リックテレコムさんからIoT技術者向けの書籍執筆の依頼があり、当社のIoT関連担当者3名が執筆に大いに関わりました。その本が2017年5月18日に発行されたと聞き、本の内容の見どころや裏話?などについて取材しました。
-この書籍をつくることになったきっかけは?
山平 ユニアデックスと日本ユニシスは、2015年からIoT分野のビジネス化を進めています。以前、日本ユニシスがメディア向けに「IoT取り組みセミナー」を実施した際にリックテレコムの編集者さんが参加されました。このご縁から、IoTに関する書籍の企画がまず最初に日本ユニシスに持ちかけられ、次いで当社にも声がかかったというわけです。何度かの編集者さんとの議論を経て、読者の対象はIoTに興味がある技術者向けで、IoTシステムの活用ストーリーに沿って、関係するすべてのレイヤのアーキテクチャーから実装まで学べる構成、とすることに決めました。
-全6章ありますが、皆さんはどのパートを担当されたのですか?
山平 本を読んでいれば誰がどこを担当したかわかるはずなんですが・・・(苦笑)。1章~3章は、日本ユニシスのメンバーが担当し、3人は、4章、5章、6章の実装フェーズのパートを担当しています。その詳細は、後でお話しますが、この実装パートでは、ベランダにいるのが鳥なのか、お母さんなのかを画像を元に判別する「鳥害対策IoTシステム」を、一貫した活用ストーリーとすることで、読みやすくすることを心がけています。
-「鳥害対策?」ですか。なんだか奇抜な感じがします。
山平 書籍の構想段階で、読者がイメージしやすく身近なテーマがよいだろうと考えました。まず、活用シーン、ストーリーに必要なIoTの主要なコンポーネントは、①モノを把握ための「センサー」や「カメラ」など機器、②機器からのデータを「収集」しクラウドへ送信するゲートウェイやネットワーク、③収集したデータをクラウドで「蓄積」する仕組み、④蓄積したデータから「学習」や「判断」する仕組み、の4つが考えられます。「鳥害対策IoTシステム」は、この主要コンポーネントを網羅しています。
-身近?ですかね・・・。
山平 家庭で試せそうじゃないですか?(笑) ベランダで動くモノが鳥(今回はハト)なのか、お母さんなのかを検知して、鳥だったら撃退するという、イメージしやすい仕組みです。それに、ユニアデックスで提供しそうな B2Bの活用シーンをストーリーとして取り上げると、なんだか仕事みたいでつまらない(笑)。「鳥害対策」とすることで読者にも想像してもらいやすいし、勘が良い方であれば「鳥orお母さん」を区別する仕組みを別なシーンへ転用してもらうことができるし、広がりがあると思ったからです。とはいえ、いざ「鳥害対策」と決めて進めていくと、これが想像以上に手ごわいストーリーでした。
タカハシ アイドルや犬や猫を見分けるトライをしている人がすでにいるから、鳥も大丈夫だろうと思ったら、本当に手ごわかった・・・。
-本を出版されたのにあまり晴れやかな感じでないのは、そういうわけなんですね。ともあれ、4章から順番に説明いただけますか。
吉本 4章は、「鳥害対策IoTシステム」での「センサー」や「ゲートウエイ」から構成されるフィールド層の実装アプリを作成するパートです。屋外に人感サンサーを設置し、動くモノを感知するとカメラで撮影し、その画像データをクラウドへ上げるという仕組みです。IoT分野のビジネス開発では、ITだけではなく電気や機械など幅広い知識を求められます。
今回は「鳥害対策IoTシステム」というテーマに合わせて、若干無理矢理ではありますが、幅広い要素を詰め込んでみました。例えば、人感センサー部品をマイコン(Arudino)でBluetooth化する部分ではブレッドボードを用いて簡単な電子工作を行っています。人感センサーやUSBカメラのデータをクラウドに送信する部分ではRaspberryPiとVisualStudioを用いた開発も行っています。幅広い知識を求められるIoT開発の面白さを感じて頂ければ幸いです。昨年の夏に、IoTの検討・評価に必要なコンポーネントをワンパッケージした「IoTスタートキット」を販売開始したのですが、その時の開発ノウハウが活きているかなと思います。
-次に、一番長~いページ数の5章のお話をお聞かせください。
タカハシ めちゃめちゃ疲れました。5章は、クラウドに害鳥検出システムを作るというプラットフォーム層の実装について解説しています。まずは、コンピューターは何がハトなのかを知らないので、それを教えるために16,000件のハト画像に手動で「ここにハトがいるよ」というしるしをつけました。作っているうちに機械より先に私がハトに詳しくなってしまいました(笑)。
その結果まあまあの精度でハトを認識するプログラムができたから後は簡単だろうと思っていたら、デバイスとクラウドの間や、クラウドとプログラムの間といった隙間隙間をつないでいく部分に、プログラム用のインターフェース(API)はあるけど、その使い方のドキュメントがないとか、ドキュメントはあるけど不正確なことしか書いてないとか、APIそのものが執筆中にこっそりバージョンアップして、前日まで動いていたアプリが突然動かなくなったり、そのバージョンアップの通知もメーカーの公式サイトじゃなくて開発者の個人ブログでひっそり行われてただけだったり…IoTは始まったばかりの技術ですから仕方ないんですが、あれもない、これもない状態。だから走りながら、つじつまを合わせ続ける、そんなことの繰り返しでした…(と、一気にしゃべりました)
-タカハシさん、ご苦労されたことがひしひしと伝わりました。とりの6章についてお願いします。
山平 6章は、IoTでも重要な役割であるセキュリティーを取り上げています。IoTの普及に伴い、セキュリティーに不安があるという声が広がっています。IoTセキュリティーは、IoTシステムが出来上がってからの後付けではダメです。そこを理解してもらうために、本章ではIoTセキュリティーの設計プロセスについての基本的な考え方を丁寧に書きました。IoT推進コンソーシアムが、この章を書いている途中の2017年7月に「IoTセキュリティガイドライン」を出したのですが、そこに含まれている内容とこの章で書いていることがほとんど同じなので、方向性が間違っていないと確信しました。ちなみに「IoTセキュリティガイドライン」との違いは、より具体的なアプローチに言及しているところです。
さきほど、タカハシが「とにかくないないづくしだったが、走りながら、つじつまを合わせた」と言っていましたが、これはIoTへの取り組み全般に言えることです。つじつまを合わせるには、クラウドという仕組みを活用するアプローチが都合が良いのですが、この本には、IoT に取り組むためにクラウド(Microsoft Azure)を使い倒すためのノウハウがびっしり詰まっています。また、IoTに関する書籍で、一つの活用ストーリーにそって、センサーやデバイスから機械学習まで実装レベルで踏み込んだ内容は、世の中にはまだないですから、かなり貴重な本です。IoTでお悩みの方は、ぜひお手に取って見て欲しいと思います。
-最後に、メッセージを
この本を読まれるのは、IoTに興味のある技術者が多いと思いますが、実装していくうちに、個人では一人でもなんとかなっても、組織でカバーするには大変なことに気付くと思います。その大変さを緩和するのが当社の IoT 関連サービスだと考えていますので、読んだ感想やフィードバックとあわせて、私どもにご相談いただけれることを願っています。