ユニアデックスの社員がさまざまな分野の専門家と未来像を語る連載『未来飛考空間』。今回は、資源循環システムズの瀧屋直樹さん・松田清さんと、欧州をはじめとする海外先進国から遅れを取っている日本の再生材利用、資源循環について、日本の課題や解決策はどこにあるのか、語り合いました。
デジタルを切り口に資源循環を推進
柿澤 まずは、会社設立の経緯や、お二人が現在取り組んでいる内容について、教えていただけますか。
瀧屋 資源循環システムズは、ユニアデックス、大栄環境、資源循環ネットワークの共同出資により2020年12月に立ち上がった会社です。大きな目的は、資源循環をデジタル活用で推進することです。私自身は以前、都庁職員として、行政の立場で資源循環領域を担当していました。企業と接したり東南アジアに出張したりしてリニアエコノミー(使い捨て社会)の現状を見る中で、「地球全体の課題である資源循環の状況をどう変えていけばよいのか」と真剣に考え始めました。その中で、リサイクルを担う企業が成長しなければ課題解決につながらないことに気づき、デジタルを切り口にして資源循環DXに取り組む当社を立ち上げました。
国内でもカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーといった流れの中で、プラスチックの資源循環が注目を集めています。私たちも、新しい取り組みとしてプラスチックの循環利用の流れを作る事業に着目して積極的に展開しています。
松田 私はもともとデジタルマーケティングやDXのコンサルティングサービスを展開する会社で働いていました。そこでユニアデックスの柿澤さんや瀧屋と一緒に仕事をさせていただいたのが始まりです。私自身、以前からデジタルを活用して社会課題を解決することに興味がありました。このチームで仕事をしていく中で、再生材利用や資源循環市場のニーズの高まりを感じたのと同時に、お客さまからの当社に対する期待の大きさも感じジョインしました。
生産と回収、再生の流れを「つなぐ」動静脈連携を目指す
柿澤 日本でも資源循環の取り組みに関する法整備が進んでいます。民間企業におけるプラスチックの資源循環の状況について教えていただけますか?
瀧屋 これまでの日本の民間企業の取り組みは、サーマルリカバリー、つまり再び燃料にして発電に活用する方法が主流でした。そのために、製品を生み出すメーカーが再生材を原料として使う取り組みは、あまり進んでこなかったのが現状です。
一方、海外を見れば、欧州をはじめ、製品に再生材のプラスチックを使わなければ、商品を流通できない状況に変わろうとしています。2030年頃には世界全体がそうしたルールの下に置かれるとすれば、日本企業も逆算して今から手を打たなければ間に合いません。日本は先進国の中で、再生材利用に遅れを取っていますので。
柿澤 そのような状況を踏まえ、どのような活動をされているのでしょうか?
松田 立ち上げ時から、デジタル化が進んでいなかった資源循環プラットフォーム構築に向けた廃プラスチックのトレーサビリティシステム開発に取り組んできました。ただ、日本はまだ十分な資源循環環境が整っていません。そこで、システム提供前に循環させる仕組みを構築し、ビジネスに実装する必要があると考えました。この観点から現在は、廃プラスチックリサイクルのトータルコーディネートサービス「iCEP PLASTICS」に取り組んでいます(iCEPはintelligence Circular Economy Platformの略)。
瀧屋 業界では、「動脈企業」「静脈企業」という言い方をします。これは、人間の血液に例えて、動脈企業は新しい製品を社会に生み出す役割を、静脈企業は消費されたものを回収し、再生する役割を担っていることを意味します。
私たちが手掛けるトータルコーディネートサービスのコンセプトは、「動静脈連携」。これまでは分断されていた動脈企業と静脈企業の間をつなぐ、結節点の役割を担いたいと考えています。
柿澤 実際に、資源循環によって新しい価値を生み出したい企業からの相談も増えているのでしょうか?
