ITと新たな分野を掛け合わせた取り組みをご紹介する「IT×○○」。今回は、静岡県でキュウリ農家を営みながら、AIを活用した農作業の自動化に取り組む小池誠さんにインタビュー。家業を継いだ小池さんが、自作のシステムでキュウリ農業の自動化を目指す理由とは?キュウリ仕分けAIが稼働する作業場を訪れ、話を伺った。

ピーク時は1日5,000本のキュウリを8時間かけて仕分け

― 小池さんがキュウリ農業の自動化に取り組まれるようになったきっかけは?

「AlphaGo(アルファ碁)」がプロ棋士に勝利したことを知り、AIの画像認識技術ってすごいなと思ったのがきっかけですね。農業には同じ作業の繰り返しが多いのですが、簡単に機械に置き換えられずにいたんです。キュウリの等級を目視で仕分ける作業のように経験を頼りにした判断が必要な部分もあるからです。

そんな中、「AlphaGo」が画像からさまざまな判断をしているのを見て、だったらキュウリの画像から等級を判断することもできるんじゃないかと。試しに開発を始めてみることにしました。

画像: ―  小池さんがキュウリ農業の自動化に取り組まれるようになったきっかけは?

― 前職は組み込みエンジニアだったとか。繰り返しの作業は機械に任せて効率化しようという考えが、非常にエンジニア的だと感じます。

5年前まで自動車部品メーカーで制御システムの開発を担当していました。今でもやっぱり私はエンジニアなので、農業に向き合っていると、なんとかシステムで効率化できないかという発想になるんですよね。農家の使命は新鮮でおいしいものを安定して届けることですから、品質を上げるために時間を使えるようにしたいんです。

ただ、農家は家族経営が多く、家族で作業を分担しているうちに属人化してしまうんですよ。我が家でも、キュウリの大きさや曲がり具合、色など、数多くのパラメーターを総合的に判断し、9つある等級に正しく仕分けができるのは母だけ。春先の収穫ピーク時には1日に約4,000~5,000本のキュウリを、母が8時間以上かけて仕分けていました。

AIなら簡単に仕様書にできない作業も自動化できる

― そこで、AIのディープラーニングに着目されたんですね。

そうですね。AIなら学習させることで人間に近い判断ができるようになっていくので、複雑で仕様書には起こしにくい作業でも、そのまま機械に置き換えることができます。

試作1号機はキュウリを1本ずつテーブルに置いて撮影し、等級を判断するという簡単なものだったんですが、母が仕分けたキュウリの画像を約2,500枚学習させてテストしたところ、いきなり正答率80%という結果が出ました。

画像: ―  そこで、AIのディープラーニングに着目されたんですね。

―ビッグデータを用意しなくても、それだけ高い正答率が出るとは驚きました。

キュウリの等級判断程度であれば、AIにとってはそう難しい問題ではありません。最初の段階ではスモールデータでもある程度の成果は出せると考えています。

とはいえ、稼働させてみると周囲の環境の影響も受けてしまうことがわかり、精度を上げていくために、その後、学習データの画像を36,000枚にまで増やしています。現状でも80%を上回る程度の精度は出せていますが、季節や天候と出来栄えのパターンは今後も時間をかけて蓄積していく予定です。

―開発期間や費用はどのくらいかかりましたか?

1号機は1~2週間程度でできました。Googleが公開している機械学習用ソフトウェアライブラリー「TensorFlow」などのオープンソースを利用しているため、お金がかかったのはWebカメラ本体やカメラを取り付けるスタンドくらい。数千円で済みました。

その後も改善を重ね、現在実用化しているのが3号機です。こちらは複数本のキュウリをいっぺんに判断できます。開発期間は約半年、費用は2万円くらいですね。ハードウエアが安価に手に入るようになってきたおかげで、コストを抑えることができました。細かい部品は3Dプリンターで印刷しているので、1個当たり2~3円しかかかっていません。

―え!?3Dプリンターまでお持ちなのですか?部品もご自身で作られているのですか?

はい。全てDIYです(笑)。市販品ではサイズなど合わなかったりするので、作れるモノは、自分で作っています。開発は基本ココ(現場)でしていて、このような開発作業はエンジニア冥利につきます(笑)

画像: キュウリ自動仕分け機の3号機は、キュウリを並べるとテーブル上に瞬時に等級(Rank)、確からしさ(Accuracy)、長さ(Length)が表示され、等級は次に可能性の高い候補も表示されます。現段階では、最終的には人が目視でチェックしてから箱詰めするが、一から判断するよりも作業者の負担は軽減します。

キュウリ自動仕分け機の3号機は、キュウリを並べるとテーブル上に瞬時に等級(Rank)、確からしさ(Accuracy)、長さ(Length)が表示され、等級は次に可能性の高い候補も表示されます。現段階では、最終的には人が目視でチェックしてから箱詰めするが、一から判断するよりも作業者の負担は軽減します。

究極的には、何もせずともキュウリが育って出荷されることが目標

― 3号機を稼働させてみて、お母さまの作業負担は減りましたか?

