ユニアデックス未来サービス研究所員が大阪大学石黒教授をお訪ねした連載企画。前編では、先生のアンドロイド研究のきっかけなどを伺いました。後編では、ロボットに接するときの人間の余計なお世話・偏見、演劇に学ぶ人間らしさなどに話がおよびます。

共感力と想像力で関係性を理解する

ー小椋ー 
ロボットとの距離が近くなってくると、共存のためのルールみたいなものが必要になりますね。例えば、ロボットが人を傷つけるのではないかと危惧している人もいます。ロボットは人を傷つけてはいけない、ということを教える必要があるのではないでしょうか。

ー石黒ー 
そこは、人もロボットも同じではないかと考えています。人が人を傷つけてはいけないのと同じです。ロボットだからといって特別に考えることはないのです。

ー小椋ー 
人とロボットが共生することを考えるとライフステージの問題もありますよね。人は年を取るけれど、ロボットは年を取らない。

ー石黒ー 
実はアンドロイドも年を取るんですよ。皮膚の素材も傷んでくるし、機械も経年劣化してくる。人と同じ年の取り方ではないけど、年を取ります。アンドロイドの「ERIKA(エリカ)」もメンテナンスしてあげないと、3年ぐらい経つとシワやタルミが出てくる。寿命という意味では、ロボットより人間の方が長いかもしれません。100年生きている人はいますが、100年生きているロボットは見たことがない(笑)。

画像: 研究室に座るエリカとともに

研究室に座るエリカとともに

ー齊藤ー 
見かけも人間と同じということになると、ロボットに愛情を持つようになるかもしれませんね。しかし、先日読んだ本でこんな話がありました。花見をしているおばあちゃんが胸に抱えたロボットに話しかけているのを見ていたら、痛々しい、後ろめたい気持ちなったと。本人がどうであれ、第三者から見るとそう見えることもあるようです。

ー石黒ー 
そういう人は想像力や共感力が足りないと思います。人間は太古の昔から偶像崇拝をしてきたじゃないですか。今のアニメやアイドルも同じ。全部一方通行で思いを寄せているだけですよね。そっちの方がよっぽど悲しいと思いますよ。それに比べればロボットは答えを返してくれるように設定することもできる。だから、痛々しいかどうかは自分が決めることです。余計なお世話だと思いませんか。

ー齊藤ー 
人と対話するロボットとして「Sota(ソータ)」と「CommU(コミュー)」がありますね。私も何台かのコミューと会話をしていたときに、コミューたちが勝手に会話をし始めて、私が無視されたような気がしたのです。その時、イラっとする自分を発見して驚きました。そこまでロボット相手に期待しているということですから。

画像: ユニアデックス 齊藤(左)、小椋(右)

ユニアデックス 齊藤(左)、小椋(右)

ー石黒ー 
大事なのは多様性です。多様性を認めなければ、差別につながります。人間ってものすごく幅広いし、多様ですから。一番重要なのは、弱者も安心して暮らせる社会が最も幸せで、いまそんな社会は日本しかないんです。貧富の差が極めて少ないなど。ロボットも一様ではなく、人によって受け入れてもらえる形も機能も異なります。自分の尺度でしか考えられない人は、共感力や想像力が不足しているんです。

IT業界へのロボットの適用は?

ー小椋ー 
ロボットの適用先について、IT業界はいかがでしょうか?

ー石黒ー 
IT業界でロボットに置き換えられそうなところは、すでにコンピューターが入っているところです。ちょっとした多様サービスと組み合わせるとロボットが適用できます。これは、飲み屋でも遊園地でも同じことです。専門的な仕事はコンピューターで行うところが多いんじゃないですか。
あとは遠隔操作型のロボットで、人が乗り移って会議に参加するとか、田舎でプログラマーがゆったりと仕事できるとか、すでに米国などでは行われています。

