この「未来に向けたテクノロジー」シリーズでは、第1回にウエアラブル端末で健康診断を中心に紹介し、第2回では病気を治療するテクノロジーを紹介した。第1回のウエアラブル端末は、最近よく耳にする「IoT(Internet of Things)」の一部分でもある。そこで改めて、IoTとは何か、について定義してみよう。人によっては、Internet of Everythingと言う人もいる。要は、インターネットにつながるデバイスやセンサー、ウエアラブルデバイスなどすべてを総称した言葉である。

なぜ、IoTが今後の社会にインパクトを与えるのか。IoTを構成するデバイスやセンサーは2020年には260億個あるいは500億個にも急増するという予測レポートがある。IoTを通じてクラウドに集められたデータは累積され文字通りビッグデータとなる。ビッグデータを解析して意味のあるパラメーターを抽出、ビジネスに活かそうとする動きもある。半導体メーカー最大手のIntelでもIoT事業を設けた。

Intelも注目するIoTのコンセプトとは何か。これまでインターネットにつながるモノは、スマートフォンやタブレット、パソコン、サーバーなどICT分野のデバイスに限定されていた。今、調査会社がIoTの市場というとき、これらの製品が現在のIoTの数として表現される。そしてこれからは、IoTという概念には、広義の意味のセンサーが含まれる。すなわち振動や温度などの物理量や、pHなどの化学量を電気に変換する本来のセンサー、その信号を処理する電子回路、そしてデータを他のセンサーやゲートウエーに送る送信機などから成るセンサーボックスまで解釈の幅を広げ、『センサー』と定義し直している。

画像: 図1 IntelのIoT Solutions事業部長 Jim Robinson氏

図1 IntelのIoT Solutions事業部長 Jim Robinson氏

筆者は、IntelがIoT Solutions事業部を作ったという記者会見を行った時、米国から来日した事業部長のJim Robinson氏(図1)にたずねると、インテルのいうIoTとは、センサーゲートウエーより上のレイヤー、すなわちネットワーク層やサーバー/コンピューター層などを指している。センサー部分は扱わない。センサーのプロセッサーはARMベースだからである。そして、IoTはインダストリアル・インターネット(Industrial Internet)とも同じ概念だという。これでIntelはゲートウエーからクラウドのサーバーやネットワークスイッチなどに自社製品を応用していく。

小さなセンサーから大きなシステムまで

画像: 図2 IoTはBAN/PANからワイヤレスセンサーネットワーク、M2M、インダストリアルインターネット、スマータープラネットなど広い分野に及ぶ

図2 IoTはBAN/PANからワイヤレスセンサーネットワーク、M2M、インダストリアルインターネット、スマータープラネットなど広い分野に及ぶ

IoTの概念を整理してみたのが図2である。
インターネットに接続する全てのモノには、小さいものは体に取り付けるウエアラブルデバイス、ヘルスケア用のセンサーデバイスなどがある。
これらはBAN(Body area network)あるいはPAN(Personal area network)とも言われている。
呼び名に関係なくヘルスケアデバイスでは、体温や血圧、心拍数などの基本データを測定し、そのデータをスマートフォンに送信する。
最近のウエアラブルデバイスは、ヘルスケアを目的とするモノに絞られつつある。

ワイヤレスセンサーネットワークという概念では、農地にセンサーデバイスを散りばめ、大気の温度や湿度、葉の湿度、土壌の湿度などを測定、最適な水、肥料などタイミングを見極めることで高品質の野菜や果物を収穫する(図3)。山間部では、両生類や野生動物を多数散りばめたCMOSイメージセンサーからの映像を分析し、生態系を把握する。火山の近くでは、振動センサーを周囲にモニターとして多数設置し、火山活動の実態を観測し、噴火の予知につなげる。橋やトンネルなどでも振動センサーを配置しておき、吊り橋のワイヤーや橋そのものの強度を常時観測して、異常があれば知らせる(図4)。

画像: 図3 農業にさまざまなセンサーを散りばめて最適な作物の収穫を目指す 出典:MEMSIC

図3 農業にさまざまなセンサーを散りばめて最適な作物の収穫を目指す 出典:MEMSIC

画像: 図4 橋梁に取り付けたセンサーによって橋の劣化状態を知る 出典:MEMSIC

図4 橋梁に取り付けたセンサーによって橋の劣化状態を知る 出典:MEMSIC

上記のセンサーネットワークやウエアラブル、ヘルスケア、PAN、BANとも取得したデータをゲートウエーやスマートフォンに送り、それらからインターネットにつなげることのメリットは大きい。各センサーの電力消費をできるだけ抑えられるからだ。これらのセンサーは5~10年間は電池の交換なく動作することが望まれる。

