「アルムナイ・リレーション」という言葉をご存じでしょうか。会社のOB/OGを指す「Alumni」(アルムナイ)とのつながりを活用することで、会社も個人も、そして社会もよくなっていく、という取り組みのこと。その活動を広めているのが、ハッカズークです。個人の働き方が変わりつつある今、アルムナイ・リレーションにはどんなメリットがあるのでしょうか。同社代表取締役の鈴木仁志さんに聞きました。

画像: プロフィール 株式会社ハッカズーク 代表取締役 鈴木 仁志(すずき ひとし) ウエディング事業会社のグアム現地法人のゼネラルマネージャーや、人事・採用コンサルティング会社のシンガポール法人責任者などを務めた後、2017年にハッカズーク・グループを設立。ハッカズークでは、「企業とアルムナイ(会社OB/OG)の関係価値を最大化する」ために、アルムナイ・リレーションに特化した事業を展開。SaaS型プラットフォーム(Official-Alumni.com)や、アルムナイ・リレーションづくりのコンサルティング、アルムナイ情報特化型メディア「アルムナビ」( https://alumnavi.official-alumni.com/ )などを提供している。

プロフィール
株式会社ハッカズーク 代表取締役
鈴木 仁志(すずき ひとし)
ウエディング事業会社のグアム現地法人のゼネラルマネージャーや、人事・採用コンサルティング会社のシンガポール法人責任者などを務めた後、2017年にハッカズーク・グループを設立。ハッカズークでは、「企業とアルムナイ(会社OB/OG)の関係価値を最大化する」ために、アルムナイ・リレーションに特化した事業を展開。SaaS型プラットフォーム(Official-Alumni.com)や、アルムナイ・リレーションづくりのコンサルティング、アルムナイ情報特化型メディア「アルムナビ」( https://alumnavi.official-alumni.com/ )などを提供している。

「辞めた人」は会社の裏切り者!?

― アルムナイというのは学校の卒業生や同窓生という意味ですが、海外の会社ではOB/OGもアルムナイと呼びますね。鈴木さんが着目するのは定年退職者だけでなく、若いうちや中堅どころで退職した方々です。なぜですか?

ハッカズークでは、アルムナイと会社が良好な関係を築くことをアルムナイ・リレーションと呼んでいます。そのアルムナイ・リレーションを実現するプラットフォームを提供し、アルムナイと会社がつながる仕組みづくりを支援しています。

ポイントは強くつながるではなく、ゆるくつながることです。個人も会社もゆるいつながり、つまりお互いの依存度が高くない関係をたくさん持つことが重要になっているからです。

― 確かに、ゆるいつながりだと長続きしそうです。

アルムナイと会社の良好な関係が長く続けば、長い目で見てお互いに得られるメリットが大きくなります。まだまだ働き続ける年代のアルムナイ自身は、新しい経験や広い視点を得て自分の人生をより豊かに充実させられます。

一方、会社にとっては、外から客観的に見た会社・製品・サービスのよさをアルムナイから指摘してもらえます。こうした方がもっとよくなるという提案を受けることもできるでしょう。アルムナイとよい関係を築いて、ファンでいてくれれば顧客を紹介してもらえる可能性もあります。

画像: ― 確かに、ゆるいつながりだと長続きしそうです。

― 最近のビジネスは、1社だけで完結せず、異業種と組む機会が増えています。いわゆるエコシステムをつくって、さまざまな会社を巻き込みながら一緒にイノベーションを起こしていく傾向にあります。アルムナイとつながることで、ビジネスの進め方は変わりますか。

イノベーションには、社内におけるクローズド・イノベーションと、社外におけるオープン・イノベーションとがあります。現在多くの会社が取り組もうとしているのはオープン・イノベーションです。ただ、違う会社の人同士でイノベーションを起こそうとすると、協力できる範囲の違いやカルチャーの違いが壁になります。

実は、その橋渡しに適しているのが、アルムナイなのです。アルムナイなら辞めた会社の特徴も社内文化もわかっていますから、現実的に実現可能な進め方を提案できます。アルムナイと現職が協力し合う「アルムナイ・イノベーション」は日本のビジネスに合っていると思います。

画像: 2018年10月に開催された第1回アルムナイト・イベントの模様。普段、オンラインで接点を持つアルムナイと現職が集まり、顔を合わせて交流しました。お互いに刺激になった、とポジティブな反応が多かったそうです。異なる会社のアルムナイが別の会社の元・同僚で、偶然遭遇して驚いた、という場面もありました。

2018年10月に開催された第1回アルムナイト・イベントの模様。普段、オンラインで接点を持つアルムナイと現職が集まり、顔を合わせて交流しました。お互いに刺激になった、とポジティブな反応が多かったそうです。異なる会社のアルムナイが別の会社の元・同僚で、偶然遭遇して驚いた、という場面もありました。

― こうしてお話をうかがっていると、せっかく育てた社員と会社が縁を切るというのは、もったいない気がしますね。ですが、会社に期待されている人ほど、辞めると裏切り者と恨まれて、退社後によい関係を築くケースが少ないような気がします。

