ITと新たな分野を掛け合わせた取り組みをご紹介する「IT×○○」。今回は、水産の分野において、水産流通プラットフォームの再構築に挑む株式会社フーディソンの山本徹代表取締役CEOにインタビュー。魚ばなれが叫ばれる中、介護・医療分野に携わってきた山本CEOが水産業界に抱いた危機感とは。そして、業界の構造的な問題を解決するプラットフォームとは?

このままだと魚が食べられなくなってしまうかもしれない

―事業について教えてください。

当社は、水産流通のプラットフォームを再構築するために創業しました。現在は、その前段階として魚の小売・卸売を中心事業とし、魚の加工に特化した人材紹介や魚のクッキングスクール、自治体と協働した産地のPRも行っています。創業メンバーは水産業界に携わってきた人間ではありませんでしたから、まずはプレイヤーとして業界に参入し、魚の仕入・販売を通じて水産流通プラットフォームに必要な機能を理解しようと考えたんです。

創業した2013年4月に直売所を始め、7月には飲食店向けの鮮魚の仕入れオンラインサイト『魚ポチ(うおポチ)』を立ち上げました。魚ポチでは、仕入れた魚の情報をデータ化することで、オンラインでの受注を可能にしています。さらに、2014年12月には鮮魚小売店『sakana bacca(サカナバッカ)』を、2017年2月には丸魚専門の小売店『おかしらや』をオープンしました。

画像: ―事業について教えてください。

―なぜ水産業界へ参入されたのでしょうか?前職が介護・医療業界ということですが。

まず起業ありきでした。これまで経験したことのない産業に挑戦しようと決めており、創業テーマを探すために日本各地を歩き回りました。その中で出会った1人の漁師さんが水産に携わるきっかけとなりました。

その方は東北地方で漁師をされていて、代表的な魚であるサンマでさえ1キロ10円~30円という安値で取引されるため儲からないからと、漁師をやめようとしていました。さらに、「子どもには継がせない」って言うんですよ。このままだと、将来的に漁師が減ってしまい、子どもたち世代は、魚が食べられなくなってしまうかもしれない。それを防ぐために私が取り組むことに意義があると感じました。

画像: ―なぜ水産業界へ参入されたのでしょうか?前職が介護・医療業界ということですが。

―前職と全く違いますね。

いえいえ。水産業界を詳しく調べてみると供給者側では情報がリッチで、買い手側ではプアという構図が以前の業界と同じでした。つまり情報の非対称性が大きい。これは自分の知識や経験が十分活かせるのではないかと思いましたね。

―生活が苦しくなるほどの安価で魚が取引される背景には、どのような問題があるとお考えでしょうか。

鮮度が命で“1日が勝負”の材料を扱うがために、情報流通がしにくかったのが最大の問題だと思います。そもそも現場でちゃんと情報が拾えない。水揚げされた魚の情報が網から落ちた瞬間にデータ化できたなら、他の産業と同じようにIT化が進んだでしょう。でも、網の中に何の魚が何尾いるのかをデータ化するのは容易ではありません。だから、「アジ10尾」などと紙に書き、自分の知っている狭いネットワーク内でだけ商売するんです。

これでは消費者のもとに届くまでに多くの段階を経ることになり、鮮度が落ちてしまいます。「桜エビを食べて育ったおいしいアジ」というセールスポイントがあったとしても、市場を介していくうちにこれらの情報が抜け落ちて単なるアジになってしまいます。すると、おいしいものやリッチな体験を求める今の消費者には響かなくなり、業界が儲からなくなってしまうわけです。

画像: ―生活が苦しくなるほどの安価で魚が取引される背景には、どのような問題があるとお考えでしょうか。

築地市場ができてからの80年間、こういった水産流通の構造は変わらないままでした。水産業界関係者に問題意識はあっても、多くのプレーヤーが間にいるから自分たちだけでは変えられなかった。だからこそ、当社の取り組みは業界関係者からも歓迎していただいているんです。

―実際に「魚ポチ」のサービスを導入している飲食店からの反応はいかがですか。

今まで築地に通っていた時間が大幅に短縮できた、スマホで発注できるのが便利、など利便性への評価が高いです。また珍しい魚を取り扱っている点や、商品の質の部分でも喜んでいただいている料理人の方が多いですね。

画像: ―実際に「魚ポチ」のサービスを導入している飲食店からの反応はいかがですか。

水揚げされた魚を自動的にデータ化し、買い手とマッチング

―現在構想されている水産流通のプラットフォームについて教えてください。

最終的に目指しているのは、水揚げされた魚の情報を自動的に取り込み、売り手と買い手をマッチングした上で効率的に配送する仕組みです。これは容易ではなく長期的に研究開発をしていく必要があります。

また、物流に関しては、ITを使った買い手との直接マッチングの方法を取り入れたいと思っています。既存の物流の仕組みもアセットとして活用しますが、こちらを“一般道”とするなら前者は“高速道路”ですね。当社がいう「プラットフォームの再構築」とは、こうした2本立てのイメージです。

―単なるアジではなく“こうして育ったアジです”という商品情報を消費者に届けるためにはどのように?

