急激な変化を遂げた街・豊洲。ユニアデックスの社屋があるこの土地を、もっと見たい、知りたい!豊洲で働く人、豊洲に関わりのある人にフォーカスして、仕事現場を訪ねます。
子どもたちが思わず笑顔で手を振る愛らしい車体の「スカイダック」。国内でもまだ珍しい水陸両用のバスで、豊洲を陸と海から楽しめるツアーがあります。その名も、豊洲・東京Viewコース(約80分)。東京テレポート駅前でバスに乗車、まずは陸路で台場を抜け、建設ラッシュが続く有明地区へ進みます。豊洲市場を通過した後、公園脇にあるスロープからいざ海へスプラッシュ。バスから船へ一気に変身。ここからは、潮風を受けながら普段見ることのない海側からの豊洲市場、近代的なビル群の風景を楽しめます。
新連載「トヨスの人」第1回は、「スカイダック」のドライバー兼キャプテン市原伸泰さんにインタビュー。
市原さん この仕事をやっていて一番楽しいのが、入水の時でしょうかね。皆さんの“キャー”が聞きたいんです。やっぱり乗客の方が少ないと、“キャー”があまり聞けないんでね、満席の方がいいですね。それに車体が重くなる分、水しぶきも上がりやすくなるんです。
実は私、スカイダックの乗務はまだ1年半くらいなんです。4年ほど前に日の丸自動車興業に入社しました。前職は、人材派遣会社。全く違う業種ですよね。40歳になった時に、定年まであと20年、このまま仕事を続けるのはどうなんだろうって思いまして。スタッフが派遣先でミスをしたり辞めたりすると、自分は常に謝らなくちゃいけない立場だったんですね。感謝されることも、そりゃあありましたけど、謝ることが多かった。ありがとうって言ってもらえるような仕事がいいなあと思って、バスの運転手がいいかなって。もともと、車は好きでしたしね。
大学時代は体育会の自動車部に入っていたんです。そう、自動車部っていうのがあるんですよ。広い駐車場みたいなところにパイロンを置いてコースを作って、タイムを競うジムカーナっていう競技をやっていました。
バス会社はいろいろありますけど、スカイバスやスカイダックっていう変わったことをやっている日の丸自動車興業は面白い会社だなあと思ったんです。ただ、自分がスカイダックに乗るなんてこれっぽっちも考えなかったですね。大型二種免許は転職前に取りましたけど、船の免許は持っていませんでしたから。
バスの運転手として入社して、最初は東京駅周辺を巡回する無料シャトルバスを運転しました。車体の大きさに慣れるまでは必死でしたね。2年くらいして、スカイダックをやってみないかって声をかけてもらったんです。会社が面倒を見てくれて1級小型船舶操縦士の資格を取ったんです。教習艇は、4人乗りの小型ボートでした。船はそれまで乗った経験がなかったんですけど、いざ操縦したら面白かったですね。ただスカイダックとは全然違いますからね。その後、社内でスカイダックの研修です。
初めて、スカイダックに乗った日のことですか? 海に入る瞬間……こう、歯を食いしばるっていうんですかね、もう、どうにでもなれって覚悟を決めた感じでしたね。陸を運転する時、ダックは普通のバスよりもずっと目線が高いんです。乗客の皆さんには見晴らしがいいと思います。ただ運転席からは下の方が見えにくいので、最初は怖かったです。それもあって、ダックは必ず助手席にもう1人ドライバーが乗る2人体制が決まりなんです。交差点や人がいる場所は、4つの目で確認しながらすごく気を使いますね。
入水の時は、スロープの手前で態勢を整えて、一気に海に入ります。40㎞くらい速度が出ているでしょうか。のろのろでは、水しぶきも上がらなくてお客さんも楽しめないので。それに、ゆっくり入水してしまうと、船になってからすぐに流されちゃうこともあるんです。前のタイヤが水の中に入ると、ハンドルが利かなくなります。でもまだ後ろのタイヤがスロープについた状態だと、後ろのかじは利きませんから流されていくんですね。
