連載対談「未来飛考空間」では、ユニアデックスの未来サービス研究所員がビジネスリーダーや各分野の専門家と対談し、ITや社会の未来像を探っていきます。

新興国などを中心にデジタルマネー化が進み、金融とITを融合したFinTech(フィンテック)によって、世界を大きく変えようとする動きが活発化してきました。その中で、日本発のフィンテックに世界から注目が集まっています。それは、銀行口座やクレジット口座を持たない“金融難民”に給与を前払いするシステムを提供しているドレミングの金融サービスで、世界標準に最も近いといわれています。ドレミングの代表取締役会長を務める高崎 義一氏とともに、フィンテックの現状や今後の可能性、日本企業の海外展開について語り合いました。

画像: プロフィール Doremingホールディングス CEO/ドレミング株式会社 代表取締役会長 高崎 義一(たかさき よしかず)氏 1957年生まれ。板前、外食チェーン店オーナーを経て、95年にキズナジャパンを設立。2015年にドレミングを立ち上げ、17年にはDoremingホールディングスをシンガポールに設立。銀行口座やクレジット口座を持たない人々に給与前払いシステムを提供する。イラク、英国、ベトナム、タイ、サウジアラビアなどが次々とドレミングの金融サービスに支援を仰ぐ。日本発のフィンテックの中で、最も世界標準に近いサービスといわれる。

プロフィール
Doremingホールディングス CEO/ドレミング株式会社 
代表取締役会長
高崎 義一(たかさき よしかず)氏
1957年生まれ。板前、外食チェーン店オーナーを経て、95年にキズナジャパンを設立。2015年にドレミングを立ち上げ、17年にはDoremingホールディングスをシンガポールに設立。銀行口座やクレジット口座を持たない人々に給与前払いシステムを提供する。イラク、英国、ベトナム、タイ、サウジアラビアなどが次々とドレミングの金融サービスに支援を仰ぐ。日本発のフィンテックの中で、最も世界標準に近いサービスといわれる。

世界各国で導入が進む、金融難民の生活向上を支援するサービス

小椋 ドレミングが提供するリアルタイム勤怠管理・給与計算システム「Doreming」は、従業員に対する給与支払いをデジタルマネーで行うことを可能にしました。従業員が日払いで労働分の給与をその日に受け取れるようにできるそうですね。

驚いたのが、銀行口座を持たない人々も、そのデジタルマネーでそのまますぐ買い物などに利用できること。いわゆる金融難民の生活向上を支援するサービスとして、インド、ベトナム、サウジアラビア、英国など世界各国で導入の検討が進んでいるそうですね。

高崎 現在は、各国政府に後押ししていただきながら、このシステムをさらに発展させた新しい金融サービスをつくろうとしています。例えば、保険サービスです。データとして収集した、従業員ごとの労働内容の履歴を活用します。

建設業界を例にすると、事務員と建設現場で働いている労働者とでは、危険度がまるで違いますよね。それなのに、従来の保険サービスでは、どちらの従業員も掛け金が一緒。通勤手段をとっても、自転車やバイクを利用する人と、バスや徒歩で通勤する人とでは危険度が異なりますが、掛け金は同じです。

これに対して、私たちのシステムならば、それぞれの従業員が実際にどのような作業をして、どんな交通手段で通勤しているのかなどのデータを精査することで、適正な掛け金を提示できます。

画像: Doremingホールディングス CEO/ドレミング株式会社 代表取締役会長 高崎 義一 氏

Doremingホールディングス CEO/ドレミング株式会社 代表取締役会長 高崎 義一 氏

小椋 なるほど。労働管理システムに「精密さ」を重視されているのは、新たなサービスにつなげるための労働者の活動ログを蓄積し、それをもとに既存の仕組みを変えていくためなのですね。ログを活用する次の展開として、保険やマーケティングなどの新たなサービスへと広がっていけるわけですか。

高崎 給料と連動しているシステムなので、保険ならば掛け金を毎月リアルタイムに変えることもできます。これが従来のような請求書を出して、それを確認してという作業があったら、無理ですよね。

だからこそ、自動で掛け金の計算をして決済できる私たちのシステムが、強みを発揮します。既存にない金融サービスをつくって、逆に保険会社へ売り込んで、保険会社が販売するという協業も可能です。このようなサービスはもう、イギリスなどでは当たり前になりつつあります。

また、ローンでも同様です。勤続年数や給料の額などすべてシステムで把握していますので、こうしたデータを精査し、それぞれの労働者に対して適正な融資額を決定することができます。

画像: Doremingには、企業がデジタルマネーで給与支払いができる基本機能のほか、日次で給与を確定できるリアルタイム給与計算機能が搭載されています。従業員はe-walletと呼ばれるお財布アプリを使って、給料日を待たずに労働分だけの給与を受け取ることが可能です

