元Jリーガーであり上場企業の社長となった嵜本晋輔さん。現役引退後に父親の営むリサイクルショップに就職して、2007年にブランド買取専門店「なんぼや」をオープン。2011年には株式会社SOU(*注)を設立し、2018年には東証マザーズ上場を果たしました。現在は、連結売上高377億円(2019年8月期)に達する企業へと急成長しています。持ち主の思いをつなぐリユース事業に至った背景と、プロスポーツ選手のセカンドキャリアに対する考え方を伺いました。

(*注) 株式会社SOUは2020年3月1日より「バリュエンスホールディングス株式会社」に商号変更しております。

画像: プロフィール バリュエンスホールディングス株式会社代表取締役社長 嵜本晋輔(さきもと しんすけ) 1982年、大阪生まれ。2001年にJリーグのガンバ大阪に入団。JFLの佐川急便大阪SCを経て2004年に現役引退。父親が営むリサイクルショップに入社する。2007年に実兄2人とブランド品に特化したリユース事業「MKSコーポレーション」を立ち上げる。2人の実兄が洋菓子店事業に進出したのを機に、「MKSコーポレーション」のリユース事業を移管する形で独立し、株式会社SOUを設立。2018年に東証マザーズへの新規上場を果たす。

プロフィール
バリュエンスホールディングス株式会社代表取締役社長
嵜本晋輔(さきもと しんすけ)
1982年、大阪生まれ。2001年にJリーグのガンバ大阪に入団。JFLの佐川急便大阪SCを経て2004年に現役引退。父親が営むリサイクルショップに入社する。2007年に実兄2人とブランド品に特化したリユース事業「MKSコーポレーション」を立ち上げる。2人の実兄が洋菓子店事業に進出したのを機に、「MKSコーポレーション」のリユース事業を移管する形で独立し、株式会社SOUを設立。2018年に東証マザーズへの新規上場を果たす。

自分の選択した人生が間違っていたら修正する

――嵜本さんがサッカーを引退するきっかけについてお聞かせください。

高校を卒業してガンバ大阪に入団したのですが、入団してすぐにプロの厳しさを知りました。3年後に戦力外通告されてトライアウトを受けて、JFLの佐川急便大阪SCに入団しました。

もう一度はい上がろうと考えたのですが、当時J1よりも2段階下のリーグだったJFLのレベルも高く、自分のプレーが通用しても、まぐれであることが多いと明確に分かってしまったため、数カ月後にはサッカーを引退する決心をしました。

――あっさりというか、きっぱり決断されましたね。

自分にとってサッカーを続けるのがいいのか、それとも新しいステージに立つのがいいのかと岐路に立ったときに、どちらが自分にとって将来リターンが大きいかを考えたんです。そこは商売人の血なのですかね。自分自身の商品力を客観的に見極めて、どちらが得か判断しました。自分では前向きな撤退だったと捉えています。

画像: ガンバ大阪時代の嵜本さん

ガンバ大阪時代の嵜本さん

持ち主の思いやストーリーが価値を決める

――引退後は、お父さまの営まれているリサイクルショップに入社されました。苦労されたことはありますか。

苦労だと思ったことはありません。そもそも、働く場があっただけでも恵まれていました。入社直後は、兄や先輩社員が買い取った白物家電を洗って、店頭に並べるのが仕事でした。そうした作業の中でも、どうしたら認めてもらえるのかを考えて仕事をしていました。20人前後の小さな会社でしたので、とにかくできることは何でもやるという感じで働きました。

――印象的なエピソードがあったそうですね

ブランド品のリユースを始めた頃は、私自身もお客さまから商品を買い取る商談をしていたのですが、あるお客さまから7万円で商品を買うことがありました。実はそのお客さまは、別のお店でも見積もりを取られていて、そこでは10万円を提示されたそうです。それが本当の話なら、普通はあり得ないですよね。10万円ではなくて7万円で売るなんて。お話を伺うと、「あなたはこの商品と私の話をきちんと聞いてくれた。それに商品を扱う振る舞いがとても丁寧だった。こういう人に自分の商品を預けたいと思った」とおっしゃってくださったのです。この体験が、今の私のビジネスの原点といってもいいかもしれません。それが一度ではなく、何度もそういう方と出会いました。

この経験で学んだのが、物の価値は価格だけでは測れないということでした。持ち主と物との間にある関係性やストーリーが、価値を決めるのです。

当社のブランド買取事業では、査定士のことをコンシェルジュと呼んでいます。コンシェルジュは、お客さまの商品にまつわる思いやストーリーをお伺いします。同じブランド商品でも、単純に使わなくなったから売りたい物と、大切な人からプレゼントしてもらった物とでは思い入れが違うはずです。そういった話を丁寧にお伺いして査定をしています。

リユースは単に必要がなくなった物を売るということだけではなく、ストーリーを持った商品を次の人につなぎ、そこで得たお金を新たな投資につなげる、新しい選択だと考えています。

画像1: 持ち主の思いやストーリーが価値を決める

――SOU設立後、B to CからB to Bへの転換をはじめ新事業・新サービスを拡充していますね。

はじめはブランド品をネットオークションで個人相手に販売していましたが、2013年から自社の開催するオークションを通じて同業者に向けて販売しています。ネットオークションでの販売は充分に収益を上げていましたが、ネット上の取り引きでは接客での差別化が難しく、価格重視の競争になるビジネスモデルには成長が見込めないと判断し、売り上げ全盛期に撤退を決断しました。