M2Mもインダストリアルインターネットも

M2M(Machine to machine)もIoTの一つとみなせる。M2Mはセンサーと通信モジュールを備えた端末で、取得したセンサー情報は直接インターネットに送る。M2Mはワイヤレスではなく電源が近くにあることが多い。実際に使われている例として、自動販売機やデジタルサイネージ、電気自動車、電力メーター、トラクターやブルドーザーなどがある。

自販機では、ジュースやビールの数量をカウントしておき、少なくなると補給すればよい。サービス員が定期的に巡回する必要はなくなる。デジタルサイネージでは渋谷や新橋、秋葉原などの人が集まる繁華街で呼びかける広告を遠隔で流している。将来は対象とする人たちの年齢を分析し、彼らに向けた広告に瞬時に切り替えることもできる。

日産自動車のEV「リーフ」にはM2Mモジュールを搭載しており、今どこにいるのかセンターで把握しておき、道路沿いの充電スタンドの情報を提供する。電力メーター検査は、リアルタイムで電力情報を基幹系とやり取りするスマートメーターとは異なり、毎月の電力料金をチェックする。

センサーネットワークと似ているが、発電用タービンやジェットエンジンなど工業用の巨大なシステムに取り付けるセンサーとそれを利用するシステムは、前出のインダストリアルインターネットの範疇に入る(図5)。ここでは、タービンやジェットエンジンなどに大量のセンサーを張り付けておき、そのデータから劣化状態をモニターする。部品の劣化が始まりかけると故障に至る前に交換する。交換時期は、航空機を点検する時に合せれば、ダウンタイムが実質にゼロになる。

画像: 図5 インダストリアルインターネット GEが提案したビジネスモデル

図5 インダストリアルインターネット GEが提案したビジネスモデル

インダストリアルインターネットの概念はビジネスモデルを大きく変える。タービンやジェットエンジンは常に監視しておき実質的に故障することはないため、従量制の料金体系を導入できる。ジェットエンジンを搭載した航空機が例えば1000マイル飛ぶごとに何ドルというような料金システムである。これまでの製品を作って売るだけではなく、定期的に収入が入るビジネスモデルを導入できる。

ビッグデータと併せてIoTを活かす

最初に紹介したIntelのRobinson氏は、スマータープラネット(Smarter Planet)の概念も同じだという。これは、スマートグリッドやスマートコミュニティーから、上下水道システム、交通渋滞解消システムなどにセンサーを多数配置しておき、センサーからのデータをモニターし、最適なソリューションを求めようとするもの。インダストリアルインターネットは産業機器に限定しているが、スマータープラネットはそれよりもさらに巨大なシステムの問題を解決する。結局、規模が大きいか小さいかだけの違いと言えそうだ。これらを整理してみると、図2のように小さなものから大きなものまで、IoT等概念で括ることができる。

以上、述べてきた端末は全て、直接的あるいは間接的にインターネットと接続されているため、IoTと言ってよい。これらに共通する仕組みは、センサー、データ処理、データ送受信を、インターネットを通してクラウドに上げていることだ。
クラウドはビッグデータとなる巨大なデータの集積場所となる。そこで、それらを解析し、例えばデジタルサイネージで蓄積した人々の行動パターンと年齢層、時間との関係などから消費者の行動パターンをつかみ、それをLEDパネルの広告と連動させることができる。農作物と湿度や温度、土壌のpHなどのデータは、作物の出来不出来、品質などとの関係を、ビッグデータ解析を通して求めることができるようになる。

ビッグデータの解析には、複数のマシンに分けて計算処理を行うHadoop関数が注目されており、これを使うことで計算時間を短縮できる。これからは、ビッグデータをどう生かすかが問われるようになる。自分の得たい情報に対して、どのようなデータが関連するのか、これまで気が付かなかったデータが関連していることがわかるようになる。
次回は、IoTの典型的な例として、ワイヤレスセンサーネットワークを紹介しよう。未来に向けて賢い制御を行うテクノロジーである。

画像: 津田 建二(つだ けんじ) プロフィール: 国際技術ジャーナリスト兼セミコンポータル編集長。1972年東京工業大学理学部応用物理学科卒業。 同年日本電気入社、半導体デバイスの開発等に従事。1977年日経BP社(当時日経マグロウヒル社)入社、「日経エレクトロニクス」、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」編集記者、副編集長、シニアエディター、アジア部長、国際部長など歴任。 2002年10月リード・ビジネス・インフォメーション(株)入社、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。代表取締役にも就任。

津田 建二(つだ けんじ)
プロフィール:
国際技術ジャーナリスト兼セミコンポータル編集長。1972年東京工業大学理学部応用物理学科卒業。
同年日本電気入社、半導体デバイスの開発等に従事。1977年日経BP社(当時日経マグロウヒル社)入社、「日経エレクトロニクス」、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」編集記者、副編集長、シニアエディター、アジア部長、国際部長など歴任。
2002年10月リード・ビジネス・インフォメーション(株)入社、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。代表取締役にも就任。

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