ITと新たな分野を掛け合わせた取り組みをご紹介する「IT×○○」。今回は、これまでITの活用が進まなかった林業の分野で、山林情報のデータ化をはじめとする改革に取り組む株式会社ウッドインフォ代表取締役の中村 裕幸さん、女性社員の飯田 富和子さんにインタビュー。スマート化によって林業のあり方はどのように変化していくのか、ITを武器に業界の課題に向き合い続けてきた同社が描く未来像を伺った。

画像: 女性(飯田さん)が背負っているのは、 森林内バックパックレーザーシステム「3D walker」。 背負って森林内を歩くだけで、山の傾斜や起伏、位置、どんな太さや長さの木が生えていているのか、木の種類や幹の状態などのデータを計測できます。30分ほどゆっくり歩けば1ヘクタール分の計測が可能。

女性(飯田さん)が背負っているのは、森林内バックパックレーザーシステム「3D walker」。
背負って森林内を歩くだけで、山の傾斜や起伏、位置、どんな太さや長さの木が生えていているのか、木の種類や幹の状態などのデータを計測できます。30分ほどゆっくり歩けば1ヘクタール分の計測が可能。

流通コストに圧迫され、利益が20分の1になるケースも

― 林業のスマート化に取り組まれるようになった背景を教えてください。

中村 かつて私が建設会社の研究所に勤務していた時代に、林業におけるサプライチェーンの問題に気づいたことがきっかけです。日本は国土の約7割を森林が占めるほど森林資源の豊かな国ですが、木材自給率はたったの3割程度にとどまっています。この背景にあったのが、サプライチェーンの問題だったのです。

伐った木材を売るためには山に道を作り、木材を市場まで運ばなければなりません。しかし、小規模な事業者が大半を占める日本の林業においては、この流通コストが収益を圧迫してしまいます。1本の木から14,000円程度の木材がとれたとしても、伐採して丸太に加工して運び出す流通コストを抜くと利益は20分の1の700円程度になってしまうケースもあるほどです。

画像: 株式会社ウッドインフォ代表取締役 中村 裕幸さん。建設会社の研究所に勤務されていたときはビル火災を研究し、当時書かれた論文がイギリスの火災研究所に認められ、2年間留学の経験も。その頃から残業はしない、年休は全て消化することを働き方のモットーにしていたが、帰国して日本の現場は全く違っていた。そこで現場の社員の残業が減らない原因は、ロジスティクスだったことに着目し、サプライチェーンの研究を始めたのがきっかけ。

株式会社ウッドインフォ代表取締役 中村 裕幸さん。建設会社の研究所に勤務されていたときはビル火災を研究し、当時書かれた論文がイギリスの火災研究所に認められ、2年間留学の経験も。その頃から残業はしない、年休は全て消化することを働き方のモットーにしていたが、帰国して日本の現場は全く違っていた。そこで現場の社員の残業が減らない原因は、ロジスティクスだったことに着目し、サプライチェーンの研究を始めたのがきっかけ。

― だから国産木材の流通量が増えず、海外からの輸入に頼らざるをえないのですね。

中村 日本には、森林所有者が全国で324万人いますが、収益性の低さから経営意欲が低下してしまっている経営者も多く、独自で流通を改善するのは難しい状況です。そこで私は、建設会社でロジスティクスのシステム開発に携わってきた経験を活かしてITで解決できないかと考え、林業向けの情報システムを開発するウッドインフォを2011年に立ち上げました。林業にはIT化の遅れが見られたので、ビジネスとしての勝機があるだろうとの考えも持っていました。

森林資源の「在庫管理」と「トレーサビリティー」を確立する仕組みづくり

― 具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか?

