連載対談「未来飛考空間」では、ユニアデックスの未来サービス研究所メンバーがビジネスリーダーや各分野の専門家と対談し、ITや社会の未来像を探っていきます。
2017年、国内初となるドローン・エアモビリティー特化型ベンチャーキャピタル(VC)のDRONE FUNDを立ち上げた投資家・事業家の千葉功太郎氏。「10年後、ドローンが存在して当たり前の社会インフラとなる『ドローン前提社会』がやってくる」と未来を予測する千葉さんと、ユニアデックス 未来サービス研究所メンバーが、ドローンが普通にある未来の創り方について話し合いました。
ファンド設立は「ドローン産業の芽を枯らせない」という思いから
小椋:世界でも珍しいドローン・エアモビリティー分野に特化したベンチャーキャピタル(VC)「DRONE FUND」を設立された経緯を教えてください。
千葉:「ここで自分がドローン分野に投資をしなければ、日本のドローンの可能性をつぶしてしまうのではないか」と思ったからです。ファンドを設立した2017年当時は、ドローンに投資する投資家やVCはほとんどいない状態でした。
私の趣味は一眼レフの写真撮影で、ドローンに初めて触れた2014年以来、空飛ぶカメラとしてのドローンの魅力にハマってしまったんです。撮った写真の美しさ、操縦する楽しみなど、すべてに夢中になりました。そこでエンジェル投資家として、ドローンのスタートアップに投資するようになりました。
ところがドローン投資が増え、ポートフォリオが崩れてきたんです。手を引くか悩みましたが、ドローンの目利きができ、その未来を信じている人間はほかにいなかった時代なので、自分が頑張らないといけないと思い、ファンドを立ち上げました。もちろん私も投資家であり、事業家なので、ドローンを単に面白いと思うのではなく、事業の可能性を見いだしているんです。ドローンがインターネットの黎明期とかぶったんですよ。
小椋:ドローンと、インターネット黎明期がかぶったというのは……?
千葉:1993年、慶應義塾大学の学生だった私は、村井純先生(現・慶應義塾大学名誉教授)から「インターネット前提社会がくる」という授業を受けました。「20年後には、インターネットが水や空気のように無料でどこでも誰でも使える。インターネットという言葉は、当たり前すぎて使われなくなる。そんな社会だ」と。いまはまさにそんな時代で、インターネットがインフラになったからこそ、これだけ大きなインパクトを持つようになりました。
ドローンも同じく、空飛ぶインフラになる可能性を感じます。地上150メートルの空は、世界中どこでも空いている“帯域”のようなものです。インターネットの通信パケットと同じように、この帯域で自律して自動で飛ぶドローンが情報もモノも運ぶ社会インフラとなる。黎明期からコミットすることで、数十年後には誰も考えなかったビジネスを興せるのではないかと思います。
一方で、ドローンはハードウエアなので、産業構造としては自動車業界と似たものになるという仮説を持っています。自動車メーカーがあり、一次請け、二次請け、三次請けがあり、部品メーカーや技術供給企業があり、さらに物流、販売店網、修理工場、自動車学校がある。運輸業やタクシー、バスなどの事業もある。さらに、交通ルールや免許制度、信号機なども必要になり、これらがつながりを持って自動車産業として成り立っている。だからDRONE FUNDでは、ドローンが未来の産業ピラミッドを構成するために核となる国内外企業に対しての投資を基本方針としています。
もちろん、将来どのようなビジネスモデルが育つかはわかりません。ネット業界では、今SaaS型のビジネスモデルが主流ですが、ドローンでもDaaS(Drone As A Service)ということが言われ始めています。ドローンを所有せずに好きな時に好きな分だけ使うというビジネスモデルが登場すると、また違った構造が出てくるかもしれません。
普及のポイントは「ドローン=かわいい」という感情
村上:米中などの諸外国に比べて規制の厳しい日本で、どういう点からドローンの文化をつくっていこうと考えられていますか。
千葉:日本におけるキラーアプリケーションをどう創っていくかが肝になると考えています。1つは、日本の強みであるBtoB領域の知見を生かし、各産業に特化した産業機とオペレーションを磨き込んでいくこと。例えば、農機具と農業・農地の調査といった分野です。設備点検の分野も考えられます。
八巻:ワクワクする未来ですね。ところで、各家庭にドローンが普及していくようになった時のビジョンについてはいかがでしょうか。
千葉:もう1つがBtoCです。突破口の1つは、メルカリのようなサービスかもしれません。今メルカリで行っているCtoCの取引をドローンが担い、5分〜10分くらいの間に商品を届けてしまう。そういったイメージのサービスを実現させるのが突破口だと思っています。
BtoBは規模も大きいのですが、一般の生活者からするとどこまでいってもドローンの姿は見えません。人は見えないものを怖がるので、社会受容性を高めていくには、やはり一般の人の意識を変えることが必要です。言い換えると「一般の人にとってドローンが『かわいい』と思えるかどうか」だと考えているんです。DRONE FUNDもそれを目的としています。
小椋:かつてお掃除ロボット・ルンバが出てきた時に身近な存在となり「ルンバる」という言葉が出てきましたが、そんなイメージでしょうか?
