ITと新たな分野を掛け合わせた取り組みを紹介する「IT×○○」。今回はAR(Augmented Reality:拡張現実)の技術とゲーム/スポーツの要素を融合した「HADO」の開発者、株式会社meleap CEO・福田浩士さんにインタビュー。ARにエンターテインメント性を取り入れ、新たなスポーツ「テクノスポーツ」としてHADOを展開する福田さんに、開発の背景や今後の展望などを伺いました。
自分の人生を懸けたいと思えるもの
―「HADO」のイメージは、『ドラゴンボール』の「かめはめ波」って本当ですか。
『ドラゴンボール』だけではないですね。それ以外にも、「ハリー・ポッター」や一連のMARVELコミック・・・・例を挙げたらキリがないですが、映画やテレビに出てくるヒーローみたいにエネルギー弾を撃ち放つことができたらカッコいいじゃないですか。僕は子どもの頃、どうすればエネルギー弾を出せるのか考えて、「気」や「呼吸法」の勉強をしていました。
―子どもの頃から描いていた夢を実現できたわけですね。
もちろん、その夢だけをひたすら追い続けていたわけではないですよ。大学では建築学を専攻し、就職活動では当初、広告代理店を志望しました。マーケティングに興味を持っていたんです。自分の考えたストーリーや企画した場に集う人に、どんな体験を提供し、価値を感じてもらえるか。戦略を考えて実行するのが好きでした。
―HADOのイメージはいつ頃から考えるようになったのでしょうか。
起業を考えるようになってからです。大学の頃から、いつか自分で新しいビジネスを立ち上げたいと思っていて、社会人になってからもさまざまなビジネスコンテストに出ました。建築の知識を生かした不動産ビジネス、農業、ECなどさまざまなアイデアを提案したのですが、資金や人材を集めて立ち上げるには至りませんでした。「何が足りないのだろう」と悩んで気づいたのは、思い入れの弱さでした。この事業に一生を懸けてもいいと思えるだけの覚悟が足りなかったと感じています。自分の人生を懸けるに値するものは何か。どうせ挑戦するなら、誰もやったことがないことをやって、世界を驚かせるインパクトを与えたいと思うようになりました。僕は「身体拡張」といっているのですが、エネルギー弾を出したり、モンスターと戦ったり、そういったたいていの男の子が憧れているけど現実化はできなかったことをビジネスとして徹底的にやり抜こうと考えました。
ARとスポーツが融合した「テクノスポーツ」
―HADOが実現できると確信したのはいつ頃ですか。
2010年代前半くらいから「Google Glass」「オキュラス」などのヘッドマウントディスプレイや、マイクロソフトの「キネクト」のようなモーションキャプチャーなどが登場して、VR(Virtual Reality:仮想現実)やAR時代の幕が開けました。それまで数千万円も掛かっていた技術が数万円で実現できるこれらのテクノロジーを活用すれば、実現できると思えるようになりました。
―HADOを「テクノスポーツ」として展開されていますが、コンセプトはどのようにして生まれたのですか。
事業立ち上げ期のプロトタイプは人対人ではなく、プレーヤー数人でモンスターを倒す体験ができるというものでした。「スポーツにしてみたらどうか」という案は、あとから入社したCCOの本木のアイデアでした。みんなも身を乗り出してきて、そこからHADOのコンセプトが次第に今の形になっていきました。
―プレーヤーの位置情報を正確に把握するのが難しかったそうですね。
すべてが前例のないことなので、苦労するのは当然だと思っていました。壁にぶつかったら人に相談したり、アイデアを出し合ったりして1つずつ解決していくしかありません。プロトタイプをつくりながら関係者から意見をもらって、必要なピースをだんだん埋めていくようなやり方で進めました。技術的にプレーヤーの位置情報を把握する方法も、意見を出し合って、最終的にはARマーカーを使うことで実現しました。
―プロトタイプをつくり始めた頃の周囲の反応はどうでした?
最初は、「本当にそのアイデアは実現するのか」「ビジネスになるのか」と、よく聞かれました。まだ、誰も見たことがなかったですから。ただ、その中で最初に僕たちの提案を受け入れてくれたのが、長崎にあるハウステンボスの澤田秀雄社長でした。アトラクションの1つに採用してもらったのです。その後、ナムコさんからも声をかけてもらって、少しずつステップアップしていきました。
「HADOで人生が変わった」という参加者の声
―海外でも展開され人気が出ているようですね。
KDDIのスタートアップ支援プログラム「∞(無限)ラボ」に参加していたんです。その縁もあってKDDIさんから声がかかって、2015年から中国のジョイポリスで展開を始めました。その他にもFacebookでHADOについて投稿したところ、すごく拡散したんです。これが海外で火を付けるきっかけになりました。
現在、海外23カ国でフランチャイズ展開していて、150万人以上の人たちに楽しんでもらっています。世界中の人々にもっと楽しんでもらいたいですね。
―海外でも通用するコンテンツだと思われる理由を教えてください。
魔法や技を放ちたいという想いが万国共通だから、どこの国でも評価してもらっており、一緒に事業展開したいというパートナー企業も徐々に増えています。直感的で迫力のあるこの新しいユーザー体験に、さまざまな可能性を感じてくれているのではないかと思います。
―HADOはどんな層に人気がありますか。
20代の社会人や学生などですね。3対3のチーム戦で定期的にHADOの大会を開催しています。サークルをつくって腕を磨いて出場する人たちもいます。その中には、試合で勝利するために真剣に取り組んでいる人もいます。チームで戦った参加者の1人が「私はHADOを通じて人生がすごく変わりました!」とまで話していたのを聞いたときは、すごくうれしかったですね。
観戦者も楽しめる仕組みをつくる
目指しているのは、HADOを「サッカーを超える人気スポーツ」にすることです。サッカーは世界最大のスポーツですよね。それを超える。そのためには観客が楽しめるような仕組みが必要です。
これまでのスポーツと異なる点として、地域リーグがなくても、広いスタジアムがなくても、試合に出場したり応援したりできる柔軟性を大切にしたいです。これまでスポーツに興味が持てなかった人も楽しめ、応援できるようなジャンルを目指します。
―いつか、ARの種目を集めた五輪が開催されたら面白いかもしれませんね。
ええ、それも考えています。ただ、この感動が4年に1度ではもの足りない気もしています。また、プロリーグのようなものが生まれてもいいですね。
2019年6月に「HADO BEASTCOLOSSEUM」第2回大会を予定しています。第1回大会では、アスリートタレントのケイン・コスギさんが挑戦者として参加してくれました。
―ハイレベルなパフォーマンスを期待して観戦する人がたくさん集まれば、新たなマーケットも生まれそうですね。
HADOはどんな人でも参加・観戦できるようにしたいと思っています。技術的には、どのようなAR環境でも使えるマルチプラットフォーム対応が必要になりそうです。強いて言えばハードウエアのスペックがもっと向上してほしいと感じています。やりたいことは、まだまだたくさんあるので。
試合も遠隔地同士で戦えるようになると、もっと盛り上がると思うんです。アメリカにいる人と日本にいる人がバトルする。それが実現するには、技術的に見てもあと3年くらいはかかるのではないかと考えています。