母はまだ使ってないんです。私が自分で仕分けた場合に比べると作業効率が約1.4倍にまで上がっているんですが、スピードではまだ熟練者にかないません。

次の4号機では、箱から取り出したキュウリを手に持ったまま撮影して判断できるようにして、テーブルに置くというタイムロスをなくす予定です。ぐるりと多方面から撮影する必要があるので、7台程度にまでカメラを増やすことを検討しています。

― カメラ7台ですか!?最終的には、仕分けの全自動化を目指しているのでしょうか?

そうですね。2号機ではベルトコンベアーを使ってキュウリを箱詰めしようとしましたが、表面に傷がつくという問題から断念しました。ですが、今は数十万円で買えるロボットアームも出てきていますから、それを使えば仕分け作業の全自動化ができるかもしれません。

もちろん、他の作業もどんどん自動化していくつもりです。まずは、水やりやボイラーの自動化ですね。究極的には、何もしなくてもキュウリが育って出荷されることを目指します。

― 収穫の見逃しを防止するAIも開発中と聞きました。

はい。キュウリの果実は1日収穫を逃すだけでも等級が下がってしまうんですが、現状では約1割の見落としが発生しています。そこで、収穫作業をする人の肩にカメラをつけて、AIが収穫漏れを見つけたらアラートが鳴るようにしたり、レーザーで見落としたキュウリを指し示したりといった仕組みを考えています。ドローンにAIを搭載してチェックするのもいいかもしれませんね。

そうなると少し高度な処理にはなってきますが、エッジコンピューティングを応用すれば小さなコンピューターでもAIに特化した高速計算が可能ですから、意外に簡単に解決できてしまうんじゃないでしょうか。

画像: ビニールハウスの中は温度が高く、葉や茎などがびっしりでミニジャングルのようです。収穫を見逃してしまうことに納得です。

ビニールハウスの中は温度が高く、葉や茎などがびっしりでミニジャングルのようです。収穫を見逃してしまうことに納得です。

現場でトライ・アンド・エラーできる。農家はエンジニアに理想的な環境

― キュウリ仕分けAIが注目を浴びて、農業関係者からの問い合わせが増えたのではありませんか?

農業関係者だと、プログラミング経験のあるイチゴ農家の方がこの仕分けAIを見て、ご自身でも開発しようと動き始めているようです。でも、その1件だけですね。プログラミング知識が必要ですし、それ以前に高齢化の進む農業界にはネットの情報って届かないんですよ。

ただ、他業界で町工場などからの問い合わせは入っています。不良品の検知に活用したいというニーズが多いですね。

― 小池さんの取り組みがより進めば、農業界も変わるかもしれません。自動化が進めば働き方も変わると思いますが、今後どうなっていくと思いますか?

使ってみて効果が実感できるようになれば、農業でもIT化はぐんと進むと思います。そうなると、農家は人間だからできるような仕事にシフトしていくでしょうね。野菜を作ることではなく、たとえばキュウリの価値を高めたり、自然の価値を再発見するといったようなことが農家の仕事になっていくんじゃないかなと思います。有機栽培に取り組んだり、農業体験を実施したりというのも一つの価値ですよね。

― お話を伺ってきて、エンジニアとして楽しみながら農業に向き合っていらっしゃるのを感じました。

農業にはITが手つかずのところが多く、エンジニアだからできることはたくさんあるんですよ。体を動かすことと頭を動かすことの両方がバランスよくできますし、現場でタイムリーにフィードバックを受けながら気軽にトライ・アンド・エラーができる。そういった意味で農家は、エンジニアにとって理想的な環境だと思っています。

画像: ― お話を伺ってきて、エンジニアとして楽しみながら農業に向き合っていらっしゃるのを感じました。
画像: プロフィール 小池 誠(こいけ まこと) 静岡大学大学院 情報学研究科を終了後、自動車部品メーカーに入社、車載ソフトウェア設計に従事。2013年に退職し、現在は農家を営む。農業を行う傍らIT技術を使った効率化・自動化に取り組む。2018年からは静岡大学の博士課程に入学し農業xAIの研究も行う。

プロフィール
小池 誠(こいけ まこと)
静岡大学大学院 情報学研究科を終了後、自動車部品メーカーに入社、車載ソフトウェア設計に従事。2013年に退職し、現在は農家を営む。農業を行う傍らIT技術を使った効率化・自動化に取り組む。2018年からは静岡大学の博士課程に入学し農業xAIの研究も行う。

コメントを読む・書く

This article is a sponsored article by
''.