千葉:そうです、その感情です。働く機械を機械と思えず、めちゃくちゃかわいいものに思う感情です。
将来実現したいサービスとしては、子どもの見守りや、女性の夜間帰宅の警護ドローンがあります。アプリを起動すると、ドローンが飛んできて、子どものスマホのGPSを感知して親のスマホに居場所を送ったり、女性が帰宅するまでずっと見守ってくれたりする。こういうサービスが出てくると、本当にドローンがいとおしくてかわいくて、頼もしいものになると思います。
「未来の妄想力」の向上が、より良い未来創りへつながる
小椋:千葉さんのお話を聞いていると、私たち未来サービス研究所と通じるところがあります。未来予測を通じて、新しいビジネスを創ろうとしているお客さまと共通の目標を描いて社会価値創出に向けた活動をしています。DRONE FUNDもファンドの役割だけでなく、企業とのコミュニティーづくりも含めて新しい産業を創っていく動きにとても共感しています。
千葉さんは、ホンダジェットのユーザーとしてご自分で操縦し、移動されているんですよね。ご自身で身をもって実行されているという点で、まだ多くの人が分かっていないドローン・空間移動の可能性をどのように見ていらっしゃいますか。
千葉:未来を創るには、「未来の妄想力」が大事だと思います。その妄想力の解像度を上げるためには、自分で体感・体験するしかないんですね。そのためにホンダジェットの一号機を購入し、2020年にパイロットの免許も取りました。今ホンダジェットの副機長になって毎月飛んでいますが、この経験に勝るものはありません。「空飛ぶ車で自動運転」といいますが、何を安全面で担保していけばいいのか、技術面、オペレーション面、整備面などについて学ぶことがたくさんあります。それを自分が勉強しながら、空を飛んでいます。なので私が描く未来の妄想力は、かなり解像度が高いんです(笑)。
小椋:いまコロナ禍で社会は大きく変化しましたが、この変化を含め、当初考えられていた未来と比べ、現状をどのようにご覧になっていますか。
千葉:結論からいうと、変化のスピードが意外と速いと思っています。無人航空機の実現レベルは4段階あり、レベル4の「都市部で自律飛行のドローンが飛行(「有人地帯における補助者なし目視外飛行)」は2030年くらいになると思っていましたが、すでに国交省から発表されているように、2022年度にレベル4制定に合わせて最終調整に入っています。これまでの日本のイノベーションスピードから考えると、とんでもない速さです。官民挙げて、次代を担う日本の基幹産業を育てるという思いが、このスピード感につながっています。
小椋:最後に、今後の目標についてお願いします。
千葉:われわれのテーマである「ドローン前提社会」、そして「エアモビリティー前提社会」のように、ドローンやエアモビリティーが当たり前となる世界を創ることが目標です。ドローンは2030年、エアモビリティーは2040年にはそれぞれの“前提社会”が確立しているのではないかと考えています。DRONE FUNDは「ドローン前提社会」「エアモビリティー前提社会」の実現に向けてどこまでも突き進んでいきたいと思っています。
小椋:DRONE FUNDを通じて新たな前提社会を創っていく千葉さんの活動にとても共感します。新しい未来を創っていきましょう。
ディスカッションを終えて
ユニアデックスもDRONE FUNDの活動に参加し、ドローン前提社会、エアモビリティー前提社会の実現に向けて活動を始めました。千葉さんが未来予測されているドローンが空飛ぶインフラになる社会においてユニアデックスが活躍していることをしっかりと描いていきたいと改めて感じました。
未来を創るには「未来の妄想力」が大事だといわれている通り、我々未来サービス研究所でも妄想の解像度を上げつつ、多くのパートナー企業と共に未来社会を創り上げていきます。