2007年に結成された日本ユニシス実業団バドミントン部女子チーム。2016年リオ五輪では、高橋礼華・松友美佐紀ペアが金メダル、奥原希望選手が銅メダルを獲得という快挙を成しとげました。創設当時から4年間同チームの選手として活躍した後、2012年の引退後は女子チームのコーチに就任。日本ユニシスでの仕事もこなしつつ選手の育成に当たっている平山優さんに、世界に通用する人材育成の秘訣について話を聞きました。
コーチとして、選手一人ひとりの心に寄り添うように
―リオ五輪でのバドミントン部選手のご活躍おめでとうございます。女子チームは創設されてからわずか8年と聞いて驚きました。あっという間に、世界の頂点に立つ選手を輩出するほどの強豪チームに成長しましたね。
ありがとうございます。創設初年に日本リーグ3部優勝、2年目に2部優勝、3年目に1部優勝で2連覇を果たし、最速で日本一となり、2016年には世界の大舞台で活躍することができました。選手たちが、「自分たちでチームを作り上げていく」という意欲を持っていましたし、「世界を目指す」という目標を共有していたことは、チームとしての強みになっていたと思います。自由な風土の中で、選手一人ひとりが主体性を持って、ぶれない目標に向けてしっかりと歩んできました。
―平山さんも、4年間はキャプテンとしてチームの成長に貢献されました。引退してコーチに就任した今、チームのさらなる成長のために、若手の育成で意識していることは何ですか。
まずは、選手一人ひとりをよく見ることですね。それぞれ個性がありますから、よく見て接し方を考え、適切な声掛けを行うようにしています。
次に、選手のよいところを見つけ、伸ばすこと。特に新人は、苦手な部分の練習ばかりでは心が折れてしまいますから、得意な練習をはさむことで、自信を持たせることを意識しています。
そして、選手の心に寄り添うこと。技術的な指導以上に、とにかく話を聞いて、選手の気持ちを理解してあげることが大事だと実感しています。特に、選手がスランプやケガで苦しんでいるときに私ができることは、「心のケア」だと思っています。
―平山さんご自身も、選手時代に腰痛に苦しむ経験をされましたね。その時の経験が、コーチとして、選手たちと一緒にスランプやケガを乗り越える際に、活かされているのではないでしょうか。
そうですね。私も選手時代には、腰痛の悪化で全く練習できない日が続きました。「キャプテンでありながら、こんなことでいいのか」と悩みましたが、コーチや監督は、「焦らなくていい」と、ただ見守ってくださいました。信頼されていると感じ、「試合に出られるようになったら、絶対にがんばろう」と思いながらリハビリに励みました。
勝てる選手は、うまい選手ではなく強い選手
―日本ユニシス実業団バドミントン部には、選手を見守る風土があるのですね。最近の若い選手を見ていて、何か感じることはありますか。
若い選手は、自分に甘くなってしまうことが多いように思います。「不調だから仕方ない」と自分の中で言い訳をして、あっさり負けてしまうなど、楽な方に逃げる傾向が見られますね。また、ミスをしたときに、「コースの読みを誤ったから」、「フォームが悪かったから」と技術面だけに原因を見出そうとしますが、実は世界トップになれるかどうかは、技術の高さの差ではなく、心の強さの差なのです。
もちろん技術も大事ですが、「何が何でも絶対取る」、「食らいついてやる」という気持ちが大事です。勝てる選手とは、うまい選手ではなく、強い選手なのです。
―心の強さ、いわゆる根性ですね。指導していて、伸びる選手、伸びない選手の違いは、どこだと感じますか。
コーチとして選手にいろいろアドバイスしますが、素直に受け入れる部分と、譲らない部分とを、自分でバランスよくコントロールできる選手は伸びますね。こういう選手は、私がアドバイスしたことでも、必要ないと思ったら、右から左に聞き流しています(笑)。信頼していますし、「すごいな」と感心しますよ。そうはいっても、その選手にとって必要だと思うことは何度も伝えます。
―聞き流されても、ムッとしないのですね(笑)。コーチとしては、やはり選手が試合に勝つことが一番うれしいのでしょうか。
実は、一番うれしいのは試合で勝ったときではありません。私がコーチとして感じたことを選手に伝えることで、選手が気付きを得てくれたり、取り組む姿勢を見せてくれたりしたときが一番うれしいですね。
―なるほど。平山さんの言葉によって、選手の中で変化や成長が見られたときですね。では、コーチとしてつらいなと感じるのは、どんなときですか。
私はこのチームが大好きで、選手一人ひとりが、とてもかわいいですし、強くなってほしいと思っています。ですから、成長してもらうために、イヤなことも言わないといけないのですが、うまく伝わらず、選手との間に距離ができてしまうことがあります。そういうときは、コーチとして力不足だなと思いますし、落ち込みます。分かってもらえるまで、コミュニケーションを取るしかないですね。
―選手たちとの距離を縮めるために、プライベートな話をしたりもしますか。
バドミントンを離れたら、みんな普通のかわいい女の子ですから、ファッションの話や好きなアイドルの話など、女子トークで盛り上がりますよ。
監督は男性なので、女性コーチとして、女子の気持ちを分かってあげられるのは、利点だと思います。常に、「私にしかできないことはなんだろう」と考えています。最初は少し意識してコミュニケーションを取っていましたが、今は自然に会話を楽しんでいます。
―女子トーク!楽しそうですね。バドミントン選手は華やかで、マスコミにも注目されていますが、それについてはどのようにお考えですか。
日本ユニシスの女子チームは、創設のときに、「強いだけでなく、美しさや品も備えたチームを目指そう」ということだったのです。選手たちには、公の場に出るときは、メークや身だしなみを整えるようアドバイスしています。マスコミに注目されることで、日本ユニシスの広報活動にも貢献できますし、バドミントンを知っていただくよいチャンスだと思っています。
―平山さんは、江東区の学校で講習会を開催するなど、バドミントンの楽しさを伝える対外的な活動も積極的にされていますね。日本ユニシス社内でのバドミントン部への関心は、どのような感じですか。
社員の方々の理解には感謝しています。出社したときに、「見たよ」、「がんばったね」と声を掛けていただくことは、すごくうれしいですね。リオ五輪のときは、日本時間で深夜の試合だったにもかかわらず、大会議室に200人以上の社員が集まって応援してくださり、ものすごく励みになりました。
―女子チームの今後について、お聞かせください。
世界の頂点に立つ選手が出たことで、2020年に向けてチーム全体のモチベーションも上がってきています。私のコーチとしての指導面では、まだまだ課題もありますが、一人ひとりと向き合って信頼関係を築きながら、一歩ずつ着実に進んでいきたいと思います。