全国各地で地産地消の動きが広がっています。2016年12月11日、徳島県鳴門市に、食に関わる「売り手」「買い手」「消費者」すべてにメリットがある“地産地食”の仕組みづくりを目指す共創施設「THE NARUTO BASE」がオープンしました。IT企業のセカンドファクトリー代表取締役であり、「THE NARUTO BASE」運営会社のブエナピンタ代表取締役でもある大関興治さんに、「THE NARUTO BASE」のコンセプトとIoT(Internet of Things)の可能性について話を聞きました。

IoT/ICTが売り手と買い手をつなぐ

―先ほど「THE NARUTO BASE」内の地産地食・現地即加工のレストラン「FARM to TABLE NARUTO」でランチをいただきました。阿波金時豚、から揚げ、サラダ、どれもおいしくボリューム満点でした。デザート、ドリンクまでついて1,000円はお手頃ですよね。

画像: 驚くほどおいしかった阿波金時豚を使ったボロネーゼ

驚くほどおいしかった阿波金時豚を使ったボロネーゼ

首都圏では、あの品質で1,000円はあり得ませんよね。低価格の実現には理由があります。飲食店の3大コストは「F(Food=原材料費)」「L(Labor=人件費)」「R(Rental =家賃)」です。ここ鳴門では、首都圏に比べてLとRが安く、加えて「THE NARUTO BASE」では、IoT/ICTの活用でよい食材が安く手に入るのでFが抑えられるのです。レストランで出しているサラダの野菜はオーガニックで、洗わなくても食べられますよ。

画像: 株式会社セカンドファクトリー 代表取締役 大関興治氏

株式会社セカンドファクトリー 代表取締役 大関興治氏

―サラダのホウレンソウは、生でも苦みがなく甘みを感じました。オーガニック野菜は高価なイメージですが、安価で手に入るのはなぜでしょうか。

東京のスーパーで曲がったキュウリが売られていないのはなぜだか分かりますか。JAの基準では色、形、大きさで判断されるので規格外となり、一般的な流通ルートに乗らないからです。規格外品は、どんなに味がよくても、大量破棄するしかありません。一方で、飲食店は、規格外であっても味のいい素材を安価で手に入れたいと思っています。少なくとも、原材料の選択肢が増えると助かりますよね。「THE NARUTO BASE」では、IoTとITシステムを活用することで、2者の需要と供給をマッチングさせ、双方の課題を解消しようとしています。

―IoTがマッチングにどのように関係してくるのでしょうか。

今は畑にIoTセンサーを付けて、日照度や肥料の栄養成分を知ることができます。私たちは、そのデータを飲食店のほうでも見られるようにしていますので、その農家の作物の出来がある程度予想できます。そのIoTデータと受発注システムを組み合わせれば、中小規模の飲食店でも、オーガニック野菜の畑の2畝だけを自分の店のために買う、という小口契約ができるようになるのです。

―大手チェーン店でなくても、自分のお店用に畑を予約できるのですね。

買い付けにもIoTセンサーから得たデータを活用できます。農家の人が、スマートフォンでLINE機能を使って「トマト55」と収穫kg数を入力すれば、飲食店がそのトマトの欲しい量をすぐに確保できるシステムが稼働しています。さらに、IoTセンサーからの畑のデータと連携させれば、そのトマトの生育状況も分かるようになります。

―農家と飲食店が直接つながり、顔が見える関係になるということですね。

画像: 「THE NARUTO BASE」では素材を4段階に加工して販売している。素材を細かくした「素材加工」、複数の素材をミックスした「複数素材加工」、パスタソースなど味付けをした状態の「調味加工」、焼いて冷凍したハンバーグなど温めるだけの「完成品加工」の4段階。1次産業が食品加工(2次産業)、流通販売(3次産業)にも関わることで、経営の多角化につながる

「THE NARUTO BASE」では素材を4段階に加工して販売している。素材を細かくした「素材加工」、複数の素材をミックスした「複数素材加工」、パスタソースなど味付けをした状態の「調味加工」、焼いて冷凍したハンバーグなど温めるだけの「完成品加工」の4段階。1次産業が食品加工(2次産業)、流通販売(3次産業)にも関わることで、経営の多角化につながる

「想い」の共有が共創を可能にする

そういえば、大関さんはIT企業であるセカンドファクトリーの社長ですよね。どうして食とIoTをつなごうと考えたのでしょうか。

IoTを単なるトレンドで終わらせたくなかったのです。IoTはまだ「IoTでこんなことができた」というトレンドにとどまっています。しかし本来、飲食店が目指すのはたった1つなのです。それは「顧客満足度の向上」です。ですからIoTも、顧客満足度を上げる本質的なサービスを提供するために活用されるべきです。「THE NARUTO BASE」は、それを実証実験する場でもあります。レストラン店内でも、IoTを駆使していますよ。