あるアルムナイが退職を申し出たときに「もし辞めたら、この業界で生きられないようにするぞ」という脅しをかけられたそうです。在職時とは異なる手のひらを返したような対応にショックを受けたと打ち明けてくれました。

アルムナイで退職者が増えるわけではない

アルムナイ・リレーションに取り組むと、「退職を促進するようで、社員が会社を次々と去るのではないか」と心配される方もいますが、そんなことはありません。退職したら縁が切れてしまうという不安が理由で辞めない社員はエンゲージメントが高い状態ではありません。より成長したい、新しいことに挑戦したい、と熟考の上、前向きに辞める方も多くいます。会社を去る人材は、ある意味、“会社の現状の鏡”です。そんなアルムナイと協業したり、アルムナイの声に耳を傾ければ、社員のためにもより良い会社づくりができます。もしも退職者が増えてしまうのであれば、アルムナイ・リレーションの取り組みとは別のところに原因があるはずです。

― 人手不足も進み、人材を他社から引き抜かれないように会社側も懸命です。

見方を変えると、求められる人材が多い会社であるのはむしろよいことです。大切なのは、社会から求められるような優秀な人材とゆるくつながっておくこと。そのメリットはとても大きいと思います。

― 辞めるのを認めるとしても、会社の情報を第3者に渡すなどのリスクが気になります。

NDA(秘密保持契約)を結んでおけばよいのです。それは、辞める、辞めない、アルムナイかそうでないかにかかわらず、社会人として機密情報に触れる際は誰でも守らないといけないルールです。特別なリスクではなく、実務的に対処可能です。アルムナイとよい関係を築くことは、そうした漏洩を未然に防ぐ効果があります。アルムナイが会社とのつながりを持てば、会社にとって損害になるようなことは、それこそ裏切り行為になるので、心理的なブレーキがかかりますし、それよりも皆本当に会社のことを思ってくれます。

画像: アルムナイ情報特化型メディア「アルムナビ」のサイト。

アルムナイ情報特化型メディア「アルムナビ」のサイト。

社員が辞めない前提を変えよう

― 働く人同士のつながりに着目したきっかけは何ですか。

ウエディング事業を手がける会社にいたとき、グアムでウエディングをするためのスタッフを現地で募集・採用しました。これが本当に大変でした。よくいえば、のんびりしている国民性で、前もってお客さまのために準備する、という考えがなかなか浸透しませんでした。採用しても辞めてしまうことも多かったですね。バックグラウンドや考え方が異なる人たちと一緒に仕事をすることに、大変さとやりがいを感じたのがスタートです。結局、人をつかんでおかないと何もうまくいかないんですよ。

― 働き方に関して、海外と日本では何が違うのでしょうか。

欧米系企業の多くは、ジョブディスクリプション(職務定義書)があり、それに基づいて雇用契約を結びます。その契約を履行できたかどうかが評価の軸です。そして、ポジションのプロフェッショナリズムを高めていく。例えば、東南アジアの国では、3、4年働くとより高い待遇やチャレンジングな仕事を求めて転職することが普通です。

一方、長期雇用と新卒一括採用が主流の日本は制度やカルチャーが異なります。海外のポジション(職務)型に対して、国内の評価の基軸はメンバーシップ(職能)型。新卒採用時点では特に配属が決まっていないケースも多く、ジョブローテーションしていくことで蓄積する経験や能力が評価されるため、長期に働くことが期待されています。

そのような背景もあり、転職して新しいチャレンジをすることがネガティブに取られない欧米の会社では、アルムナイ・リレーションを積極的に活用するカルチャーがあります。日本でもアルムナイ・リレーションを築くためには、組織全体のカルチャーを変えていかなければなりません

画像: ― 働き方に関して、海外と日本では何が違うのでしょうか。

― 人生100年時代にあって、1つの会社に依存する前提が崩れてきましたね。

心理的契約といわれますが、辞めないことを暗黙の前提として採用・就職するのがこれまでの日本社会でした。しかし、終身雇用、年功序列、労働組合に象徴される日本的な雇用形態や慣行が崩れています。近年でこそ、副業解禁や再雇用の促進といった動きが出てきましたが、まだまだ固定観念は根強い状況です。しかし、アルムナイを拒絶するのは日本の社会にとって大きな損失です。むしろ積極的に、アルムナイとつながってほしいですね。

― 今後、アルムナイ・リレーションが浸透した社会で、1人ひとりが心掛けるべきポイントがあれば教えてください。

辞めた会社であっても、人間関係が良好であるに越したことはありません。何かの縁で一緒に仕事をすることになるかもしれませんから。ただ、自分が社会から求められる人材でないと声はかかりません。そのためには自分を磨き続ける必要があります

大切なのは選択肢を増やすことです。1社で勤め上げる人生を否定しているわけではありません。それも選択肢の1つです。自分の人生を自分で設計できるように、個人はスキルを磨きつつ、人生を自分で設計する。その実現にはオプションを多く持っておく必要があります。オプションとしての古巣とのゆるいつながり、アルムナイ・リレーションが欠かせないと考えています

画像: ― 今後、アルムナイ・リレーションが浸透した社会で、1人ひとりが心掛けるべきポイントがあれば教えてください。
コメントを読む・書く

This article is a sponsored article by
''.