さまざまな「つなぐ力」を紹介する本企画。今回は、ショッピングモール「ニッケコルトンプラザ」(千葉県市川市)を取材しました。敷地内にお社とともに残されている「鎮守の杜(もり)」では、野外クラフト展「工房からの風」やワークショップなど、文化イベントが開催されています。ニッケコルトンプラザは、地域にとってどのような存在なのでしょうか。運営するニッケ・タウンパートナーズの阪本正一社長に、お話を伺いました。

画像: プロフィール ニッケ・タウンパートナーズ株式会社 代表取締役社長 阪本 正一(さかもと しょういち) 1979年 株式会社近鉄百貨店入社。主として新店の開発とリーシングを担当。2015年 あべのハルカス&てんしばの開発を経て、ニッケ・タウンパートナーズ株式会社 代表取締役社長に就任。

プロフィール
ニッケ・タウンパートナーズ株式会社
代表取締役社長 阪本 正一(さかもと しょういち)
1979年 株式会社近鉄百貨店入社。主として新店の開発とリーシングを担当。2015年 あべのハルカス&てんしばの開発を経て、ニッケ・タウンパートナーズ株式会社 代表取締役社長に就任。

工場の跡地を「地域に愛される場所」にしたい

― ニッケコルトンプラザは、日本毛織(ニッケグループ)の中山工場跡地に造られています。工場跡地をショッピングモールにした経緯を教えてください。

工場跡地の活用方法を検討する中で、駅からの距離や周囲の道路環境などの条件から、当時、各地で注目を集めていたショッピングモールが最適ではないかと考えました。地域の活性化に貢献したいという思いもありました。日本毛織はもともとメーカーですから、商業施設の運営に乗り出すのは、かなりの挑戦だったと思います。

― 工場の跡地にショッピングモールができることについて、地域の方々の反応はいかがでしたか。

納得していただくまで時間はかかりました。それでも当時の社長は、約14万平方メートルの土地を所有する企業として、地域への強い責任を感じるとともに、「地域に愛される場所にしたい」と考えておられていたようです。ベッドタウンだった市川を、「住む」「買う」「働く」の“三位一体”の新たな都市にしようとしたのです。よい文化を楽しむことが幸福の条件であると考え、1983年に「工芸学校のある街をつくります」と宣言しています。

画像: 阪本社長の後ろに飾られているのは、ニッケコルトンプラザ全体の写真です。広大な敷地であることが良く分かります。

阪本社長の後ろに飾られているのは、ニッケコルトンプラザ全体の写真です。広大な敷地であることが良く分かります。

― ただ商品を売るショッピングモールではなく、地域活性化のための場にしたいという思いがあったのですね。地域の方の理解を得るまでには時間がかかったものの、1988年に無事に開業しました。どのようなショッピングモールだったのでしょうか。

やや武骨なデザインの外観は、工場の面影を残しているかもしれませんね(笑)。テナントは当初、プランタンと専門店からなり、高級レストランも入るなど、比較的所得が高く上質な生活を好む市川市民のニーズに合致していたと思います。近隣に競合店もできず、30年間、経営は順調だったといえます。

― 30年の間にスポーツ施設や、映画館も増築されました。地域の方にとっては、ショッピングだけではなく、生活の一部でもありますね。

“ゆりかごから墓場まで”という言葉がありますが、ニッケコルトンプラザもどの年代に対してもサービスを提供することを目指してきました。敷地内にクリニックや高齢者向けのケアセンターがありますし、敷地外ですが保育園もあります。人と文化をつなぐ場所として「鎮守の杜」もあります。

「風人」と「庭人」が鎮守の杜を守り続ける

― そうそう、ニッケコルトンプラザといえば、敷地内の鎮守の杜にお社(神社)があることが特徴ですよね。どのような歴史があるのでしょうか。

昭和初期に、工場の安全と繁栄を祈願して、森の中にお社が建立されました。「おりひめ神社」と改名され、今に引き継がれています。ニッケコルトンプラザを造るときに、クスノキやシイノキが生い茂る森は鎮守の杜として整備しました。