画像: そういえば、大関さんはIT企業であるセカンドファクトリーの社長ですよね。どうして食とIoTをつなごうと考えたのでしょうか。

―ユニアデックスも、センサーでトイレの開閉を把握するIoTソリューションの提供という形で、微力ながら共創させていただいています。

いえいえ、微力なんてとんでもないですよ。トイレセンサーは顧客満足度に直結しますし、実は店側のオペレーション変革、従業員の意識改革につながる側面もあります。従来は極端な話、トイレの利用者がゼロであっても、1時間に1回清掃をしていたわけです。IoTセンサーの導入によって「5人トイレに入ったから清掃しよう」というふうに、利用人数で清掃のタイミングを判断できるようになります。清掃は単なる作業ではなく、顧客満足度を高めるためにする仕事に変わります。清掃の本質とは何か、従業員は考えさせられますよね。

画像: ―ユニアデックスも、センサーでトイレの開閉を把握するIoTソリューションの提供という形で、微力ながら共創させていただいています。

―そう言っていただけるとうれしいです。「THE NARUTO BASE」は共創がコンセプトで、IT企業を中心に現在20社ほどのパートナー企業と連携されています。共創を成功させるポイントとは何でしょうか。

「想い」の共有ですね。これまでITは主にコスト削減や効率化のために使われてきました。これからもその目的は多いでしょうが、そろそろ「人々のハッピーのためにITを使おうよ」ということです。「利他の実現」と私は言っています。各社それぞれ得意分野がありますし、1社で完結しようとすると時間もかかります。みんなの力を合わせて、働きやすい、生きやすい社会をつくろうという共通の想いが共創には欠かせないと思います。

画像: 入口にいるペッパー。混んでいるときの来店予約に使うだけでなく、会員の注文履歴を記憶し、お薦め商品を教えてくれる

入口にいるペッパー。混んでいるときの来店予約に使うだけでなく、会員の注文履歴を記憶し、お薦め商品を教えてくれる

画像: カメラ機能を備えたタピア。撮影された写真は「THE NARUTO BASE」のフェイスブックのタイムラインにアップされる。実は、タピアは人物の表情(笑顔度数)を読み取る。顧客が満足したのかどうか、飲食後の表情で判断しようとする試み

カメラ機能を備えたタピア。撮影された写真は「THE NARUTO BASE」のフェイスブックのタイムラインにアップされる。実は、タピアは人物の表情(笑顔度数)を読み取る。顧客が満足したのかどうか、飲食後の表情で判断しようとする試み

鳴門を世界へ売り込む

―「THE NARUTO BASE」のモデルに興味を持っている地方も多いと思います。今後も地方創生に携わる予定はありますか。

地方創生は本来地元の人が主導するべきだと思っています。私たちの仕事は「売り手」「買い手」「世の中(最終消費者)」すべてがハッピーになれるビジネスのプロデュースにすぎません。「自分たちで地域創生をやろう」という意欲のある人がいれば、ノウハウやIoTソリューションの提供は喜んでさせていただこうと思っています。

―今後も事業を拡大していく予定でしょうか。看板に「“おいしい”を鳴門から世界へ」とあります。

その通りです。現在パートナー農家は140軒ですが、農家の数も増やしていきたいですし、加工品の個人向け販売、海外のレストランへの販売も展開していきます。本気で「“おいしい”を鳴門から世界へ」に取り組んでいきますよ。

―本日は、食とIoT/ICTを掛けあわせ「地産地食という新たな取り組み」に挑戦されている先進的なお話を伺うことができました。美味しいお食事も堪能でき、どうもありがとうございました。

画像: レストランの上にかかっている絵。「友を得るのは宝物を得るのと同じ」という意味のイタリア語が書かれている

レストランの上にかかっている絵。「友を得るのは宝物を得るのと同じ」という意味のイタリア語が書かれている

画像: レストランの外観

レストランの外観

画像: プロフィール 大関 興治(おおぜき こうじ) 1969年生まれ。IT企業で設計業務や常駐コンサルなどを手がけた後、98年、Webテクノロジーに将来性を感じて株式会社セカンドファクトリーを設立。ITを駆使した海の家を運営するなど、先進的な取り組みにチャレンジし続けている

プロフィール
大関 興治(おおぜき こうじ)
1969年生まれ。IT企業で設計業務や常駐コンサルなどを手がけた後、98年、Webテクノロジーに将来性を感じて株式会社セカンドファクトリーを設立。ITを駆使した海の家を運営するなど、先進的な取り組みにチャレンジし続けている

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