とにかく「カワイイ!」を目指した
―リモノのコロンとしたフォルム、カワイイですね。しかも、ボディーは布製で柔らかい!
伊藤 徹底的に「カワイイ!」を目指しました。多くの車は「カッコいい=先鋭化」を目指してきましたが、「カワイイ」なら、車に興味がない人にも受け入れてもらえます。デザインは妥協せず、途中で、「やっぱりかわいくないわ、コレ」ということで、やり直したりもしました。外装の布は着せ替えられます。
―まるで着せ替えができるぬいぐるみですね。サイズはどれぐらいですか。
伊藤 全幅1×全高1.3×全長2.2mで普通の自動車の半分以下です。大人2人、または大人1人と子ども2人が乗れます。
―まさに、“小さくて柔らかくてカワイイ!”ですね。ちゃんと走れるのですよね。
伊藤 欧州の超小型モビリティ規格「L6e」*を参考に、最高時速45kmに設定しました。ただ、今の日本では2人乗りの車両を市販できる制度がなく、国土交通省の超小型モビリティ認定制度という地域限定での実証実験の制度のみであるため、このままでは公道走行できる車両を市販することができません。
*L6e規格は、欧州の「車両重量350kg以下、設計最高速度45km/h以下、最大連続定格出力4kW以下、定員2名」という超小型モビリティ規格で、14歳以上であれば原付免許で運転可能。
「面白そうなこと」に企業が集まり、オープンイノベーションが実現
―伊藤さんは経済産業省の官僚として15年間勤務されていたと伺いました。なぜ、退職して起業しようと思われたのですか。
伊藤 1999年に経産省に入省し、次世代自動車用バッテリーの研究開発プロジェクト、スマートグリッド構想など、数々の国家プロジェクトの立ち上げに携わってきました。ただ、国家プロジェクトの意義に疑問を持ち始めたのです。イノベーティブな構想を盛り込んでも、ビジネスの世界に波及しないんですよね。
―なるほど。国家プロジェクトを立ち上げても、産業界に影響を与えているという実感が持てなかったということですね。
伊藤 役所は人事異動が2~3年のサイクルで繰り返されるため、自分がハンズオンでプロジェクトに携われないというジレンマもありました。そんな時に、たまたまテレビで目にしたのが、根津がデザインした電動バイク「zecOO(ゼクウ)」でした。「個人でもこんなものを作れるのか」と衝撃を受けて、根津に会いに行ったのです。
―そして、2人で起業して車づくりをすることになり、経産省を退職されたのですね。協力会社として、三井化学、帝人フロンティア、ローランドなどの大手メーカーの名前が並んでいますが、伊藤さんや根津さんがアプローチしたのでしょうか。
伊藤 もちろん、いろんな企業にコンタクトを取りましたが、今ご協力いただいている企業は、先方から「何かできることはないか」と声をかけてもらったところがほとんどです。「一緒にモノづくりをしたい」という人が集まって自発的に生まれたプロジェクトです。そういう気持ちを持った人は、きっかけがあればなぜか自然と集まってくるものなんですね。
―大企業を巻き込んでのオープンイノベーションが実現したわけですね。
伊藤 日本にはあらゆる分野で秀でた企業が集まっているのに、それぞれの壁の中で完結するのはもったいないですよね。とはいえ、いくら国家が「産業の壁を乗り越えて」と呼びかけても、やる気のない人は動きません。「何か面白いことをやりたい」という意欲のある人が集まると、壁は乗り越えられるし、革新的なモノができあがっていく。それぞれのスペシャリストが集まって、議論を重ねながらモノを作り上げていく現場は、楽しかったですね。
“乗りモノ”から“No”をなくし、歩行者と共存できる車を
―「rimOnO(リモノ)」は、“乗りモノ”から“No”をなくそうという思いでネーミングされたそうですが、乗りモノの“No”とは、例えば何でしょう。
根津 これまでの車は、強い人がより強くなるためのもので、弱い人を助ける仕組みになっていません。威圧感がある、高齢者には乗りづらい、細い道を走りにくいなど、車の当たり前と思われていることにも、実は“No”があるのではないかと思ったのです。“No”をなくし、歩行者と共存できる車を考えたときに、小さい、軽い、柔らかい、速度が出ない、という特徴が浮かび上がりました。
―ボディーを布にしたのも、歩行者と共存できる安全な車という発想ですか。
伊藤 安全性を考えるときは、「車は事故のときに乗っている人が守られるように頑丈に」という自分本位の視点で語られることが多いですが、加害者になる可能性もあるわけです。そのときに、与えるダメージを少なくしようというコンセプトです。
―高齢者の自動車事故が話題になっていますが、高齢者でも安心して乗れそうですね。
伊藤 実際、「家族から車の運転を反対されているので」など、年配の方からたくさん問い合わせを頂いています。移動をしないと体がすぐに衰えてしまうともいわれており、販売を待ちわびる声が予想以上に多いですね。
みんなが幸せに移動できる社会に
―日本で超小型モビリティを実用化するにはどうしたらいいのでしょうか。
根津 高齢者の運転については、ゼロか100ではなく、「自動車の免許は返納を促すが、超小型モビリティの運転だけは許可する」というグレーの解決策があればいいのに、と思っています。
「速度の遅い車が混走すると、邪魔だ」という声もあります。ただ、地方などの生活道路では走ってもいい「分走」という発想を持ってもいいと思います。柔軟性を持って、お互いに譲り合い、みんなが幸せに移動できる社会になるといいですね。
―今後リモノでどんなことをしていきたいですか。
伊藤 今後も業界や組織の壁を越えて面白いモノを作っていきたいですね。人とより自然に寄り添い、共存できるモノでなくては。日本人として、家電でもなんでも、日本らしさを出したいですね。
根津 モノづくりは、モノで完結しちゃいけないと思うのです。モノをモノとして消費せず、モノの中に“人格”を見いだして大事にされるモノを作りたい。“経年美化”といいますが、使うほどに愛着が湧くようなモノですね。また、モノづくりをグッと我慢して街づくりをするという考えも持っていきたいです。
―ユニアデックスはロボット事業も推進していますが、担当者が「かまってあげないといけないロボットの方が愛着が湧く」(*)と言っていました。リモノのモノづくりと通じるものがありますね。次はどんなモノが生まれるか、楽しみにしています。ありがとうございました。
(*)“ひとりでできないもん”と、かまってあげないと何もできない<弱いロボット>を研究されている、豊橋技術科学大学の岡田美智男教授にインタビューすることができました。
そのインタビュー模様はこちらから。http://nextalk-uniadex.com/_ct/17053683