ITに異なる何かを掛け合わせた画期的な取り組みをご紹介する「IT×○○」。今回は、「ひとり家電メーカー」として注目を浴び、革新的な機能とデザイン性を備えたプロダクトを世に送り出してきたビーサイズ株式会社の八木 啓太社長にインタビューした。デザインから設計までも手掛ける八木社長に、2017年4月に発売されたみまもりロボット「GPS BoT」のことや、ものづくりに込めた想いを伺った。
モノづくりの原点は、誰かの課題を解決すること
―「GPS BoT」は、ランドセルに入れておくだけでAIが子どもを見守ってくれるという、シンプルで親思い・子思いの製品ですね。
モノづくりをするうえでは、「具体的にイメージできる誰かのためにつくる」ということが原点となっているんです。「GPS BoT」で言えば、子を授かった自分自身や、子どもが大きくなってきた友人たちのため。目の届かない場所にいても、子どもが安全で健やかであってほしいという願い、ひいては社会課題への具体的なソリューションとして、製品が生まれました。
―日常に潜む課題を解決しようとするところから、製品が生まれているんですね。
「誰もがうすうす感づいていながら妥協していること」はいつも製品開発のヒントにしています。私も日頃から自分が不満に思うことを忘れないよう書き留めていて、同様に面白い・優れた技術についても書き留めています。こうしてできた自分の中のストックから、あるとき「この課題は、この技術を活用すればシンプルに解決できるな」と気づくんです。この課題と技術という2つの要素を結ぶところでデザインの力は重要だと思います。
モノをつくらないでソリューションにならないかと思っているんです
―ご自身で製品デザインも手掛けられていますが、デザインに対する思い入れが強くなったきっかけは?
高校生の頃、父に買ってもらったアップルの初代iMacに衝撃を受けたのがきっかけです。iMacを通じてインターネットに触れたことも大きかったのですが、それも含めてiMacの個性のようで惹かれました。使っているうちに、「こういうかっこよくてワクワクする製品をつくってみたい」と思いが募り、その要素のひとつとしてデザインに興味を持ち始めました。
―デザインを独学しようと思われたのは、どのような理由からでしょうか?
自分が興味を持つ製品を要素分解して考えてみたことがあるのですが、iMacやダイソンの掃除機、バング&オルフセンのオーディオ機器など、いずれもデザインが美しいこと、テクノロジーが優れていること、世の中への貢献性があることの3つの要素いずれかを満たしていました。そういった製品をつくるためにはデザインだけでなくテクノロジーも学ぶ必要があったのですが、両方を同時に学ぶ場がありませんでした。そこで、大学では電子工学を専攻し、デザインは独学することにしたんです。
独学の一番の教科書は実際の製品でした。優れた製品がなぜ優れているのかを深く考えるうちに、その創り手と対話し、教えを請うているような感覚になります。会ったこともない設計者やデザイナーの設計思想をトレースすることで、開発の背景や想い、考え方が伝わってくるようでした。
「GPS BoT」だけでなく、デスクライト「STROKE」や充電器「REST」も非常に無駄のないデザインですね。どのようなこだわりがあるのでしょうか?
極力、モノをつくらないでソリューションにならないかと思っているんです。たとえばデスクライトを買う人は、読み物を明るくして読みたいのであって、デスクライトというハードウエアが欲しいわけではないですよね。究極的には光さえあればいい。必要以上のものがついていたら、かえって邪魔になってしまうわけです。
そう考えて余計なものを削ぎ落としていった結果、「STROKE」はパイプ一本曲げただけという形に行きつき、「REST」はベッドサイドに溶け込む木の質感を活かしたデザインになりました。究極的には、モノをつくらなくてもユーザーの課題が解決できるなら資源を使うこともありませんよね。
「ひとり家電メーカー」からプロフェッショナル集団へと進化
―八木社長は「ひとり家電メーカー」と呼ばれていますが、どのようにしてひとりでモノづくりを可能にされたのでしょうか?
かつては「メーカー」と聞くと大企業しか思い浮かばないような時代でしたが、いまや “ITやモジュール化”に伴って、パソコン1台あれば製品開発ができるまでになっています。何百万円もした3D-CADのソフトウエアが、無料で使えるようになったり、3Dプリンターもしかりで、試作品が作りやすくなった。インターネットを使えば、独自設計のプリント基板でもすぐ届く。こうした安く簡便な仕組みを活用し、デザイン力と技術力を組み合わせることでやっていけると考えました。
実際、「STROKE」を開発した際には、土日を使って自宅のパソコンで開発しました。富士フイルム在籍中に「手術灯にどうか?」と、正しい色味が出て手元に影ができにくいLEDをメーカーさんから紹介され、自分で使うんだったらデスクライトにしたいと考えたのがきっかけです。
―現在は社員を増やされていますね?
いま当社には私も含めて10名が在籍しています。もっと世の中にインパクトを与えるような製品やサービスをリリースしていきたいとビジョンも拡大してきたため、ケイパビリティーを高めるプロフェッショナルなメンバーが参画してくれています。
おかげで、製品だけでなくシステムとしてソリューションをつくれるように会社が成長してきています。特に、「GPS BoT」をはじめとするセルラーIoT製品は、無線技術やサーバーサイド、スマートフォン、セルラー回線など多岐にわたる技術を横断的に活用しているので、到底ひとりでは実現できません。
IoTサービスを起点に、モノづくりからコトづくりへ
―今後の展望について教えてください
当社はデザインとテクノロジーを活用して、世に貢献することをミッションとしています。今後は人感センサーを用いた屋内みまもり製品など、ハードウエアを起点とするAI/IoTサービスをつくり、生活インフラ、社会インフラに広げていくことを視野に入れています。
AI/IoTサービスの開発に力を入れるのは、これまでの家電の提供価値をブレイクスルーできると思うからです。衣食住といった物質的豊かさを超えて、人々が、自分らしく、そう在りたい人生を生きるという究極の命題に貢献したいと考えています。
たとえば、天気予報で雨だとわかっていれば、ずぶ濡れにならずに傘を持って自由に行動できますよね。同じように、BoTがパーソナルな未来予報をもたらすことで、人は人生をドライブし、自分らしく生きられる。人生の歩む道を決めるのはあくまで人ですが、BoTはコンパスとしてその冒険の手助けをしたいと思っているんです。
―モノをつくらないでソリューションをつくる。人生の課題を解決するコトづくりにまで足を踏み入れる。そうしたコンセプトは、大手も真似してくるのではないですか?
本来そうあるべきで、それが広がってほしいと思っています。ただ、前提となるビジネスモデルから異なるので簡単ではありません。ソフトウェアの世界ではリカーリング(収益循環)型のビジネスモデルへの転換に成功し、その方向に向かう企業も増えました。一方で、家電メーカーがその転換を果たすのは、さらに難しい。既存の自社収益モデルを脅かして、それができるか問われています。言い換えれば、我々のようなベンチャーが時代をリードし、市場を創出する役割を担わなければならない。今このチームなら、僕たちはそれを成し遂げられると確信しています。
【関連サイト】
http://www.bsize.com/stroke/?page=flow
LEDデスクライト「STROKE」のパイプの曲げの様子/塗装の様子なども動画で紹介されていて興味深い。