瀧屋 大変増えています。その中でも自動車や建築、包装材関連などプラスチックの利用が多く、事業規模も大きな企業ほど対応が急務になっています。日本企業にはリサイクルに対する知見がまだ少ないために、「やり方が分からない」という相談が一番多い状況です。また、始めてみたものの、CSRのような取り組みにとどまってしまい、経済性が見込めないため事業としての持続性がないと判断されるケースがある、などが課題として挙げられます。
松田 解決策の例として、あるゼネコンの取り組み事例では、工事現場で使う三角コーンのリサイクルがあります。工事現場では大量に使うプラスチックの代表例なので、三角コーンがリサイクルされてまた戻ってくれば資源循環の様子が分かりやすいですよね。
現在では、建設現場から出る廃プラスチックを建築土木製品へリサイクルできないか検討を進めています。
経済性向上と消費者意識の転換で再生材商品を普及させる
柿澤 改めて「なぜ企業にとって資源循環が重要なのか」「資源循環をしないと、企業にどのようなリスクがあるのか」を具体的に教えていただけますか。
瀧屋 リスクの例としては、「市場からの締め出し」が考えられます。世界的なカーボンニュートラルの動きの中で、再生可能な資源へのシフトが必要不可欠になります。廃プラスチックの活用方法も現状からさらに広げていかなければなりません。持続可能な社会の創出を目指す世界の中で、発想を転換していかなければ企業は生き残っていけません。シンプルに言えば、モノがつくれなくなるのです。
柿澤 欧米企業を中心に再生材使用のものづくりが進んでいると聞きます。一方で、日本はまだ一般に浸透していないとも感じます。原因はどこにあるのでしょう?
瀧屋 一番は経済性を持った事業スキームに至っておらず個別の企業の取り組みがCSR活動、イメージアップのためのブランディングにとどまっていることだと思います。ただその中でもここ数年で、ペットボトルは飲料メーカーがボトルtoボトルを強く打ち出しており、結果として経済性をもって回収・リサイクルに取り組まれているという成功例だと思います。
松田 消費者を対象としたある調査では、エシカル消費に関心があると答える人が過半数を超えています。それなのに、なぜ購入には至らないのか――。1番は「価格が高いから」。2番目に「機能性が心配」という回答が続きます。やはり経済性の部分がネックだと感じます。そこで消費者意識の変革と、経済性を高める仕組みづくりの両方に取り組む必要があると思っています。
課題解決に向けては、「このままだと地球がもたない」といった危機感を消費者と共有しつつ、エシカル消費による称賛や自己実現的な満足度を高める仕組みがあると、もっと消費が進むのではないかと考えます。
柿澤 現在、数多くの取り組みが官民で行われていますが、浸透には時間がかかりますね。取り組みを推進するコーディネーターのような役割が必要だったり、ITの有効活用が欠かせなかったりするのではないでしょうか。
瀧屋 そうですね。まず民間では再生材を使ったものづくりにチャレンジし、積極的に市場に出す試みがまだ足りていません。公共の観点では、政府が市場を作るアプローチにはなっていません。民間はどんどん製品を出し、政府は調達していく、その両面でけん引していく必要があると考えています。
松田 IT面ではまずは資源になり得る廃棄物の正確な量をデジタルで数値化できるようにしたいですね。次に、再生資源のトレーサビリティーによる見える化が必要です。再生資源の調達から生産、消費までの工程をつなげることができれば、廃棄物をより価値のある再生材として流通させることが可能になります。
さらに再生材の活用に当たっては、AIを用いた原料開発システムの活用が考えられます。容易に短期間で原料を開発する環境を整えることで、製品ごとに求められる品質を適正なコストで製造することを可能にします。さらに消費者側の観点では、使ったものが適正に廃棄されるために必要な情報の流通や、購入時の環境配慮製品に関する理解を深める仕組みづくりにもITは活用できると思います。
これらができれば、今度は再生材の取引にかかるコストを下げる仕組みづくりが次の課題になります。そのために、需要と供給をマッチさせるマッチングプレイスのような取引市場の活用に取り組んでいく。これによって経済性の壁はぐっと下げられ再生材を利用したモノづくりの市場は大きく拡大するのではないでしょうか。
多種多様な企業と連携しながら廃プラスチック循環に挑戦する
柿澤 現在、取り組まれている廃プラスチックの新規事業について教えていただけますか。
瀧屋 廃プラスチックを回収して加工し、再生材にして成形品にまで戻す一連の流れを創出する「iCEP PLASTICS」]事業に取り組んでいます。
今は課題を明らかにして、解決のアプローチを探っている段階です。当社だけでなく、事業パートナーの八木熊、大栄環境、そしてユニアデックスをはじめ、さまざまなパートナーと連携し知恵を絞りながら検討を進めています。
日本政府は2030年にマテリアルリサイクルを現状の倍にする目標を掲げています。自分たちがそこにどの程度貢献できるのか、ハードの整備やデジタルのソリューション開発などが一体となって進められるよう準備をしています。
柿澤 広範なパートナー企業と連携していますが、仲間を作る点で意識していることはありますか?
