ユニアデックスが20回目の設立記念日を迎えたことを記念して、作家、演出家、画家である大宮エリーさんにエッセイを執筆いただき、「NexTalk」にてご紹介しています。テーマは「20にまつわるエトセトラ」、全3篇でお届けしてきた今回、最終篇をご紹介します。

7年目のとある瞬間

さて、 今回は20のうちの2と4について書きたいと思います。

会社を辞めたのは30歳のとき。それは独立とかそういった華々しいものではなく、居られなくなっただけなのだ。何が起こったのかというと、ホワイトボードに行き先を書くのがそもそも好きではなかったとか、出張申請書を出すのが苦手、とか、そういうこまごました自分の苦手意識に気づいてしまったたことが理由である。

大きな理由よりも、こういう小さな、感覚的な嫌悪感のほうがタチが悪い。

いままでは、「会社とはこういうものなのだ」だとか、「みんなやってることだし自分も努力して頑張ろう」と思っていたのが、ふとした7年目のとある瞬間気づいてしまった。「あ、やっぱ、すごくストレスだ」と。
どうして会社から命令されていく出張なのに、わざわざ出張申請書なる書類を出さないといけないの?とか。出すのを忘れて行ってしまうとすごく怒られる。嫌だなと思ってやっているから、つい不備も出てきて、新神戸までの新幹線の金額を、1580円と書いてしまった。0をひとつ付け忘れたのね。付けといてあげよう、ってわけにはいかない。会社だし、怒られる。本気で悪いと思っているし、謝る。

でも、同じ間違いを繰り返す。
すると、こいつは反省してないんじゃないかと思われ、もっとこっぴどく怒られる。「なぜ、大宮さんは、みんなが出来てることができないのぉーーー!!」

まったくだ。どうしてできないのだろう。でも反省していないからではなく、苦手分野って人にはあるのだ。気持ちはあるしみんなと同じようにびしっとやりたいのだけれど、どうも苦手である。

で、ふと思った。ここに居ちゃいけないのかな。なんども再提出の書類が回ってくるたびにサインをしなくてはいけない部長が言った。「組織むいてないんじゃないの?」と。それで、「あ、そうなのかも。辞めたほうがいいかな」となったのだ。

画像: 7年目のとある瞬間

結局自分の中に残ったもの

さて、計画なく辞めたから大変。フリーというよりフリーター。ハローワークにも行った。そこで困ったのがまったくどうしていいかわからないので、とりあえず独立されている方にお話を聞いてみた。

「事務所を構えるといいよ」なるほど。事務所を開いてまた他の人にも聞いてみた。

「とにかく経費を抑えるほうがいいよ」たしかに、コピー機を買わずにリースにして経費削減。
それでも結構かかるのだ。バイク便も会社員時代はバンバン使っていたが、その金額の高さに、自分でチャリンコで届けた。「通りがかったんですか?」と言われ、ちがうけれど、「そうです」と言った。これぞ自転車操業と苦笑しながら帰ったものだ。

そのうち、大宮が急に会社を辞めて途方に暮れているという噂をききつけて、仕事をしていた著名な写真家さんが電話をくれた。

「プロかアマかはお金をもらえるかどうか。お金は大事。安くやっちゃだめだよ」
ピンとこなかった。

だけど、そののち、会社でやっていた仕事を、辞めてからも継続してほしいと依頼が古巣から。元々のチームにとっては、私の人件費は今までかからなかったのに、これから外注として経費がかさむではないか、と思ったのだろうが、提示された金額が、えっ、という金額だった。これでは食っていけないと悩んだ。でもせっかくだからやりたいし、どうしたらいいんだろう。

そこで、フリーの先輩に聞いてみた。
「安すぎるよ、こんくらいは言っていい」と相場を教えてくれる。
「大宮だったらこんくらいじゃないか」と、私の独立経験の浅さも踏まえて違う人は言ってくれた。

でもなぁ、言いづらいなあ。もう一人聞いてみた。
「営業部署がなんとかしてくれるから心配しなくて大丈夫」
そうなんだ。。。聞いてみないとわからないものだ。最後に聞いた方はこう言った。
「低すぎる金額で引き受けると、そのままずっと続くよ。暮らしていけないよ。言っとくけどその金額は、ファーストフードのバイトより時給安いからな」
えっ。

その4人目のフリーの先輩の言葉がヒントになった。もちろん、4人とも金額について安いというから、それも確信になった。で、元上司にお願いしをしたのである。「あのう、これ、これだけの期間の仕事でだいたいこれだけの時間がかかるから、それで、時給計算したら、ファーストフードよりも安いんです」実際に計算をして見せた。「だから、ファーストフードの仕事します」と言った。実際お金に困っていた。すると、元上司も、「あら、そうか、、」と納得してくれて、私は独立デビューを名実ともに果たしたのであった。
金額だけではなくて何事も、色んな人の意見を聞くと、そこにヒントがあったり、逆に自分の気持ちがわかったり。
いまもわからないと、すぐに電話して教えを乞う、フリー11年目の新人なのであった。

画像: 結局自分の中に残ったもの
画像: プロフィール 大宮 エリー 作家、演出家、画家。 主な著書は、『生きるコント』(文春文庫)、失笑エッセイ『なんとか生きてますッ 』(毎日新聞出版)、心の洗濯ができる写真集「見えないものが教えてくれたこと」(毎日新聞出版)。 現在、「サンデー毎日」にて連載を担当。 また、近年では画家としても活動。昨年は十和田市現代美術館にて美術館での初の個展「シンシアリー・ユアーズ」を開催。4月には金津創作の森にて個展を開催。

プロフィール
大宮 エリー
作家、演出家、画家。
主な著書は、『生きるコント』(文春文庫)、失笑エッセイ『なんとか生きてますッ 』(毎日新聞出版)、心の洗濯ができる写真集「見えないものが教えてくれたこと」(毎日新聞出版)。
現在、「サンデー毎日」にて連載を担当。
また、近年では画家としても活動。昨年は十和田市現代美術館にて美術館での初の個展「シンシアリー・ユアーズ」を開催。4月には金津創作の森にて個展を開催。

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