中村 まずは森林資源の“在庫管理”を可能にし、さらに流通の無駄を省く仕組みづくりが重要であると考えています。そこで、「森林の情報をレーザー計測して電子データ化(見える化)するシステム」や、「森林資源のトレーサビリティー(伐採から消費までの流通経路)を確立するシステム」、「オンラインで木材を売買できるシステム」などの開発に注力してきました。

在庫管理が可能になれば、データに基づいて効率的で持続可能な経営計画の策定ができるようになりますし、業者間にある流通の無駄も省いていくことで、収益性を上げることができると考えています。これらのシステムは、すでに一部の経営意欲の高い森林経営者や森林組合にご利用いただいています。

一方、経営意欲が低下してしまった森林所有者から意欲の高い経営者への施業集約化にも取り組んでいます。先ほど申し上げたように流通には木材を運ぶための道をつくるなどのコストがかかりますから、集約化によってまとめて流通させることが経営効率の改善につながります。この集約化を後押しするのが、現在開発中の山林売買をオンライン上で可能にするシステムです。

たとえば、山林を相続したものの管理できないから売りたい人(売り手)と、再植林などの適切な森林管理を行う意欲の高い事業者(買い手)とをオンライン上でマッチングし、売買を可能にします。こうして集約化すれば放置されていた森林資源が再び活用されるようになり、なおかつ再植林によってその資源を次世代につなげていくことにもなると考えています。

画像: 林業では安全面の課題も大きい。労災の発生率が最も高い産業であり、林業労働者の7割が日雇い。安全のための装備は自前で用意するのが現実。それは、他産業のように経営母体がないため、雇い主が安全な道具を用意できないから。将来の売上の見通しがたてば経営の判断もできるようになっていく。そのためにはIT化が重要な役割を担います。 画面イメージ:「森林3D地図作成システム ”Digital Forest®” 」 。森林内のデジタルスキャンデータから森林資源情報(地形、直径、樹高、材積、曲り)を自動的に作成するシステム。

林業では安全面の課題も大きい。労災の発生率が最も高い産業であり、林業労働者の7割が日雇い。安全のための装備は自前で用意するのが現実。それは、他産業のように経営母体がないため、雇い主が安全な道具を用意できないから。将来の売上の見通しがたてば経営の判断もできるようになっていく。そのためにはIT化が重要な役割を担います。画面イメージ:「森林3D地図作成システム ”Digital Forest®” 」。森林内のデジタルスキャンデータから森林資源情報(地形、直径、樹高、材積、曲り)を自動的に作成するシステム。

IT化や機械化が進めば、女性や高齢者も参入しやすくなる

― 飯田さんは現場でのデータ計測業務もされるそうですね。具体的にはどのようなお仕事なのでしょうか?

飯田  森林情報をレーザー計測する「3D walker」という機械を背負い、お客さまが所有する森林内をゆっくりと歩きます。森林には道はないですが、手入れされた杉やヒノキの森は人が入っているので私のような普段運動をしない人間でも案外歩けるんです。従来、事業者が自身の所有する区画内にある木の位置や本数、種類などを正確に把握するのは困難でした。特に、1つの山林に所有者の異なる複数の区画が存在するケースは、ややこしかったのです。

しかし「3D walker」を使用すれば、まず所有区画の境界線に沿って歩いた後、区画内を約20m間隔の幅で歩くだけで計測は完了します。こうして計測したデータを弊社の森林分析ソフト「Digital Forest」にインプットすることで、詳細な森林データが出来上がります。
今までは何度入ってもとれなかった森林情報が一度データを取れば良いので、次の現場次の現場と色々な山に入れて、私としては大変楽しい仕事です。

― ITを取り入れることで機械化や効率化が進めば、女性も林業に参入しやすくなりそうですね。

飯田  女性の参入を増やしていくには、かつての男性社会のイメージに縛られずに、ITをはじめとする環境整備を進めていくことが大切です。そもそも、チェーンソーの使用は振動障害防止の観点から1日数時間程度に制限されていますし、木を担いで歩くことは男性でもできないので、体力差はほとんど問題にならないのです。

実際、現場にいると細腕の女性がチェーンソーを使って木を伐る頼もしい姿を目にすることもありますよ。ハードな仕事ではありますが、働きやすい環境さえ整えていけば、もっと女性が活躍していけるようになると考えています。

画像: 左)株式会社ウッドインフォの飯田 富和子さん.。「3D walker」を背負って山林にも行かれるそうです!

左)株式会社ウッドインフォの飯田 富和子さん.。「3D walker」を背負って山林にも行かれるそうです!

― 高齢化が進む中、今後は高齢者が林業に参入するケースもあるのではないでしょうか?