画像: 神社のお杜を囲む高い木々は、お杜を守っているようにみえます。

神社のお杜を囲む高い木々は、お杜を守っているようにみえます。

今では毎年、鎮守の杜で若手工芸作家の発掘と支援を目的とする野外クラフト展「工房からの風」を開催し、選考で選ばれた50人の作家が参加しています。常設の小さな小屋「galleryらふと」では、工芸作家によるワークショップが定期的に開催されています。

― 「工房からの風」は、“工芸作家の登竜門”とも言われているそうですね。

そのようです。実際、「工房からの風」に参加する作家は、日本橋三越本店や伊勢丹新宿店での展示販売会に参加するチャンスがありますし、「工房からの風」での出展をきっかけに、その後、一流作家に成長した方もいらっしゃいます。

画像: 毎回活気ある野外クラフト展「工房からの風」。

毎回活気ある野外クラフト展「工房からの風」。

― 1983年当時の宣言「工芸学校のある街をつくります」を実現しているといえますね。

「工房からの風」に出展経験がある作家のうち、その後、ワークショップの運営などに携わっていただく方々を「風人(かぜびと)」と呼んでいます。作家たちが鎮守の杜を介してつながり続けてくれるのはうれしいですね。実は鎮守の杜には、風人のほかに、1年を通じて庭の手入れを手伝ってくださる「庭人(にわびと)」もいます。

画像: 庭人が定期的に手入れをしています。

庭人が定期的に手入れをしています。

― 鎮守の杜が、「工芸が好き」「自然が好き」「コルトンプラザが好き」という方々をつなぐ場所になっているのですね。

やさしく、あったかいショッピングモールで在り続ける

― 2018年7月に、ニッケコルトンプラザの一部の店舗で、日本ユニシスグループの人流解析サービス「JINRYU」の実証実験を行ったと聞きました。どのようなものでしょうか。

人流解析サービス「JINRYU」は、カメラで取得した映像から、人物や顔を認識し、人物の動線や人数、顔から推定した年齢・性別などの情報を可視化・分析するサービスです。

今回は、隣接するアパレル2店舗に各1台、店舗前インフォメーション付近の通路に1台のカメラを設置し、「テナント前の通過者数」、「テナント入店者数」、「入店者属性を取得・分析」しました。平日と週末のお客さまの流れなど、想定通りの結果であり、自分たちの感覚が合っていたことを確認できました。

客数カウントは人が行うと間違いもありますし、思い込みもあります。将来的にはすべてAI(人工知能)が担うことになる分野だと思います。ショッピングモール運営者としてITを活用した仕組みづくりをしていけば、テナントの収益拡大の支援ができますから、可能性を感じています。

― データを生かすことで、売り上げにもつながりますし、よりお客さまのニーズに合ったものを提供できるようになりそうですね。今後の展望について教えてください。

ニッケコルトンプラザは、開業以来、増築を繰り返してきたため、そろそろ動線を考えた改築が必要になると考えています。また、2019年には園児数400人規模のバイリンガル幼児園がオープンする予定ですから、新しいお客さまの流れができます。次の10年を見据えて、新たな層のテナント誘致に力を入れていきたいと思っています。

画像: 後方にあるカメラは店舗に設置された「人流解析センサー」。

後方にあるカメラは店舗に設置された「人流解析センサー」。

― 最後に、ニッケコルトンプラザは今後、地元の人にとってどのような存在になっていくのでしょうか。

当グループのスローガンは、「人と地球に『やさしく、あったかい』」であり、ニッケコルトンプラザもお客さまに安心・安全なショッピングモールとして親しんでいただいております。刺激を追求するようなことは必要ないと思っています。今後も、体と心の健康を提供する上品なショッピングモールを目指していきたいですね

― 地域の方々に愛されている理由は、設立当時からしっかりした理念があり、それを受け継いできたからなのですね。本日はありがとうございました。

次のコーナーでは、鎮守の杜に潜入したNexTalk編集スタッフのミキティーがニッケコルトンプラザのレポートをお届けします!

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