ー小椋ー 
リモート操作とは相性がよく役立ちそうです。

ー石黒ー 
一度リモートでロボットを使うと、あとは自動化できるところはどんどん自動化が進んでいきます。

ー齊藤ー 
ロボットができるところはロボットが行って、できなくなると人が担当する組合せになりますね。

ー石黒ー 
たとえば、銀行とロボットは非常に相性がいいですね。間違いがないとかロボットについては肯定的なイメージをもたれています。

人が人を知ることでロボットと共生していける

ー小椋ー 
今後はどんなところに注力していかれるのでしょうか。

ー石黒ー 
振る舞いによって感情を持っているように見せることは可能ですが、その感情を生み出す大本である、意図や欲求をロボットに持たせたいですね。これがないと対応が上っ面のままですし、そもそも人の意図や欲求を理解できません。意図や要求を理解できないと、適切な対応はできない。

画像1: 人が人を知ることでロボットと共生していける

ー小椋ー 
何が望まれているのかを予測するということですか。

ー石黒ー 
そう。いくつかのモデルを作っておいて、相手の反応をマッピングして、ある欲求を満たすには、こういう対応が必要だと学んでいくんです。

ー齊藤ー 
私はよく実証実験でペッパーを使うんですが、ペッパーと遊んでいた子どもがお母さんに抱っこされて帰るとき、ペッパーに向かって「バイバイ」するときがあるんです。でも、ペッパーは反応してくれない。お母さんが「ペッパーがバイバイしてくれなかったね」と言って帰って行くんですが、それが一番辛く感じますし、子どもも悲しそうな顔をしていますね。

ー石黒ー 
コミュニケーションとは本来そういうことなんです。感情があるかどうかは、受け取る側次第です。基本的な欲求を持てるようになれば、寂しいときに寂しい表情をしますから、コミュニケーションが破たんすることはなくなります。

ー齊藤ー 
私は平田オリザさんの「人型ロボットの動きがなぜ不自然なのか」という話が好きなのですが、人間らしく見せるには無駄な動きが適度に入っているかというのが重要なんだそうですね。そういう動きを取り入れるということですね。

ー石黒ー 
演劇の中には実験室と違って日常の動きがたくさんあるので、学ぶことは多いですね。どう動けば人間っぽくなるのか、その知識がふんだんに得られる。

ー齊藤ー 
ますます人間に近くなるわけですね。

画像2: 人が人を知ることでロボットと共生していける

ー石黒ー 
現在開発中のロボットがあるのですが、それは本当にかわいいんです。ERIKAは美人の法則に従って理論的に作ったので、万人受けするけれどちょっと距離感がある。今回はそれを超えるかわいさを持っている。心理的な距離感が近くて、ゾクゾクするんです。「この子はオレのものだ!」って本当にそう思うんです。

ー小椋ー 
奥さんに怒られそうですね(笑)。最後に、ロボットと共に生きるために、人はどこを変えるべきなのでしょうか。

ー石黒ー 
先入観が強いことです。ロボットが職を奪うといった先入観を捨てて、人と機械の差を分かったうえで向き合うこと。このいうロボットを受け入れるには、哲学をしっかりと教える必要があります。そのためには人とは何か、人間らしさとは何かなど根本問題を考え理解することが求められているのです。

ディスカッションを終えて
私たち人間にとって大事なのは、人とは何かをそれぞれが理解し、ロボットも含めた多様性を受け入れること―― 石黒先生のお話は工学的というよりは哲学的で、ロボットを通した人間論をお聞きすることができました。改めて人とは何か、心とは何なのだろうかと考えさせられました。すでにロボットと共に生きていく環境に突入している私たちにとって大変示唆に富んだ対談になりました。

【前編はこちら>>>

画像: 石黒浩(いしぐろ・ひろし)氏 1963年滋賀県生まれ。大阪大学基礎工学研究科博士課程修了。京都大学情報学研究科助教授、大阪大学工学研究科教授を経て、2009年より大阪大学基礎工学研究科教授。ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)。主な著書に「ロボットとは何か」「どうすれば『人』を創れるか」「アンドロイドは人間になれるか」などがある。

石黒浩(いしぐろ・ひろし)氏
1963年滋賀県生まれ。大阪大学基礎工学研究科博士課程修了。京都大学情報学研究科助教授、大阪大学工学研究科教授を経て、2009年より大阪大学基礎工学研究科教授。ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)。主な著書に「ロボットとは何か」「どうすれば『人』を創れるか」「アンドロイドは人間になれるか」などがある。

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