水産品に関して情報の非対称性が特に大きいのは、BtoCにおいてです。そこで、当社直営店である『sakana bacca』や『おかしらや』では、この魚がなぜおすすめなのか、なぜこの時期おいしいのか、どう調理するのかなどの情報を接客スタッフが共有し、お客さまに丁寧に説明しています。現在はアナログな方法をとっていますが、いずれこうした情報が直営店や卸先へ自動的に展開できる仕組みを考えています。

画像: ―単なるアジではなく“こうして育ったアジです”という商品情報を消費者に届けるためにはどのように?

―現在では全国の産地と密につながっていらっしゃるようですが、ここまで来るのにはご苦労もあったのではないでしょうか。

最初は、魚の仕入れから始めました。仕入れ先がゼロの状態からスタートしていますから、創業時は北海道から沖縄までの漁港をリストアップし、1件1件取引をお願いする電話をかけていきました。でも、私たちが電話で「魚を1尾売ってください」なんていってもほとんどガチャ切りされてしまったんです。

画像: ―現在では全国の産地と密につながっていらっしゃるようですが、ここまで来るのにはご苦労もあったのではないでしょうか。

「おかしいな、産地直送ってあるはずじゃないか」と思っていたのですが、生産者の方々からすると手間がかかる上に代金が回収不能になるリスクがありますから、市場を介さない取引は敬遠されてしまうんですね。
でもしぶとく売ってくれるところを探して、ようやく長崎県漁連が取引を了承してくれたんです。おかげさまで長崎からの販売実績によって当社の販売網や資金面の信頼性をアピールでき、その後は順調に仕入れ先を増やしていくことができました。

“おじさんベンチャー”として次世代のために取り組む

―日本の、特に若い世代では魚ばなれが進んでいるといわれますが、御社のような若い世代が水産業界を支えることについて、どのような想いをお持ちでしょうか。

ベンチャー企業というと、20代のもっと若い世代がバリバリやっているイメージなので、平均年齢が30歳ちょっとの当社は、むしろ“おじさんベンチャー”だと思っていました(笑)。どちらかというと、当社には自分の次の世代のことを考え始めたくらいの年齢の人が集まっているところがあります。私が水産業界の問題に目を向けたのも、子どもを持ったことによって未来を考えるようになったからでもあります。社員も、単にビジネスとして捉えているわけではなく、未来に対して何かをしたいとか、食に関わっていきたいという社会的な意義まで考えて当社のミッションに興味を持ってくれた人が多いですね。

画像: ―日本の、特に若い世代では魚ばなれが進んでいるといわれますが、御社のような若い世代が水産業界を支えることについて、どのような想いをお持ちでしょうか。

―今後の展開について教えてください。

まず、水産流通のプラットフォームは、2023年をめどに整備していく予定です。これが実現することで情報流、商流、物流の3つが最適につながり、さらにおいしさやコスト、供給量、そして水産関係者の所得が最適になり、今後も持続可能な状態になっていくことを目指しています。

さらに現在、海外へのサービス提供に向けても具体性を持って取り組んでいます。当社のミッションは「世界の食をもっと楽しく」ですから、今後は魚だけでなく野菜や肉といった他の食品にもスコープを広げていきますし、海外にも積極的に展開していく考えでいます。

北欧の漁師は、1500万から2000万円の年収をもらい、自動化された船に乗って効率よく漁獲をしているため、日本のプロ野球選手と同じくらい若者に人気の職業だと聞きます。せっかく水産をテーマに事業をやっているわけですから、日本でも漁師が人気になるところまでもっていけたら、やりきったと言えるのではないかと思っています。

画像: プロフィール 山本 徹(やまもと とおる) 1978年生まれ。北海道大学工学部卒業後、2001年4月大手不動産デベロッパーに入社、2002年10月合資会社エス・エム・エス入社後、組織変更に伴い、株式会社エス・エム・エスの取締役に就任。創業からマザーズ上場まで経験。2013年4月、株式会社フーディソンを設立し、代表取締役に就任。水産業界に新たなプラットフォームを構築するべく事業運営中。

プロフィール
山本 徹(やまもと とおる)
1978年生まれ。北海道大学工学部卒業後、2001年4月大手不動産デベロッパーに入社、2002年10月合資会社エス・エム・エス入社後、組織変更に伴い、株式会社エス・エム・エスの取締役に就任。創業からマザーズ上場まで経験。2013年4月、株式会社フーディソンを設立し、代表取締役に就任。水産業界に新たなプラットフォームを構築するべく事業運営中。

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