ITと新たな分野を掛け合わせた取り組みをご紹介する「IT×○○」。今回は、ユーザーの嗜好に合わせたおやつの定期便が届くサブスクリプションサービス「snaq.me(スナックミー)」を提供する株式会社スナックミーの服部慎太郎社長にインタビュー。おやつをパーソナライズする仕組みや、ユーザーの声を反映した独自の商品開発について話を伺った。
「おやつ診断」をもとに1,000億通り以上の商品の中からパーソナライズ
― 好みに合わせたおやつのボックスが届くのは、ワクワク感がありますね。どのようにパーソナライズしているのですか?
自社開発したシステムを用いて、ユーザーの好みを分析しています。たとえばAmazonには、同じ商品を買った人が購入している他の商品をおすすめする仕組みがありますよね。それに近いイメージです。
まずは、ご購入前に「おやつ診断」という約1分間のクイズに回答いただき、そこでユーザーの大まかな好みを把握しています。初回はその結果をもとにセレクトしたおやつをお送りし、2回目以降はお届けしたおやつに対するフィードバックをもとに嫌いなもの、カラダにあわないものを省いていくことで、より好みに近づけるというロジックです。
― 「おやつ診断」というのは面白いですね。
みなさん楽しんで回答してくださっているようです。当初周囲からは、クイズを挟むことでサイトから離脱してしまう人が多いのではないかと言われていたのですが、やってみたら真逆の結果になりました。クイズをしっかり作れば作るほど、購入にいたる方が多かったんですよ。
― おやつの組み合わせは何通りあるのですか?
100種以上のおやつから毎回8種類をセレクトしているため、そのパターンは1,000億通り以上になります。また、毎月そのうちの10~20%を入れ替えていますので、2週間または4週間に1回お届けしていても、同じ組み合わせが届くことはほぼありません。
IT企業的な発想を取り入れ、短期間で商品開発のサイクルを回す
― おやつの世界にITを持ち込むという発想はどこから?
以前、DeNAでベンチャー投資を担当していた頃、海外の事例を調査する中で、アメリカなどからレガシーな産業とITのベンチャー企業が組んでビジネスを始めていることを知りました。「食」もその一つで、IT企業出身者がアイスクリーム屋を始めるケースなどもありました。
僕はもともとお菓子が好きでよく食べていましたし、娘が生まれてからは食品の原材料にまで目を向けるようになっていました。それで、起業のテーマを決める際、マルシェや道の駅などで売られているような原材料のわかるおやつにITを組み合わせるのも面白いかもしれないと考えたんです。
― 海外の事例では、IT企業の文化が加わったことでどのような変化が起きていたのですか?
商品開発にもネットサービス的な手法が用いられるようになりました。まずは商品を世に出してみて、そこからブラッシュアップする。従来の企業のように数カ月かけてマーケティング計画を立て、マス広告で打ち出すというのではなく、小さく早く回して改善していくんです。
当社も道の駅に卸しているようなメーカー数十社と共同で商品開発を行っていますが、商品開発に何カ月もかけたり、社内で試食会をしたりということはあまり行わず、短期間で新商品をお届けしています。Webの世界で用いられるA/Bテストのように、お客さまに直接評価していただいたほうが効率がいいからです。
― ところで、ユーザーは好みを選ぶだけで、自社でおやつをセレクトする理由は?
いろいろと試してみたのですが、数多くの選択肢からユーザー自身が毎回8種類を選ぶのは大変ですし、ユーザーと対話してみると、“何が届くかわからないワクワク感”を評価されている方が多かったからです。
また、このサービスを通じて、自分では選ばないような新しいおやつとの出会いを体験していただきたいという思いもあって。ある程度は、まだ好みかどうかわからないおやつもセレクトするようにしているんです。当社が厳選したドライパイナップルを召し上がって、「ドライフルーツは苦手だと思っていたけど、めちゃくちゃ好きでした」という声をいただいたこともあります。
LINEを通じたユーザーとの対話も、即サービス改善のヒントに
― お客さまの声に常に耳を傾けていますね。サービスに対するフィードバックは、どのように受け付けているのでしょうか?
お届けしたおやつの評価は、「snaq.me」のマイページから送れるようになっています。4段階の点数評価のほか、食べてみて苦手だった原材料が選択できたり、フリーアンサー欄に以前食べておいしかったおやつのリクエストを書いたりということも可能です。
LINEを通じたカスタマーサポートも実施していて、「これおいしかったです」とスタンプを添えてコメントいただくなど、カジュアルなコミュニケーションも行っています。お客さまと直接つながり、いただいた生の声を活かしていくことが我々のサービスの軸であると考えています。
― お客さまとスタンプで会話ですか!一般的なお客さま窓口と比較すると、意見が言いやすそうですね。
意見の言いやすさはもちろん、反映のされやすさにも違いが出ていると思います。当社の場合はご意見をいただくと、すぐに試してみますので。
また、通常、グループインタビューなどを行うと、どうしても謝礼などによるバイアスがかかってしまいますが、当社のお客さまは次に届くボックスをより良くするために率直なフィードバックをくださる。嘘のないデータを使って商品やサービスをブラッシュアップできるのは強みですね。
― おやつに対するお客さまからの感想は?
当初は、「意外においしいですね」って言われました(笑)。人工添加物、白砂糖、ショートニング不使用で、原材料のわかるリアルフードというと、味がなくパサパサとしたクッキーなどをイメージされるようで。
リアルフードからできたおやつは、噛めば噛むほどに味が出ます。我慢して体に良いものを食べるのではなく、ちょっといいおやつをご褒美として食べていくうちに、素材や成分にも目が向くようになっていただきたいというのが我々の願いです。
おやつの時間の価値を高めたい。目指すはネット発のおやつメーカー
― 最後に今後の展望について教えてください。
当社が目指しているのはEC企業ではなく、新しい形のおやつメーカーです。食品業界は長い歴史を持ち、すばらしいメーカーも数多く存在する業界。そうした中において、ネット発の新たなメーカーとしてのポジションを築くことを目標に掲げています。売り上げ規模で並ぶのは相当難しいですが、カルビーがグラノーラ市場をつくったように、新たな市場を開拓することで伸びていければと考えています。
そして、おやつメーカーとして我々が提供するのはおやつではなく、おやつの時間です。「snaq.me」のボックスは1箱が1980円、中に入っている1パックあたりの価格は250円とコンビニのお菓子と比べると安くはありません。ですが、おやつそのものだけでなく、この「おやつのボックスが届く生活」にいかに価値を感じてもらえるか、ITを活用したモノのサービス化に挑戦していきます。