Doremingには、企業がデジタルマネーで給与支払いができる基本機能のほか、日次で給与を確定できるリアルタイム給与計算機能が搭載されています。従業員はe-walletと呼ばれるお財布アプリを使って、給料日を待たずに労働分だけの給与を受け取ることが可能です

現場の目線から発想した人間中心のシステムデザイン

小椋 これは中国でも活用が進んでいる「信用スコア」に通じる仕組みといえそうです。どのようなきっかけで、このようなユニークなシステムが生まれたのでしょうか。

高崎 もともと私は、板前として10年間働いた後に、飲食店のフランチャイズ事業の経営に10年間ほど携わっていた経歴があります。ですから、飲食店の現場がどんなことで困っているのかということは、現場の目線から把握していました。

たまたま阪神大震災をきっかけに、店舗運営を継続できない状況に陥ってしまったため、まったく新しい試みとして、これまでの知識や経験を生かしながら、パート・アルバイトの人たちを公平に評価できる人事・勤怠・給与システムを作ろうと思い立って始めたんです。

そこで、例えば、トイレや倉庫掃除といったきつい仕事をしたら、手当をつける機能をシステムに組み入れました。給料に差をつけることで従業員のやりがいを高めて、生産性を上げようという仕組みです。

こうしたシステムを日本で初めて開発したところ、当時、世界中を見ても同じものはありませんでした。そんな面倒なシステムを開発する会社は、どこにもいなかったということです。

私たちは、このシステムをもう20年以上前から提供してきました。国内では、ガソリンスタンドや宅配ピザ、コールセンターなどで利用されています。

小椋 このようなシステムをすでに20年以上も前からスタートされているのは、実に画期的です。テクノロジーを中心に課題を解決するのではなく、人間中心にどのようにシステムをデザインすればよいかを考えることの重要性に、改めて気づかされました。労働者というところに完全に焦点を当てて、システムをデザインしているのが素晴らしいと思います。

画像: 知財戦略も重要。ドレミングのシステムは十数件の特許を持つ

知財戦略も重要。ドレミングのシステムは十数件の特許を持つ

理念の下でそれぞれの強みを発揮しながら協業

高崎 私たちは、自分たちの強みを最大化するところに力点を置き、他社との協業でシステム開発を行う方針を採っています。真面目に働いている人が報われるシステム開発を進めていくに当たり、給与体系のさまざまな付帯サービスが必要になります。「もちはもち屋」というように、複数の会社がいろいろな得意分野の技術を持ち寄り、それらを合体させてサービスをつくっていくんです。

そこで、これから最大250社ほどの企業と協業して250本のソフトウエアを開発していくことを決めました。人事、勤怠、給与のほか、保険、年金、シェアリング、アニメの社員教育など、それぞれ得意分野のソフトウエアを持ち寄り、すべて合体させた形で提供していく計画です。売り上げは、デジタルマネーによって公平に分配します。

小椋 これほどビジネス競争が激しさを増し、先行きの見えない時代において利用者が本当に欲しているサービスを創ることは、単独の企業だけでは立ち行きません。いろいろなビジネスの方々とコラボレーションし、それぞれの得意分野に専念しながらよいシステムをつくり上げていくような、共創するビジネスが非常に重要だと感じます。

高崎 海外で家電量販店などへ出かけてみると、日本製品は端の方に少し置いてあるだけです。世界市場では、単独の企業で中途半端な競争をしていても通用しません。あらゆる日本メーカーが一丸となり、技術やノウハウを出し合いながら品質や価格で優位に立てるように、オールインワンの製品をつくって打って出なければ、競争に勝てないのではないかと感じます。

画像: あるお寺の住職さんにいただいた「不退勝位」という言葉が、1つのことをやり続ける大切さに気づくきっかけになったと話す高崎さん。最後まで一生やり続ければ、必ず成果が表れるという教えを意味するそうです

あるお寺の住職さんにいただいた「不退勝位」という言葉が、1つのことをやり続ける大切さに気づくきっかけになったと話す高崎さん。最後まで一生やり続ければ、必ず成果が表れるという教えを意味するそうです

デジタルマネー化とともに新たな市場創出の一大好機が到来

小椋 海外のデジタルマネーに対する期待感については、どのように感じていらっしゃいますか?