スロープの両側に目印のポールが立っていましたよね。勢いよく水に入ってポールを抜けないと、流されてポールに当たってしまうわけです。豊洲コースは、スロープのある入水場所がお堀みたいになっていて、左右にビルが建っているおかげで、横風が吹かないんです。おかげで、特に問題なく入水できる。それに比べると、近くのルートなんですけど、お台場コースの場合は、入水場所の周りにビルがなくてそのまま海なもんだから、風が強いし流れも速い。つまり流されやすいので、早くかじとスクリューが利く状態にしたいんです。横風が強いと、水しぶきが前からじゃなくて右や左の窓からバシャッと入りますしね。夏は窓全開なので、「濡れますよ」ってお客さんには前もって伝えます。まあ、それもお楽しみですかね。
今日の豊洲コースは、行きは豊洲市場を眺めながら運河を進んで、レインボーブリッジが見える開けた場所で回り込んで、帰りは有明地区側の裏ルートで帰りました。このルートは、事前に潮汐表を見て決めるんです。海ですから、干満の差があるんですね。スカイダックはタイヤがそのままの状態で水中に入っていますから、普通の船よりも水深が必要なんです。地形的に浅瀬の有明地区側を通るには、残念ながら干潮の時には無理なんです。今ちょうど、有明の体操競技場やアリーナの建設の様子が海側からよく見えますね。豊洲市場も、オープン当初はものすごい混雑でしたけど、海側からだとそういうのを感じなくて。なんだか優雅な気分で眺めていました。この辺は常に進化していて、面白い場所ですよね。
上陸する時は、入水よりも断然難しいんです。またお台場コースの話になりますけど、あっちは流れと風が強いせいで、スロープに入る時に車体が斜めになっていることがあるんです。本当は真っすぐ入りたいところですけど、風で流されちゃうのでかじを切りながら斜めの態勢でスロープに入るわけです。タイヤが地面についたら態勢を真っすぐにしなくちゃいけない。これは大変です。
豊洲コースの場合は、さっきも言いましたけど前と後ろからの風ですからいいんです。ただ、スロープにどうしてもコケ(苔)が生えやすいんですね。折をみて取ってはいるんですけど、干潮時にアクセルを吹かした時に滑りやすくなるんです。そうならないためにも、上陸の時もスクリュー全開でスピードを上げてスロープに向かってきて、前のタイヤが地面につくタイミングで、アクセルを踏むのがベストです。前のタイヤがつくとき、“タン”って振動があるので、このタイミングです。タン、タンって、後ろのタイヤまでついてからアクセルを踏むのは遅いんですよ。動力がうまく伝わらなくて、上るのも大変だし、お客さんがガクッとなる。しかも、空回りする場合があります。そうしたら、焦らずバックでもう1度海まで戻って、再度勢いをつけてやり直しです。
スカイダックには車用、船用のエンジンが2つ付いていて、船の時には車のエンジンを切らずに、アイドリング状態にしておくんです。ギアはニュートラル。陸に着いて、ギアをドライブにしてアクセルを踏めば、そこからはバスです。特に船とバスのモードを切り替えるボタンとか操作っていうのはないんです。
ダックはどこを走っていても目立つんで、子どもたちがニコニコしながら手を振ってくれるんですよ。こっちも手を振り返したりしてね。ああ、そうです。人に喜ばれる仕事、笑顔を見られる仕事につながっちゃいましたよね。
【トヨスのグッとポイント】
スカイダックの取材時にグッときたポイントを紹介します。
<水陸両用バス スカイダック台場 豊洲・東京Viewコース>
運行期間:木・金・土曜日のみ運行(天候や海の状況により運休あり)
出発場所:東京テレポート駅発(お台場)
所要時間:約80分
写真:阿部了 文:阿部直美
関連サイト
「トヨスの人」第2回:昭和天皇の布団を作った職人 (2019年4月16日号)
「トヨスの人」第3回:豊洲みつばちプロジェクトの発起人(2019年7月9日号)
「トヨスの人」第4回:「ギソクの図書館」で、義足ユーザーとともに走る義肢装具士(2019年9月10日号)
スカイダックの着水から上陸の様子を2分40秒の動画でご覧いただけます。
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