その後すぐに同業者向けの自社オークション「東京スターオークション(現 STAR BUYERS AUCTION)」を立ち上げたのです。

――IT企業としては、とりわけブランド品の資産価値を可視化するアプリ「Miney(マイニー)」にデジタルトランスフォーメーションの可能性を感じます。

「Miney」は、クローゼットに眠るブランドラグジュアリー品の価値を資産として見える化したいという発想から開発しました。使っていないアイテムをスマホで撮影するだけで、すぐに価値を知ることができ、「物」を「資産」として見える化します。さらに日々変化するそのアイテムの資産価値がリアルタイムで更新され、かつ「売り時」もお知らせするので、お客さまや市場へも「物」を「資産」として捉える意識の変化を生むことができるのではないかと考えています。今は時計と不動産のジャンルを対象にAI査定機能を導入していますが、今後は他のジャンルも随時対応していく予定です。また将来的にはあらゆる実物資産の登録を目指し、ビジネスの可能性を広げていきたいですね。

画像: 持ち物の資産価値が分かる「Miney」。時計と不動産のみAI査定が可能で、所要時間は平均3秒

持ち物の資産価値が分かる「Miney」。時計と不動産のみAI査定が可能で、所要時間は平均3秒

――嵜本社長のビジネスを生み出す源泉はどこにあるのでしょうか。

特別に何か源泉があるとは思っていませんが、しいていえば問題を自らつくることでしょうか。ビジネスにおいては、問題を抱えているほうが成果に比例しますし、むしろ問題をつくり出すことに価値がある。問題を抱えているのはチャレンジをしている証拠で、問題がビジネスチャンスを生んでいると思っています。

この考え方はサッカーがうまくなるプロセスと全く同じです。現実を理想に近づけるためにどのような練習がいいのか? 自分でつくった問題の改善の回数が多いほうが成功につながります。

――なるほど、同様にスポーツのマネジメントと通じることはありますか。

プロになるまで、私が在籍したチームで学んだことは「全体最適」です。どんなに技術的に秀でた選手であっても、チームの中で生かせなければ、試合に出場できませんでした。ガンバ大阪時代の西野監督は、さらに人間性も求めました。人としてチームに貢献しているか? という視点でした。

チームを俯瞰して自分の役割を知ることが大事であることを学んできましたが、それは会社でも同じです。常にオールラウンドプレーヤーが求められるわけではありません。何か1つでも得意なものを見つけて、それを極めて会社に貢献してほしいと社員には言っています。しかし、上司からの手助けも必要だと感じます。適材適所を探る力です。あなたはこうだから、これで行ってほしいと。その上でフォーメーションをつくることは得意なつもりです。

画像2: 持ち主の思いやストーリーが価値を決める

セカンドキャリアではなくデュアルキャリアにしたい

――最近は、ガンバ大阪とゴールドパートナー契約を締結したり、早稲田大学ア式蹴球部のオフィシャルパートナーへ就任したりするなど、スポーツ界にも貢献されていますね。

ガンバ大阪では、プロフェッショナルとは何かを身をもって学ぶことになりました。今も、経営者として自分はプロフェッショナルなのかどうかを自問自答しています。もちろん明日、戦力外を通告されることはありませんが、そうした危機感を持つ大切さを教えてくれたのはガンバ大阪であり、サッカーでありスポーツです。

それに対して、何らかの恩返しをしたいというのが今の気持ちです。これからも様々な分野で、スポーツ界に恩返しをしていきたいと思っています。

また、先ほどから私は「ストーリーが重要」と言ってきましたが、戦力外を通告された元選手が出身母体のスポンサーになるというのは、めったにない「おもろいストーリー」ではないでしょうか。それはとても重要で、何か新しい価値が生まれる気がします。そういう思いもあってガンバ大阪のスポンサーになったという一面もあります。

画像: セカンドキャリアではなくデュアルキャリアにしたい

――恩返しの方法として、プロスポーツ選手のセカンドキャリアに向けた支援もあります。

会社を経営していると、サッカーの現役選手から引退後について相談を受けることもあります。実はプライベートで、アスリートのキャリアをサポートする会社を立ち上げ、来春には本格的に活動する予定です。

その中で、「セカンドキャリア」を別の言い方に変えたいと考えています。セカンドキャリアという言葉は、引退後の第2の人生というイメージがつきまといます。

プロスポーツ選手はいつ契約を切られるか分からない厳しい世界です。そういった意味でもプロスポーツ選手は、リスクを考慮して現役時代からもう1つのキャリアを築く道もあってよいのではないかと思っています。スポーツ選手が副業することに抵抗感がある人もいるかもしれませんが、副業ではなく「複業」という考え方です。

スポーツとは別の本業を持つという発想で、「デュアルキャリア」「パラレルキャリア」などの呼称にしたいと考えています。プロスポーツ選手でも、本気で取り組める仕事をもう1つ持つことは、十分可能です。今後はそうした環境づくりにも貢献していきたいですね。

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