高崎 海外では、デジタルマネー化が急速に進んでいます。特に治安の悪い国では、危なくて現金を持ち歩けないし、店側も現金があると泥棒に狙われるので、置きたくない。それで、偽札が多くて治安が悪いところほど、一気にデジタルマネーが普及していったというわけです。この流れは止められません。

日本にとっても、海外で開発途上国の人口およそ60億人を相手に、新しい市場をつくる最大のチャンスだと思います。大改革が起ころうとしているんです。もし出遅れると、ビジネスチャンスが全部なくなってしまいますよ。

画像: ユニアデックス 未来サービス研究所 所長 小椋 則樹

ユニアデックス 未来サービス研究所 所長 小椋 則樹

八巻 世界では今まさに、生活インフラとしてのデジタルマネーが広がりつつあります。日本は逆に、貨幣や銀行口座での成功体験があって、なかなか一歩先の発想へいきつかないところがあるかも知れません。

高崎 デジタルマネーで給料を支払えば、その瞬間に国が税金を徴収でき、デジタルマネーで買い物したら、消費税も自動的に徴収できる仕組みもつくれます。デジタルマネーなら、徴税に要していた膨大な手間やコストも削減できるし、強盗も減るし、被災者が現金を失うこともありません。現金社会を卒業することで、デジタルマネーによる公平な社会を形成できます。

八巻 その通りですね。協業しようとする際、利害関係を先に考えがちですが、「労働者のための公平な社会の実現」といった理念を明確にすることで、みんなが連携しやすくなると思いました。SDGsの課題解決にもつながっていくと期待します。

まさに世界に通ずるシステムを開発されているわけですが、世界市場に目を向けるようになった、何かきっかけはあったのでしょうか。

画像: ユニアデックス 未来サービス研究所 八巻 睦子

ユニアデックス 未来サービス研究所 八巻 睦子

高崎 阪神大震災では、多くのお客さまが亡くなられました。その中で生かされた自分は、これから何か社会のために生きようと決意したんです。それ以来、働いている人が公平に賃金をもらえる仕組みづくりを追求してきました。海外展開のきっかけは、銀行口座を持たないシリア難民に対する賃金の支払いに、当社のシステムが使えないかという相談を英国から受けたことが始まりです。

世界の多くの方から信頼いただけるようになったのは、あれこれ手を出さず、1つの理念の下で人事・勤怠・給与システムの開発だけに実直に取り組んできた結果だと思います。

市場の大きな海外に目を向けて挑戦してほしい

小椋 これまで海外を目指して進出しても、すぐに撤退してしまうケースも少なくありません。いま、日本企業の海外展開で求められるのは、どんなことだと思われますか。

高崎 国によって労働条件も、働き方も営業の仕方も違いますから、日本とは慣習も社会システムも異なることを前提に、相手と接点を見つけていくしかありません。ただ、日本でも海外でも同じで、自分たちの理念や最終ゴールを明確にしてしっかり相手に伝えれば、自然といろいろな人が手伝ってくれるようになります。

先ほどお話しした約250社のチームで共創して250本のソフトウエアを開発するプロジェクトもそうですが、それぞれの企業が強みを生かしながら世界一を目指して取り組めば、誰にも負けない最強のソフトウエアを生み出せるはずです。仲間同士で世界一を目指すことで、相互に顧客を広げることもでき、その利益は公平にみんなで享受できます。

小椋 まさに私たちユニアデックスも掲げている、ビジネスエコシステムを実現されようとしているのですね。それを世界市場で成し遂げるためには、文化や人とうまく接する適応性が求められるのだと思います。デジタルテクノロジーの進化により、言葉などのコミュニケーションや距離などの壁がとても低くなることでマーケットが広がり、またより多くの人にビジネス機会が訪れています。そこでは、ユニークなアイデアが必要になります。私たちは日本人の得意な“きめ細かな対応”をデジタル社会においても活かすことでユニークなサービスをデザインしていこうと活動しています。

高崎 ビジネスパーソンとして誠実で礼儀正しい日本人は、海外で非常に評価が高いです。日本という小さい規模で勝負するよりも、市場の大きな海外にぜひ目を向けて挑戦してほしいと思います。

画像: ディスカッションを終えて 対談を通して高崎さんの人柄に触れ、「真面目に働く人が報われる仕組みをつくりたい」という理念を掲げて実直に取り組んでこられた姿勢が、日本だけでなく海外でも多くの共感を呼び、大きなプロジェクトへとつながっているのだと感じられました。デジタルマネー化が進行して大変革を迎えようとしている今は、まさに多くの企業がそれぞれの強みを発揮しながら、一丸となって世界市場へ乗り出す一大好機です。技術やノウハウを持ち寄って、革新を起こしていくことが求められています。

ディスカッションを終えて
対談を通して高崎さんの人柄に触れ、「真面目に働く人が報われる仕組みをつくりたい」という理念を掲げて実直に取り組んでこられた姿勢が、日本だけでなく海外でも多くの共感を呼び、大きなプロジェクトへとつながっているのだと感じられました。デジタルマネー化が進行して大変革を迎えようとしている今は、まさに多くの企業がそれぞれの強みを発揮しながら、一丸となって世界市場へ乗り出す一大好機です。技術やノウハウを持ち寄って、革新を起こしていくことが求められています。

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