プロフィール アースアイズ株式会社 代表取締役 山内 三郎(やまうち さぶろう) 早稲田大学を卒業後、富士通株式会社へ入社。同社退職後、広告代理店、警備会社を経てベンチャー企業的な活動を展開。各種ビジネスモデルコンテストで次々と入賞を果たした。2015年にアースアイズ株式会社を設立。人工知能(AI)搭載カメラを開発、人工知能(AI)による不審行動検知・分析を通じた万引き抑止サービスの構築に取り組む。近年は鳥取城北高校理事を務めるなどグローバルな視点で社会に適用する人材育成にも貢献。

プロフィール
アースアイズ株式会社 代表取締役
山内 三郎(やまうち さぶろう)
早稲田大学を卒業後、富士通株式会社へ入社。同社退職後、広告代理店、警備会社を経てベンチャー企業的な活動を展開。各種ビジネスモデルコンテストで次々と入賞を果たした。2015年にアースアイズ株式会社を設立。人工知能(AI)搭載カメラを開発、人工知能(AI)による不審行動検知・分析を通じた万引き抑止サービスの構築に取り組む。近年は鳥取城北高校理事を務めるなどグローバルな視点で社会に適用する人材育成にも貢献。

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