瀧屋 積極的にチャレンジし、必ず実現したい、という志があるかどうかですね。今私たちが向き合っている課題は過去これまで解決されてこなかったことですが、必ずやり遂げなければいけません。なぜならこのままでは地球環境や私たちの経済活動を維持できないからです。
したがって活動メンバーは受け身ではなく、実現に向けて追い求める姿勢があることと、それをバックアップする体制のある会社と一緒に取り組んでいきたいと思います。
松田 足元の経済性はもちろん重要ですが、今のチームでは社会のあるべき姿をベースに会話ができており、ワクワクしながら仕事ができていますね。ユニアデックスもその中の1社です。
柿澤 そうですね。瀧屋さんは行政の実務や法律、国の施策に詳しく、大栄環境は廃棄物を処理するノウハウがあります。ユニアデックスはIT企業であり、システムインフラに精通しています。
それぞれの強みを最大限に生かしたいと考えています。特に、システムをクラウド上に構築するのであれば、その設計や運営は当社が担えます。また、再生材を短時間で誰でも簡単に作れるようなシミュレーターの開発は、現在、当社が中心になって取り組んでいます。
「再生資源大国」実現に向けて取り組みを加速させていく
柿澤 最後に、お二人がこの先目指す日本社会の未来像や、そのためにどんなチャレンジをしていくのか教えてください。
瀧屋 最近、政府の会合などで「資源小国から再生資源大国へ」というキーワードを耳にします。
日本は天然資源には乏しいけれども、再生資源を国内で循環させていく。そのシステム構築も含め、海外に先駆けることを目指しています。ただ、現状は欧州から10年は遅れを取っているといっても過言ではありません。その遅れを取り戻すためには、5年後にはもう形にしなければなりません。再生資源大国になるための足掛かりを作る、それがこの5年のミッションだと考えています。。
松田 私が取り組みたいことの1つは、再生材によるものづくりの経済性を高めて、世の中に浸透させる仕組みを作っていくこと。今まさに取り組んでいるミッションです。
一方で、生活者の資源循環に関する理解が進んでいないがゆえに、価格など経済性だけで製品やサービスが選ばれるのは寂しさやもったいなさを感じます。生活者一人一人が自分の意志でエシカルな消費を選択した結果、再生材のビジネスが大きく成長し、再生資源大国になっていくのではないでしょうか。少し先の未来には生活者一人一人の意識へ働きかけるような取り組みにもチャレンジできればと思います。
柿澤 人間1人の一生は長くても100年で、地球の歴史からするとごくわずかです。それでも、次の世代に良い環境をどのように引き継いでいくのかは、地球に生まれた人間の使命だと思います。微力ではありますが、私個人としても、またユニアデックスとしても、その橋渡しができればと思っています。