中村 従来の林業は木材の生産過程を一貫して担うスタイルでしたが、分業を進めていけば、高齢者や子育て中の女性が都市部のオフィスや自宅で林業に携われるようになる可能性もあります。

実は、計測したデータの解析やデータに基づいた計画業務など、現場でなくてもできる業務はあるのです。現在、こうした業務をとりまとめて請け負うアウトソーシング事業の立ち上げも検討しています。分業が可能になれば、これまで林業に携わる機会がなかった人も参入しやすくなりますし、現場の人たちはコア業務に専念できるようになるでしょう。

「嬬恋村」をはじめとする農業のように、林業もイメージを刷新していきたい

― 御社の今後の展開について教えてください。

中村 ステージ1に位置付けていた森林のデータ化やトレーサビリティー確立のためのシステム開発がようやく終わり、ステージ2として山林売買のためのオークションサイトの開発を進めていきます。

山林の流動化が始まれば、意欲の高い森林経営者や森林組合への施業集約化も進んでいくでしょう。また、ステージ1で開発したシステムを、今度は海外に広めていくことも予定しています。日本の林業界では海外事例が注目される傾向にあるので、海外での利用実績が増えれば“逆輸入”で日本での利用も増えるのではないかと考えています。

その他に、東大をはじめとする約40団体と共同で取り組む「ICTを活用した木材SCMシステムの構築」プロジェクトの一環として、木材の需要と供給をリアルタイムでマッチングできるように進化させる予定です。現在は1日単位のバッチ処理でサーバーにデータを送っていますが、今後はプラチナバンド帯を使用して、伐った木の情報をその場で伝えられるようになります。

画像: ― 御社の今後の展開について教えてください。

― 林業のスマート化を進めた先に、どのような未来像を描かれているのでしょうか?

中村 「嬬恋高原キャベツ」で有名な群馬県の嬬恋村が従来の農業のイメージを変えたように、林業もおしゃれなイメージに刷新していくことを考えています。嬬恋村では、農作業の機械化が進んで高収益化しているだけでなく、街自体もカラフルな印象に変わっていますし、つなぎなどの作業着もおしゃれです。そもそも、機械化が進んでいるから汚れないですしね。また、時間管理もきちんとしているのでプライベートが確保できるなど、ライフスタイルの面でも注目を浴びています。

林業をこれからもっと盛り上げていくには、こうした事例を見習い、林業への従事をステータスとして感じてもらえるようにしていくべきだと考えます。今後、森林内にネットワークが整備されれば、運搬用の道を作るのも木材を運び出すのも、自動運転やリモート操作でできるようになっていくでしょう。スマート林業によるかっこいい世界が、もう見えてきているのです。若者に「林業ってかっこいい!」と思ってもらえれば、若者の参入もきっと増え、林業は活気づきます。そういった未来をつくっていきたいですね。

画像: <プロフィール> 中村 裕幸(なかむら ひろゆき) 1978年清水建設(株)入社。英国環境省建築研究機構招待研究員、清水建設技術研究所生産管理研究開発部長、施工技術開発統括部長を経て2004年独立。2011年林業及び木 材流通業に特化したシステム開発及び運営会社(株)ウッドインフォを設立し、代表取締役に就任。 東京理科大学非常勤講師(建築生産)、東京工業大学非常勤講師(経営工学)、早稲田大学アジア太平洋研究センター特別研究員(サプライチェーン)、東京大学生産技術研究所連携研究員(木材流通)、東京大学大学院工学系研究科非常勤講師(システムプランニング)を務める

<プロフィール>
中村 裕幸(なかむら ひろゆき)

1978年清水建設(株)入社。英国環境省建築研究機構招待研究員、清水建設技術研究所生産管理研究開発部長、施工技術開発統括部長を経て2004年独立。2011年林業及び木 材流通業に特化したシステム開発及び運営会社(株)ウッドインフォを設立し、代表取締役に就任。

東京理科大学非常勤講師(建築生産)、東京工業大学非常勤講師(経営工学)、早稲田大学アジア太平洋研究センター特別研究員(サプライチェーン)、東京大学生産技術研究所連携研究員(木材流通)、東京大学大学院工学系研究科非常勤講師(システムプランニング)を務める

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